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裏切り者達
無垢なる暴力 2
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「っ!?九条、一華・・・いつからそこにっ!?」
それは椿子の背後から現れ、今もその近くの壁に寄りかかるようにして立っている、九条一華のものであった。
その声に驚き、慌てて後ろへと振り返る椿子の姿を、一華は本当につまらなそうに眺めていた。
「さっきからずっとよ?まさか、気付かなかったの?何か動きがあるだろうとは思っていたけれど・・・なるほど、こういう事だったのね」
突然現れた一華の存在に、驚き戸惑っている椿子に対して、彼女は肩を竦めるとずっと前からここにいたと答えている。
それが真実であることは、彼女の寛いだ様子からも明らかだ。
余りの怒りに気が立ってしまっていた椿子は、背後からこっそりと忍び寄る彼女の存在に気がつかなかったのだろう。
思えば、それ自体も彼女の狙いだったのではないだろうか。
「殺しなさい!今すぐに!!目の前にターゲットがいるのよ!!何を躊躇っているの!!?」
「し、しかし・・・」
全てが思惑通りと静かに嗤ってみせる一華の姿に、椿子は慌てて飛び退いて距離を取ると、彼女を殺せと喚き散らし始めていた。
それは椿子と隆志達の密約を考えれば、最もな指示だろう。
しかし殺人鬼であるあさひを欠いた隆志には、彼女を手にかける勇気などなく、そんな指示にも戸惑うことしか出来なかった。
「あらあら、そんな事を言って大丈夫なのかしら?」
「っ!何を強がりを!貴女、今がどういう状況か分かっているの!?」
自らを殺せと叫ぶ椿子にも、一華は余裕の態度を崩そうとはしない。
そんな彼女の態度が許せないと、椿子は牙を剥いては、より一層激しくいきり立っていた。
「貴女こそ、理解している?貴女は娘の百合子を殺してと頼んだのよ?九条の血が流れていない貴女にとって、その血が流れている娘だけが頼りだったのに・・・そんな貴女に、十分な報酬など用意出来るのかしら?どう思う、そこの貴方?」
しかしそんな凄みなど、一華には通用する筈もない。
一華は冷静に椿子の振る舞いの問題点を指摘すると、彼女の言葉にはもはや信頼の余地はないと断言してしまう。
確かに椿子が用意すると話した報酬は、明らかに彼女が手にする遺産を当てにしている。
しかしそれが手に入るという根拠は、彼女が九条の血を引く百合子の母親だからであった。
その百合子を殺してと願った彼女に、もはやその根拠は存在しない。
そんな事実の暴露に、その報酬を当てにしていた隆志はどう思っただろうか。
彼は一華から向けられた視線に、戸惑うように椿子と彼女の顔を見比べていた。
「そ、そんな事が・・・どうなんですか!?大丈夫なんですか!?」
「大丈夫に決まってるでしょ!!私には夫の要さんの分だって・・・」
当てにしていた報酬が手に入らないかもしれないと囁く一華の言葉に、隆志は慌ててどうなんだと椿子に問い掛けている。
それに対して椿子は問題ないと言い返し、自分には要の分の遺産もあるのだと主張しようとしていた。
「それを私が許すと思う?いいえ・・・私でなくても、他の九条の者が許さないわ。貴女の存在が許されるのは、娘の百合子がいたからなのよ。それを理解出来なかった、貴女に未来などない。どう?そこの貴方、私につかない?」
しかしそんなものは、娘の百合子があってこそだったと一華は語る。
九条の血を引いていない椿子に遺産の一部でも渡ることを周りが許すのは、彼女が百合子の母親だからなのだと、一華は語っていた。
それほどまでに、百合子の存在は特別なのだ。
それは九条という古い一族に脈々と受け継がれる、長子相続という思想が故だろう。
長男である要亡き後、その娘である百合子の存在は直系を主張する上で、余りに重要な存在となっていた。
「私は正真正銘、九条の者。だから貴方の期待を裏切る事はない。どう、悪くない取引だとは思わない?」
「耳を貸すな!!この雌狐が、そんな約束守るものか!!!裏切られるに決まってる!!それより早く、こいつを殺せぇぇぇ!!!」
自らの胸へと手を添え、その特別な血筋を誇るように柔らかい笑みを見せた一華は、隆志を誘惑する言葉を囁いている。
それに明らかに揺らぎそうになっていた隆志の態度に、椿子の鋭い声が飛ぶ。
椿子は一華が信用出来る存在ではないと主張し、それよりも早く彼女を殺せと叫んでいる。
彼女の主張が正しさは、そんな心無い言葉を受けてもにっこりと嗤って見せた、一華の表情からも窺えた。
「何!?一体何があったの!?」
そこに、戻ってきた誰かの戸惑う声が響く。
それはあさひを探し、この場を後にしていた梢のものだろう。
ならば、その背中には―――。
「殺しなさい!!貴女の相手はあの女よ!!!」
「殺すのはそっちよ!誰を殺せば得か、貴方には分かるでしょう!!そう命令なさい!!!」
現れた殺人鬼、あさひに椿子と一華は同時に声を上げる。
彼女達はお互いに相手を殺せと叫び、それに挟まれた梢は訳が分からないと、隆志の方へと顔を向けている。
その視線を受けた隆志もまた、どうすればいいのか分からないと迷うばかりで、はっきりとした指示を出せずにいた。
