69 / 70
裏切り者達
崩壊 2
しおりを挟む
「サブさん、中に他に人は・・・滝原を見かけませんでしたか?」
「滝原か・・・あいつはもう、助からない。諦めろ」
降り積もった雪を固めながら、そこに横になっているサブへと、匂坂は中に他に人を見かけなかったかと尋ねている。
彼が特に気にしていたのは、まだ確実に中にいると思われた滝原の事であった。
しかしその名前を耳にしたサブは、どこか渋い表情を見せると、彼はもう助からないと断言する。
「そう、ですか・・・彼は、もう」
滝原がもう助からないと断言する、サブの言葉は重い。
それは実際に、その現場を目撃した者の言葉だからだろう。
それには流石の匂坂も反論することが出来ずに、静かに気落ちした様子で頷いていた。
「でも、まだ中に人がいるかもしれない・・・それなら」
「おい、止めとけ!もう無理だ!中は入れるような状況じゃない!!」
しかしそれは、まだ中に逃げそびれている人がいるかもしれないという事実を否定してはいない。
そう口にし、再び燃え盛るロッジへと赴こうとしている匂坂の事を、サブが制止する。
彼が引きとめた匂坂の服の裾を、翔までもがそっと掴んで引きとめようとしていた。
「それでも・・・それでも、救える人がいるならっ!僕は―――」
匂坂を直接引き止める二人だけではなく、飯野もまた彼に行って欲しくなさそうに見詰めている。
それでも彼が執拗に、そこに向かおうとしているのは後ろめたさからだろうか。
彼は救えるチャンスがありながらも、一華がロッジに取り残されるのを見過ごしている。
あの場を立ち去る時には知らなかったロッジの火事も、すぐに引き返せば間に合うほどの遅れだっただろう。
しかし、そんな後悔も全て吹き飛ばす爆音が今、響く。
下っ端のチンピラとはいえど、暴力の世界に身をおくサブの力は強い。
匂坂が彼の制止を振り切るには、その手を大きく振り払うしかなかった。
彼がそれを振り払うのと同時に叫んだ声は、響き渡る爆音によって掻き消されてしまう。
それは燃え盛るロッジの中で何かが爆発し、一気に建物が倒壊する音であった。
「うおっ!?マジか!!?翔、伏せてろ!」
「う、うん!!」
爆発によって飛び散った建物の破片が、彼らに直撃しなかったのはいかなる幸運か。
それは分からないが、爆発音に驚き立ち尽くしてしまっている匂坂の身体をもそれらは避けて、周辺へと落下していっていた。
「はは・・・はははっ、はははははっ!!そうか・・・もう、終わったのか」
お互いを庇うように降り積もった雪に埋まっている翔達を尻目に、ゆっくりとロッジの方へと振り返った匂坂は、今まさに崩れ落ち、もはや建物としての用を成していないそれを見詰めていた。
彼がその光景に思わず笑みを漏らしてしまったのは、何を思ったからだろうか。
一頻り笑い声を上げた彼は、力尽きるようにその場に膝をつき、そのまま雪の上へと横になっていた。
「匂坂君。ほら・・・夜が明ける」
「あぁ、そうか・・・もう、そんな時間か」
自らの命をわざと投げ打つような行為を諦めた匂坂の姿に、飯野は安心すると彼の下へとゆっくりと近づいてくる。
彼の傍にまで近寄った彼女は、すっと指を伸ばすと遮るものも何もない景色を指し示していた。
その先に待っていたのは、退きつつある夜の帳と、黄金に輝く朝焼けの光だ。
「お、おい!あれ!!なんか、こっちに来てないか!!」
「何々!?眩しくて見えないよ!」
飯野の言葉につられて、そちらへと顔を向けたサブは、上がり始めた太陽の中に何か、動くものの姿を見つけていた。
サブのその声に、翔もそれを見つけたいと目を凝らすが、太陽の光が眩しくて中々それを見つけることが出来ない。
「あ!あった、あったよ!!あれは、えっと・・・そうだ!ヘリコプターだ!!ねぇ、そうだよね!」
「ヘリコプター?それって、おい・・・俺達を助けに来た、救助ヘリってことか!?おーい!!こっちだー!!俺達はここだぞー!!!」
自らの手で影を作り、眩しい光の中へと目を凝らした翔は、その中でこちらへと向かってくるある乗り物の姿を捉えていた。
彼がその乗り物の名前を言い当てると、それを聞いたサブが飛び跳ねて喜んでいる。
それも、無理はない話だろう。
何故ならその乗り物、ヘリコプターは彼らをこの雪山から救助しにやってきたのだから。
「俺達、助かったんだ」
「・・・うん」
翔とサブは飛び跳ねるようにして、こちらへと近づいてくるヘリに向かって大声で呼びかけている。
その後ろで匂坂と飯野の二人は、静かに寄り添い、この惨劇を生き延びた喜びを噛み締めていた。
