最弱能力「毒無効」実は最強だった!

斑目 ごたく

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衝突

アレクシアは勝負を申し込む

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「勝負よ、アラン・ブレイク!!」

 土埃を巻き上げるような勢いで駆け込んできたアレクシアは、アランへと指を突き付けると開口一番そう宣言する。

「ねぇ、アラン?それはどう、食べられそう?毒はなさそう?」

 そんな彼女の存在を無視しては、ブレンダはアランの顔を覗き込んでいる。
 その口の周りには何やら粘っこい液体が纏わりついており、彼が毒見させられた数々の物体の存在を示していた。

「いや、毒とか食べられそうとか以前に不味すぎて無理だろこれ?人の食うもんじゃねーって・・・って、おい!?勝手に突っ込もうとしてんじゃねーよ、人の口を何だと思ってんだ!!せめて自分のペースでやらせてくれ、頼むから!!」
「えー?でもまだこんなにあるし・・・早くしないと、夕飯の準備に間に合わないよ?」

 自らの顔の下から覗き込むブレンダの存在に、今口の中にあるものを吐き出す訳にはいかないと考えたのか、必死にそれを飲み下したアランは彼女の質問に文句を返している。
 しかしそんなアランの反応にも、ブレンダは気にした様子も見せずに次から次へと彼の口に新たな物体を放り込もうとしていた。

「・・・お、怖気づいたの?私と勝負しなさい、アラン・ブレ―――」

 勢い込んでやって来たものの、完全にアランに無視されてしまったアレクシアはしかし、それでも折れはしないと再び意気を取り戻している。
 彼女はそのアランの態度を自らに対して怖気づいてるものと解釈し、何とか面目を保とうとしているようだった。

「だーかーらー!無理やり突っ込むなっての!!大体、今分かったって今夜の飯には間に合わねぇだろ!?自分ペースでやらせてくれ、自分のペースで!!」
「はーい」

 しかしそんな彼女の試みも、完全にその存在を認識していない二人の振る舞いに台無しにされてしまう。
 アレクシアのセリフを遮るようにアランが声を上げたのは、彼女の言葉に応えるためではない。
 相も変わらずブレンダに押し付けられる物体を嫌ったその声は、アレクシアの存在を露ほども気にしていないものであった。

「あの、その・・・アラン?私とその・・・勝負を・・・」

 意気込んでやってきたアレクシアも、ここまで完全に無視されてしまえば、その勢いも失ってしまう。
 高らかに宣言していた声もいつしか沈み、自信満々にアランへと指していた指も、今や折れ曲がってしまっていた。

「あれ、お姉様?いついらっしゃったんですか?」
「うっ、ブレンダ・・・そ、それは・・・」

 そんな意気消沈してしまった姿をブレンダに発見され、アレクシアは恥ずかしさと情けなさから声を詰まらせてしまう。

「おやおやおや、これはこれはアレクシア様じゃありませんか?どうかなされましたか、先ほどは何やら取り乱した様子でしたが?何か忘れものでも・・・おっと、そうでしたねぇ!貴方がぶちまけた荷物が残ってましたねぇ!安心してください、それならちゃんと片付けておきましたよ。俺の、取り巻き達がねぇ!!」

 目の前で話していたブレンダがそれに気づけば、当然それはアランにも伝わっている。
 そうしてアレクシアへと向けた彼は、その情けない姿を見ては唇を吊り上がらせ、わざとらしいほどに丁寧な口調で彼女を煽り始めていた。

「っ!そ、それは助かったわ!どうもありがとう、手間を省いてくれて!!」
「おいおい!?それだけかぁ!?こちとら、てめぇのせいで余計な仕事が増えちまったんだぞ!!大体てめぇの不注意で壊した鞄は、どう責任取ってくれんだよ!?あぁ!!」

 しかし彼らに無視をされ、蔑ろにされている現状を思い出し意気消沈していたアレクシアからすれば、その煽りは怒りという行動原理を思い起こさせてくれる原動力にもなる。
 アランの言葉に顔を上げ、煽り返しているアレクシアの表情は先ほどよりも元気を取り戻しているようだった。

「はっ、そんなの私の仕事からしたら必要経費でしょう!?責任なんて考えるまでもないわ!!それよりもあんたよ、あんた!!この村に何の貢献もしてないくせに、いつまで居座るつもりなのよ!」
「あぁ!?ちゃんと貢献してるだろーが!!今もこうやって毒見を・・・」
「でも、まだ一つも見つかってないよ。食べても問題ないもの」
「うっ!?そ、そうだったか・・・?」

 アランの攻撃を鼻で笑って受け流したアレクシアは、今だに碌に役に立っていない彼の現状をあげつらっている。
 それにアランは今まさにやってる仕事で貢献していると返そうとしていたが、それはブレンダの冷静な突っ込みによって阻止されてしまっていた。

「ほら見なさい!碌に働いてもいないくせに、ご飯だけはたらふく食べて・・・大人として、恥ずかしくないの!?」
「あぁ!?何だとてめぇ!!黙って聞いてりゃいい気になりやがって・・・働きゃいいんだろ、働きゃ!!俺がその気になりゃ、てめぇ何か相手になんねぇんだよ!!」