そんな中で一人、あっさりと結論を下した者がいた。
それは椿子の背後から現れ、今もその近くの壁に寄りかかるようにして立っている、九条一華のものであった。
その声に驚き、慌てて後ろへと振り返る椿子の姿を、一華は本当につまらなそうに眺めていた。
「さっきからずっとよ?まさか、気付かなかったの?何か動きがあるだろうとは思っていたけれど・・・なるほど、こういう事だったのね」
突然現れた一華の存在に、驚き戸惑っている椿子に対して、彼女は肩を竦めるとずっと前からここにいたと答えている。
それが真実であることは、彼女の寛いだ様子からも明らかだ。
余りの怒りに気が立ってしまっていた椿子は、背後からこっそりと忍び寄る彼女の存在に気がつかなかったのだろう。
思えば、それ自体も彼女の狙いだったのではないだろうか。
「殺しなさい!今すぐに!!目の前にターゲットがいるのよ!!何を躊躇っているの!!?」
「し、しかし・・・」
全てが思惑通りと静かに嗤ってみせる一華の姿に、椿子は慌てて飛び退いて距離を取ると、彼女を殺せと喚き散らし始めていた。
それは椿子と隆志達の密約を考えれば、最もな指示だろう。
しかし殺人鬼であるあさひを欠いた隆志には、彼女を手にかける勇気などなく、そんな指示にも戸惑うことしか出来なかった。
「あらあら、そんな事を言って大丈夫なのかしら?」
「っ!何を強がりを!貴女、今がどういう状況か分かっているの!?」
自らを殺せと叫ぶ椿子にも、一華は余裕の態度を崩そうとはしない。
そんな彼女の態度が許せないと、椿子は牙を剥いては、より一層激しくいきり立っていた。
「貴女こそ、理解している?貴女は娘の百合子を殺してと頼んだのよ?九条の血が流れていない貴女にとって、その血が流れている娘だけが頼りだったのに・・・そんな貴女に、十分な報酬など用意出来るのかしら?どう思う、そこの貴方?」
しかしそんな凄みなど、一華には通用する筈もない。
一華は冷静に椿子の振る舞いの問題点を指摘すると、彼女の言葉にはもはや信頼の余地はないと断言してしまう。
確かに椿子が用意すると話した報酬は、明らかに彼女が手にする遺産を当てにしている。
しかしそれが手に入るという根拠は、彼女が九条の血を引く百合子の母親だからであった。
その百合子を殺してと願った彼女に、もはやその根拠は存在しない。
そんな事実の暴露に、その報酬を当てにしていた隆志はどう思っただろうか。
彼は一華から向けられた視線に、戸惑うように椿子と彼女の顔を見比べていた。
「そ、そんな事が・・・どうなんですか!?大丈夫なんですか!?」
「大丈夫に決まってるでしょ!!私には夫の要さんの分だって・・・」
当てにしていた報酬が手に入らないかもしれないと囁く一華の言葉に、隆志は慌ててどうなんだと椿子に問い掛けている。
それに対して椿子は問題ないと言い返し、自分には要の分の遺産もあるのだと主張しようとしていた。
「それを私が許すと思う?いいえ・・・私でなくても、他の九条の者が許さないわ。貴女の存在が許されるのは、娘の百合子がいたからなのよ。それを理解出来なかった、貴女に未来などない。どう?そこの貴方、私につかない?」
しかしそんなものは、娘の百合子があってこそだったと一華は語る。
九条の血を引いていない椿子に遺産の一部でも渡ることを周りが許すのは、彼女が百合子の母親だからなのだと、一華は語っていた。
それほどまでに、百合子の存在は特別なのだ。
それは九条という古い一族に脈々と受け継がれる、長子相続という思想が故だろう。
長男である要亡き後、その娘である百合子の存在は直系を主張する上で、余りに重要な存在となっていた。
「私は正真正銘、九条の者。だから貴方の期待を裏切る事はない。どう、悪くない取引だとは思わない?」
「耳を貸すな!!この雌狐が、そんな約束守るものか!!!裏切られるに決まってる!!それより早く、こいつを殺せぇぇぇ!!!」
自らの胸へと手を添え、その特別な血筋を誇るように柔らかい笑みを見せた一華は、隆志を誘惑する言葉を囁いている。
それに明らかに揺らぎそうになっていた隆志の態度に、椿子の鋭い声が飛ぶ。
椿子は一華が信用出来る存在ではないと主張し、それよりも早く彼女を殺せと叫んでいる。
彼女の主張が正しさは、そんな心無い言葉を受けてもにっこりと嗤って見せた、一華の表情からも窺えた。
「何!?一体何があったの!?」
そこに、戻ってきた誰かの戸惑う声が響く。
それはあさひを探し、この場を後にしていた梢のものだろう。
ならば、その背中には―――。
「殺しなさい!!貴女の相手はあの女よ!!!」
「殺すのはそっちよ!誰を殺せば得か、貴方には分かるでしょう!!そう命令なさい!!!」
現れた殺人鬼、あさひに椿子と一華は同時に声を上げる。
彼女達はお互いに相手を殺せと叫び、それに挟まれた梢は訳が分からないと、隆志の方へと顔を向けている。
その視線を受けた隆志もまた、どうすればいいのか分からないと迷うばかりで、はっきりとした指示を出せずにいた。
そんな中で一人、あっさりと結論を下した者がいた。
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