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アランとアレクシア
青空
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真白に塗りつぶした光景は、そこに響いた音も全て押し潰して無音にしてしまっている。
それは余りの爆音か、純粋な衝撃によって音という概念を破壊してしまった結果であろう。
それも瞬き終わり、今やパラパラと瓦礫の欠片を落とすのに名残を残すだけ。
激しすぎる破壊は、その痕跡までもを破壊して、その存在を不確かにしてしまう。
「・・・ぶ、無事か?」
「・・・な、何とかね」
破壊の痕跡すら吹き飛ばす守護者の攻撃の威力に、その身体には瓦礫が積み重なることはない。
僅かに埃が積もっているだけの身体を僅かに起こしたアランは、近くにいる筈のアレクシアに対して声を掛けていた。
その目は激しい光にやられて、今はまだ視力を失っている。
それはアレクシアも同じだったようで、二人して声のする方へと曖昧に視線を向けていた。
「あー、ようやく目が戻って来たな・・・うおっ!?やべー・・・」
「うわぁ・・・よく生きてるわね、私達・・・」
強烈な光によってやられた目は、時間と共にその視力を回復していく。
そうして目にした破壊の光景は、どうして自分達が今も生きているのか不思議なってしまうものであった。
「こいつのお陰か?何だよ、こんだけ丈夫なら人質に何てなんねぇじゃねーか」
「それだけ、あいつにとってこれが大事だったって証拠でしょ?良かったじゃない!」
周辺の破壊の状況に比べて、アラン達が隠れた遺物の影だけは概ね無事な姿を保っている。
それはそれだけ、この遺物が頑丈であったことを示していた。
それに感謝するように、アランはコツンと遺物を叩いている。
しかしその口調は、どこか悔しそうなものであった。
「そりゃそうだが・・・おいっ、後ろ!!」
「えっ?何よ、いきなり・・・嘘でしょ!?どんだけ頑丈なのよ!?」
アランが口にした悔しさは、自らの行動が何の意味もなかったかもしれないという後悔からだ。
それを取り成そうとしたアレクシアに、アランは何とも言えない表情を向けている。
それが驚愕に変わるまでに、大した暇は必要ない。
何故ならその視界の中に、こちらへと近づいてくる守護者の姿が映っていたからだ。
「ま、まだ戦う気なのかよ!?い、いいぜ!やってやろうじゃねぇか!!」
「あ、あんた!それでどうやって戦う気なのよ!?」
「は?うおっ、もう柄しか残ってねぇ!?」
こちらへと近づいてくる守護者は、その半身を消し飛ばしてしまっている。
それでもふらふらとこちらに近づいてくるその姿に、アランは脅威に感じ慌てて得物をそちらへと向ける。
しかしその手に握った剣は、もはや剣先だけではなく刃自体がなくなってしまっていた。
「お、おい!それ以上近づくとなぁ、てめぇの大事なこれがどうなっても知らねぇぞ!!」
「いや、あんた・・・さっき自分で人質にならないって言ったばっかじゃない」
「ば、馬鹿!!黙ってれば、気付かれないかも知んねぇだろ!!大体、これ以外にやりようねぇだろうが!」
まともに戦う手段もなくなってしまったアランは、そのままそれを目の前の遺物へと向けて、それによって守護者に脅しをかけようとしていた。
しかしそれは先ほど、彼自身が有効な手段ではなかったと反省したばかりの手段に他ならない。
それを口にして突っ込みを入れるアレクシアに、アランは彼女の言葉をかき消すように大声を上げていた。
「な、何だよ・・・やろうってのか!?」
守護者はそんな彼らのやり取りを無視するように近づいてくると、無事な方の腕をそっと伸ばしてくる。
それは戦闘の開始を告げる合図にも思えて、アランは気色ばんでは強がりを吠えていたが、その剣先のない得物は震えてしまっていた。
『・・・積年の願いはついに叶った。幸運を・・・私の・・・いと・・よ・』
伸ばした腕に、触れた指先は欠けている。
それでもどうにか触れた遺物に、守護者は何か願うような言葉を投げかけている。
