最弱能力「毒無効」実は最強だった!

斑目 ごたく

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変わる世界

そして彼らは再び出会う

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「そ、そんな・・・嘘でしょ?」

 防壁の上から覗く景色は、広い。
 しかしそれは遠くまで見渡せるかというとそうではなく、森に囲われた地形から遮られた視界は限られた範囲を映すに過ぎない。
 しかし村の目の前には森を切り開いたスペースが広がっており、ある程度の見晴らしが確保されていた。
 そんなスペースには今、一人の男が所在なさげに突っ立っている。
 そしてそんな何でもない光景に、それを見つめる多くの者達は驚くような表情を見せていた。

「いやぁ、こうして改めてみると衝撃的な光景でござるなぁ・・・あのように何の装備もなく、無防備に外に出ても平気とは」

 何をするでもなく、退屈そうに一人ぽつんと立ち尽くしているアランは、今の世界の状況にそれだけで驚異的だった。
 その光景を目にして言葉を失ってしまっているブレンダの横で、ダンカンがしみじみと頷いては呟いている。
 彼は既にその光景を目にしていた筈であったが、先ほどは戦闘中であったためにそれどころではなかったのだろう。

「なー?俺、どうすりゃいいの?このままここでずっと突っ立っとけばいいわけ?」
「っ!そ、そうね!それだけじゃまだ、私たちが知らない装備があるだけかもしれないわ!!あ、あそこに生えているキノコが見える!?あれを私達に見えるように口に出来たら、信用してあげてもいいわよ!!」

 ざわざわと騒ぐ防壁の上の村人達も、それを一人下から見上げるアランからすれば密やかなボリュームに過ぎない。
 自分だけが除け者にされたようなその疎外感に、アランは暇でしょうがないとアピールをし始めている。
 そのアランの言葉にようやく硬直が解けたブレンダは、彼の能力を確かめるために無茶な要求を口にしていた。

「ブ、ブレンダ殿!?それは流石に不味いのではござらんか!?いくら毒に耐性があるとはいえ、あれは―――」

 ブレンダが指で示した先には、木の根元に生えている白いキノコが存在している。
 それを口にしてみろと要求するブレンダに、ダンカンは慌てて食って掛かっていた。
 それはそのキノコがこの世界をこんな風にした元凶、毒の発生源であるからだろう。
 そんなものを口にすれば、流石のアランも危ないのではないかとダンカンは慌てる。

「しっ!あいつが口にしたギフトは『毒無効』よ、ダンカン。だったらあれを口にしたって平気な筈だわ。あの毒の発生源、『死の天使』を口にしてもね」
「む、むぅ・・・確かにそうなりますが、しかしですな―――」

 しかしブレンダはアランが口にしたギフトが本当であるならば、問題はないと言い切ってしまう。
 それは確かに間違いのない事実であったが、ダンカンはどこか納得のいっていない様子で食い下がろうとしていた。

「えー、あれ食うのかよ!?あんま美味しくないんだよなぁ、あれ。まぁ、食えっつうんなら食うけど・・・」
「しかしもかかしもないのよ!!って、え・・・?今なんて言ったの?」

 ダンカンの懸念を露にもかけずに一蹴したブレンダはしかし、アランが口にした一言によって再び硬直してしまう。
 彼はブレンダが目を見開き驚愕の表情で固まってしまっていることなど欠片ほども気にも留めずに、気軽な様子で指定されたキノコへと歩み寄っていく。
 そうして彼はいつかと同じように、それをひょいと口にしてしまうのだった。

「えっ、嘘でしょ!?本当に食べちゃったの!?ねぇ、大丈夫なのアラン!!」

 あくまでも、それを口にしたのはアランの嘘を暴くことが目的だったのか、本当にキノコを口にしてしまった彼にブレンダは驚き、心配の声を上げている。

「うげぇ!やっぱ、あんまし美味しくないわこれ・・・ちゃんと調理すりゃ食えるようになんのかな?ま、とにかく・・・おーい、これでいいのかー!!」

 そんな彼女の心配をよそに、口にしたキノコがやっぱり不味かったと吐き出しているアランはピンピンとしていた。
 彼は吐き出したそれを適当に足で避けながら、これで証明は済んだだろうと防壁の上のブレンダ達に手を振ってアピールしている。

「・・・は?何で平気なのよ、あいつ・・・ちゃんと口にしてたよね?」
「・・・『毒無効』だからではござらんか?」

 毒の根源を口にし、その能力を見事証明して見せたアランの姿に、防壁の上のブレンダ達は逆にドン引きした様子を見せていた。
 それだけ、その行為は衝撃的だったという事だろう。

「そ、そうね!!あいつの能力は『毒無効』だった!!じゃあ本当に・・・?」
「そうなるでござるな」

 余りの衝撃にドン引きしていた空気も、それが収まれば徐々に実感が湧いてくる。
 それはこの世界で唯一、蔓延する毒を気にすることなく行動出来る存在が目の前に現れたという実感であった。

「す、凄い!凄いよ、ダンカン!!あいつとお姉様がいれば、私達・・・!!」
「希望が見えてきましたな!!」

 メイヴィスの女神像の力によって居住スペースが確保されたといっても、その空間だけで暮らしていける訳がない。
 しかしアランの力があれば自由に外へと赴くことが出来、そこから物資を持ち帰ることが出来る。
 それどころか毒の発生源である「死の天使」すら口にしてしまえる彼の能力を思えば、この毒に満ちた世界すら変えられるかもしれない。
 そんな希望を抱いて、ブレンダとダンカンは歓声を上げながら手を合わせる。

「おっと、噂をすればですな」

 二人の身長差に、かなり手を下へと寄せてブレンダと合わせてやっていたダンカンは、何かに気が付いたように森へと顔を向ける。
 そこには先ほどまでブレンダが着込んでいたような衣装を身に纏った人影が、森を抜けだしているところであった。

「っ!お姉様ー!お姉様ー!!おかえりなさーーーい!!!」

 ダンカンの声にそちらへと目を向けたブレンダは、彼を突き飛ばすと大慌てで防壁の縁へと駆けよっている。
 そこから転げ落ちそうな勢いで身を乗り出した彼女は、森を抜け出てきた人物に対して大きく手を振りながら、大声で呼びかけていた。

「おーい、もういいだろー?何だよ、俺はほったらかしかよ・・・ん?」

 防壁の上で何やら騒いでいるブレンダ達は、もはや自分の方すら見ていない。
 その事実に不満そうに唇を尖らせるアランは、彼女たちが視線を向けている方へと振り返る。

「皆、ただいまー!!ごめんね、少し物資を落としてきちゃって予定よりは・・・ん?貴方は・・・」

 その先には全身を覆う衣装を身に纏った、金髪の女性が佇んでいた。
 彼女は防壁の上に集まっている村人達へと声を掛けると、途中で物資を失ってしまったことについて詫びている。
 そうして頭を上げた彼女は、すぐ傍で立ち尽くしているアランへと目を向けていた。

「「あーーー!!!」」

 そうして二人は、再び出会う。
 アランとその金髪の女性、かつて彼に止めを刺したアレクシア・ハートフィールドは、お互いの顔を見合わせて大声で叫ぶ。
 その声は大きく、遥か遠くまで響き渡っていた。
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