上 下
232 / 308
カイ・リンデンバウムの恐ろしき計画

そして彼らはすれ違う 2

しおりを挟む
「はははっ、そうだったのですか。ご安心ください!今度のダンジョンは、このパスカル・キルヒマンが完璧に案内してご覧に入れますよ!」

 過去の苦い経験について話す二人に、カイは自信満々に今度の冒険はそんな失敗はしないと断言してみせる。
 それもその筈であろう、彼はあのダンジョンの主なのだ。
 その気になれば好きなアイテムを配置し、望んだ魔物を出現させる事が出来る力を持っている。
 それどころかダンジョンの地形すら自在に操る事の出来る彼に、彼らを満足させる事など造作もないことだろう。
 カイは自らの計画がうまく進んでいる事を確信し、自信に満ちた笑顔を覗かせていた。

(ふふふ・・・ここまではかなりうまくいっているぞ。まさかこんなにも簡単に勇者見つけ、さらに取り入る事に成功するとは。これは運が向いてきてるんじゃないか?後はこのままダンジョンまで連れて行けば・・・)

 カイが考えていた計画の一番重要な事は、勇者がダンジョンに向かう前に彼と接触する事であった。
 それが叶っただけではなく、その一行へと加わる事が出来た今の状況は、かなりうまくいっているといっても過言ではない。
 後ろについて来ているエヴァンの姿をチラリと確認したカイは、その背中に背負っている大剣の姿を目にしては、唇を吊り上げている。
 彼はエヴァンを、ヴェロニカ達が万全の用意で勇者を抹殺しようとしているダンジョンへと、連れて行くつもりのようだ。
 果たしてそこに、いかような計画があるのだろうか。
 それは酷く、シンプルな答えであった。

(流石のヴェロニカ達も、俺がすぐ近くにいれば勇者に手出し出来まい。勇者をそもそもダンジョンへと行かせないという方法も考えたが、それでもあいつらが何するか分かったもんじゃないしな・・・後はうまい事、妨害していけば何とかなるだろ)

 カイは単純に自らが勇者の盾となる事によって、ヴェロニカ達に彼へと手出しをさせない事を考えていたのだった。
 確かにカイに絶対の忠誠を誓っているヴェロニカ達は、彼の命を危険に晒してまで勇者を仕留めようとはしないだろう。
 しかし果たして、それだけで本当にうまくいくのだろうか。
 そして何より、その計画には重大な欠陥があった。
 それは―――。

「期待してるぜ、キルヒマンさん。おっと、危ねぇ!おいおい、ちゃんと前向いて歩けよ嬢ちゃん!」
「ごめんなさーい!あれ、お兄さんは・・・?」

 広げていた地図を仕舞いながらカイへと期待を投げかけていたエルトンの肩に、小柄な少女がぶつかってくる。
 その真っ赤な髪を揺らして駆けてきていた少女は、かなりの勢いで走ってきていたようで、屈強な足腰を持つエルトンの身体をも僅かに揺らしていた。
 彼がそんな姿を晒したのは、前を歩いていたカイの事を守るために動いたからかもしれない。
 ぶつかってきた事に文句を言うエルトンに、その少女は顔を上げると元気良く謝罪の声を上げている。
 そうしてそのまま駆け抜けようとしていた少女は、エルトンの顔を目にすると、その大きな瞳をまん丸に広げ、驚いたような表情を作っていた。

「えーっと、あれ?名前は聞いてなかったっけ?ボクだよ、ボク!リタだよ!へー、お兄さん達も来てたんだ!あのダンジョンには、もう行ったの?」
「ちょ、マジかよ・・・こんなタイミングで」

 頭を傾けてはエルトンの名前を思い出そうと頑張っていた少女は、やがてそれを聞いていなかったと思い出すと、自分の存在をアピールするように手を振り出していた。
 リタと名乗ったその赤毛の少女は、その小柄な身体と軽装な服装には見合わない巨大な何かを、その背中へと背負っている。
 親しげな様子でニコニコと近寄ってリタは、その可愛らしい容姿も相まって思わず微笑を浮かべてしまう存在であろう。
 しかし彼女に歩み寄られている当のエルトンは、どこか気まずそうに焦った様子をみせていた。

