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衝突

アランの力

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「何か、何か見つけないと・・・あぁもう!どうしてこんな時だけ、何にも見つかんないのよ!!」

 焦った心で目的のものを探しても、その視線は左右を彷徨うばかりで肝心なものを見落としてしまう。
 アランの追い上げに焦るアレクシアは、かなりの速度で森の中を駆け回っているが、一向に必要な物資を見つける事が出来ていなかった。
 それは彼女が焦る余りに速度を重視し、周囲を隅々まで探ることが出来ていないことと無関係ではないだろう。
 しかしそうして目的の物資が見つからない状況が続けば、彼女の焦りはさらに加速し探索はおざなりになっていくという、見事なまでの悪循環が発生してしまっていた。

「っ!あった、あったわ!!何よ、こんな所にあったのね!!見逃してたわ!」

 焦る彼女がようやく見つけた場所は、先ほどまで何度も訪れ通り過ぎていた場所であった。
 それを目にして歓声を上げる彼女は、早速とばかりにそこに突撃していく。

「あ、あれはヒトトセバナ!!やったわ、あんな貴重なものがこんな所に生えてるなんて・・・あれさえ取れれば、私が勝ったも同然ね!!」

 今までの不調も相まって喜び勇んでそこへと向かうアレクシアの目に、さらに喜ばしい事実が飛び込んでくる。
 それはそこにただ食料だけではなく、もっと特別な植物が生えていたからであった。
 その真っ赤な花弁を咲き誇らせ、僅かに発光しているように見える花の名はヒトトセバナ。
 不死の薬の原料になるとも謳われた、万能なる薬の原料だ。

「ふふーん、結局こうなるのよねー!やっぱり頑張ってる人が報われるっていうか・・・うっ!?」

 そんな細かいルールなどは取り決めていないが、これほどまでに貴重な物資を見つけては勝利は確定だと、アレクシアはウキウキとした足取りでそれへと一直線に向かう。
 しかしその歩みはある時急に、その速度を緩めてしまっていた。

「嘘でしょ!?こんな所で・・・げほっ、げほっ!!この毒気は・・・!」

 アレクシアが足を止めたのは、そこが毒気が特に濃い場所であったからだ。
 吸い込む空気に刺激臭を感じて立ち止まった彼女は、慌てて口を覆うように腕を動かしている。
 アレクシアが身に纏っているスーツに、それは意味のない行動であっただろうが、彼女がそこに危険を感じているのは分かる。
 事実、耐毒スーツでも浄化しきれなかった毒気が彼女の身体を犯し、激しく咳き込ませてしまっていた。

「あ、あれを取るぐらいなら・・・げほっ、げほっげほっ!!!」

 明らかに足を踏み入れてはならない場所にも、それを諦めきれないアレクシアは、重たい足を何とか動かして先に進もうとしている。
 しかし僅かに近寄っただけでも激しく咳き込んでしまうほどに毒気が立ち込めるその場所に、無理に足を踏み入れて彼女の身体が耐えられる訳もなかった。
 さらに激しく咳き込んでしまう彼女は、自然な動きでその場所から離れてしまっている。
 それは身体が、そこは嫌だと拒絶反応を起こしてしまったからだろう。

「はぁはぁはぁ・・・そんな、あれを目の前にして諦めるしかないの?」

 吹き出る汗に、垂れた涎がスーツのガラスに伝う。
 それを拭う術もないアレクシアは、それらを垂れ流しにしたまま悔しそうにその真っ赤な花を睨み付けていた。

「っ!?そんな、嘘でしょ!!?」

 そして、彼女の絶望はそれだけに留まらない。
 何かに気付き、絶望に目を見開く彼女が耳にしたのは、先ほど聞いたばかりの足音。
 そちらに視線を向ければ、彼女の勝負の相手であるアラン・ブレイクが呑気な様子でここへと向かってくるのが見えていた。

「んー?何か目立つのが咲いてんな。待てよ?あれって確か、あいつが何か言ってた奴のような・・・」

 調子に乗り、口が軽くなってしまったアレクシアは、きっちりとその情報についてもアランに教えてしまっている。
 その花の姿を目にして何かピンときた様子のアランは、鈍い唸り声を上げながらその情報について思い出そうとしていた。

「止めて、お願い・・・思い出さないで・・・!」

 目の前の飛び切りのお宝を、自らの不注意によって与えた情報の所為で掻っ攫われてしまう。
 その現実を目にしたくないアレクシアは、祈るような手つきでアランがそれを思い出さないことを願っている。

「あぁ、そうだ!ヒトトセバナだ確か!!何か薬の原料になるとか言ってったな!だったら取ってか帰らねぇとな、ブレンダも喜ぶだろうし」

 しかし無情にも、アランはそれをあっさりと思い出してしまう。
 手の平を叩くような仕草でそれを思い出したアランは、早速とばかりにそれの採取へと向かう。
 紫の靄が漂うな毒気の濃いその場所にも、アランは何の影響もないかのように足を踏み入れていた。

「うわぁ、何かきもいもやが漂ってんなぁ?もしかしてこれが毒気が強い場所って奴?まぁ、俺には関係ないんですけどね!」

 例え影響ないとしても、視覚化されるほどに濃くなっている毒気にはアランも流石に気持ち悪そうにしている。
 しかしそんな明らかに身体に悪い空気を胸一杯に吸い込んでも、アランには何の影響も齎さない。
 その姿に彼の特別な力をまざまざと見せつけられたアレクシアは、がっくりと膝を折っていた。

「そんなこのままじゃ、私・・・っ!?もしかして、毒気が強い場所の方が貴重な物資が残ってる可能性がある!?だって、それ以外の場所は私がずっと・・・そんな、それじゃ私はあいつにまた・・・!」

 村の近くの物資は、アレクシアが毎日のように漁っては集めている。
 そう考えれば彼女が立ち入れないような場所にこそ、貴重な物資が残っているのは当然の帰結であった。

「そんなの許さない!!私は、私はあいつには負ける訳にはいかないんだから!!」

 その状況に気が付いてしまったアレクシアは、絶望に声を上げる。
 しかし決して負ける訳にはいかないと踏みとどまった彼女は、すぐに立ち直るとその場から駆け出していく。

「質では勝てなくても、量なら私が・・・負けないわよ、アラン・ブレイク!!」

 集めた物資の質で勝てないのならば、足でカバーして量で勝る。
 彼女の能力を考えれば、それは正しい発想だろう。
 しかし彼女が取りつくしてしまったこの森の物資に、望むような量は残されているだろうか。
 そんな当然の疑問を、見ないようにして彼女は駆けだしていく。
 アラン・ブレイクに勝利するという、ただただそれだけを目指して。

「えぇっと・・・どこが薬になるんだっけ?まぁ、面倒くさいから全部取ってきゃいいか!とりあえず根っこを傷つけないようにっと・・・いやこれ、逆に面倒くさくないか?ちっ、しゃーねーなー!!」

 彼女が立ち去った後には、その目の前にある花をどうやって持ち帰ったらいいか悩むアランだけが取り残されていた。
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