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止まらない連鎖

彼らの思惑 2

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「えっ!?それって不味いんじゃ、もし親父にバレでもしたら・・・」
「バレやしねぇよ!今のご時勢、こんぐらいやらねぇと極道なんてやってられねぇぞ?」

 陣馬の言葉に、それは不味いんじゃないかとサブは青い表情を作っている。
 しかし陣馬は、そんなこと訳もないと笑って見せていた。
 その自信溢れる態度は、彼がこれまでにも同じような事を繰り返してきたことを示していた。

「でも・・・それじゃ、どうして殺しなんて?意味ないじゃないですか!?」

 しかしと、サブは思う。
 それでは行動があべこべではないかと。
 陣馬がここまで進藤家を追ってきたのは、その借金を回収し自らの懐に入れてしまうためだという。
 なのに彼は、彼らを殺せと先ほど命令してきていた。
 それはその目的と、余りに矛盾してきてしまう。

「あぁ?そりゃ、お前・・・あいつらに金の当てがなさそうだからに決まってんだろ?そうなっちまったらもう、身体で稼いでもらうしかないからな。邪魔な奴には消えてもらわねぇと」

 そんなサブの疑問に、陣馬は簡潔に答える。
 彼はもはや進藤家に真っ当な方法でお金を用意するのは無理だと考え、非合法な方法で稼いでもらおうと考えているようだった。
 そのために邪魔なのだろう、男であり、激しい肉体労働にも向かない父親の大助が。

「内臓でも売っぱらえれば良かったんだが・・・知ってるか?お隣のあの国は幾らでも自分の所の人間から内蔵を用意出来るのに、日本人のもんをありがたがるんだとよ。奴らにとっちゃ、日本人の臓器はブランド品ってか?笑えるぜ」
「はぁ・・・そうなんすか。でも兄貴、風俗に落としたところ稼げるんすか?あのおばちゃん・・・見た目は悪くないっすけど、結構年っすよ?」

 ぶつぶつと一人、人間をお金に変える方法を語る陣馬に、サブは適当に相槌を返している。
 彼はそれよりも、陣馬がどうやって進藤家の面々で稼ぐつもりなのか気になっているようだった。

「あぁ?何言ってんだよ、お前。そっちも殺すに決まってんじゃねーか。稼がせんのは、あのガキだよ、あのガキ。ああいうガキの方が一部の界隈では受けんのさ。あいつに好事家がつけた値段聞いたらお前、目ん玉飛び出すぞ?」

 サブの疑問に、陣馬は的外れだと鼻で笑っている。
 彼がターゲットとしているのは始めから、彼らの息子である翔であった。
 特に美少年という見た目ではない翔ではあったが、その性格や容姿はとても少年らしい元気のよさに溢れており、それが一部の好事家には好評なのだと陣馬は語る。
 そんな彼の言葉に、サブは僅かに気持ち悪そうに顔を顰めていた。

「し、しかし・・・だとしても、殺す必要があるんすか?ガキが必要なら、そいつだけ攫っちまえば・・・」

 陣馬の意図を理解したサブはしかし、殺しは嫌だと譲歩案を提案する。
 確かにサブの言う通り、翔が必要ならば彼だけを攫えばいい。

「馬鹿か、てめぇは。相手は金持ちの好事家だぞ。そういう些細な懸念も取り除くから、高い金払ってくれるんじゃねぇか?」

 しかし、陣馬の答えは否であった。
 攫われた翔に、残された両親は彼の事を必死に探すだろう。
 彼を購入する金持ちにとって、その存在は煩わしくて堪らないものだ。
 そうした存在を処理し、トラブルが起きないようにケアするからこそ高く売れるのだと語る陣馬の言は、そう考えればもっともなもののように聞こえた。

「・・・で?どうなんだ?やる気になったか?」
「そ、それは・・・」

 一通り事情を話し終えた陣馬は、最初の話へと戻り再びサブへと問い掛ける。
 それは進藤家への、殺しの依頼であった。
 長々とした説明によって、やるべき事が明確になった今にも、サブはやはり殺しは嫌だとどこか躊躇う様子を見せていた。

「なんだぁ?てめぇ、まさかそれじゃ不満だってか?おいおい、俺様のチャカを寄越せっていうんじゃねぇだろうな?」
「そ、そうですそうです!出来ればそれを貸して欲しいっす!」

 言いよどむサブに、陣馬は彼が渡したナイフでは不満なんだと考える。
 その言葉に飛びついたサブは、それが不満だったのではなく、陣馬が彼の愛銃を渡す事などないと知っているからだろう。
 そう要求することで、今回の話が流れないかと願うサブの試みはしかし、すぐに頓挫する事になる。

「うだうだ言ってんじゃねぇよ、このゴミ屑がぁ!!!」
「がぁっ!!?」

 それまで、割と穏やかな口調で話していた陣馬は急にブチギレると、サブが望んだ得物によってその側頭部を強打する。
 急にブチギレた陣馬に、身構えることすら許されなかったサブは、それをもろに食らってしまい、そのまま床へと叩きつけられていた。

「てめぇは黙って、俺の言うこと聞いてりゃいいんだ!!分かったか!?あぁ?」
「は、はいぃ!!わ、分かりました!!」

 床へと倒れ付したサブに、陣馬はベッドから腰を上げると、その身体へと足をかける。
 そうして身を屈めては、サブの耳元へと口を近づけ凄む陣馬に、彼はもはやただただ分かりましたと叫ぶほかなくなっていた。

「大体、銃なんか使っちまったらあいつに擦り付けられねぇだろうが・・・そこんとこ、分かってんのかね?あの馬鹿は・・・」

 転がるような勢いでこの部屋から飛び出ていったサブに、陣馬は一人溜め息を漏らす。
 彼はサブを殴りつけた銃を大事そうに擦ると、それを懐に仕舞ってベッドへと再び横になっていた。
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