上 下
16 / 61
衝突

勝負の始まり

しおりを挟む
 決戦の朝は早く、まだ空も僅かに夜の気配を残している。
 そんな空の下、勝負の相手を待っているアレクシアはばっちりと耐毒スーツを着込み、新しい鞄もその背中に背負っていた。

「ふぁ~ぁ・・・おぉ、もういたのかよ。おはようさん」

 そんな準備万端といった様子で待ち構えるアレクシアの前に、明らかに寝起きといった様子のアランが、欠伸を漏らしながらトボトボと歩いてくる。
 その後頭部と腹の辺りをボリボリと掻きながら歩いてくる様子からは、とてもではないが決戦に挑む気合などは微塵も感じられなかった。

「遅い!!逃げたのかと思ったわよ!!」
「いや、逃げやしねぇけどさ・・・マジで早いんだな。明朝とは聞いてたけどさぁ・・・流石に早すぎねぇ?普段ならまだ寝てるぞ、俺」

 準備万端なアレクシアの様子から、彼女はかなり前からそこで待っていたのだろう。
 そこに明らかにやる気がない様子のアランが遅れてやってきたことで、彼女は苛立つように声を上げている。
 そんな彼女に、アランは素直に感心した様子の声を漏らしていた。

「当然よ!私は村の皆の命を背負ってるのよ!?世界が変わっても、夜に活動する魔物の方が危険なのは変わってない!それを避けるために、朝早くから活動するのは当然でしょう!?」
「いや、凄ぇなお前・・・感心するわ」

 そんなアランの言葉に、アラクシアは殊更自分の凄さを強調するが、それに彼が同調してきたことで調子が狂ってしまう。

「ふ、ふん!そうよ、私は凄いんだから!!今日の勝負で、それを改めて見せつけてやるから覚悟しておきなさい!!」
「おー・・・頑張れ頑張れ」

 アランの意外な反応に鼻を鳴らしたアレクシアは、彼を挑発するように強気な言葉を吐いている。
 それでもアランは気のない返事を返すだけで、一向にやる気を見せることはなかった。

「な、何か調子狂うわね・・・まぁいいわ、とにかく勝負を始めるわよ!!ダンカンさん、お願い!!」

 対戦相手の手応えのない反応に、調子の狂うアレクシアは何とも言えない表情で首を捻っている。
 それでもそのアランの様子は、自分に有利に働くだろう。
 そう判断したアレクシアは勝負の開始を急ぎ、近くで待機していたダンカンへと声を掛ける。

「うむ、任せるでござる。開門ー!開門ー!!」

 彼女の声を受けたダンカンは力強く頷くと、その大きな手の平を掲げ開門の合図を送る。
 彼の合図に、重々しい音を立てて門がゆっくりと開き始めていた。

「いい?制限時間は日没まで、それまでに集めた物資の質と量で勝負よ!ちゃんとそれが必要なものかどうかは皆に判定してもらうから、適当なものを集めてきても駄目なんだから!」

 見上げるような高さとそれ相応の重さを持った門に、その開閉速度は速くはない。
 それを待つ間に、アレクシアは最後にもう一度ルールの確認を口にしていた。

「分かってるって、うっさいなぁ・・・」 

 それに対して面倒くさそうに腕を振るっているアランの姿からは、やはりやる気は窺うことは出来ない。

「・・・これは勝ったわね」

 そんなアランの様子に、アレクシアは勝利を確信して一人呟く。
 彼女は彼から見えないように、小さくガッツポーズを決めてすらいた。

「さぁ、勝負スタートよ!!」

 門が開ききったのと同時にアレクシアは勝負の開始を宣言すると、勢いよく駆け出していく。

「ふぁ~ぁ・・・張り切るねぇ」

 そんな彼女を尻目に、アランは一向にその場から動こうとはしなかった。

「アランー!もう勝負は始まってるんだよー!!急げ急げー!!」
「そうですよ、アランさん!急がないと!!」

 欠伸で滲んだ涙を拭おうともせずに、そこでのんびりと佇んでいるアランに、ブレンダや彼の取り巻き達が声を掛けてくる。

「へいへい・・・じゃ、ぼちぼち行きますか」

 それに適当に手を振って応えたアランは、今回のために用意された鞄を背負うと、トボトボと歩き出している。
 その速度はそれでも、とても勝負に赴くとは思えないゆっくりとしたものだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

