最弱能力「毒無効」実は最強だった!

斑目 ごたく

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衝突

油断と慢心

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「ふふ~ん、あのアラン・ブレイクに私がものを教える時が来るなんてね!ちょっと前だったら、考えられない事態だわ!何だかいい気分ね!!」

 アランへの一方的な講義も終わり、一人森を歩いているアレクシアの足取りは軽い。
 それは学院時代では絶対に有り得なかった出来事を体験した、上機嫌が為せる業だろう。

「・・・少しサービスしすぎたかな?あいつが黙って聞いてるのが面白くて、ついつい知ってること全部教えちゃったけど・・・」

 鼻歌を軽く口ずさみながら、スキップするような足取りで森の中を進んでいたアレクシアは、不意に立ち止まると表情を陰らせていた。
 それは彼女がついつい調子に乗って、アランに情報を与えすぎてしまったことを思い出したからだ。

「大丈夫よね?うんうん、平気平気!!だって、もうこんなに集めてるんだもん!今更、逆転されるなんて・・・そんなの、ないない!」

 不意に襲ってきた不安も、背中に背負った荷物からずっしりとした重みを感じれば払拭される。
 背後へと手をやり、その感触を確かめたアレクシアは、そこから感じる重みに勝利は間違いないと不安を振り払うように首を横へと降っていた。

「でも、そうね・・・もう少しだけ、回収しておこうかな?あっ、向こうに丁度いいのが!ふふふっ、ついてるじゃない私!」

 確信した勝利にも、湧きだした不安は完全に消え去ることはない。
 それを払拭するために、彼女はさらに物資を回収しようと足を急がせる。
 そこに丁度、食料となる植物の姿が彼女の視界の中に飛び込んできていた。

「早速、回収して・・・って、またぁ!?」

 余裕の足取りから、更なる物資の回収へと気持ちを切り替えた瞬間に、目的のアイテムを見つけてしまう。
 その幸運に思わず歓声を上げたアレクシアはしかし、そちらへと赴く途中にまたしても障害の姿を目にしてしまっていた。

「ストレイドッグ・・・今度は二匹だけだけど、どうせ近くに群れがいるんでしょう?こちらから手を出すのは、危険すぎるわね・・・」

 彼女の視線の先では、二匹の犬の魔物ストレイドッグが何やら草むらを探っていた。
 その程度の数ならば今のアレクシアでも何とか相手に出来そうであったが、以前の経験から今度も近くに群れがいるものと考えた彼女は、危険を冒すのを躊躇ってしまう。

「はぁ~・・・仕方ない、諦めよ。どうしていつもこうなのかなぁ・・・やっぱりああいう魔物も、同じものを狙ってるの?ストレイドッグはたぶん雑食?だし、そうでもおかしくないか・・・」

 十分過ぎる物資と、村に一着しかない耐毒スーツを身に纏っておいて危険は冒せない。
 アレクシアは武器へと伸ばしていた手を離すと、その物資を諦めては溜め息を漏らす。

「まぁいいや、他を探そ・・・」

 今更危険を冒さずとも、他にも物資はあるとアレクシアは別の場所へと足を向ける。
 そんな彼女の耳に、どこか聞き覚えのある足音が聞こえてきていた。

「おっ、あれってヨモギモドキか?向こうの木には蔓が巻き付いてるし、あれオジギリグサだろ!何だ、探せば結構あるもんだな!」

 アレクシアと同じ場所で物資を見つけ喜びの声を上げているのは、彼女がその知識を授けたアラン・ブレイクその人だろう。

「適当にぶらついてるだけだと全然楽しくなかったけど、こうして何か見つけると何だか楽しくなってくるな!よーし、じゃあいっちょやりますかぁ!」

 角度の問題なのかその場所に向かってくるアランには、そこにいる魔物達の姿が見えないようだ。
 彼はただただウキウキとした表情で腕を捲くっては、軽い足取りでそこへと向かっている。
 その気配に気が付いたストレイドッグ達は、警戒の唸り声を上げ始めていた。