 ブレンダの無邪気な指摘には、アランも思わず口籠ることしか出来ない。
 そんなアランの様子に勢いに乗ったアレクシアは、そのまま彼の事を糾弾する。
 それには思わず、売り言葉に買い言葉とアランも乗ってしまっていた。

「はんっ!言ったわね!!だったら私と勝負しなさいよ、相手になってやるわ!!」
「あぁん!?望むところだ・・・って、勝負?いや、何でそんな事しなきゃならんのだ?馬鹿馬鹿しい」
「ちょ、ちょっとアラン!?怖気づいたの!?勝負から逃げるなんて―――」

 挑発に乗ってきたアランに、アレクシアは待ってましたと彼に勝負を持ちかける。
 それに彼もまた勢いのままに乗ってしまいそうになっていたが、すぐに正気に返るとそんなことをする必要はないと思い直す。
 そんなアランの様子に、アレクシアは何とか彼を勝負に引き込もうと慌てて言葉を続けようとするが、その必要はどうやらなかったようだ。

「おぉ、ついにアランさんも出陣ですか!?」
「ようやくアランさんの力が見れるんですね!!」
「アレクシアさんとの勝負・・・いいじゃないですか!!楽しみです!!」

 アレクシアが彼を勝負に引き込むまでもなく、二人のやり取りを見ていたアランの取り巻き達が勝手に盛り上がり始めていた。
 その盛り上がりは、アランが勝負から引き下がれない空気を作り出している。

「お、おいお前ら!?俺は別に・・・」
「いいじゃん、アラン!私もお姉様と勝負してるとこ、見てみたいなー」

 完全にアレクシアとの勝負から逃れようとしていたアランも、周りの空気からは逃れることが出来ずに戸惑っている。
 そんなアランに、ブレンダまでもが何かを期待するような瞳を彼へと向けていた。

「ブレンダ、お前まで・・・ったく、しゃーねーなー!!」

 取り巻き達の期待ならば裏切れても、そんな見上げるようなキラキラとした瞳は裏切れない。
 アランは深々と溜め息をつき頭を激しく掻くと、何かを決意したかのように顔を上げ、それを決断する。

「その勝負、受けてやるよ!」

 決断する時には心底面倒くさそうに、そして宣言する時には堂々と。
 アレクシアと向き直ったアランは、それをはっきりと口にしていた。

「本当!?わーい、やったー!!」

 アランが口にした勝負の受諾に、ブレンダは無邪気に喜んで見せている。
 その掲げた両手がアランの顔や頬や何かを叩いていたが、彼も流石にそれを怒ることはしないようだった。

「ふんっ!ようやく受ける気になったのね!引き下がるなら、今の内よ!!」
「あぁ!?んな訳ねぇだろうが!!てめぇこそ、逃げるんじゃねーぞ!!」

 勝負を受けると宣言したアランに、アレクシアは僅かにその唇を吊り上がらせている。
 それを隠すように鼻を鳴らした彼女は、再び彼を煽るような言葉を投げかけていた。

「逃げる訳ないでしょ!!いいわ、だったら勝負は明朝!私がいつも物資の回収に出かける時間からね!!勝負の内容は物資の回収よ!この村に対する貢献を競うんだから、当然よね!!」

 煽りあいの応酬は、お互いに引き下がれない空気を作り出している。
 アレクシアはそのどさくさに紛れて、自分に有利なルールの勝負を提案していた。

「おぉ!やったろうじゃねぇか!!」

 しかしどうやら、周りに乗せられ興奮してしまっているアランはそれに気づかなかったようで、まんまとその勝負を受けてしまっていた。

「それじゃあ明朝、門の前でね!覚悟しておきなさい!!」
「てめぇこそ、尻尾を巻いて逃げ帰る準備をしておけよ!!」

 勝負の決定に、盛り上がる取り巻き達。
 彼らの前で勝負の約束と取り付けたアレクシアは、最後に煽りの言葉を叩きつけてそのまま去っていく。

「ふふふ・・・馬鹿ね、物資の回収なら私の一人舞台じゃない。この勝負、貰ったも同然だわ!!」

 背中にアランの罵声を聞きながら、足早に立ち去っていくアレクシアの口元は緩んでいた。
 それはそうだろう、彼女のギフト「小人の玉手箱」は物資の回収において絶大な効果を発揮する能力だ。
 それを持つ彼女からすれば、この勝負のルールは初めから勝利が決まっているようなものであった。

「アレクシア殿、これが必要なのではござらんか?アレクシア殿、アレクシア殿ー!?」

 ニヤニヤと口元を緩ませながら駆け足で去っていくアレクシアの向こう側から、彼女が脱ぎ捨てた耐毒スーツを抱えたダンカンが歩いてくる。
 彼はそれが必要なのではないかとアレクシアに声を掛けるが、今の彼女の耳にはそれは届かない。
 自らの声を無視しては彼方へと突き進んでいくアラクシアに、ダンカンはいつまでも声を掛け続けていた。
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