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カイ・リンデンバウムの恐ろしき計画

そして彼はそう囁いた 1

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 しかし、それが叶う事はない。

「おっ、また出たな!こりゃ、幸先いいな!」
「幸先って言うには、もう結構戦ってきてるけどね」

 先ほどの戦いよりもさらにあっさりと敵を片付けてしまったエルトンは、その終わりに再び出現した宝箱を目にしては歓声を上げている。
 ケネスも彼の発言に突っ込みを入れはしていたが、その唇はどこかつり上がっており、嬉しそうな表情を隠せてはいなかった。

「おおっ、凄いではないか!どうだ?これはもう開けても構わないのか?」
「あ、大丈夫ですよ。もう一通り、チェックしたので」
「そうか!では、開けるぞ・・・おおっ!また入っていたぞ!!これは凄いのではないか?」

 出現した宝箱の存在に、早く開けたくて堪らないという様子のエヴァンが早速駆け寄ってきている。
 エヴァンの問い掛けに既に必要なチョックは済ませたと話すケネスは、彼のそんな反応を予測していたのだろう。
 ケネスから許可を貰ったエヴァンはそれに早速手を掛けると、中から先ほど見つけたのと同じ小ぶりなガラス瓶を掴み上げていた。

「流石でございます、坊ちゃま。坊ちゃまの威光が、このダンジョンにそのようなものを差し出させたのでございましょう」
「ふふふ・・・そうだろうそうだろう!私ほどの人間になると、こういったものも向こうから寄ってくるのだ!はーっはっはっは!!」

 エヴァンの幸運を褒め称えるアビーの言葉に、彼は殊更調子に乗っては背中を仰け反らせて高笑いを上げている。
 彼がのたまっている事が事実がどうかは分からないが、この出来事が幸運である事は間違いないだろう。
 訪れる冒険者が増えた事によって、このダンジョンは慢性的な魔力不足に陥っている。
 そのため出現する宝箱の量や、そこから出現するアイテムの質を大幅に落としている筈であった。
 にもかかわらず、エヴァンが手に入れたアイテムは、まさにこのダンジョンの目玉の品とも言えるものであり、それはまさに彼の豪運っぷりを物語っているといっても過言ではなかった

「勇者の坊ちゃんの威光が何だかは知らねぇが、運がいいのは確かだな」
「そうだね。こうも立て続けに当たりを引くなんて・・・こういうのを、持ってるって言うのかな?」

 エルトンとケネスの二人も、エヴァンとアビーのやり取りに呆れた様子を見せていても、その幸運については認めていた。
 彼らは生まれからして自分達とは違うエヴァンに、何か特別なものを感じているようだった。

「うむむ・・・しかしこうもたくさん見つけてしまうと、持ち歩くのにも苦労するな」
「あぁ?そんなもん勇者の坊ちゃんが持ってるこたぁねぇだろ。何のためにキルヒマンさんがついてきてると思ってんだよ?」

 宝箱から取り出したガラス瓶を両手に抱えたエヴァンは、もはや持ちきれないとそれに視線を落としながら困った表情を見せている。
 そんな彼の言葉に、エルトンは呆れた様子でカイの事を指し示していた。

「おぉ!そうだったな、キルヒマンがいたのだ!」

 カイがこの一行に同行しているのは、ダンジョンの案内するという役割もあったが、それ以上に荷物持ちとしてついてきているという側面が強かった。
 そんな彼の存在を思い出したエヴァンは、両手に抱えたガラス瓶を落とさないように注意しながら、トコトコと彼の下へと駆け寄っていく。

「では、キルヒマン。これを頼んでもいいか?大事なものだからな、壊さないように注意するのだぞ!」
「それは構わないのですが・・・その、聞いてもよろしいでしょうか?」

 治癒のポーションは確かに、貴重で高価な代物だ。
 しかしエヴァンほどの立場の人物であれば、それほど入手の難しいものでもないだろう。
 そんなアイテムをとても大事そうにエヴァンが扱っているのは、彼がそれだけこの冒険を楽しんでいるという証左であろう。
 しかし彼から治癒のポーションを受け取っているカイは、そんな事よりも彼に尋ねたい事があるようであった。

「何だ?別に構わないぞ?ん、もしかしてキルヒマンもこのポーションが欲しいのか?それなら心配しなくとも、ちゃんと皆に分配して―――」
「いえ、そうではなくてですね・・・その、勇者様は戦われないのですか?先ほどから冒険者のお二方ばかり戦われていますが・・・」

 どこか言いにくそうにしているカイの様子に、エヴァンはその質問が取り分の話だと察し、ちゃんと分け前は用意している笑顔で話そうとしていた。
 しかしカイが問いかけたかったのはそんな事ではなく、エヴァンが魔物を前にしてもその背中に括り付けた立派な大剣に、頑なに手を伸ばそうともしないという事についてであった。
 勇者の実力を一目でもいいので確認したいカイからすれば、それはとても放っておく事は出来ない疑問である。
 しかしそれを問い掛けられたエヴァンは急に言葉に詰まり、きょろきょろと瞳を彷徨わせ始めてしまっていた。
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