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アランとアレクシア
ピンチとピンチ
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「はぁ、はぁ、はぁ・・・ま、撒いたか?」
「はぁ、はぁ、はぁ・・・た、多分ね」
重たい遺物を担ぎながら一心不乱に駆け抜けた二人は、十分な空間のある広間へと出ると足を止めて休んでいる。
彼らが荒い呼吸を整えながらその場にじっとしていても、先ほどまで聞こえていたドスドスという足音は聞こえてこない。
それはとりあえずのところ、追っ手を振り切ったという事を意味していた。
「よ、良し!じゃあ取り合えず、これを一旦下ろそう。いいか?そっとだぞ、そーっと」
「り、了解。ちょっと!だから傾いてるっての!!もう少し合わせて・・・そう、それぐらいで・・・いい?下ろすわよ?」
「いや、ちょっと待て!そこに罠があるから、もうちょいこっちで!」
「えっ!?どこどこ!?」
「いやだからそこにって・・・いいから、もうちょっとこっち来いって!」
ひとまずの安心に、今はとにかく身体を休めたい二人は担いだままの遺物をその場に下ろそうとする。
しかしだからといって、それを下ろすのはどこでもいいという訳でもない。
ましてや、罠の上などは論外だ。
それを指摘されたアレクシアは思わず、自らの顔を遺物の下へと潜りこませそれを探ろうとする。
しかし今はそんな事をしている余裕はなく、アランは最早まともにそれに取りあおうとせず頭ごなしに彼女に指示を出していた。
「はいはい、分かったわよ!ここでいいんでしょ!!」
「ちょっと待て、タイミングはこっちで・・・」
「あぁ、もう限界!」
「うおぉ!!?」
限界の状態でさらにトラブルが重なれれば、お互いに余裕もなくなっていくものだ。
そんな中でそのやり取りの息が僅かばかり合わなかったとしても、今までいがみ合っていた二人からすれば、それはご愛敬だろう。
そのために、アランの指先が危うく潰されそうになったとしても。
「ちょ、おまっ・・・ふざけんなよ!?」
「え、なに?今はそれどころじゃないんだけど?とにかく休ませてくんない?疲れてんだから」
「いやお前、それは・・・っ!?」
それに悪気がないと分かっていても、危険を考えれば見過ごすことも出来ない。
アランが無事であった指先を抱えて怒鳴りつけても、疲れ果てた様子のアレクシアはまともに取り合おうとしない。
それは余計にアランの怒りを募らせたが、どうやら今はそんな事をやっている状況ではないようだ。
『いたゾ!奴らダ!!』
響いた声の意味は、先ほどと同じように意味は分からない。
しかしその声質は先ほどとは違い軽く、ざらざらと耳障りな響きを帯びていた。
その正体が何なのかは、通路の奥からぞろぞろと現れた褐色の肌の小柄な人影を見れば分かる。
それは仲間を殺され、激しくいきり立っているゴブリン達であった。
「おい、アレクシア!休んでる場合じゃねぇぞ!さっさとそのでっけぇけつを持ち上げやがれ!!」
「はぁ?何言ってんのよ、あんた?休ませてって言ってんでしょ?ちゃんと聞いてた?」
「いやだから!それどころじゃねぇんだっての!!いいからさっさと―――」
通路から押し寄せてくるゴブリン達はしかし、広くはない通路に一気にはこの部屋へとは入ってこれない。
アランはその隙に何とか態勢を立て直そうと試みるが、肝心のアレクシアは床へと置いた遺物へともたれ掛かって休むばかりで、この事態にはまだ気づいてはいないようだった。
そしてそんな彼女の事を、怒り狂うゴブリン達が放っておく訳もなかった。
『殺セ!殺セ!!』
「へ?」
隙だらけのアレクシアに向かって飛び掛かっていく、ゴブリン達の動きは鋭い。
そして自らに迫る危険に、ようやくそれへと気が付いたアレクシアの動きは、それに反比例するように鈍かった。
「馬っ鹿野郎!!だからやべぇって言ってんだろうが!!」