それも最後には言葉にならずに消えていき、彼はその活動を終える。
零れた落ちたガラスの瞳はひび割れて、それでも澄み切った色で輝いていた。
「そ、それだけ?ふぅ~・・・助かったぁ。ったく、ビビらせんじゃねぇよ!!」
目の前で完全に機能を停止した守護者の姿に、その半身を完全に遺物の陰に隠していたアランはそこから顔を覗かせると、たっぷりと安堵の息を吐いている。
そうして完全に緊張の糸が切れた彼は、そのまま脱力するように床へと寝転がってしまっていた。
「うおっ!?マジか!」
「えっ!?何よ、まだ何かある訳!?」
「ん?いや、違う違う!ほら、お前も見てみろよ」
「はぁ、何よ一体・・・っ!?」
床へと寝転がり、天井を見上げたアランは何やら急に驚きの声を上げている。
それにトラブルの匂いを感じて焦り始めるアレクシアの反応は、先ほどの事も考えれば当然であろう。
しかしそれにアランは僅かに笑みを漏らすと、上を指差してアレクシアにもそちらを見るように勧めていた。
「うわぁ、綺麗・・・」
「な?何だか、馬鹿馬鹿しくなってくるなー」
見上げた先には、綺麗な青空が広がっている。
被害を他へと広げないために天井を向いてそれを放った守護者の判断に、暴走したエネルギーはそこを遮るものを悉く消し去っていた。
そうしてその先には、何も遮るものがなくなった美しい青空だけが広がっている。
それを見上げるアランは、全てが馬鹿馬鹿しくなったように両手を広げて寝転がっていた。
「ふふっ、そうね。あー・・・疲っれたぁ、もう動きたくなーい」
「そうだなー・・・もうちょっとここで・・・ん?」
その余りの美しさは、それまでのなんやかんやを全て思わず忘れさせてしまう。
アランの言葉に薄く笑みを漏らしたアレクシアは、自らも彼に習うようにその四肢を投げ出している。
そんな彼女の振る舞いをアランも笑って受け入れて、二人隣に並んでのんびりとした午睡の時間がいつまでも続くかのように思われた。
「お、おい!アレクシア、そんな場合じゃねぇ!急ぐぞ!!」
「えー、何でよ?今やったばかりじゃない、もう少し・・・」
ぽっかり空いた青空は、それだけこの遺跡の構造物が破壊されたことを意味している。
先ほどからパラパラと落ちてきていた瓦礫の欠片も、今やさらに激しくなってきており、それはこの遺跡の崩壊を予感させていた。
「それどころじゃねぇってんだよ!!ここはもう駄目だ!さっさとずらかるぞ!!」
「えっ、嘘でしょ!?わっ、わっ、本当だ!!ちょ、どうすればいいの!?」
「とにかく、これだけでも持って帰っぞ!!アレクシア、そっちを頼む!」
耳を澄ませば、何やら地響きのような音も聞こえてきているような気がする。
それに慌てて焦った声を上げるアランに、アレクシアもようやく尋常な事態ではないと気が付いたのかその身体を跳ね起きさせていた。
「ちょ、ちょっと待って!せめてこれだけでも・・・」
「おい早くしろ!もう時間がねぇぞ!!」
「分かってる!!あぁもう、これだけいいか!!」
焦りの声を上げ、少しでも早くこの場から立ち去ろうとしているアランに、アレクシアは散乱させてしまった荷物の内、無事なものだけでも回収しようと試みている。
しかし、その全てを回収しきる時間はないだろう。
アレクシアはその内の一つ二つを回収すると、慌ててアランの下へと引き返していた。
「よし!いいわよ、アラン!!」
「よっしゃ!行くぞ・・・って、うおぉぉぉ!?もうかよぉぉぉ!!?」
「ひぇぇぇぇっ!!?」
回収を途中で切り上げてアランの下へと戻って来たアレクシアは、彼が半分担いでいる遺物の下へと潜りこむと、その反対側を持ち上げている。
引き揚げ準備の完了に、アランは意気揚々と踏み出そうとしていたが、その背後からは重々しい崩壊の音が響く。
それは、この遺跡が崩壊を始めた合図だろう。
つまりは、もはや一刻の猶予もないという事だ。
「急げ急げ急げ!!こんな所で死ぬなんて、冗談じゃねぇぞ!!」
「うわーん、もうやだー!!おうち帰るー!!!」
一度始まった崩壊は、連鎖して周りを巻き込んでいく。
それは急速に広がっていき、彼らの逃げ道を塞ぐだろう。
それよりも速く、二人は逃げなければならない。
