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アランとアレクシア
落ちた先で
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ひたひたと、目蓋を叩く水気は冷たい。
そのどこか粘り気を帯びた冷たさと、不確かなリズムは彼女の失われた意識を取り戻させるには、十分すぎるほどに不快なものであった。
「う、うぅん・・・ここは・・・?」
寝覚めたばかりの意識は、どうしてもぼんやりしてしまうものだ。
しかし重たい目蓋を何とか持ち上げたアレクシアの意識は、それ以上に鈍くぼんやりとしたものであった。
「痛っつぅ~・・・なにぃ?うわっ!?何よこれ!?」
その普通ではない頭の鈍さの理由を探ってみれば、身体のあちこちから鈍い痛みが響いてくる。
それを探って手を伸ばせば、べったりとした色味が指を汚していた。
それは目覚めの意識でも分かる危険な色、真っ赤な色した鮮血であった。
「えっ、血!?血でしょ、これ!?あ、そうか私・・・あの時落ちて・・・」
手の平にべったりと張り付いた鮮血に戸惑うアレクシアはしかし、それによって自らが犯した失態を思い出していた。
そう彼女は罠に落ちたのだ、怪我もするだろう。
「あれ・・・?でもどこも怪我してない?痛い所だらけだけど、そんな大きな怪我は・・・って、嘘でしょ!?」
しかし怪我をした箇所を探すように痛む身体を探った彼女の手は、その在処を見つけることが出来ない。
それを不思議に思い首を傾げた彼女は、すぐにその理由の正体を見つけていた。
「ちょっと!何であんたが・・・あぁ、もう!!」
アレクシアの目の前には、彼女の身体に覆い被さるように倒れている男の姿があった。
その額の辺りから血が流れているのを見ればその男、アランが自らを庇って傷を受けたことはすぐに理解出来てしまう。
「アラン、アラン!!ねぇ、起きてよアラン!!起きてってば!!」
かなりの高さから落ちてきたのか、遺跡の中ではほんのりと明るく見渡しの利いた景色は今やなく、手元を見るのも苦労するような薄暗さが覆っている。
そんな中にあってはアランの様態がどうなのかなど、一目で分かる訳がない。
しかし縋りつくように激しく揺らしているその身体に、反応なくぐったりとしている様子は相当なダメージを窺わさせた。
「そんな嘘でしょ、私のせいで・・・ねぇ、起きてよアラン!!起きてってば!!」
どうしてこんな場所にいるのかを思い出せば、その最後の場面の記憶も蘇ってくる。
それを思い出せば、目の前でぐったりしているアランの姿に罪悪感も湧いてくるだろう。
何故ならば、彼は自分を庇ってそうなったのだから。
「あ、あんたはこんな所でやられる奴じゃないでしょ!?だってあんたはいつもトップで、堂々としてて・・・こんな事になっても、いつも通りで・・・私とは全然違う・・・」
激しく揺り動かし、まるで怒鳴るようにして呼びかけていた声も、返るべき反応がなければいつしか勢いを失っていく。
そうして地面に座り込んでしまったアレクシアは、アランと自らを比べる言葉を呟いては、その罪の重さを数得ている。
その声は震え、段々と小さくなっていってしまっていた。
「何であんたが、こうなるのよ・・・だって悪いの私じゃない!失敗したのは私!何も出来ないのも私!あ、あんたは必要だったのに・・・・そうよ、私が・・・私が死ねば良かったのに・・・」
ここに至るまでの経緯を考えれば、目の前の現実は彼女には非情すぎる。
失敗も軽挙も自らの責任なのに、その結果は全て目の前の男に注がれてしまった。
その事実が彼女を苦しめ、元々弱ってしまっていた心を粉々に砕いてしまう。
それは彼女の目元から涙という形で溢れ始め、その口からは嗚咽が漏れ始めていた。
「・・・おい、うるせぇぞ・・・ちったぁ静かに出来ねぇのか・・・?おちおち、眠れもしねぇ・・・」
漏れた嗚咽に、零れた涙はその唇を潤している。
その僅かな塩味は、彼を意識の底から引き起こすには十分な刺激となったのか。
アランは霞んだ瞳を薄く開くと、歪めた口元でアレクシアへの文句を呟いていた。
「っ!?ア、アラン!?気が付いたの!?」
「だから、うるさいっての・・・こんなのは、ぐぇ!?」
そのボリュームは微かなものであったが、聞き逃す筈もない。
アランの身体に覆い被さるようにして嗚咽を漏らしていたアレクシアは、慌てて身体を起こすと彼へと呼び掛けている。
その声にアランはうるさいと手を振ろうとしていたが、どうやらそれはまだうまく動かせないようであった。
「あぁ・・・あぁ~、アラン~・・・!うぅ、良かった良かったよぅ!!」
そしてそんな彼の文句は、それすらも最後まで言い切ることは出来ない。
感じていた責任は、その対象の無事な姿に溢れるほどの喜びに変わって、それを抑えることの出来ないアレクシアは、その熱情のままに彼へと抱き着いてしまっていた。
「お、おいっ!?何だよ急に!痛いって、いやマジで!く、苦しい・・・」
「もうっ、私がどれだけ心配したか分かってんの!?大体、何で助けたのよ!あんなの放っておけばいいじゃない・・・って、アラン?ねぇ、ちょっと嘘でしょ?アラン、アランー!?」
流れた血液の量に、その頭に巡っている酸素の量は少ない。
それを感情のままに締め付けられれば、思わず意識を失ってもしまうというものだ。
