最弱能力「毒無効」実は最強だった!

斑目 ごたく

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衝突

変わってしまった世界 1

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 自らのシルエットをすっぽりと覆うような大きな鞄は、それを背負うものにずっしりとした重さを届けてくる。
 それでもそれは、その見た目からすればかなりましな重量感である筈だった。
 彼女の能力「小人の玉手箱」は無限の積載量と、大幅な重量軽減を背負った鞄に付与するものだ。
 そのため彼女が背負った鞄に詰めた荷物の量からすれば、その重さは羽のように軽い。
 しかし物資を待つ皆のためにと欲張り、背負える限界まで詰め込んだ鞄は結局、ずっしりとした重量感を彼女へと届けてしまっている。

「はぁ、はぁ、はぁ・・・きっついなぁ」

 限界まで詰め込んだ荷物に、それを運ぶアレクシアの顎には次々と汗が伝う。
 しかし全身を覆う耐毒スーツを身に纏っている今の状況では、それを拭う事すら叶わない。
 それは些細な出来事であったかもしれないが、積み重なる不快感に苛まれればストレスも溜まるだろう。
 荒れる呼吸に思わず弱音を口にした彼女はしかし、それでも足を止めようとしない。

「ふぅ、でもあともう少しだし・・・頑張らないと!」

 彼女がその背中に背負っている物資は、村の皆の命を繋ぐものだ。
 それを考えれば、ここで休んでなどいられないと彼女は再び気合を入れ直すと、前へと力強く進み始める。

「これだけ持ち帰ったら、皆喜ぶだろうなぁ・・・ふふふっ、楽しみだな」

 彼女の能力を駆使してもずっしりと重たい荷物は、それだけの物量を証明している。
 それを持ち帰った時の村人たちの反応を想像しては、アレクシアは思わず笑みを漏らしていた。
 それは森の切れ目が見え始め、そこから溢れる光に進む彼女の姿に、もうすぐ現実へと変わるだろう。
 彼女はその光景を燃料に変えて、前へと進む。
 その先に、望んだ景色が待っていると信じて。



「あのキノコ不味いって、本当っすか!?」
「本当、本当!いや、食べられないって程ではないんだけどさ!ちょっと食べたくはないって感じかなー」
「ひゅー!マジっすか、半端ねぇー!!」

 村の門を潜り、その中へと足を踏み入れたアレクシアに待っていたのは、そんな軽薄な口調の声だった。
 アランを取り囲むように集まった村の若者達は、彼を祭り上げるような態度でおだてている。
 そんな彼らに、アランもまた悪い気分はしないようで、上機嫌な様子で頭の後ろを軽く掻いて見せていた。

「そういえば壁の上から立ちションしたら、そこから花が生えてきたって聞いたんすけど・・・それってマジっすか?」
「いやいやいや!流石にそれはないって!!実際は立ちションしたら、枯れてた花が元気になった感じがしたってだけで・・・」
「それでも十分凄いっすよ!!やっぱパネェっすね、アランさん!!」

 馬鹿みたいな口調で馬鹿みたいなことを聞く村の若者達に、アランはさらに馬鹿みたいな事実を答えている。
 そんなふざけた光景を見せつけられたアレクシアは思わず脱力し、その背中に背負った鞄をずり落ちさせてしまっていた。

「ど、どうしてこんな事に・・・前までは私が帰ってきたら、皆大慌てで寄ってきたのに・・・」

 ここは元々、メイヴィスの女神像だけが残された廃村であった。
 その中の廃屋の一つ、その地下室からこの耐毒スーツは見つかった。
 しかし数着ばかりが発見されたそれの中で、今だに機能を保持していたのはたった一着であった。
 アレクシアがその貴重な一着を任され、物資調達の役目を追っているのは彼女の特別な能力によるものだ。
 彼女のギフト「小人の玉手箱」は、背負った鞄に無限の収納能力と重量の大幅な軽減能力を与える。
 それは、たった一人で物資を集めるという役割にぴったりなものだろう。
 そしてさらに名門であるジョンソン=クロックフォード学院で学んだ彼女自身の能力は、魔力を消費して呼吸可能の空気を作り出すスーツの性能を考えても相応しいものであった。
 そうしてこの村の住民の行方を一手に引き受けた彼女は、その重い責任を痛感しながらも、皆に頼られる充実感も感じていた。
 それが今や、これである。
 彼女が命懸けで物資を持ち帰っても、誰一人出迎えに現れない。
 それどころか、まるで彼女がいないものかのように扱われてしまっているのだった。

「み、皆ー・・・その、色々と物資回収してきたよー・・・ほら、これとか皆が欲しがってた・・・うわぁ!?」

 それもこれも、アラン・ブレイクというイレギュラーが現れてしまったからであった。
 彼の持つ「毒無効」という能力は、今の毒が蔓延した世界において、余りに分かりやすく救世主的な力を持っていた。
 そんな存在の登場に、彼女の地道な努力はあっけないほどあっさり掻き消されてしまう。
 今ではこの村の中心はアランであり、彼女など食料の配給の際にお礼の言葉を告げられる程度の存在となってしまっていたのだった。

「あぁ、鞄が・・・私のために皆が作ってくれたのに・・・」

 アレクシアの能力は、背負った鞄の容量を無限にすることだ。
 そのため彼女の背中からずり落ちてしまった鞄には、その能力は適応されない。
 地面へとずり落ちた瞬間に本来の容量に戻り、その中に有り得ないほどの荷物を詰め込まれた鞄は、破裂音のような音を響かせて弾け飛んでしまっていた。

「ねーねー、アランー?今度はこれ食べてみてよ」
「またかよ、ブレンダ・・・言っとくが俺は毒が効かないだけで、毒があるかどうか見分けられる訳じゃねぇんだぞ?」

 アレクシアが背中を丸めて必死に辺りに散らばった物資を集めていると、その背後から彼女の妹であるブレンダの声が聞こえてきていた。
 ブレンダはニタニタとした表情でアランへと近づくと、その腕に自らの身体を絡めては猫撫で声で甘えて見せている。
 そんな彼女にアランは面倒くさそうに頭を抱えていながらも、どこか満更でもなさそうであった。

「でもさー、味とかで感じる部分もあるんでしょう?私達が下手に毒見すると、一発で死んじゃうかもしれないし・・・世界がこうなってから、どれに毒があってどれに毒がないかなんて全然分からなくなっちゃったんだから!少しでも情報が欲しいの!」
「へいへい、分かりましたよ。やりゃいいんだろ、やりゃ!」

 絡めた腕にアランを下から見上げるブレンダは、甘えたような口調で彼が落とせないと悟ると、今度は癇癪を起こしたように声を荒ぶらせている。
 そんなもはや手を付けられない様子の彼女の姿にアランは折れると、投げやりな口調でその要求を受け入れていた。

「えへへ、やったー!じゃあねぇ・・・まずはこれでしょ?それとこれも確かめてくれると嬉しいな!それとそれと、あとはこっちとー・・・」
「おいおい、どれだけ食わせるつもりだよ!?てーか、これなんて毒とか以前に食べて大丈夫なやつなのか!?」

 子供らしい強引な方法でアランに要求を飲ませたブレンダは可愛らしい笑みを見せると、それとは似つかわしくない毒々しい何かを大量に取り出している。
 それは統一性のない果物や草花、果ては木の根っこのようなものであったが、共通しているのはどれも美味しそうではなく、それどころか食べられるのかも怪しいものであるという点であった。
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