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止まらない連鎖

散り散りになる人々

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「おいサブ、俺達も部屋に戻るぞ」

 匂坂達が去り、幾分か静かになった部屋に、サングラスで目元隠し派手な格好をした男の声が響く。
 彼が声を掛けたサブに兄貴と呼ばれているその男、陣馬竜輝(じんば りゅうき)は部屋に帰るぞと顎をしゃくっていた。

「へ?か、帰るんですかい兄貴?で、でもですね・・・」
「あぁ?てめぇ、まさかあの部屋を通るのが怖いなんて抜かすんじゃねぇだろうな!?」

 陣馬の言葉にも、サブはどこか難色を示している。
 その態度をいぶかしんだ陣馬は、彼がある事実を怖がっているのではないかと怒鳴り声を上げていた。
 その部屋とは、殺人が起きた要達が宿泊していた部屋のことだろう。
 あの事件が起きた際に、奥からやってきた彼らに、彼らの宿泊している部屋がその奥にあるのは明白だ。
 警察もやってこれない現状に、恐らく要の死体もそのままそこに放置されているのだろう。
 そんな場所を怖がるのは自然な事に思われたが、彼らの職業を考えれば、何をそれぐらいでビビッているのだという陣馬の発言も頷ける。

「そ、そうだ!あの家族は監視しなくていいんですか?折角ここまで追ってきたのに・・・」
「あいつらの部屋も、俺らの部屋の近くじゃねぇか!それに・・・」

 彼らは進藤家を追ってここまでやってきたのだ、それを放置していいのかとサブは語る。
 しかし陣馬は彼らの部屋も自分達のすぐ近くだと話すと、サブの肩を抱きこんでこちらへと引き込む。

「ここから、逃げられると思うか?」
「そ、それは・・・」

 近くに座り込んでは、家族で肩を寄せ合っている進藤家の面々に聞かれないように声を潜めた陣馬は、外の様子に目を向けてはここから抜け出せはしないと囁いている。
 だんだんと激しさを増しているような外の吹雪に、サブもそれには反論の言葉を捜せずにいた。

「で、でもですね!危ない奴がいるじゃないですか?あいつに奴らを殺されたら不味いんじゃないですか?」
「あぁ?それはだな・・・」

 陣馬の言葉に納得しかけたサブも、部屋に戻りたくない意思が勝ったのか、また新たな理由を捻り出してみせる。
 彼が捻り出した意見は、殺人鬼が現れたこの状況では尤もなものに思える。
 しかしその言葉にも、陣馬は意味あり気に進藤家の面々に目をやるだけであった。

「いいから黙ってついてくりゃいいんだよ、手前ぇは!おら、行くぞ!」
「っっう~・・・へ、へぇ!待ってくださいよ、兄貴!」

 何かを誤魔化すようにサブの頭を殴りつけた陣馬は、そのまま部屋へと向かって歩いていく。
 陣馬に殴りつけられた頭を押さえて蹲っているサブは、去っていく彼の姿に慌ててその後を追いかけていた。

「・・・私達も、部屋に戻ろう」
「どうしてですか!?私は嫌ですよ、あんな所に戻るのは!」

 去っていく陣馬達の姿に、その近くで寄り添っていた進藤家の父親、大助もその重い腰を上げようとしていた。
 しかしそんな彼の言葉に、彼の奥さんである静子はすぐさま反論すると、ここから動きたくないと息子である翔の身体をひしっと抱きしめていた。

「それは・・・ここは外から簡単に入れ過ぎるし、危険じゃないか。それなら、あの部屋の方がまだ・・・」
「私は嫌ですよ、あんな所!!大体貴方が連帯保証人になんかなるから、こんな事に・・・!!」

 このロッジのメインの出入り口であるロビーには、外に面した部分が多く存在する。
 窓を突き破って進入してきた殺人鬼からすれば、ここは容易に侵入出来る場所だろう。
 そう主張する大助に、静子はここに来るに至った理由までをも蒸し返し、そんな事は嫌だと首を振っていた。

「そ、それは・・・言わない約束だろう!」
「いいえ、言わせて貰います!!借金取りに追われるだけでも地獄なのに、今度は殺人鬼?そんなの私、もう耐えられない!!」

 過去の失敗をいつまでも蒸し返されては、何一つ前に進むことが出来ない。
 そのため彼ら家族の間では、その事については触れない約束となっていたのだろう。
 しかし借金取りに追われるストレスに加え、殺人鬼が現れた事で命の危険までも晒される事態に、もはや耐え切れなくなった静子は、そのストレスを吐き出すように大助の事を詰る。
 その悲痛な叫び声は確かに、彼女の限界を感じさせるものだった。

「それもこれも全部、貴方のせいよ!貴方があんな、あんなことをホイホイ受け入れるから・・・!!」
「それは、すまないと思っているが・・・っ!ここでは不味い、とにかく部屋に・・・ほら、翔も」

 今の状況は全部貴方のせいだと叫ぶ静子に、大助はただただ謝る事しか出来ない。
 しかしそれも、ここが他の目もある場所だと彼が気づくまでだ。
 集まってくる視線も、それに気付いた大助が辺りを見渡せば、すっとそっぽを向いている。
 見てみない振りをしている彼らにも、この醜態は確かに伝わっている、それを知った大輔はとにかく一刻も早くここから離れようと、床へと座り込んだ静子をどうにか抱え込んでいた。

「えー!やだよ、俺。向こう、行きたくなーい」
「いいから、来なさい!!」

 匂坂から貸して貰ったゲームがいい所だったのか、ここから動きたくないと駄々を捏ねる翔に、大助は強めの口調で怒鳴りつけている。
 流石の翔も父親にそうまで怒られては観念したのか、渋々といった様子でゲーム機をしまい、彼の後をついては部屋へと戻っていく。

「あれ?あんな子いたっけ?」

 自分達の部屋へと戻る途中、翔は従業員用の通路だろうか、脇に続いている通路を通る髪の長い少女の姿を目にしていた。

「翔、おいてくぞ!!」
「はーい!・・・気のせいかな?」

 自分と年齢の近いその少女の姿に、思わず足を止めて見入ってしまっていた翔に、大助は早く行くぞと急かしている。
 今まで見かけた事もなく、一瞬で姿を消してしまった少女に、翔もまた見間違いかと納得すると、その場を後にしていた。
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