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勇者がダンジョンにやってくる!
胡散臭い男フィリップ・コーニング 1
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「―――それは、止めといた方がいい」
どこかから響いた声が、リディの手を止めさせる。
彼女がその手を止めてしまったのは、それが明らかに人間の声であったからだろう。
躊躇った時間は僅かであったが、その僅かな時間に彼女が狙いを定めていたゴブリンは、もはや狙う事が出来ない通路の向こう側へと消えていってしまっていた。
「誰?一体何のつもりなの?ゴブリン何か助けて・・・」
彼女に声を掛けてきたのは、ゴブリンが去った通路とは反対側の通路からやってきている、軽薄そうな男であった。
彼はその脱色したようにぱさぱさの金髪を払うと、きざに笑いながら両手を広げ、こちらには敵意がないと示していた。
「いやなに、あれは見逃した方が賢いって伝えたくて。おっと、これは失礼。俺はフィリップ・コーニング。しがない冒険者さ」
疑いと警戒の目を向けてくるリディに対して、男は自らがフィリップ・コーニングという冒険者だと名乗っていた。
彼はその広げた両手に鍵を開けるための装備だろうか、小さな器具を踊らせるとそれをクルクルと弄んで自らの器用さをアピールしている。
それは彼なりの友好の印だったのかもしれないが、リディに対してはその不信感をいっそう募らせる結果にしかならなかった。
「何?あのゴブリンが強敵だったって話?そんなの―――」
「ちっちっちっ・・・違うんだなぁ、これが。あれが別に強敵って訳でもないのさ。ま、確かにそこらのゴブリンよりは手強いかもしれないがね」
ゆっくりとした速度でこちらへと近づいてくる軽薄そうな男に、リディは少しも警戒を解くことはない。
彼女は弓を強く握り締めたまま、いつでも次の矢を番えるように準備している。
しかしフィリップはそんな彼女の態度を気にも留めないように、気軽な様子で彼女へと歩みを進めていた。
「じゃあ、何だってのよ?えぇい、まどろっこしいわね!いいから、勿体つけずにさっさと喋りなさいよ!!」
「ははっ、仰せのままにお嬢様。実はですね―――」
フィリップのまわりくどい話し方にリディはイライラを募らせると、ついには怒鳴り声を上げて喚き散らし始めていた。
リディの怒りに芝居がかった仕草で頭を下げたフィリップは、彼女に詳しい事情を説明しようと足早に近づき始める。
その動きに二人の距離は一気に縮まると思われたが、それは最初の一歩で足を止めざるを得なくなってしまっていた。
「そこまでだ」
娘へと近づこうとする不審な男を、その父親が許す筈もない。
ロドルフは自らの横を通り過ぎようとするフィリップに、その手にした巨大な斧を躊躇わずに振り下ろしていた。
「おっと!これはこれは、ロドルフ・アンリ殿。そのご高名は、かねがね・・・噂に違わぬ、その斧の切れ。このフィリップ、御見それ致しました」
その鋭い斧の切っ先は、間違いなくフィリップの前髪の一房をも切り落とす筈であった。
しかしフィリップはその直前に、まるでそれを知っていたかのように足を止めており、彼のそのぱさぱさの金髪は一筋ほども傷つく事はなかった。
その一瞬のやり取りは、常人には計り知れない。
しかし歴戦の戦士であるロドルフであれば、それを理解しただろう。
そのため彼は自らに向かって恭しく頭を下げている目の前の男に対して、より一層警戒を強めていた。
「しかしですね、アンリ殿。ここからではお嬢様に説明し辛く、もう少しばかり近づく事を許可いただけると―――」
「ここで話せ」
「ははっ、仰せのままに!」
片目を瞑ったまま頭を上げたフィリップは、ロドルフにもう少しだけでも娘へと近づく許可を貰おうと説得を開始している。