そのシルエットは今、ゆっくりと重なっていく。
「滝原か・・・あいつはもう、助からない。諦めろ」
降り積もった雪を固めながら、そこに横になっているサブへと、匂坂は中に他に人を見かけなかったかと尋ねている。
彼が特に気にしていたのは、まだ確実に中にいると思われた滝原の事であった。
しかしその名前を耳にしたサブは、どこか渋い表情を見せると、彼はもう助からないと断言する。
「そう、ですか・・・彼は、もう」
滝原がもう助からないと断言する、サブの言葉は重い。
それは実際に、その現場を目撃した者の言葉だからだろう。
それには流石の匂坂も反論することが出来ずに、静かに気落ちした様子で頷いていた。
「でも、まだ中に人がいるかもしれない・・・それなら」
「おい、止めとけ!もう無理だ!中は入れるような状況じゃない!!」
しかしそれは、まだ中に逃げそびれている人がいるかもしれないという事実を否定してはいない。
そう口にし、再び燃え盛るロッジへと赴こうとしている匂坂の事を、サブが制止する。
彼が引きとめた匂坂の服の裾を、翔までもがそっと掴んで引きとめようとしていた。
「それでも・・・それでも、救える人がいるならっ!僕は―――」
匂坂を直接引き止める二人だけではなく、飯野もまた彼に行って欲しくなさそうに見詰めている。
それでも彼が執拗に、そこに向かおうとしているのは後ろめたさからだろうか。
彼は救えるチャンスがありながらも、一華がロッジに取り残されるのを見過ごしている。
あの場を立ち去る時には知らなかったロッジの火事も、すぐに引き返せば間に合うほどの遅れだっただろう。
しかし、そんな後悔も全て吹き飛ばす爆音が今、響く。
下っ端のチンピラとはいえど、暴力の世界に身をおくサブの力は強い。
匂坂が彼の制止を振り切るには、その手を大きく振り払うしかなかった。
彼がそれを振り払うのと同時に叫んだ声は、響き渡る爆音によって掻き消されてしまう。
それは燃え盛るロッジの中で何かが爆発し、一気に建物が倒壊する音であった。
「うおっ!?マジか!!?翔、伏せてろ!」
「う、うん!!」
爆発によって飛び散った建物の破片が、彼らに直撃しなかったのはいかなる幸運か。
それは分からないが、爆発音に驚き立ち尽くしてしまっている匂坂の身体をもそれらは避けて、周辺へと落下していっていた。
「はは・・・はははっ、はははははっ!!そうか・・・もう、終わったのか」
お互いを庇うように降り積もった雪に埋まっている翔達を尻目に、ゆっくりとロッジの方へと振り返った匂坂は、今まさに崩れ落ち、もはや建物としての用を成していないそれを見詰めていた。
彼がその光景に思わず笑みを漏らしてしまったのは、何を思ったからだろうか。
一頻り笑い声を上げた彼は、力尽きるようにその場に膝をつき、そのまま雪の上へと横になっていた。
「匂坂君。ほら・・・夜が明ける」
「あぁ、そうか・・・もう、そんな時間か」
自らの命をわざと投げ打つような行為を諦めた匂坂の姿に、飯野は安心すると彼の下へとゆっくりと近づいてくる。
彼の傍にまで近寄った彼女は、すっと指を伸ばすと遮るものも何もない景色を指し示していた。
その先に待っていたのは、退きつつある夜の帳と、黄金に輝く朝焼けの光だ。
「お、おい!あれ!!なんか、こっちに来てないか!!」
「何々!?眩しくて見えないよ!」
飯野の言葉につられて、そちらへと顔を向けたサブは、上がり始めた太陽の中に何か、動くものの姿を見つけていた。
サブのその声に、翔もそれを見つけたいと目を凝らすが、太陽の光が眩しくて中々それを見つけることが出来ない。
「あ!あった、あったよ!!あれは、えっと・・・そうだ!ヘリコプターだ!!ねぇ、そうだよね!」
「ヘリコプター?それって、おい・・・俺達を助けに来た、救助ヘリってことか!?おーい!!こっちだー!!俺達はここだぞー!!!」
自らの手で影を作り、眩しい光の中へと目を凝らした翔は、その中でこちらへと向かってくるある乗り物の姿を捉えていた。
彼がその乗り物の名前を言い当てると、それを聞いたサブが飛び跳ねて喜んでいる。
それも、無理はない話だろう。
何故ならその乗り物、ヘリコプターは彼らをこの雪山から救助しにやってきたのだから。
「俺達、助かったんだ」
「・・・うん」
翔とサブは飛び跳ねるようにして、こちらへと近づいてくるヘリに向かって大声で呼びかけている。
その後ろで匂坂と飯野の二人は、静かに寄り添い、この惨劇を生き延びた喜びを噛み締めていた。
そのシルエットは今、ゆっくりと重なっていく。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