「・・・お知り合いですか?それにその名前は、どこかで聞いたような・・・?」

 ぐいぐいと詰め寄ってくる少女に、大の大人が困った様子をみせていれば助け舟も出したくはなる。
 リタの勢いに押され一歩後退してきたエルトンに、カイは横から声を掛けていた。
 しかしカイには、それ以上に気になっている事があった。
 エルトンへと詰め寄っている少女、彼女が名乗ったその名をどこかで聞いた事はなかっただろうかと。

「い、いや!何でもない、何でもないんだ!!ちょっと酒場で会った子ってだけで・・・!ほ、ほらさっさと先に進もうぜ!坊ちゃんも、こんなちんたら歩いてたら日が暮れちまうよ!な、ケネスもそう思うだろ!!」
「!そうだね、ダンジョンも今は丁度入れ替わりの時間でしょう。急いだ方がきっと空いていますよ!」

 何故か焦りだしている相棒の姿に、意味が分からないという様子を見せていたケネスも、その背中から覗く赤毛の少女の姿を目にすれば、その理由をすぐに悟るだろう。
 今すぐにでもこの場を離れたいと必死にアピールするエルトンに、ケネスも同調して一刻も早くダンジョンに向かった方がいいと主張する。
 そんな彼らの主張に、カイはそんな感じだったかなと不思議そうな表情をみせていた。

「そうなのか?しかしその割には、先ほどまでは随分とのんびりしていた気がするが・・・」
「・・・いえ、お二人がそう仰られるのならばそうなのでしょう。坊ちゃま、少し急がれてはいかがですか?」

 急に足を急がせるように指示してきたケネスに、エヴァンは首を捻ると不思議そうな表情を作っている。
 彼は今の時間的に急いだ方がいいと話しているが、先ほどまでの食事の間には随分とのんびり時間を使っていた筈だ。
 そのギャップに疑問を感じるエヴァンに、アビーがすかさずフォローの言葉を投げかけている。
 彼女は二人の不自然な態度に、彼らの目の前にいる存在が例の人物である事に即座に気がついたのだろう。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

闇の錬金術師と三毛猫 ~全種類のポーションが製造可能になったので猫と共にお店でスローライフします~

桜井正宗
ファンタジー
Cランクの平凡な錬金術師・カイリは、宮廷錬金術師に憧れていた。 技術を磨くために大手ギルドに所属。 半年経つとギルドマスターから追放を言い渡された。 理由は、ポーションがまずくて回復力がないからだった。 孤独になったカイリは絶望の中で三毛猫・ヴァルハラと出会う。人語を話す不思議な猫だった。力を与えられ闇の錬金術師に生まれ変わった。 全種類のポーションが製造可能になってしまったのだ。 その力を活かしてお店を開くと、最高のポーションだと国中に広まった。ポーションは飛ぶように売れ、いつの間にかお金持ちに……! その噂を聞きつけた元ギルドも、もう一度やり直さないかとやって来るが――もう遅かった。 カイリは様々なポーションを製造して成り上がっていくのだった。 三毛猫と共に人生の勝ち組へ...!

無能な悪役王子に転生した俺、推しの為に暗躍していたら主人公がキレているようです。どうやら主人公も転生者らしい~

そらら
ファンタジー
【ファンタジー小説大賞の投票お待ちしております!】 大人気ゲーム「剣と魔法のファンタジー」の悪役王子に転生した俺。 王族という血統でありながら、何も努力しない怠惰な第一王子。 中盤で主人公に暗殺されるざまぁ対象。 俺はそんな破滅的な運命を変える為に、魔法を極めて強くなる。 そんで推しの為に暗躍してたら、主人公がキレて来たんだが? 「お前なんかにヒロインと王位は渡さないぞ!?」 「俺は別に王位はいらないぞ? 推しの為に暗躍中だ」 「ふざけんな! 原作をぶっ壊しやがって、殺してやる」 「申し訳ないが、もう俺は主人公より強いぞ?」 ※ カクヨム様にて、異世界ファンタジージャンル総合週間ランキング50位入り。1300スター、3500フォロワーを達成!