しかしロドルフにそれをにべもなく断られると、彼は踵を鳴らして背筋を伸ばしては、すぐに了承を叫んでいた。
どこかから響いた声が、リディの手を止めさせる。
彼女がその手を止めてしまったのは、それが明らかに人間の声であったからだろう。
躊躇った時間は僅かであったが、その僅かな時間に彼女が狙いを定めていたゴブリンは、もはや狙う事が出来ない通路の向こう側へと消えていってしまっていた。
「誰?一体何のつもりなの?ゴブリン何か助けて・・・」
彼女に声を掛けてきたのは、ゴブリンが去った通路とは反対側の通路からやってきている、軽薄そうな男であった。
彼はその脱色したようにぱさぱさの金髪を払うと、きざに笑いながら両手を広げ、こちらには敵意がないと示していた。
「いやなに、あれは見逃した方が賢いって伝えたくて。おっと、これは失礼。俺はフィリップ・コーニング。しがない冒険者さ」
疑いと警戒の目を向けてくるリディに対して、男は自らがフィリップ・コーニングという冒険者だと名乗っていた。
彼はその広げた両手に鍵を開けるための装備だろうか、小さな器具を踊らせるとそれをクルクルと弄んで自らの器用さをアピールしている。
それは彼なりの友好の印だったのかもしれないが、リディに対してはその不信感をいっそう募らせる結果にしかならなかった。
「何?あのゴブリンが強敵だったって話?そんなの―――」
「ちっちっちっ・・・違うんだなぁ、これが。あれが別に強敵って訳でもないのさ。ま、確かにそこらのゴブリンよりは手強いかもしれないがね」
ゆっくりとした速度でこちらへと近づいてくる軽薄そうな男に、リディは少しも警戒を解くことはない。
彼女は弓を強く握り締めたまま、いつでも次の矢を番えるように準備している。
しかしフィリップはそんな彼女の態度を気にも留めないように、気軽な様子で彼女へと歩みを進めていた。
「じゃあ、何だってのよ?えぇい、まどろっこしいわね!いいから、勿体つけずにさっさと喋りなさいよ!!」
「ははっ、仰せのままにお嬢様。実はですね―――」
フィリップのまわりくどい話し方にリディはイライラを募らせると、ついには怒鳴り声を上げて喚き散らし始めていた。
リディの怒りに芝居がかった仕草で頭を下げたフィリップは、彼女に詳しい事情を説明しようと足早に近づき始める。
その動きに二人の距離は一気に縮まると思われたが、それは最初の一歩で足を止めざるを得なくなってしまっていた。
「そこまでだ」
娘へと近づこうとする不審な男を、その父親が許す筈もない。
ロドルフは自らの横を通り過ぎようとするフィリップに、その手にした巨大な斧を躊躇わずに振り下ろしていた。
「おっと!これはこれは、ロドルフ・アンリ殿。そのご高名は、かねがね・・・噂に違わぬ、その斧の切れ。このフィリップ、御見それ致しました」
その鋭い斧の切っ先は、間違いなくフィリップの前髪の一房をも切り落とす筈であった。
しかしフィリップはその直前に、まるでそれを知っていたかのように足を止めており、彼のそのぱさぱさの金髪は一筋ほども傷つく事はなかった。
その一瞬のやり取りは、常人には計り知れない。
しかし歴戦の戦士であるロドルフであれば、それを理解しただろう。
そのため彼は自らに向かって恭しく頭を下げている目の前の男に対して、より一層警戒を強めていた。
「しかしですね、アンリ殿。ここからではお嬢様に説明し辛く、もう少しばかり近づく事を許可いただけると―――」
「ここで話せ」
「ははっ、仰せのままに!」
片目を瞑ったまま頭を上げたフィリップは、ロドルフにもう少しだけでも娘へと近づく許可を貰おうと説得を開始している。
しかしロドルフにそれをにべもなく断られると、彼は踵を鳴らして背筋を伸ばしては、すぐに了承を叫んでいた。
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