最弱能力「毒無効」実は最強だった!

斑目 ごたく

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アランとアレクシア

選手交代

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「何だこいつら?手応えがねぇな・・・」

 厄介な守護者をアレクシアに任せて、アランがゴブリン達の相手を選択したのは、彼らも確かな脅威であったからだ。
 しかしそれらへと剣を振るい、相手をしようとしていたアランはその余りの手応えのなさに拍子抜けしまっている。
 それもそうだろう、先ほどまで確かに怒り狂っていたゴブリン達は、今や戦う気も失せてしまったのか武器を取ろうともしていないだから。

「戦う気がねぇのか?いや、それどころかこれは・・・」

 怒りと共にこちらを殺そうとしてくる相手に、剣を振るうのは躊躇いはしない。
 こちらの脅威となるかもしれない相手を騙し討ちするなど、寧ろ歓喜をもって行える。
 しかしこうも無防備な相手を一方的に切り捨てるというのは、流石のアランでも気が引けた。

「祈り?なるほどね、さしずめ信仰の対象はあいつって訳か・・・」

 武器も取らず、無防備な彼らは何もその場に突っ立っている訳ではない。
 彼らゴブリンは、アレクシアと戦っている守護者に対し跪き、時には五体を投げるように頭を垂れていた。
 それは祈りの姿に似ている。

「そんじゃ、さしずめ俺達は神様と争う邪神って訳か。神々の戦いに下々のもんが出てくる訳にもいかねぇしな、こいつらは無視しても大丈夫そうか?」

 守護者へと祈りを捧げているゴブリン達は、もはやアランに注意を払ってもいない。
 それを考えれば、彼らを無理に倒さなくても大丈夫なのではと思えていた。

「どぅらぁ!!ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ・・・ア、アラン!あんたなに、ぼーっと突っ立ってんのよ!?早くこっち来て手伝いなさいよ!!」

 アランがそうしてこの遺跡に住み着いたゴブリンの生態について考察している間にも、アレクシアと守護者の必死な戦いは続いていた。
 今もまた、血反吐を吐くような必死さで守護者の攻撃を受け流したアレクシアは、乱れ切った呼吸を何とか整えようとしている。
 そんな最中に、その場に突っ立っては考え込んでいるアランの姿を目にした彼女は、信じられないという表情で目を見開いていた。

「おぉ!今行く今行く!いや、待てよ?あれを倒したら、こいつらが襲い掛かって来るんじゃないか?神を倒した相手に対して向かってくる勇気はないか、普通。いや、でもなぁ・・・」

 一人、考え込んでしまっていたアランも、彼女から声を掛けられればそれを無視することも出来ない。
 考え込んでいた顔を上げ、慌ててそちらへと向かおうとしたアランはしかし、何か気になることがあったのか再び考え込んでしまっていた。

「いいから!さっさと来なさいよ!!こっちはもう・・・っ!?」

 そのアランのどこかのんびりとした振る舞いに、既に限界に達していたアレクシアは地団太を踏んでは怒り散らしている。
 それは彼女の状態とアランの態度からすれば仕方のないことだったかもしれないが、そんな事情を気にしない存在もその場にはいた。

『置いていけ!!』
「あぁー!!鞄がぁ!!?」

 隙だらけなアレクシアを狙って振るった守護者の鉄槌は、ギリギリでそれに気付いたアレクシアによって何とか躱されてしまう。
 しかしそれは、全てが無事に過ぎたという事を意味していない。
 ギリギリの状況であったために無理な体勢でそれを躱さざるを得なかったアレクシアは、その背中に背負った荷物までもを庇いきることは出来ない。
 結果的に守護者の拳が掠めてしまった彼女の鞄は、その衝撃でストラップを破損してしまう。

「うわーーーん!折角集めた荷物がー!!」

 引き千切られたストラップに彼女の身体から離れた鞄は、その見た目以上に詰め込まれた荷物を一気に開放してしまう。
 それを目にしたアレクシアは、自らの苦労が台無しになってしまった光景に頭を抱えて泣き叫んでいた。

