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アランとアレクシア
雪中行軍訓練 2
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振るった刃は、鞘に納まったままで鈍い音を響かせる。
本来ならば圧倒的に優位な筈の大勢が、たった一人の少年に圧倒されているのはそこに迷いがあるからか。
一方的にいたぶっても問題ない貴族ですらない娘から、大貴族の子弟であるアランへと対象が移ったのだ、それも無理はない。
しかしこうまで一方的な状態になっているのは、何もそれだけが理由ではないだろう。
「おい、アラン。もうそれぐらいにしておけ」
「・・・クリフォード。そうだね、そうしようか」
アランの存在に怯えていた男達も、何度か殴りつけられればそんな事を気にしてもいられなくなる。
彼らはやがて、必死な形相で彼へと抵抗しようとしていた。
しかしそれでも彼らの力関係は変わることなく、一方的に殴られ続けるばかりであった。
そのままでは、彼らは一人残らず殴り殺されてしまう。
そうした危惧が漂い始める瞬間に、彼の後ろから制止の声が掛かっていた。
「それで、まだ抵抗する?しないよね?オッケー、オッケー。それじゃあ・・・これと、これ。あとこれも貰おうかな?」
アランと同じ年頃であろうか、クリフォードと呼ばれた少年に制止された彼は、あっさりと振るった剣を下ろすと、その身に纏った殺気を霧散させてしまう。
そうしてもはや完全に抵抗する気の失せた男達に近づいた彼は、彼らから過剰な防寒着の幾つかを奪い取っていた。
「これを君に。後は分かるね?それじゃ、行こうかクリフォード」
「・・・あぁ」
アランはそれを、呆然としたまま突っ立っていたアレクシアの下へと放り投げている。
そうして彼女へと声を掛けたアランはその返事を待つこともなく、現れた時と同じ唐突さで去っていこうとしていた。
「ま、待って!私も・・・私も連れて行って!!」
去っていく二人に、アレクシアが慌てて縋りついたのは当然の事であった。
アランから与えられた防寒着も、彼らによって奪われたそれを考えれば十分ではないし、何より今の凍え切った身体では、ここから一人で抜け出すのも難しいだろう。
それを考えれば、彼女が生き残る道はアラン達に頼る他ない筈であった。
「それは駄目だよ」
「っ!ど、どうして!?」
しかしそんな彼女の願いは、あっさりと振り払われてしまう。
その願いを否定し、その望みを絶ったアランはしかし、何の悪意も感じさせない瞳を彼女へと向けている。
それは先ほどの男達が自分に向けていた、侮蔑と愉悦の混じった下卑た瞳よりもっと、彼女の背筋を凍らせるものであった。
「だってそれじゃ、君が不良品になっちゃうでしょ?」
そうして口にしたアランの言葉に、彼女は拒絶させられてしまう。
彼を頼ろうとしていた、弱い自分を。
「おい、行くぞアラン。それとそれ、早く拭っておけ。凍ると張り付くぞ」
「あぁ、悪いクリフォード。えっ?うわっ、こんなについてたの!?っと、これでいいかな・・・よし、と。それじゃアレクシア、またね」
アレクシアの声に立ち止まり振り返ったのは、アランだけだ。
彼をおいて幾らか先行していたもう一人の少年、クリフォードはいつまで待ってもやってこないアランに、苛立つように声を掛けている。
その声に反応したアランは、もはや何の未練もないようにあっさりとした様子で去っていく。
その後ろ姿を、アレクシアはただただ見つめていた。
「私、は・・・」
その別れに言葉の最後に、アランは再会を口にしていた。
そのごく当たり前の響きは、何の疑いも抱いてはいない。
この手が、静かに震えている。
それは、この身体を引き裂くような寒さのためではなかった。
「な、なぁ!協力しよう!ここままじゃ、俺たち共倒れだ!分かるだろう!?」
ふらふらと歩き始めたアレクシアは、アランによって放り投げられた防寒着を拾おうとしない。
彼女はそれを通り過ぎると、そのままアランによって叩きのめされた男達の下へと近寄っていた。
「っ!?わ、分かった!謝る、謝るから!勘弁してくれ!!さっきは俺達もどうにかしてたんだ!!」
ふらふらと彼らの下へと近づき続けるアレクシアは、その途中に彼らに奪われていた自らの得物を拾っている。
そうして近づいてくる彼女の姿に、彼らにもその意図は分かってしまっていた。
「知るか、馬鹿」
彼らと協力して、生き残るのが賢い選択だ。
こんな事をするのは、無駄でしかない。
