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カイ・リンデンバウムの擬態術 2

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「よし、これならちょっとぐらい見られても大丈夫だろう。水溜りに成りすまして、獲物を襲うのってスライムの常套手段だし」

 カイが変身した姿は、不定形の魔物の代表格であるスライムであった。
 肉がついていない以外は人型であり、動かすのにも不自由しなかったスケルトンと違い、明らかに人間とは違うその形に、あまりうまく動かせない彼は独り言を喋るたびにプルプルと震えている。
 カイはその身体でずりずりと地面を這い寄ると、通路の終りからハロルド達の様子を窺う。
 幸いな事に彼らは部屋の奥の方が気になる様子で、こちらには注意を割いていないようだった。

「今の内だな!っとと・・・これ、うまく、歩けない、な!」

 不慣れな身体では、僅かな距離を動くのにも一苦労だ。
 大した距離ではない次の通路までの道程も、カイにはとんでもなく遠いものに感じられていた。

「―――、―――――?」
「不味っ!?」

 地面を這いずるカイの姿を不審に感じたハロルド達は、後ろ振り返り彼へと注意を向ける。
 彼はその気配に慌てて身体を精一杯平べったくすると、必死に水溜りへと擬態していた。

「・・・向こう向いたか?はぁ~・・・危なかったぁ」

 ピクリとも動けない緊張感に、彼の身体の多分背中であろう部分に水滴が滴っている。
 永遠にも感じられる時間を息を呑んで静止し続けていた彼は、感じなくなった視線にようやく安堵の息を吐いていた。

「あぁ・・・ここってあそこか。だからやけに湿っぽいんだな」

 極度の緊張からようやく解放されたためか、しばらくその場で伸びていたカイは、今も滴っている水滴にこの部屋がどんなものであったかを思い出す。
 この部屋にあるものを考えれば、彼らの注意もしばらくそちらへと向かうだろう。
 その間にさっさとここから抜け出してしまおうと気を取り直したカイは、ずるずると地面を這いずり始めていた。

「ぐっ・・・このっ、進めって、の!くぅ、中々進まない。だからって今更、別の姿にはなれないし・・・はぁ、遠いなぁ」

 必死に地面を這いずっても、目指すべき通路への距離はまだまだ遠い。
 遅々として進まないそのスピードは、彼らの注意がこちらへと向いたと感じるたびに、さらに遅くなってしまう。
 まだまだ遠い通路に、つい弱音を吐いてしまったカイはしかし、止まる事なく進み続けている。
 その距離は、やはり遅々として縮まる事はなかった。
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