最弱能力「毒無効」実は最強だった!

斑目 ごたく

文字の大きさ
上 下
50 / 61
アランとアレクシア

ピンチとピンチ

しおりを挟む
「はぁ、はぁ、はぁ・・・ま、撒いたか?」
「はぁ、はぁ、はぁ・・・た、多分ね」

 重たい遺物を担ぎながら一心不乱に駆け抜けた二人は、十分な空間のある広間へと出ると足を止めて休んでいる。
 彼らが荒い呼吸を整えながらその場にじっとしていても、先ほどまで聞こえていたドスドスという足音は聞こえてこない。
 それはとりあえずのところ、追っ手を振り切ったという事を意味していた。

「よ、良し!じゃあ取り合えず、これを一旦下ろそう。いいか?そっとだぞ、そーっと」
「り、了解。ちょっと!だから傾いてるっての!!もう少し合わせて・・・そう、それぐらいで・・・いい?下ろすわよ?」
「いや、ちょっと待て!そこに罠があるから、もうちょいこっちで!」
「えっ!?どこどこ!?」
「いやだからそこにって・・・いいから、もうちょっとこっち来いって!」

 ひとまずの安心に、今はとにかく身体を休めたい二人は担いだままの遺物をその場に下ろそうとする。
 しかしだからといって、それを下ろすのはどこでもいいという訳でもない。
 ましてや、罠の上などは論外だ。
 それを指摘されたアレクシアは思わず、自らの顔を遺物の下へと潜りこませそれを探ろうとする。
 しかし今はそんな事をしている余裕はなく、アランは最早まともにそれに取りあおうとせず頭ごなしに彼女に指示を出していた。

「はいはい、分かったわよ!ここでいいんでしょ!!」
「ちょっと待て、タイミングはこっちで・・・」
「あぁ、もう限界!」
「うおぉ!!?」

 限界の状態でさらにトラブルが重なれれば、お互いに余裕もなくなっていくものだ。
 そんな中でそのやり取りの息が僅かばかり合わなかったとしても、今までいがみ合っていた二人からすれば、それはご愛敬だろう。
 そのために、アランの指先が危うく潰されそうになったとしても。

「ちょ、おまっ・・・ふざけんなよ!?」
「え、なに?今はそれどころじゃないんだけど?とにかく休ませてくんない?疲れてんだから」
「いやお前、それは・・・っ!?」

 それに悪気がないと分かっていても、危険を考えれば見過ごすことも出来ない。
 アランが無事であった指先を抱えて怒鳴りつけても、疲れ果てた様子のアレクシアはまともに取り合おうとしない。
 それは余計にアランの怒りを募らせたが、どうやら今はそんな事をやっている状況ではないようだ。

『いたゾ!奴らダ!!』

 響いた声の意味は、先ほどと同じように意味は分からない。
 しかしその声質は先ほどとは違い軽く、ざらざらと耳障りな響きを帯びていた。
 その正体が何なのかは、通路の奥からぞろぞろと現れた褐色の肌の小柄な人影を見れば分かる。
 それは仲間を殺され、激しくいきり立っているゴブリン達であった。

「おい、アレクシア!休んでる場合じゃねぇぞ!さっさとそのでっけぇけつを持ち上げやがれ!!」
「はぁ?何言ってんのよ、あんた?休ませてって言ってんでしょ?ちゃんと聞いてた?」
「いやだから!それどころじゃねぇんだっての!!いいからさっさと―――」

 通路から押し寄せてくるゴブリン達はしかし、広くはない通路に一気にはこの部屋へとは入ってこれない。
 アランはその隙に何とか態勢を立て直そうと試みるが、肝心のアレクシアは床へと置いた遺物へともたれ掛かって休むばかりで、この事態にはまだ気づいてはいないようだった。
 そしてそんな彼女の事を、怒り狂うゴブリン達が放っておく訳もなかった。

『殺セ!殺セ!!』
「へ?」

 隙だらけのアレクシアに向かって飛び掛かっていく、ゴブリン達の動きは鋭い。
 そして自らに迫る危険に、ようやくそれへと気が付いたアレクシアの動きは、それに反比例するように鈍かった。