落ちる瓦礫に、立ち込める土埃を突き抜けて二人は駆ける。
その顔に、必死の涙を流しながら。
それは余りの爆音か、純粋な衝撃によって音という概念を破壊してしまった結果であろう。
それも瞬き終わり、今やパラパラと瓦礫の欠片を落とすのに名残を残すだけ。
激しすぎる破壊は、その痕跡までもを破壊して、その存在を不確かにしてしまう。
「・・・ぶ、無事か?」
「・・・な、何とかね」
破壊の痕跡すら吹き飛ばす守護者の攻撃の威力に、その身体には瓦礫が積み重なることはない。
僅かに埃が積もっているだけの身体を僅かに起こしたアランは、近くにいる筈のアレクシアに対して声を掛けていた。
その目は激しい光にやられて、今はまだ視力を失っている。
それはアレクシアも同じだったようで、二人して声のする方へと曖昧に視線を向けていた。
「あー、ようやく目が戻って来たな・・・うおっ!?やべー・・・」
「うわぁ・・・よく生きてるわね、私達・・・」
強烈な光によってやられた目は、時間と共にその視力を回復していく。
そうして目にした破壊の光景は、どうして自分達が今も生きているのか不思議なってしまうものであった。
「こいつのお陰か?何だよ、こんだけ丈夫なら人質に何てなんねぇじゃねーか」
「それだけ、あいつにとってこれが大事だったって証拠でしょ?良かったじゃない!」
周辺の破壊の状況に比べて、アラン達が隠れた遺物の影だけは概ね無事な姿を保っている。
それはそれだけ、この遺物が頑丈であったことを示していた。
それに感謝するように、アランはコツンと遺物を叩いている。
しかしその口調は、どこか悔しそうなものであった。
「そりゃそうだが・・・おいっ、後ろ!!」
「えっ?何よ、いきなり・・・嘘でしょ!?どんだけ頑丈なのよ!?」
アランが口にした悔しさは、自らの行動が何の意味もなかったかもしれないという後悔からだ。
それを取り成そうとしたアレクシアに、アランは何とも言えない表情を向けている。
それが驚愕に変わるまでに、大した暇は必要ない。
何故ならその視界の中に、こちらへと近づいてくる守護者の姿が映っていたからだ。
「ま、まだ戦う気なのかよ!?い、いいぜ!やってやろうじゃねぇか!!」
「あ、あんた!それでどうやって戦う気なのよ!?」
「は?うおっ、もう柄しか残ってねぇ!?」
こちらへと近づいてくる守護者は、その半身を消し飛ばしてしまっている。
それでもふらふらとこちらに近づいてくるその姿に、アランは脅威に感じ慌てて得物をそちらへと向ける。
しかしその手に握った剣は、もはや剣先だけではなく刃自体がなくなってしまっていた。
「お、おい!それ以上近づくとなぁ、てめぇの大事なこれがどうなっても知らねぇぞ!!」
「いや、あんた・・・さっき自分で人質にならないって言ったばっかじゃない」
「ば、馬鹿!!黙ってれば、気付かれないかも知んねぇだろ!!大体、これ以外にやりようねぇだろうが!」
まともに戦う手段もなくなってしまったアランは、そのままそれを目の前の遺物へと向けて、それによって守護者に脅しをかけようとしていた。
しかしそれは先ほど、彼自身が有効な手段ではなかったと反省したばかりの手段に他ならない。
それを口にして突っ込みを入れるアレクシアに、アランは彼女の言葉をかき消すように大声を上げていた。
「な、何だよ・・・やろうってのか!?」
守護者はそんな彼らのやり取りを無視するように近づいてくると、無事な方の腕をそっと伸ばしてくる。
それは戦闘の開始を告げる合図にも思えて、アランは気色ばんでは強がりを吠えていたが、その剣先のない得物は震えてしまっていた。
『・・・積年の願いはついに叶った。幸運を・・・私の・・・いと・・よ・』
伸ばした腕に、触れた指先は欠けている。
それでもどうにか触れた遺物に、守護者は何か願うような言葉を投げかけている。
それも最後には言葉にならずに消えていき、彼はその活動を終える。
零れた落ちたガラスの瞳はひび割れて、それでも澄み切った色で輝いていた。
「そ、それだけ?ふぅ~・・・助かったぁ。ったく、ビビらせんじゃねぇよ!!」