彼女へと迫っていたゴブリンの刃は、それへと至る前に明後日の方向へと飛んでいく。
それを実行した男、アランは明らかに不満そうな表情で彼女の事を見下ろしていた。
「ふ、ふんっ!別に?あんたに助けてもらわなくても自分で何とか出来ましたし!」
「・・・あぁ、そうかい」
アランが上げたその罵声は、もっともなものであった。
しかしこうも何度も同じように彼に助けられてしまうと流石に気まずくなってしまうのか、アレクシアは意味もなく強がって見せている。
そうしてようやく立ち上がった彼女に、近くのゴブリンを切り払ったアランは、その剣を担ぎながら呆れたような視線を向けていた。
「そんじゃまぁ、あいつの相手をお願いしてもいいか?」
「えぇ、当然!任っせなさい!このアレクシア・ハートフィールド様の腕前を見せて上げるんだから!!」
「そりゃ頼もしいこって。そんじゃ俺はこいつらを適当に蹴散らしとくから、後はよろしくな」
アレクシアの強がりに呆れた表情を見せていたアランも、それならばと彼女に活躍の場を譲っている。
一度強気な態度を見せた以上、引き下がることの出来ないアレクシアはそれを安請け合いし、その腰の短剣を抜き放っていた。
「さぁ、私の相手はどこのどなた!?このアレクシア・ハートフィールド様が相手よ!!」
二振りの短剣を構えるアレクシアは、自信満々な表情で辺りを見回している。
その姿は、自分が敗れることなど微塵も考えていないという、彼女の自身が窺えた。
そしてそれは、決して虚勢という訳でもないだろう。
その相手の事を考えなければ。
『・・・いけ』
ドシンと落ちた鉄槌は、地響きを響かせてこの遺跡を揺り動かす。
その衝撃は、僅かにアレクシアの身体を跳ねさせていさえした。
「・・・へ?えっ、私の相手って・・・」
ゴブリンの強者を想定して周りへと視線をやっていた、アレクシアの目線は低い。
しかしそんな彼女も、先ほどの地響きと響いた重低の声を耳にすれば悟ってしまう。
それが、どんな相手なのかと。
『それを置いていけ!!』
見上げた視線には、石のようなもっと別の素材のようなごつごつとした質感が続いている。
そうして辿り着いた先には無機質な、しかしはっきりとした敵意を剝き出しにした守護者の姿があった。
「ひぇぇ!?嘘でしょ、もう追いついて来たの!?ちょっとアラン!こんなの私一人で相手出来る訳ないでしょ!?」
その巨大な敵の姿は、想定していた強者のレベルの内にない。
それに竦んでしまった彼女は、早速とばかりにアランへと救援を求めてしまう。
「へぇぇ、ご立派なアレクシア・ハートフィールド様は戦いもしないうちから諦めてしまうんですかそうですか、それは知らなかったなぁ。こんな事、ブレンダが知ったらどう思うんだろうなぁ?ねぇ、アレクシアお姉様?」
それは敵の脅威を考えれば当然の行為かもしれなかったが、先ほどの彼女の態度を思えば情けない振る舞いにも思える。
そしてアランは、そんなアレクシアの情けなさを強調しては、彼女を盛大に煽っていた。
「はぁぁ!?びびって何かないし!!こんな奴、私一人で十分なんだから!!そこで見てなさいよね!!」
そこまで言われてしまえば、彼女も引き下がれない。
アランに対して手にした短剣の片方を突き付けたアレクシアは、自分だけの力でそれを相手してやると大見得を切る。
『置いていけぇぇぇ!!』
「こん、なろぉぉぉ!!!」
振り下ろされる鉄槌は、今度は床を狙った脅しではない。
それを両手の短剣をクロスさせて受け止めたアレクシアは、その膨大な力を何とか受け流そうと気合の声を上げている。
それはどれだけ技量を尽くしても、その膨大の力を受け流すのに相応の膂力が必要とされるからだろう。
事実、彼女はその鉄槌を何とか受け流すことに成功していた。
「おらぁ!!見てたか、アラン!!どんなもんじゃい!!」
たったの一撃を凌ぎきるのに、彼女は全力を尽くすしかない。
それを見れば、彼我の実力差は明らかであった。
「おー、すげー。じゃ、あっちはあのゴリラに任せて、俺はこっちを片付けるとしますかね」