「馬っ鹿野郎!!だからやべぇって言ってんだろうが!!」

 彼女へと迫っていたゴブリンの刃は、それへと至る前に明後日の方向へと飛んでいく。
 それを実行した男、アランは明らかに不満そうな表情で彼女の事を見下ろしていた。

「ふ、ふんっ!別に?あんたに助けてもらわなくても自分で何とか出来ましたし!」
「・・・あぁ、そうかい」

 アランが上げたその罵声は、もっともなものであった。
 しかしこうも何度も同じように彼に助けられてしまうと流石に気まずくなってしまうのか、アレクシアは意味もなく強がって見せている。
 そうしてようやく立ち上がった彼女に、近くのゴブリンを切り払ったアランは、その剣を担ぎながら呆れたような視線を向けていた。

「そんじゃまぁ、あいつの相手をお願いしてもいいか?」
「えぇ、当然!任っせなさい!このアレクシア・ハートフィールド様の腕前を見せて上げるんだから!!」
「そりゃ頼もしいこって。そんじゃ俺はこいつらを適当に蹴散らしとくから、後はよろしくな」

 アレクシアの強がりに呆れた表情を見せていたアランも、それならばと彼女に活躍の場を譲っている。
 一度強気な態度を見せた以上、引き下がることの出来ないアレクシアはそれを安請け合いし、その腰の短剣を抜き放っていた。

「さぁ、私の相手はどこのどなた!?このアレクシア・ハートフィールド様が相手よ!!」

 二振りの短剣を構えるアレクシアは、自信満々な表情で辺りを見回している。
 その姿は、自分が敗れることなど微塵も考えていないという、彼女の自身が窺えた。
 そしてそれは、決して虚勢という訳でもないだろう。
 その相手の事を考えなければ。

『・・・いけ』

 ドシンと落ちた鉄槌は、地響きを響かせてこの遺跡を揺り動かす。
 その衝撃は、僅かにアレクシアの身体を跳ねさせていさえした。

「・・・へ?えっ、私の相手って・・・」

 ゴブリンの強者を想定して周りへと視線をやっていた、アレクシアの目線は低い。
 しかしそんな彼女も、先ほどの地響きと響いた重低の声を耳にすれば悟ってしまう。
 それが、どんな相手なのかと。

『それを置いていけ!!』

 見上げた視線には、石のようなもっと別の素材のようなごつごつとした質感が続いている。
 そうして辿り着いた先には無機質な、しかしはっきりとした敵意を剝き出しにした守護者の姿があった。

「ひぇぇ!?嘘でしょ、もう追いついて来たの!?ちょっとアラン!こんなの私一人で相手出来る訳ないでしょ!?」

 その巨大な敵の姿は、想定していた強者のレベルの内にない。
 それに竦んでしまった彼女は、早速とばかりにアランへと救援を求めてしまう。

「へぇぇ、ご立派なアレクシア・ハートフィールド様は戦いもしないうちから諦めてしまうんですかそうですか、それは知らなかったなぁ。こんな事、ブレンダが知ったらどう思うんだろうなぁ?ねぇ、アレクシアお姉様?」

 それは敵の脅威を考えれば当然の行為かもしれなかったが、先ほどの彼女の態度を思えば情けない振る舞いにも思える。
 そしてアランは、そんなアレクシアの情けなさを強調しては、彼女を盛大に煽っていた。

「はぁぁ!?びびって何かないし!!こんな奴、私一人で十分なんだから!!そこで見てなさいよね!!」

 そこまで言われてしまえば、彼女も引き下がれない。
 アランに対して手にした短剣の片方を突き付けたアレクシアは、自分だけの力でそれを相手してやると大見得を切る。

『置いていけぇぇぇ!!』
「こん、なろぉぉぉ!!!」

 振り下ろされる鉄槌は、今度は床を狙った脅しではない。
 それを両手の短剣をクロスさせて受け止めたアレクシアは、その膨大な力を何とか受け流そうと気合の声を上げている。
 それはどれだけ技量を尽くしても、その膨大の力を受け流すのに相応の膂力が必要とされるからだろう。
 事実、彼女はその鉄槌を何とか受け流すことに成功していた。

「おらぁ!!見てたか、アラン!!どんなもんじゃい!!」

 たったの一撃を凌ぎきるのに、彼女は全力を尽くすしかない。
 それを見れば、彼我の実力差は明らかであった。

「おー、すげー。じゃ、あっちはあのゴリラに任せて、俺はこっちを片付けるとしますかね」

 額から汗を流しながら、血走った眼でこちらへとアピールしてくるアレクシアに、アランは適当な拍手を返すと無関心な瞳を向けている。
 そうしてすぐに彼女から興味を失ったアランは、自らの仕事へと取り掛かろうと剣を振るう。
 その剣先の向こうには、ゴブリン達の姿があった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】神スキル拡大解釈で底辺パーティから成り上がります!

