最弱能力「毒無効」実は最強だった!

斑目 ごたく

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蜜月

もはやあの時には戻れない

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「ふぁ~ぁ・・・あー、ちょっと寝すぎちまったなぁ。頭いてー・・・」

 ボリボリと掻く頭からは、パラパラとフケが舞い落ちている。
 それはここ最近の生活では、なかった光景だ。
 不潔でだらしない生活をしていると何かと周りからガミガミと言われる環境に、彼は自然とある程度規則正しい生活をするようになっていたからだ。
 それもこうして自らの住処へと戻り、一度不潔な寝床に横になればこうも変わってしまう。
 そうして今も盛大に欠伸を漏らしている男、アラン・ブレイクは緩み切った表情で屁をこいていた。

「腹減ったな。何か食うもんはっと・・・って、あるわきゃねぇか」

 長すぎる昼寝を終えた後には、空いたお腹が鳴き声を上げもする。
 空腹感のみなもと辺りを手で押さえたアランは、食料をしまってある棚へと向かうと其処を探ってみるが、留守にした時間にそんなものが残っている筈もなかった。

「んー・・・面倒くせぇが、何か取ってくるかー」

 予想された事態には、床をフケで汚すだけ。
 心底面倒くさそうに頭を色んな方向へと傾けたアランはしかし、どんなに考えようともその結論しかないと諦めると重い腰を上げる。
 そうして住処から抜け出したアランに、ここに帰って来たからというもの碌に掃除もしてない建物は、その足跡に埃の形を残していた。

「うーん、俺んちの周辺に何か生えてたっけなぁ?」

 一人暮らしの男の食生活に、手軽なのは保存食だ。
 それは勿論、健康に気を使わなければという事を大前提にしていたが、アランは自分の年齢を言い訳にそれを無視することに決め込んでいた。
 そのためほとんど外に出ることもなく、何かを採取するという事もせずに引きこもり生活を送っていた彼に、この周辺の植生に対する知識などある筈もなかった。

「おっ!あれって確か食える奴じゃなかったっけか?」

 しかし今の彼には、村での物資回収の仕事に従事した経験がある。
 それは彼に、食べられる植物を見分ける知識を与えていた。
 それを生かし、見渡した周囲に即座にそれを見つけたアランは、早速とばかりにそれを摘み取っている。

「ブレンダー、これってどうやって食ったらいいんだっけー?」

 食べられる植物も、それをどう調理していいかまでは彼は知らない。
 そのためそれを摘み取り振り返った彼は、それを知っている人物へと声を掛ける。

「って、ここにいる訳ないか・・・何やってんだろ、俺」

 しかし彼女が、ここになどいる訳がない。
 返答のない沈黙にそれを思い出したアランは、情けない表情で俯いていた。
 そんな彼の身体に、何やらずんぐりとしたシルエットの影が掛かる。
 それは最近目にした、何かの形にそっくりであった。

「それなら湯引きして、何か適当な調味料と和えときなさい。それで満足でしょ、あんたなら」

 答える者のいない筈の問いを、応える誰かが傍にいた。
 そしてその声は、どこか聞き覚えのあるものであった。

「うおっ!?だ、誰だ・・・って、ブレンダか?お、お前どうしてここに!?俺を連れ戻しに来たのか!?」

 振り返ったその先に待っていたのは、耐毒スーツを身に纏ったブレンダの姿であった。
 その彼女の姿に、あの村を訪れたばかりの頃の事を思い出したアランは、どこか怯えた様子で彼女にここへとやってきた用事を訪ねていた。

「そんなんじゃないわよ!!私は、ただ・・・」

 突然現れたブレンダを警戒している様子のアランに、彼女はそんなつもりじゃないと断言している。
 そうして自らがやってきた理由を告げようとしていた彼女はしかし、その途中でふらつくとそのまま力を失うように倒れてしまっていた。

「お、おい!?どうした、ブレンダ!?大丈夫か!」

 ふらりと力を失い、そのまま地面へと真っ直ぐに倒れていったブレンダの身体をアランが何とか受け止められたのは幸運によるものだろう。
 抱き留めたブレンダの表情を、そのスーツのガラス状の部分から覗けばそれは明らかに青ざめ、尋常な状態ではないのが明らかであった。

「ん?待てよ・・・さっきスーツを着込んでたアレクシアを見たよな。あれは機能している奴で間違いんないんだから・・・おい、ブレンダ!こいつは、何の意味もない奴だろ!?何でこんなもんを着て、ここまで来てんだお前は!死ぬ気か、この馬鹿!!」

 そんなブレンダの状態に、先ほど見かけたアレクシアの姿が結び付けば、それがどれだけの無謀の果ての結果かと悟ってしまう。
 もはや耐毒機能が機能しておらず、ただの見た目だけの装備を身に纏ってここまでやってきたブレンダに、アランは本気の怒りを見せては怒鳴りつけていた。

「お姉様の姿を・・・見たの、アラン?だったら丁度いい・・・わ。お願い、アラン・・・どうかお姉様を・・・」
「おい!ブレンダ、しっかりしろ!!」

 しかしブレンダはそんな彼の言葉から、たった一つの事実をくみ取って嬉しそうに笑う。
 そして彼に姉であるアレクシアの救助を頼むと、彼女は力尽きるように意識を失ってしまっていた。

「ちっ!アレクシアを助けろだぁ!?そんなの嫌だぞ、俺ぁ!!」

 アランに姉の救助を頼む台詞すら言い切る前にブレンダは力尽きてしまったが、その意図は確かに伝わっている。
 しかしアランは、そんな彼女の頼みに顔を顰めると、はっきりと拒絶を告げてしまっていた。

「でも、まぁ・・・こいつをここに置いとく訳にはいかねぇからな」

 意識を失い完全に脱力したブレンダは、地面へと横になっている。
 苛立ちと共に拒絶を叫んだアランは、そんな彼女へと振り返ると頭をボリボリと掻く。
 彼にとっては何て事もないこの外気も、彼女にとっては刻一刻と蝕み続ける毒となるのだ。
 そんな所に彼女を置いてはおけないと、アランは頬を掻いていた。

「よっこらせっと・・・何だ、意外と軽いな」

 ブレンダの身体の下へと潜りこみ、それを背中へと背負ったアランは、その意外な軽さに驚いている。
 それはそのスーツが見た目以上に軽かったことについてか、それとももっと別の何かについてか。

「ちっ・・・こんな軽い身体で無茶やってんじゃねぇよ。ガキはガキらしく、大人に甘えてろってんだ!!」

 その背中に感じる軽さは、彼女の命の重さであった。
 その重たさに思わず舌打ちを漏らしたアランは、誰に言うでもない文句を叫ぶと猛スピードで駆け出していた。
 その方角は、彼がかつて歩いた方向と同じものであった。
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