婚約者が隣国の王子殿下に夢中なので潔く身を引いたら病弱王女の婚約者に選ばれました。

ユウ
ファンタジー
辺境伯爵家の次男シオンは八歳の頃から伯爵令嬢のサンドラと婚約していた。 我儘で少し夢見がちのサンドラは隣国の皇太子殿下に憧れていた。 その為事あるごとに… 「ライルハルト様だったらもっと美しいのに」 「どうして貴方はライルハルト様じゃないの」 隣国の皇太子殿下と比べて罵倒した。 そんな中隣国からライルハルトが留学に来たことで関係は悪化した。 そして社交界では二人が恋仲で悲恋だと噂をされ爪はじきに合うシオンは二人を思って身を引き、騎士団を辞めて国を出ようとするが王命により病弱な第二王女殿下の婚約を望まれる。 生まれつき体が弱く他国に嫁ぐこともできないハズレ姫と呼ばれるリディア王女を献身的に支え続ける中王はシオンを婿養子に望む。 一方サンドラは皇太子殿下に近づくも既に婚約者がいる事に気づき、シオンと復縁を望むのだが… HOT一位となりました! 皆様ありがとうございます!

ぽっちゃり無双 ~まんまる女子、『暴食』のチートスキルで最強&飯テロ異世界生活を満喫しちゃう!~

空戯K
ファンタジー
ごく普通のぽっちゃり女子高生、牧 心寧(まきころね)はチートスキルを与えられ、異世界で目を覚ました。 有するスキルは、『暴食の魔王』。 その能力は、“食べたカロリーを魔力に変換できる”というものだった。 強大なチートスキルだが、コロネはある裏技に気づいてしまう。 「これってつまり、適当に大魔法を撃つだけでカロリー帳消しで好きなもの食べ放題ってこと!?」 そう。 このチートスキルの真価は新たな『ゼロカロリー理論』であること! 毎日がチートデーと化したコロネは、気ままに無双しつつ各地の異世界グルメを堪能しまくる! さらに、食に溺れる生活を楽しんでいたコロネは、次第に自らの料理を提供したい思いが膨らんできて―― 「日本の激ウマ料理も、異世界のド級ファンタジー飯も両方食べまくってやるぞぉおおおおおおおお!!」 コロネを中心に異世界がグルメに染め上げられていく! ぽっちゃり×無双×グルメの異世界ファンタジー開幕! ※基本的に主人公は少しずつ太っていきます。 ※45話からもふもふ登場!!

迷宮に捨てられた俺、魔導ガチャを駆使して世界最強の大賢者へと至る〜

サイダーボウイ
ファンタジー
アスター王国ハワード伯爵家の次男ルイス・ハワードは、10歳の【魔力固定の儀】において魔法適性ゼロを言い渡され、実家を追放されてしまう。 父親の命令により、生還率が恐ろしく低い迷宮へと廃棄されたルイスは、そこで魔獣に襲われて絶体絶命のピンチに陥る。 そんなルイスの危機を救ってくれたのが、400年の時を生きる魔女エメラルドであった。 彼女が操るのは、ルイスがこれまでに目にしたことのない未発見の魔法。 その煌めく魔法の数々を目撃したルイスは、深い感動を覚える。 「今の自分が悔しいなら、生まれ変わるしかないよ」 そう告げるエメラルドのもとで、ルイスは努力によって人生を劇的に変化させていくことになる。 これは、未発見魔法の列挙に挑んだ少年が、仲間たちとの出会いを通じて成長し、やがて世界の命運を動かす最強の大賢者へと至る物語である。

レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~

喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。 おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。 ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。 落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。 機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。 覚悟を決めてボスに挑む無二。 通販能力でからくも勝利する。 そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。 アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。 霧のモンスターには掃除機が大活躍。 異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。 カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。

追放したんでしょ?楽しく暮らしてるのでほっといて

だましだまし
ファンタジー
私たちの未来の王子妃を影なり日向なりと支える為に存在している。 敬愛する侯爵令嬢ディボラ様の為に切磋琢磨し、鼓舞し合い、己を磨いてきた。 決して追放に備えていた訳では無いのよ?

死んだのに異世界に転生しました!

drop
ファンタジー
友人が車に引かれそうになったところを助けて引かれ死んでしまった夜乃 凪(よるの なぎ)。死ぬはずの夜乃は神様により別の世界に転生することになった。 この物語は異世界テンプレ要素が多いです。 主人公最強&チートですね 主人公のキャラ崩壊具合はそうゆうものだと思ってください! 初めて書くので 読みづらい部分や誤字が沢山あると思います。 それでもいいという方はどうぞ! (本編は完結しました)

処理中です...