アレクシアによってその首元を締め付けられ、酸素の供給をストップされてしまったアランは、あっけないほどにあっさりと再び意識を失ってしまっていた。
そのどこか粘り気を帯びた冷たさと、不確かなリズムは彼女の失われた意識を取り戻させるには、十分すぎるほどに不快なものであった。
「う、うぅん・・・ここは・・・?」
寝覚めたばかりの意識は、どうしてもぼんやりしてしまうものだ。
しかし重たい目蓋を何とか持ち上げたアレクシアの意識は、それ以上に鈍くぼんやりとしたものであった。
「痛っつぅ~・・・なにぃ?うわっ!?何よこれ!?」
その普通ではない頭の鈍さの理由を探ってみれば、身体のあちこちから鈍い痛みが響いてくる。
それを探って手を伸ばせば、べったりとした色味が指を汚していた。
それは目覚めの意識でも分かる危険な色、真っ赤な色した鮮血であった。
「えっ、血!?血でしょ、これ!?あ、そうか私・・・あの時落ちて・・・」
手の平にべったりと張り付いた鮮血に戸惑うアレクシアはしかし、それによって自らが犯した失態を思い出していた。
そう彼女は罠に落ちたのだ、怪我もするだろう。
「あれ・・・?でもどこも怪我してない?痛い所だらけだけど、そんな大きな怪我は・・・って、嘘でしょ!?」
しかし怪我をした箇所を探すように痛む身体を探った彼女の手は、その在処を見つけることが出来ない。
それを不思議に思い首を傾げた彼女は、すぐにその理由の正体を見つけていた。
「ちょっと!何であんたが・・・あぁ、もう!!」
アレクシアの目の前には、彼女の身体に覆い被さるように倒れている男の姿があった。
その額の辺りから血が流れているのを見ればその男、アランが自らを庇って傷を受けたことはすぐに理解出来てしまう。
「アラン、アラン!!ねぇ、起きてよアラン!!起きてってば!!」
かなりの高さから落ちてきたのか、遺跡の中ではほんのりと明るく見渡しの利いた景色は今やなく、手元を見るのも苦労するような薄暗さが覆っている。
そんな中にあってはアランの様態がどうなのかなど、一目で分かる訳がない。
しかし縋りつくように激しく揺らしているその身体に、反応なくぐったりとしている様子は相当なダメージを窺わさせた。
「そんな嘘でしょ、私のせいで・・・ねぇ、起きてよアラン!!起きてってば!!」
どうしてこんな場所にいるのかを思い出せば、その最後の場面の記憶も蘇ってくる。
それを思い出せば、目の前でぐったりしているアランの姿に罪悪感も湧いてくるだろう。
何故ならば、彼は自分を庇ってそうなったのだから。
「あ、あんたはこんな所でやられる奴じゃないでしょ!?だってあんたはいつもトップで、堂々としてて・・・こんな事になっても、いつも通りで・・・私とは全然違う・・・」
激しく揺り動かし、まるで怒鳴るようにして呼びかけていた声も、返るべき反応がなければいつしか勢いを失っていく。
そうして地面に座り込んでしまったアレクシアは、アランと自らを比べる言葉を呟いては、その罪の重さを数得ている。
その声は震え、段々と小さくなっていってしまっていた。
「何であんたが、こうなるのよ・・・だって悪いの私じゃない!失敗したのは私!何も出来ないのも私!あ、あんたは必要だったのに・・・・そうよ、私が・・・私が死ねば良かったのに・・・」
ここに至るまでの経緯を考えれば、目の前の現実は彼女には非情すぎる。
失敗も軽挙も自らの責任なのに、その結果は全て目の前の男に注がれてしまった。
その事実が彼女を苦しめ、元々弱ってしまっていた心を粉々に砕いてしまう。
それは彼女の目元から涙という形で溢れ始め、その口からは嗚咽が漏れ始めていた。
「・・・おい、うるせぇぞ・・・ちったぁ静かに出来ねぇのか・・・?おちおち、眠れもしねぇ・・・」
漏れた嗚咽に、零れた涙はその唇を潤している。
その僅かな塩味は、彼を意識の底から引き起こすには十分な刺激となったのか。
アランは霞んだ瞳を薄く開くと、歪めた口元でアレクシアへの文句を呟いていた。
「っ!?ア、アラン!?気が付いたの!?」
「だから、うるさいっての・・・こんなのは、ぐぇ!?」
そのボリュームは微かなものであったが、聞き逃す筈もない。
アランの身体に覆い被さるようにして嗚咽を漏らしていたアレクシアは、慌てて身体を起こすと彼へと呼び掛けている。
その声にアランはうるさいと手を振ろうとしていたが、どうやらそれはまだうまく動かせないようであった。
「あぁ・・・あぁ~、アラン~・・・!うぅ、良かった良かったよぅ!!」
そしてそんな彼の文句は、それすらも最後まで言い切ることは出来ない。
感じていた責任は、その対象の無事な姿に溢れるほどの喜びに変わって、それを抑えることの出来ないアレクシアは、その熱情のままに彼へと抱き着いてしまっていた。
「お、おいっ!?何だよ急に!痛いって、いやマジで!く、苦しい・・・」
「もうっ、私がどれだけ心配したか分かってんの!?大体、何で助けたのよ!あんなの放っておけばいいじゃない・・・って、アラン?ねぇ、ちょっと嘘でしょ?アラン、アランー!?」
流れた血液の量に、その頭に巡っている酸素の量は少ない。
それを感情のままに締め付けられれば、思わず意識を失ってもしまうというものだ。
アレクシアによってその首元を締め付けられ、酸素の供給をストップされてしまったアランは、あっけないほどにあっさりと再び意識を失ってしまっていた。
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