額から汗を流しながら、血走った眼でこちらへとアピールしてくるアレクシアに、アランは適当な拍手を返すと無関心な瞳を向けている。
そうしてすぐに彼女から興味を失ったアランは、自らの仕事へと取り掛かろうと剣を振るう。
その剣先の向こうには、ゴブリン達の姿があった。
「はぁ、はぁ、はぁ・・・た、多分ね」
重たい遺物を担ぎながら一心不乱に駆け抜けた二人は、十分な空間のある広間へと出ると足を止めて休んでいる。
彼らが荒い呼吸を整えながらその場にじっとしていても、先ほどまで聞こえていたドスドスという足音は聞こえてこない。
それはとりあえずのところ、追っ手を振り切ったという事を意味していた。
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「えっ!?どこどこ!?」
「いやだからそこにって・・・いいから、もうちょっとこっち来いって!」
ひとまずの安心に、今はとにかく身体を休めたい二人は担いだままの遺物をその場に下ろそうとする。
しかしだからといって、それを下ろすのはどこでもいいという訳でもない。
ましてや、罠の上などは論外だ。
それを指摘されたアレクシアは思わず、自らの顔を遺物の下へと潜りこませそれを探ろうとする。
しかし今はそんな事をしている余裕はなく、アランは最早まともにそれに取りあおうとせず頭ごなしに彼女に指示を出していた。
「はいはい、分かったわよ!ここでいいんでしょ!!」
「ちょっと待て、タイミングはこっちで・・・」
「あぁ、もう限界!」
「うおぉ!!?」
限界の状態でさらにトラブルが重なれれば、お互いに余裕もなくなっていくものだ。
そんな中でそのやり取りの息が僅かばかり合わなかったとしても、今までいがみ合っていた二人からすれば、それはご愛敬だろう。
そのために、アランの指先が危うく潰されそうになったとしても。
「ちょ、おまっ・・・ふざけんなよ!?」
「え、なに?今はそれどころじゃないんだけど?とにかく休ませてくんない?疲れてんだから」
「いやお前、それは・・・っ!?」
それに悪気がないと分かっていても、危険を考えれば見過ごすことも出来ない。
アランが無事であった指先を抱えて怒鳴りつけても、疲れ果てた様子のアレクシアはまともに取り合おうとしない。
それは余計にアランの怒りを募らせたが、どうやら今はそんな事をやっている状況ではないようだ。
『いたゾ!奴らダ!!』
響いた声の意味は、先ほどと同じように意味は分からない。
しかしその声質は先ほどとは違い軽く、ざらざらと耳障りな響きを帯びていた。
その正体が何なのかは、通路の奥からぞろぞろと現れた褐色の肌の小柄な人影を見れば分かる。
それは仲間を殺され、激しくいきり立っているゴブリン達であった。
「おい、アレクシア!休んでる場合じゃねぇぞ!さっさとそのでっけぇけつを持ち上げやがれ!!」
「はぁ?何言ってんのよ、あんた?休ませてって言ってんでしょ?ちゃんと聞いてた?」
「いやだから!それどころじゃねぇんだっての!!いいからさっさと―――」
通路から押し寄せてくるゴブリン達はしかし、広くはない通路に一気にはこの部屋へとは入ってこれない。
アランはその隙に何とか態勢を立て直そうと試みるが、肝心のアレクシアは床へと置いた遺物へともたれ掛かって休むばかりで、この事態にはまだ気づいてはいないようだった。
そしてそんな彼女の事を、怒り狂うゴブリン達が放っておく訳もなかった。
『殺セ!殺セ!!』
「へ?」
隙だらけのアレクシアに向かって飛び掛かっていく、ゴブリン達の動きは鋭い。
そして自らに迫る危険に、ようやくそれへと気が付いたアレクシアの動きは、それに反比例するように鈍かった。
「馬っ鹿野郎!!だからやべぇって言ってんだろうが!!」
彼女へと迫っていたゴブリンの刃は、それへと至る前に明後日の方向へと飛んでいく。
それを実行した男、アランは明らかに不満そうな表情で彼女の事を見下ろしていた。
「ふ、ふんっ!別に?あんたに助けてもらわなくても自分で何とか出来ましたし!」
