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止まらない連鎖
苛立つ飯野巡はそれに気付けない
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「ねぇ、だから取ってきたっていってるでしょ!?聞いてるの!!?」
先ほどから激しく扉をノックしても、一向に反応を返してこない中の二人に対し、飯野は苛立つように声を荒げている。
彼女はその苛立ちのままに、取ってきた一華の鞄を床へと叩きつけようと振りかざすが、その一目で高級品と分かるそれに、結局投げつける事を躊躇ってしまっていた。
「はぁ、何やってんだか・・・ん?今、何か聞こえたような・・・?」
振り上げた鞄をそっと元のポジションへと戻した飯野は、そんな自分の振る舞いに溜め息を漏らす。
そうして彼女は自らが撒き散らしていた騒音が掻き消していた、その音を耳にしていた。
「んんっ!もぅ・・・焦り過ぎよ、幸也君?そこはまだ・・・あぁん!」
扉越しに聞こえてきた僅かな物音が気に掛かった飯野は、息を潜めるとそこへと耳を澄ませる。
扉に密着させた耳に聞こえてきたのは、なにやら艶っぽい雰囲気を漂わせる一華の声であった。
「はぁ!?何やってんのよ、あいつら!!私が少し目を離した隙に・・・ちょっと、匂坂君!!聞いてる!!?」
自分がその場を離れるや否や、そんな事を始めた匂坂と一華に、飯野はそのこめかみに青筋を立たせると、先ほどよりも激しく扉をノックし始める。
それは扉を破壊してしまいそうな勢いではあったが、彼女の腕力ではそれは叶う事はない。
「もー、あったまきた!!こんな扉、私にだって・・・」
幾ら激しくノックしても、それに反応を返さない二人に堪忍袋の緒が切れた飯野は、それをはっきりと示すように小脇に抱えた鞄を床へと叩きつける。
彼女はどうやら本気でその扉を蹴破ると決めたようで、十分な威力を確保するために僅かに助走の距離を取り始めている。
「・・・お前の力では、それは不可能だ。諦めた方がいい」
「誰っ!?」
飯野が扉を蹴破ろうと足を振り上げると、その後ろから静かな、しかし不気味な声が掛かる。
彼女がそちらへと慌てて振り返ると、そこにはフードで顔を隠した大柄な男が佇んでいた。
「飯野、巡だな?」
「だから、誰よあんた?何で私の名前を―――」
その男は、飯野の言葉など聞いていないように、自らの話したい事だけを話す。
そんな男の態度に苛立つように距離を詰めた飯野は、彼を問い詰めるように下から睨みつける。
しかしその振る舞いは、あまりに迂闊なものであった。
「そうか」
その男のあまりに不気味な姿と振る舞いに、彼女は気付かなかったのだ。
その右手に握られた、木製のオブジェの事を。
彼女の言葉に確認は取れたと短く呟いた男は、それを振り上げ、すぐに振り下ろす。
その動きは余りに自然で、彼女はそれに反応出来ない。
そうして響いた鈍い音と共に、彼女の意識は遠のいていってしまう。
糸の切れた人形のように崩れ落ちる彼女の姿を、その男だけが冷たい瞳で見下ろしていた。
「飯野さん?ご、ごめんね?少し立て込んでて、開けるのが遅く・・・飯野さん?」
若干乱れてしまっている衣服を整えながらそのドアを開けた匂坂は、飯野にそれが遅くなったことを謝りながら、その先へと視線を向けている。
しかしその先には、予想していた人物の姿はなく、彼女が取ってきたのであろう高級そうな鞄が床へとぶちまけられ、その中身を晒しているだけであった。
先ほどから激しく扉をノックしても、一向に反応を返してこない中の二人に対し、飯野は苛立つように声を荒げている。
彼女はその苛立ちのままに、取ってきた一華の鞄を床へと叩きつけようと振りかざすが、その一目で高級品と分かるそれに、結局投げつける事を躊躇ってしまっていた。
「はぁ、何やってんだか・・・ん?今、何か聞こえたような・・・?」
振り上げた鞄をそっと元のポジションへと戻した飯野は、そんな自分の振る舞いに溜め息を漏らす。
そうして彼女は自らが撒き散らしていた騒音が掻き消していた、その音を耳にしていた。
「んんっ!もぅ・・・焦り過ぎよ、幸也君?そこはまだ・・・あぁん!」
扉越しに聞こえてきた僅かな物音が気に掛かった飯野は、息を潜めるとそこへと耳を澄ませる。
扉に密着させた耳に聞こえてきたのは、なにやら艶っぽい雰囲気を漂わせる一華の声であった。
「はぁ!?何やってんのよ、あいつら!!私が少し目を離した隙に・・・ちょっと、匂坂君!!聞いてる!!?」
自分がその場を離れるや否や、そんな事を始めた匂坂と一華に、飯野はそのこめかみに青筋を立たせると、先ほどよりも激しく扉をノックし始める。
それは扉を破壊してしまいそうな勢いではあったが、彼女の腕力ではそれは叶う事はない。
「もー、あったまきた!!こんな扉、私にだって・・・」
幾ら激しくノックしても、それに反応を返さない二人に堪忍袋の緒が切れた飯野は、それをはっきりと示すように小脇に抱えた鞄を床へと叩きつける。
彼女はどうやら本気でその扉を蹴破ると決めたようで、十分な威力を確保するために僅かに助走の距離を取り始めている。
「・・・お前の力では、それは不可能だ。諦めた方がいい」
「誰っ!?」
飯野が扉を蹴破ろうと足を振り上げると、その後ろから静かな、しかし不気味な声が掛かる。
彼女がそちらへと慌てて振り返ると、そこにはフードで顔を隠した大柄な男が佇んでいた。
「飯野、巡だな?」
「だから、誰よあんた?何で私の名前を―――」
その男は、飯野の言葉など聞いていないように、自らの話したい事だけを話す。
そんな男の態度に苛立つように距離を詰めた飯野は、彼を問い詰めるように下から睨みつける。
しかしその振る舞いは、あまりに迂闊なものであった。
「そうか」
その男のあまりに不気味な姿と振る舞いに、彼女は気付かなかったのだ。
その右手に握られた、木製のオブジェの事を。
彼女の言葉に確認は取れたと短く呟いた男は、それを振り上げ、すぐに振り下ろす。
その動きは余りに自然で、彼女はそれに反応出来ない。
そうして響いた鈍い音と共に、彼女の意識は遠のいていってしまう。
糸の切れた人形のように崩れ落ちる彼女の姿を、その男だけが冷たい瞳で見下ろしていた。
「飯野さん?ご、ごめんね?少し立て込んでて、開けるのが遅く・・・飯野さん?」
若干乱れてしまっている衣服を整えながらそのドアを開けた匂坂は、飯野にそれが遅くなったことを謝りながら、その先へと視線を向けている。
しかしその先には、予想していた人物の姿はなく、彼女が取ってきたのであろう高級そうな鞄が床へとぶちまけられ、その中身を晒しているだけであった。
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