最弱能力「毒無効」実は最強だった!

斑目 ごたく

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蜜月

天国と地獄 2

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「あの、アレクシアさんが配給を?」
「うわぁ、何かショックだな・・・」

 物資が限られる中で、配給という形で各々に行き渡るそれを管理する。
 それは至って普通の出来事であったが、それまでまさにヒーローであった筈のアレクシアがそれを行っている様は、かつての栄光とのギャップで尚更惨めに映っていた。
 そんな彼女の姿に、村人達は思わずそれを口にしてしまう。
 アレクシアはそれに、ただただ奥歯を噛みしめて耐えるばかりであった。

「ほら、これなんかどうだ?ストレイドッグの肉だ、精がつくぞ」

 村人達の声を背中に聞きながら鞄の中を探っていたアランは、その中から見つけた何かをアレクシアの前へと投げて寄越している。
 それは彼が自分用にと取ってきておいた、毒に汚染された魔物の肉であった。

「っ!?こ、これを私に食べろって言うの!?」
「あぁ?大サービスじゃねぇか・・・って、そうか。てめぇら、普通の!人間には食えねぇんだったなこいつは!やれやれ、面倒くせぇなぁ・・・」

 肉などもはや滅多にお目にかかれないこの時世において、それは喉から手が出るほど欲しいものである。
 しかしこんな世界にあっても平気で生きていけるほどに毒に適応した生物とはつまり、身体の隅々にまで毒によって汚染された生き物であった。
 そんなもの、口に出来る訳がない。
 それを叫び、アランに対して何か別の意図でもあるのかと睨み付けたアレクシアに、彼はそれを失念していたとポリポリと頭を掻いていた。

「そいつが駄目となるとだ、何がいいかな~・・・こいつはもう貰う奴が決まってるし、こっちも駄目となると・・・うん、ないな!」
「っ!?そんな訳ないじゃない!?だって、まだそこにあんなに・・・!」

 差し出した肉を拒絶されたアランは、それに代わる何かを求めて物資を漁り始めている。
 しかし彼はそれを一通り引っくり返すと、彼女にやれるものは何もないと宣言してしまっていた。

「うぅん?そりゃ、あるよ?でもさ、あれはここにいる皆のためのものな訳?それを、さ。働いてもいねぇ穀潰しに、やれる訳ねぇだろぉ!」

 アランが運び、今は荷解きをした物資は彼の近くに並べられている。
 それを指し示しては、自分に渡せるものもある筈だと主張するアレクシアに、アランは働かないものにはやれないと突っぱねていた。

「働いていない?そんな、私が今までどれだけ頑張ってこの村に尽くしてきたか・・・」
「今までは、な。今は働いてないだろぉ?そんな奴に貴重な食いもんはやれねぇな?な、そうだろ皆!?」
「そうだそうだ!!」

 アランが口にしたことは道理でも、それが自分にまで適応されるとはアレクシアは考えてはいなかった。
 信じられないと目を見開き自らのこれまで業績を口にする彼女に、アランはしょせんそれは過去の出来事だと突き放す。
 そしてそんなアランの言葉に、周りの村人達も賛同していた。

「だ、そうだぞ?あ、その肉ならやるから食べても構わないぞ?ま、お前には無理かもしれんがな!あぁ、何なら俺が口移しで食べさせてやろうか?そうすりゃ、毒も中和されてお前にも食えるようになってるかもな!!」

 アランの勝手な言い分だけならば、幾らでも言い返せると口を開きかけていたアレクシアは、周りの予想外の反応に口をパクパクと動かすばかり。
 そこから一向に言葉が出てこないアレクシアの姿を見てはニヤリと笑みを作ったアランは、さらに彼女を煽る言葉を吐いてはやたらとキレのあるポーズを披露していた。

「っ!そ、そんなのお断りよ!!くっ・・・スーツさえ直れば。憶えてなさい!!」
「はっ!そんなもん直ってもなぁ、もうてめぇの出番なんかねぇんだよ!!バーカバーカ!!」

 突き付けられた指を弾いて避けたアレクシアは、そのままカウンターのようにアランへと指を突き付けるとそのまま去っていく。
 そんな彼女の捨て台詞に、アランもまた応戦しては、低レベルな罵倒を並び立てていた。

「・・・アラン殿、流石に今のは少しばかり意地が悪いのではなかろうか?」
「あぁ?別に間違ったことは言っちゃいないだろ?あいつが今、働いてねーのは事実なんだから」

 慌ただしくアレクシアが立ち去った後に、アランへとのっそりとした大男が近づいてくる。
 その大男、ダンカンは渋い表情でアランへと苦言を告げる。
 しかしそんな彼の言葉にも、アランは態度は改めようとはしなかった。

「それはそうですが・・・それも一時の事。あのスーツさえ直れば・・・」
「ふんっ!その大事なスーツを、しょうもない勝負で台無しにしたのがあいつじゃねぇか。そんな奴ぁ罰を受けて当然だろ?」

 アランとアレクシアの勝負は結局、うやむやのまま終わってしまった。
 それはそもそも、その勝負自体がアレクシアにだけ意味があるものであり、アランにとっては何の意味もないものであったからであった。
 だからこそ、そんな勝負で大事な耐毒スーツを破損させてしまった彼女の責任は重大であるとアランは口にする。

「し、しかしですな、アラン殿。アレクシア殿は、これまでこの村を支えて―――」
「今、支えてんのが誰かって話だろ?ダンカンも考えた方がいいじゃないか?そのでっけぇ身体を維持すんには、人の二倍からの飯が必要だよなぁ?」

 アランが口にしたことは、実にもっともな話であった。
 アレクシアが着用している耐毒スーツは、この村にとって命綱ともいえる品である。
 それを私情によって危険にさらしたアレクシアの振る舞いは、決して許されるものではない。
 それをアランに突かれ、思わず口籠ってしまったダンカンはそれでもアレクシアを擁護しようとしていたが、それも彼の冷たい言葉に遮られてしまう。

「そ、それは脅しでござるか!?アラン殿!?」

 アランの脅しのような言葉に、ダンカンは息を呑むと途端に動揺したように声を震わせ始めてしまう。
 この村の防衛の指揮を執っているダンカンは、その立場に相応しい配給を受けている。
 彼の体格を考えれば、それは必要不可欠な補給であろう。
 それを絞ってもいいだぞと口にしたアランに、焦ってしまうのも仕方ないことであった。

「んー・・・?はははっ、うそうそ!!冗談だって、ダンカン!俺がそんなことする訳ねぇじゃねぇか!!安心しろって」
「そ、そうでござったか!こ、これはわしが早とちりをしてしまったでござるな!はははっ・・・」

 焦るダンカンの姿を一頻り観察したアランは、急にその表情を綻ばせると彼に背中をバンバンと叩き始めている。
 それは先ほどの発言が、冗談であったという合図だろう。
 それに安堵して笑みを漏らすダンカンはしかし、その口元を乾かしていた。

「・・・でも、ま。発言には気をつけた方はいいな。そうだろ、ダンカン?じゃ、後の事は任せるな。俺はちょっくら一休みしてくらぁ」

 乾いた笑みに誤魔化した緊張にも、アランはすかさず釘を刺しては去っていく。
 その口調と冷たい視線は、先ほどの発言が冗談なのは今だけだとダンカンに告げていた。

「はぁ・・・何故こんなことになってしまったのだろうか。わしはお二方が協力して事に当たることを夢見ておっただけなのに・・・」

 アランが立ち去り、ダンカンは深々と溜め息を漏らす。
 その背中には、深い哀愁が漂っていた。
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