「・・・あぁ、そうかい」
アランが上げたその罵声は、もっともなものであった。
しかしこうも何度も同じように彼に助けられてしまうと流石に気まずくなってしまうのか、アレクシアは意味もなく強がって見せている。
そうしてようやく立ち上がった彼女に、近くのゴブリンを切り払ったアランは、その剣を担ぎながら呆れたような視線を向けていた。
「そんじゃまぁ、あいつの相手をお願いしてもいいか?」
「えぇ、当然!任っせなさい!このアレクシア・ハートフィールド様の腕前を見せて上げるんだから!!」
「そりゃ頼もしいこって。そんじゃ俺はこいつらを適当に蹴散らしとくから、後はよろしくな」
アレクシアの強がりに呆れた表情を見せていたアランも、それならばと彼女に活躍の場を譲っている。
一度強気な態度を見せた以上、引き下がることの出来ないアレクシアはそれを安請け合いし、その腰の短剣を抜き放っていた。
「さぁ、私の相手はどこのどなた!?このアレクシア・ハートフィールド様が相手よ!!」
二振りの短剣を構えるアレクシアは、自信満々な表情で辺りを見回している。
その姿は、自分が敗れることなど微塵も考えていないという、彼女の自身が窺えた。
そしてそれは、決して虚勢という訳でもないだろう。
その相手の事を考えなければ。
『・・・いけ』
ドシンと落ちた鉄槌は、地響きを響かせてこの遺跡を揺り動かす。
その衝撃は、僅かにアレクシアの身体を跳ねさせていさえした。
「・・・へ?えっ、私の相手って・・・」
ゴブリンの強者を想定して周りへと視線をやっていた、アレクシアの目線は低い。
しかしそんな彼女も、先ほどの地響きと響いた重低の声を耳にすれば悟ってしまう。
それが、どんな相手なのかと。
『それを置いていけ!!』
見上げた視線には、石のようなもっと別の素材のようなごつごつとした質感が続いている。
そうして辿り着いた先には無機質な、しかしはっきりとした敵意を剝き出しにした守護者の姿があった。
「ひぇぇ!?嘘でしょ、もう追いついて来たの!?ちょっとアラン!こんなの私一人で相手出来る訳ないでしょ!?」
その巨大な敵の姿は、想定していた強者のレベルの内にない。
それに竦んでしまった彼女は、早速とばかりにアランへと救援を求めてしまう。
「へぇぇ、ご立派なアレクシア・ハートフィールド様は戦いもしないうちから諦めてしまうんですかそうですか、それは知らなかったなぁ。こんな事、ブレンダが知ったらどう思うんだろうなぁ?ねぇ、アレクシアお姉様?」
それは敵の脅威を考えれば当然の行為かもしれなかったが、先ほどの彼女の態度を思えば情けない振る舞いにも思える。
そしてアランは、そんなアレクシアの情けなさを強調しては、彼女を盛大に煽っていた。
「はぁぁ!?びびって何かないし!!こんな奴、私一人で十分なんだから!!そこで見てなさいよね!!」
そこまで言われてしまえば、彼女も引き下がれない。
アランに対して手にした短剣の片方を突き付けたアレクシアは、自分だけの力でそれを相手してやると大見得を切る。
『置いていけぇぇぇ!!』
「こん、なろぉぉぉ!!!」
振り下ろされる鉄槌は、今度は床を狙った脅しではない。
それを両手の短剣をクロスさせて受け止めたアレクシアは、その膨大な力を何とか受け流そうと気合の声を上げている。
それはどれだけ技量を尽くしても、その膨大の力を受け流すのに相応の膂力が必要とされるからだろう。
事実、彼女はその鉄槌を何とか受け流すことに成功していた。
「おらぁ!!見てたか、アラン!!どんなもんじゃい!!」
たったの一撃を凌ぎきるのに、彼女は全力を尽くすしかない。
それを見れば、彼我の実力差は明らかであった。
「おー、すげー。じゃ、あっちはあのゴリラに任せて、俺はこっちを片付けるとしますかね」
額から汗を流しながら、血走った眼でこちらへとアピールしてくるアレクシアに、アランは適当な拍手を返すと無関心な瞳を向けている。
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