まにゅまにゅ
ファンタジー
平均レベルの低い底辺パーティ『龍炎光牙《りゅうえんこうが》』はオーク一匹倒すのにも命懸けで注目もされていないどこにでもでもいる冒険者たちのチームだった。 そんなある日ようやく資金も貯まり、神殿でお金を払って恩恵《ギフト》を授かるとその恩恵《ギフト》スキルは『拡大解釈』というもの。 その効果は魔法やスキルの内容を拡大解釈し、別の効果を引き起こせる、という神スキルだった。その拡大解釈により色んなものを回復《ヒール》で治したり強化《ブースト》で獲得経験値を増やしたりととんでもない効果を発揮する! 底辺パーティ『龍炎光牙』の大躍進が始まる! 第16回ファンタジー大賞奨励賞受賞作です。

14歳までレベル1..なので1ルークなんて言われていました。だけど何でかスキルが自由に得られるので製作系スキルで楽して暮らしたいと思います

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕はルーク 普通の人は15歳までに3~5レベルになるはずなのに僕は14歳で1のまま、なので村の同い年のジグとザグにはいじめられてました。 だけど15歳の恩恵の儀で自分のスキルカードを得て人生が一転していきました。 洗濯しか取り柄のなかった僕が何とか楽して暮らしていきます。 ------ この子のおかげで作家デビューできました ありがとうルーク、いつか日の目を見れればいいのですが

迷宮に捨てられた俺、魔導ガチャを駆使して世界最強の大賢者へと至る〜

サイダーボウイ
ファンタジー
アスター王国ハワード伯爵家の次男ルイス・ハワードは、10歳の【魔力固定の儀】において魔法適性ゼロを言い渡され、実家を追放されてしまう。 父親の命令により、生還率が恐ろしく低い迷宮へと廃棄されたルイスは、そこで魔獣に襲われて絶体絶命のピンチに陥る。 そんなルイスの危機を救ってくれたのが、400年の時を生きる魔女エメラルドであった。 彼女が操るのは、ルイスがこれまでに目にしたことのない未発見の魔法。 その煌めく魔法の数々を目撃したルイスは、深い感動を覚える。 「今の自分が悔しいなら、生まれ変わるしかないよ」 そう告げるエメラルドのもとで、ルイスは努力によって人生を劇的に変化させていくことになる。 これは、未発見魔法の列挙に挑んだ少年が、仲間たちとの出会いを通じて成長し、やがて世界の命運を動かす最強の大賢者へと至る物語である。

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります

竹桜
ファンタジー
 武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。  転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。  

異世界ハズレモノ英雄譚〜無能ステータスと言われた俺が、ざまぁ見せつけながらのし上がっていくってよ!〜

mitsuzoエンターテインメンツ
ファンタジー
【週三日(月・水・金)投稿 基本12:00〜14:00】 異世界にクラスメートと共に召喚された瑛二。 『ハズレモノ』という聞いたこともない称号を得るが、その低スペックなステータスを見て、皆からハズレ称号とバカにされ、それどころか邪魔者扱いされ殺されそうに⋯⋯。 しかし、実は『超チートな称号』であることがわかった瑛二は、そこから自分をバカにした者や殺そうとした者に対して、圧倒的な力を隠しつつ、ざまぁを展開していく。 そして、そのざまぁは図らずも人類の命運を握るまでのものへと発展していくことに⋯⋯。

完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-

ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。 自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。 いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して! この世界は無い物ばかり。 現代知識を使い生産チートを目指します。 ※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

巻き込まれ召喚・途中下車~幼女神の加護でチート?

サクラ近衛将監
ファンタジー
商社勤務の社会人一年生リューマが、偶然、勇者候補のヤンキーな連中の近くに居たことから、一緒に巻き込まれて異世界へ強制的に召喚された。万が一そのまま召喚されれば勇者候補ではないために何の力も与えられず悲惨な結末を迎える恐れが多分にあったのだが、その召喚に気づいた被召喚側世界(地球)の神様と召喚側世界(異世界)の神様である幼女神のお陰で助けられて、一旦狭間の世界に留め置かれ、改めて幼女神の加護等を貰ってから、異世界ではあるものの召喚場所とは異なる場所に無事に転移を果たすことができた。リューマは、幼女神の加護と付与された能力のおかげでチートな成長が促され、紆余曲折はありながらも異世界生活を満喫するために生きて行くことになる。 *この作品は「カクヨム」様にも投稿しています。 **週1(土曜日午後9時)の投稿を予定しています。**

処理中です...