迷い人 ~異世界で成り上がる。大器晩成型とは知らずに無難な商人になっちゃった。~

飛燕 つばさ
ファンタジー
孤独な中年、坂本零。ある日、彼は目を覚ますと、まったく知らない異世界に立っていた。彼は現地の兵士たちに捕まり、不審人物とされて牢獄に投獄されてしまう。 彼は異世界から迷い込んだ『迷い人』と呼ばれる存在だと告げられる。その『迷い人』には、世界を救う勇者としての可能性も、世界を滅ぼす魔王としての可能性も秘められているそうだ。しかし、零は自分がそんな使命を担う存在だと受け入れることができなかった。 独房から零を救ったのは、昔この世界を救った勇者の末裔である老婆だった。老婆は零の力を探るが、彼は戦闘や魔法に関する特別な力を持っていなかった。零はそのことに絶望するが、自身の日本での知識を駆使し、『商人』として新たな一歩を踏み出す決意をする…。 この物語は、異世界に迷い込んだ日本のサラリーマンが主人公です。彼は潜在的に秘められた能力に気づかずに、無難な商人を選びます。次々に目覚める力でこの世界に起こる問題を解決していく姿を描いていきます。 ※当作品は、過去に私が創作した作品『異世界で商人になっちゃった。』を一から徹底的に文章校正し、新たな作品として再構築したものです。文章表現だけでなく、ストーリー展開の修正や、新ストーリーの追加、新キャラクターの登場など、変更点が多くございます。

地獄の手違いで殺されてしまったが、閻魔大王が愛猫と一緒にネット環境付きで異世界転生させてくれました。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作、面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 高橋翔は地獄の官吏のミスで寿命でもないのに殺されてしまった。だが流石に地獄の十王達だった。配下の失敗にいち早く気付き、本来なら地獄の泰広王(不動明王)だけが初七日に審理する場に、十王全員が勢揃いして善後策を協議する事になった。だが、流石の十王達でも、配下の失敗に気がつくのに六日掛かっていた、高橋翔の身体は既に焼かれて灰となっていた。高橋翔は閻魔大王たちを相手に交渉した。現世で残されていた寿命を異世界で全うさせてくれる事。どのような異世界であろうと、異世界間ネットスーパーを利用して元の生活水準を保証してくれる事。死ぬまでに得ていた貯金と家屋敷、死亡保険金を保証して異世界で使えるようにする事。更には異世界に行く前に地獄で鍛錬させてもらう事まで要求し、権利を勝ち取った。そのお陰で異世界では楽々に生きる事ができた。

異世界複利! 【1000万PV突破感謝致します】 ~日利1%で始める追放生活~

蒼き流星ボトムズ
ファンタジー
クラス転移で異世界に飛ばされた遠市厘(といち りん)が入手したスキルは【複利(日利1%)】だった。 中世レベルの文明度しかない異世界ナーロッパ人からはこのスキルの価値が理解されず、また県内屈指の低偏差値校からの転移であることも幸いして級友にもスキルの正体がバレずに済んでしまう。 役立たずとして追放された厘は、この最強スキルを駆使して異世界無双を開始する。

神の宝物庫〜すごいスキルで楽しい人生を〜

月風レイ
ファンタジー
 グロービル伯爵家に転生したカインは、転生後憧れの魔法を使おうとするも、魔法を発動することができなかった。そして、自分が魔法が使えないのであれば、剣を磨こうとしたところ、驚くべきことを告げられる。  それは、この世界では誰でも6歳にならないと、魔法が使えないということだ。この世界には神から与えられる、恩恵いわばギフトというものがかって、それをもらうことで初めて魔法やスキルを行使できるようになる。  と、カインは自分が無能なのだと思ってたところから、6歳で行う洗礼の儀でその運命が変わった。  洗礼の儀にて、この世界の邪神を除く、12神たちと出会い、12神全員の祝福をもらい、さらには恩恵として神をも凌ぐ、とてつもない能力を入手した。  カインはそのとてつもない能力をもって、周りの人々に支えられながらも、異世界ファンタジーという夢溢れる、憧れの世界を自由気ままに創意工夫しながら、楽しく過ごしていく。

異世界で穴掘ってます!

KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

処理中です...