目の前で完全に機能を停止した守護者の姿に、その半身を完全に遺物の陰に隠していたアランはそこから顔を覗かせると、たっぷりと安堵の息を吐いている。
そうして完全に緊張の糸が切れた彼は、そのまま脱力するように床へと寝転がってしまっていた。
「うおっ!?マジか!」
「えっ!?何よ、まだ何かある訳!?」
「ん?いや、違う違う!ほら、お前も見てみろよ」
「はぁ、何よ一体・・・っ!?」
床へと寝転がり、天井を見上げたアランは何やら急に驚きの声を上げている。
それにトラブルの匂いを感じて焦り始めるアレクシアの反応は、先ほどの事も考えれば当然であろう。
しかしそれにアランは僅かに笑みを漏らすと、上を指差してアレクシアにもそちらを見るように勧めていた。
「うわぁ、綺麗・・・」
「な?何だか、馬鹿馬鹿しくなってくるなー」
見上げた先には、綺麗な青空が広がっている。
被害を他へと広げないために天井を向いてそれを放った守護者の判断に、暴走したエネルギーはそこを遮るものを悉く消し去っていた。
そうしてその先には、何も遮るものがなくなった美しい青空だけが広がっている。
それを見上げるアランは、全てが馬鹿馬鹿しくなったように両手を広げて寝転がっていた。
「ふふっ、そうね。あー・・・疲っれたぁ、もう動きたくなーい」
「そうだなー・・・もうちょっとここで・・・ん?」
その余りの美しさは、それまでのなんやかんやを全て思わず忘れさせてしまう。
アランの言葉に薄く笑みを漏らしたアレクシアは、自らも彼に習うようにその四肢を投げ出している。
そんな彼女の振る舞いをアランも笑って受け入れて、二人隣に並んでのんびりとした午睡の時間がいつまでも続くかのように思われた。
「お、おい!アレクシア、そんな場合じゃねぇ!急ぐぞ!!」
「えー、何でよ?今やったばかりじゃない、もう少し・・・」
ぽっかり空いた青空は、それだけこの遺跡の構造物が破壊されたことを意味している。
先ほどからパラパラと落ちてきていた瓦礫の欠片も、今やさらに激しくなってきており、それはこの遺跡の崩壊を予感させていた。
「それどころじゃねぇってんだよ!!ここはもう駄目だ!さっさとずらかるぞ!!」
「えっ、嘘でしょ!?わっ、わっ、本当だ!!ちょ、どうすればいいの!?」
「とにかく、これだけでも持って帰っぞ!!アレクシア、そっちを頼む!」
耳を澄ませば、何やら地響きのような音も聞こえてきているような気がする。
それに慌てて焦った声を上げるアランに、アレクシアもようやく尋常な事態ではないと気が付いたのかその身体を跳ね起きさせていた。
「ちょ、ちょっと待って!せめてこれだけでも・・・」
「おい早くしろ!もう時間がねぇぞ!!」
「分かってる!!あぁもう、これだけいいか!!」
焦りの声を上げ、少しでも早くこの場から立ち去ろうとしているアランに、アレクシアは散乱させてしまった荷物の内、無事なものだけでも回収しようと試みている。
しかし、その全てを回収しきる時間はないだろう。
アレクシアはその内の一つ二つを回収すると、慌ててアランの下へと引き返していた。
「よし!いいわよ、アラン!!」
「よっしゃ!行くぞ・・・って、うおぉぉぉ!?もうかよぉぉぉ!!?」
「ひぇぇぇぇっ!!?」
回収を途中で切り上げてアランの下へと戻って来たアレクシアは、彼が半分担いでいる遺物の下へと潜りこむと、その反対側を持ち上げている。
引き揚げ準備の完了に、アランは意気揚々と踏み出そうとしていたが、その背後からは重々しい崩壊の音が響く。
それは、この遺跡が崩壊を始めた合図だろう。
つまりは、もはや一刻の猶予もないという事だ。
「急げ急げ急げ!!こんな所で死ぬなんて、冗談じゃねぇぞ!!」
「うわーん、もうやだー!!おうち帰るー!!!」
一度始まった崩壊は、連鎖して周りを巻き込んでいく。
それは急速に広がっていき、彼らの逃げ道を塞ぐだろう。
それよりも速く、二人は逃げなければならない。
落ちる瓦礫に、立ち込める土埃を突き抜けて二人は駆ける。
その顔に、必死の涙を流しながら。
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