「ちょっとあんた、どうしてくれんのよ!?せっかく頑張ってこんだけ集めたのに、全部台無しじゃない!!?」
「悪い悪い、少しばかり気になることがあってな。つっても、こりゃどうもそんなこと言ってる場合じゃねぇな・・・っと!」

 これまでの苦労が全て目の前で水の泡に消えれば、頭を抱えたくもなってしまう。
 しかもそれが他人の所為ともなれば、そいつに全ておっ被せたくもなるだろう。
 アレクシアは怒りのままに、アランの責任を追及している。
 それには流石にアランも悪いと思っているのか、軽い調子で謝罪の言葉を口にしていた。

「アレクシア!お前、あの・・・テープとか言ったか?あれで鞄を補修で出来っか?」
「う、うん・・・出来ると思うけど、それじゃあんたが・・・」

 彼ら二人の会話を、敵が律義に待ってやる理由はない。
 無理やり身を躱し、そのままの体勢で落ち込んでいたアレクシアに追い打ちを掛けるように守護者の鉄槌が迫る。
 それを軽く弾き返して見せた、アランはアレクシアを庇うような体勢のまま彼女に荷物の回収の指示を出していた。

「まぁ、何とかなるだろ。それより物資の回収の方が優先、だろ?」
「ふ、ふんっ!分かってるじゃない!じゃあ、任せたからね!後で泣きついたって、知らないんだから!!」

 彼らが元々ここにやって来たのは、この遺跡に眠る貴重な物資を回収するためだ。
 それを放置して帰っては、本末転倒になる。
 そのアランのもっともな主張も、ある一点だけとてつもない欠点が存在した。
 それは彼らがここから生きて帰らなければ、どのようなものも無意味になるという事だ。
 しかしその不安すらも、自信溢れるアランの態度を見れば心配ないように思える。
 アレクシアが唇を尖らせてアランから視線を逸らしたのは、そんな彼の姿が眩しかったからか。

『置いていけ!!』
「おいおい・・・さっきから黙ってやらせてりゃいい気になりやがってよぉ?躾がなってねぇな!!人が話してるときは黙って聞きなって、母ちゃんに習わなかったのかよ!!!」

 アレクシアが弾け飛びボロボロになった鞄の回収に向かうと、その背中を狙って守護者が鉄槌を振るう。
 それを予測していたかのようにその軌道へと割り込んだアランは、その攻撃を軽々と受け止めるとそれだけに留まらず、反撃の一撃を加えている。

「っっっぅう~・・・!?硬すぎねぇか、おい!?何で出来てんだよ、てめぇの身体!!」

 頭を狙ったその軌道も、巨体過ぎる体躯に胸を叩いただけ。
 しかもそれは硬質な音を響かせただけで、軽く弾かれてしまっていた。
 狙ったものと違った結果が齎された反動は、それを放った本人に反動として返ってきて、アランは痛む腕を押さえて蹲ってしまっていた。

「ちょっと!?本当に大丈夫なんでしょうね、あんた!?」
「あぁ?まぁ、何とかするって!よゆーよゆー!それより、お前は自分の事だけ心配してりゃいいんだよ!!」

 自信満々に出ていった者が、あっさりと蹲っている姿を見れば心配にもなる。
 アランのそんな姿に、アレクシアは思わず補修の手を止めて心配の声を掛けてくる。
 それは当然の振る舞いであったが、そんな事で一々手を止められてしまうとここでアランが時間稼ぎをしている意味がなくなってしまう。
 そのためなのか、アランは殊更余裕たっぷりにそれに応じ、彼女に余計な心配を抱かせないように振舞っていた。

「う、うん!信じてるからね!」
「おーおー、信じろ信じろ。何せ俺はあの、アラン・ブレイク様だからな!」

 アランのその振る舞いが演技である事は、アレクシアにも伝わっていただろう。
 それでもそんな彼の事を信じると決めた彼女は、力強く頷くと補修作業へと戻っていっていた。

「とは言ったものの・・・どうしたもんかね、これ?」

 アレクシアへと適当に振っていた手を自らの得物へと戻したアランは、改めて敵へと視線を戻し首を捻る。
 そこには、先ほどまでと全く変わらない様子の守護者の姿があった。
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