それは分かっていた。
それでも振るった腕は鋭く、響いた音は余りに心地が良かった。
本来ならば圧倒的に優位な筈の大勢が、たった一人の少年に圧倒されているのはそこに迷いがあるからか。
一方的にいたぶっても問題ない貴族ですらない娘から、大貴族の子弟であるアランへと対象が移ったのだ、それも無理はない。
しかしこうまで一方的な状態になっているのは、何もそれだけが理由ではないだろう。
「おい、アラン。もうそれぐらいにしておけ」
「・・・クリフォード。そうだね、そうしようか」
アランの存在に怯えていた男達も、何度か殴りつけられればそんな事を気にしてもいられなくなる。
彼らはやがて、必死な形相で彼へと抵抗しようとしていた。
しかしそれでも彼らの力関係は変わることなく、一方的に殴られ続けるばかりであった。
そのままでは、彼らは一人残らず殴り殺されてしまう。
そうした危惧が漂い始める瞬間に、彼の後ろから制止の声が掛かっていた。
「それで、まだ抵抗する?しないよね?オッケー、オッケー。それじゃあ・・・これと、これ。あとこれも貰おうかな?」
アランと同じ年頃であろうか、クリフォードと呼ばれた少年に制止された彼は、あっさりと振るった剣を下ろすと、その身に纏った殺気を霧散させてしまう。
そうしてもはや完全に抵抗する気の失せた男達に近づいた彼は、彼らから過剰な防寒着の幾つかを奪い取っていた。
「これを君に。後は分かるね?それじゃ、行こうかクリフォード」
「・・・あぁ」
アランはそれを、呆然としたまま突っ立っていたアレクシアの下へと放り投げている。
そうして彼女へと声を掛けたアランはその返事を待つこともなく、現れた時と同じ唐突さで去っていこうとしていた。
「ま、待って!私も・・・私も連れて行って!!」
去っていく二人に、アレクシアが慌てて縋りついたのは当然の事であった。
アランから与えられた防寒着も、彼らによって奪われたそれを考えれば十分ではないし、何より今の凍え切った身体では、ここから一人で抜け出すのも難しいだろう。
それを考えれば、彼女が生き残る道はアラン達に頼る他ない筈であった。
「それは駄目だよ」
「っ!ど、どうして!?」
しかしそんな彼女の願いは、あっさりと振り払われてしまう。
その願いを否定し、その望みを絶ったアランはしかし、何の悪意も感じさせない瞳を彼女へと向けている。
それは先ほどの男達が自分に向けていた、侮蔑と愉悦の混じった下卑た瞳よりもっと、彼女の背筋を凍らせるものであった。
「だってそれじゃ、君が不良品になっちゃうでしょ?」
そうして口にしたアランの言葉に、彼女は拒絶させられてしまう。
彼を頼ろうとしていた、弱い自分を。
「おい、行くぞアラン。それとそれ、早く拭っておけ。凍ると張り付くぞ」
「あぁ、悪いクリフォード。えっ?うわっ、こんなについてたの!?っと、これでいいかな・・・よし、と。それじゃアレクシア、またね」
アレクシアの声に立ち止まり振り返ったのは、アランだけだ。
彼をおいて幾らか先行していたもう一人の少年、クリフォードはいつまで待ってもやってこないアランに、苛立つように声を掛けている。
その声に反応したアランは、もはや何の未練もないようにあっさりとした様子で去っていく。
その後ろ姿を、アレクシアはただただ見つめていた。
「私、は・・・」
その別れに言葉の最後に、アランは再会を口にしていた。
そのごく当たり前の響きは、何の疑いも抱いてはいない。
この手が、静かに震えている。
それは、この身体を引き裂くような寒さのためではなかった。
「な、なぁ!協力しよう!ここままじゃ、俺たち共倒れだ!分かるだろう!?」
ふらふらと歩き始めたアレクシアは、アランによって放り投げられた防寒着を拾おうとしない。
彼女はそれを通り過ぎると、そのままアランによって叩きのめされた男達の下へと近寄っていた。
「っ!?わ、分かった!謝る、謝るから!勘弁してくれ!!さっきは俺達もどうにかしてたんだ!!」
ふらふらと彼らの下へと近づき続けるアレクシアは、その途中に彼らに奪われていた自らの得物を拾っている。
そうして近づいてくる彼女の姿に、彼らにもその意図は分かってしまっていた。
「知るか、馬鹿」
彼らと協力して、生き残るのが賢い選択だ。
こんな事をするのは、無駄でしかない。
それは分かっていた。
それでも振るった腕は鋭く、響いた音は余りに心地が良かった。
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