「あいつ!もしかして魔物に気付いてないの!?もうっ、仕方ないわね!アラン―――」

 気楽そうな足取りで魔物達が待つ場所へと向かうアランは、どう考えても無防備だ。
 アレクシアはそんなアランの姿に苛立つように声を荒げると、眉を顰めては心底しょうがなさそうに彼へと声を掛けようとしていた。

「ガルル・・・ガゥ!!」
「っ、あの馬鹿!!危ないわよ!!」

 しかしアランの無防備な足取りは彼女の予想よりも早く、彼はあっさりと魔物の待つ領域へと踏み込んでしまっていた。
 侵入者の存在に、警戒していた魔物達は迷わず飛び掛かっている。
 それを目にしたアレクシアは、思わず舌打ちを漏らすと慌てて助けに向かおうとしていた。

「ん?何だよ、魔物いんじゃん。ったく、しゃーねーなー」

 しかし当の本人であるアランはそんな魔物の姿を捉えても、どこか呑気な態度を貫いている。
 彼は自分へと飛び掛かってくる魔物の姿に、面倒くさそうに頭を掻くと自らの得物へと手を添える。

「よっと」

 そして何てこともないような軽い調子でそれを振り払ったアランは、そのまま飛び掛かってきた魔物の身体を一刀両断していた。

「そら、もう一匹!」

 先頭を切って侵入者へと飛び掛かっていった仲間が一撃の下に葬られれば、如何に魔物といえども竦んでしまう。
 そうして竦み硬直している魔物に対して、アランは流れるような動きで刃を振るっていた。

「さて、これで終わりか?じゃあ、早速採取をって・・・おいおい、お仲間かぁ?ったく、来るなら一遍に来いよな。面倒くせぇから」

 その魔物も一振りの下に仕留めたアランは、返り血も浴びずに彼らを撃退することに成功している。
 息を乱した様子もない彼はそのまま採取へと移ろうとしていたが、その周りには仲間を殺されいきり立った様子のストレイドッグがぞろぞろと姿を現していた。

「・・・忘れてた。あいつはアラン・ブレイク、学院の首席卒業生・・・」

 そこから先は、一方的な虐殺となっていた。
 元々、ストレイドッグ自体はそれほど強い魔物ではない。
 彼らこの世界に、そしてそこに蔓延する毒に適応した数少ない魔物の一種として猛威を振るっていたに過ぎない。
 そんな魔物が、この世界でも以前と一切変わらず、何の制限もなしに力を振るえる強者に遭遇すればどうなるか、それは明らかであった。

「あれ?これって不味くない?だって私は荷物とこの服でまともに動けないのに、あいつは何の制限もなく戦えちゃう・・・だったら魔物がいるような危ない場所でも、余裕で物資を回収出来ちゃうよね?」

 大勢の魔物と剣を交えたためか、流石に返り血を浴びてその身体を染めているアランはしかし、どこか楽しそうだ。
 そんな彼の余裕の姿を目にしながら、アレクシアはある危惧について思いを巡らせている。
 それはアランに、魔物がいるような危ない場所の物資を独占されてしまうのではないというものであった。

「まさかここから逆転なんて・・・うぅん!そんな事ある訳ないわよね!!」

 アレクシアが立ち入れない危険な場所に、アランは問題なく立ち入れてしまう。
 そしてそんな場所にこそ、必要な物資が集まっているのなら逆転の可能性すらあるかもしれない。
 そう危惧するアレクシアはしかし、その不安を必死に否定していた。

「と、とにかく!私も早く採取に向かわないと!」

 首を振るって振り切ろうとしても拭い切れない不安に、アレクシアは採取へと足を急がせる。

「あー、つっかれたぁ・・・こんだけ殺っても、こいつら食えねぇんだよなぁ。何か損した気分になんな・・・俺なら問題ないし、旨そうな部分だけ取ってくか?」

 そんな彼女の背後では、自らが切り伏せた魔物の死体に囲われ、うんざりとした表情のアランがのんびりと一人ぶつぶつと呟き続けていた。
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