裏切りの代償
中岡 始
キャラ文芸
かつて夫と共に立ち上げたベンチャー企業「ネクサスラボ」。奏は結婚を機に経営の第一線を退き、専業主婦として家庭を支えてきた。しかし、平穏だった生活は夫・尚紀の裏切りによって一変する。彼の部下であり不倫相手の優美が、会社を混乱に陥れつつあったのだ。
尚紀の冷たい態度と優美の挑発に苦しむ中、奏は再び経営者としての力を取り戻す決意をする。裏切りの証拠を集め、かつての仲間や信頼できる協力者たちと連携しながら、会社を立て直すための計画を進める奏。だが、それは尚紀と優美の野望を徹底的に打ち砕く覚悟でもあった。
取締役会での対決、揺れる社内外の信頼、そして壊れた夫婦の絆の果てに待つのは――。
自分の誇りと未来を取り戻すため、すべてを賭けて挑む奏の闘い。復讐の果てに見える新たな希望と、繊細な人間ドラマが交錯する物語がここに。
JOLENEジョリーン・鬼屋は人を許さない 『こわい』です。気を緩めると巻き込まれます。
尾駮アスマ(オブチアスマ おぶちあすま)
キャラ文芸
ホラー・ミステリー+ファンタジー作品です。残酷描写ありです。苦手な方は御注意ください。
完全フィクション作品です。
実在する個人・団体等とは一切関係ありません。
あらすじ
趣味で怪談を集めていた主人公は、ある取材で怪しい物件での出来事を知る。
そして、その建物について探り始める。
ほんの些細な調査のはずが大事件へと繋がってしまう・・・
やがて街を揺るがすほどの事件に主人公は巻き込まれ
特命・国家公務員たちと運命の「祭り」へと進み悪魔たちと対決することになる。
もう逃げ道は無い・・・・
読みやすいように、わざと行間を開けて執筆しています。
もしよければお気に入り登録・イイネ・感想など、よろしくお願いいたします。
大変励みになります。
ありがとうございます。
高尾山で立ち寄ったカフェにはつくも神のぬいぐるみとムササビやもふもふがいました
なかじまあゆこ
キャラ文芸
高尾山で立ち寄ったカフェにはつくも神や不思議なムササビにあやかしがいました。
派遣で働いていた会社が突然倒産した。落ち込んでいた真歌(まか)は気晴らしに高尾山に登った。
パンの焼き上がる香りに引き寄せられ『ムササビカフェ食堂でごゆっくり』に入ると、
そこは、ちょっと不思議な店主とムササビやもふもふにそれからつくも神のぬいぐるみやあやかしのいるカフェ食堂でした。
その『ムササビカフェ食堂』で働くことになった真歌は……。
よろしくお願いします(^-^)/
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
団地狂詩曲
紅粉 藍
キャラ文芸
絶望するほど貧乏。但し、団地最強。
主人公・ミヤは新聞配達のバイト中に注連縄のある団地の部屋を見つける。その日からミヤの日々は一変する。母親は出稼ぎ、父親は通帳とキャッシュカードを攫って飛んでしまい、ほぼ無一文のミヤに、季節外れの転校生・輝夜竹誓は言う。「貴方の願いは何ですか?」
過去の記憶が曖昧な主人公と家庭の見えない美少女・竹誓との疑似夫婦生活。
家族の帰る場所を守るため孤独でも戦うことを決意する『団地最強』の青春バトルロワイヤル開催!!
本当にあった怖い話
邪神 白猫
ホラー
リスナーさんや読者の方から聞いた体験談【本当にあった怖い話】を基にして書いたオムニバスになります。
完結としますが、体験談が追加され次第更新します。
LINEオプチャにて、体験談募集中✨
あなたの体験談、投稿してみませんか?
投稿された体験談は、YouTubeにて朗読させて頂く場合があります。
【邪神白猫】で検索してみてね🐱
↓YouTubeにて、朗読中(コピペで飛んでください)
https://youtube.com/@yuachanRio
※登場する施設名や人物名などは全て架空です。
黒帯ちゃんは、幼稚園の先生
未来教育花恋堂
キャラ文芸
保育者はエプロン姿が常識です。でも、もし、エプロンを着けない保育者がいたら・・・。この物語の発想は、背が小さく、卵のようなとてもかわいい女子保育学生に出会い、しかも、黒帯の有段者とのこと。有段者になるには、資質や能力に加えて努力が必要です。現代の幼児教育における諸問題解決に一石を投じられる機会になるように、物語を作成していきます。この物語はフィクションです。登場する人物、団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる