上 下
4 / 61
変わる世界

アラン、世界を知る

しおりを挟む
「あー、頭いてー・・・結局、また寝すぎちまったなぁ・・・ふぁ~ぁ」

 今も盛大な欠伸を漏らし、そのぼさぼさの頭を掻いてはフケを飛ばしているアランは、先ほどまでよりは整った格好をしていた。
 それは流石の彼でも、何の装備もないまま外に出るのは危険だと分かっているからだろう。
 人里離れた森の奥で一人暮らしているアランが街へと買い出しに向かえば、当然森を一人で歩くことになる。
 それを無防備なままで行うほど、彼は愚かではなかった。

「ん~?ここいらって、こんなんだったか?なーんか前に通った時と雰囲気が違わねぇか・・・?」

 欠伸で漏れた涙を拭うと、濁った視界が澄み渡る。
 それで目にした景色は、どこか以前と違った姿をしていた。

「うーん、つってもなぁ・・・前に遠出したのなんて随分と前の話だからなぁ。ちっと分かんねぇな」

 明らかに以前よりも葉が少なくなり、残ったそれもどこか異様な色へと変容している木々に、そこら中に不自然なほどキノコが生い茂っている。
 その景色は明らかに異常なものであったが、比べるべき以前の景色がはるか遠くの記憶にしかないアランは、それを正しく認識するのが難しいようだった。

「こりゃ、なんていうキノコだ?見たことねぇな・・・」

 アランは近くの木の根元へと屈みこむと、そこに寄生するかのように生えているキノコを手に取っていた。
 それは白い綿毛のようなもので先端を覆ったキノコであり、その見たことのない異様な姿にアランは思わず首を捻る。

「・・・普通はこんなことはしねぇけど、俺はあれだからな。あーん、っと」

 見たこともない、異様な姿をしたキノコ。
 それを目にしたのならば、まず手を触れないのが普通であろう、どんな毒を持っているのかも分からないのだから。
 しかし彼の、アラン・ブレイクのギフトは「毒無効」である。
 そんな彼が、毒キノコなど恐れるだろうか。
 当然、否である。

「はむはむ・・・うーん、味は普通かな?不味くはねぇが・・・ま、腹が減ってどうしてもってんなら食うかってくらいだな」

 得体のしれないキノコを躊躇うことなく口にしたアランは、それを咀嚼しながら味についての品評を口にしている。
 そうして一頻りそれを味わった彼は、もはや用済みだとそのキノコの柄の部分を吐き出していた。

「多分、これも毒あんだろーな。ま、こんぐらいは役立ってくれねぇとな・・・どうせ、何の役にも立たねぇ能力なんだから」

 柔らかい傘の部分だけを堪能したアランは、自らが吐き出した残りの部分を汚いものを隠すかのように蹴飛ばしている。
 周りを見渡せば、彼が口にしたのと同じキノコがそこら中に生えている。
 それは今も頻繁に胞子を吐き出しており、おそらく毒をもっていると感じさせる、毒々しい見た目をしていた。
 そんなキノコすらも、自分ならば気軽に食べることが出来るのだと、アランは自嘲気味に唇を吊り上がらせる。
 自分の能力は、そんなことにしか役に立たないゴミ能力だと。

「はぁー!止めだ止めだ!!んなこたぁ、散々思い知らされたんだ!今更、落ち込んだってしょうがねぇ!それより急がねぇとな、街まで結構遠いんだ。今からだと、下手すりゃ夜までに辿り着きもしねぇ。流石に野宿は嫌だしな・・・」

 今まで、周りから散々そう詰られ、こんな辺境の森の中で暮らすことになった要因ともなったそれへと思いを馳せたアランは、それをかき消すように手を振ると無理やり気持ちを切り替えている。
 学院の首席卒業生として持ち上げられていたところから、一気に手の平を返されたことによって軽い人間不信に陥っていたアランは、だからこそ人里離れた森の奥を住処に選んでいた。
 そこから最寄りの街までは遠く、こんなところで無駄に時間を食っていられる距離ではない。
 気持ちを切り替えたアランは、足を急がせて近くの街道へと出ようとしていた。

「・・・ん?何だこれ?人の声か?」

 街道へと近づいたアランは、そこで何かの物音を耳にする。
 それは複数の人間が、何かと争っているかのような声であった。

「こんな人里遠くで?行商人か、冒険者の類か?」

 物音が聞こえてくるのは、どうやら街道の向こう側のようだ。
 そちら側にもアランが今まで歩いてきたような鬱蒼とした森が広がっており、およそ人が立ち入りそうな場所ではない。
 そんな場所に立ち入るのは、そういった場所でしか手に入らない素材を求める行商人か、冒険者の類しかいないだろう。

「ま、どちらにしろ俺には関係ないね。さ、急ご急ご!」

 かつての経験からか、自然とそちらへと注意を割き耳を澄ませていたアランは、肩を竦めるとそんな事どうでもいいと街道へと足を向かわせる。

「・・・・・・あー、嫌だ嫌だ!こんな事したって、一リムの得にもなりゃしないってのに!!」

 一歩、二歩と何か争っているような物音から背を向け、街道を進もうとしていたアランはしかし、その足を急に止めてしまう。
 そうして彼は、何か誰かに言い訳をするような言葉をわざとらしい大きさで口にしていた。

「ちっ!しゃーねぇよな、気付いちまったもんは!!放っておいたら、寝覚めが悪いったらねぇ!!」

 止めた足は、ようやく前へと進む。
 街道から逸れ、彼がやってきたのとは逆の森の方へと。

「どうせなら、俺が到着する前にやられといてくれよ!!そうすりゃ、どうしようもなかったって諦めがつくからな!!」

 出来れば間に合わないでくれと、アランは叫びながら足を急がせる。
 その足は彼の言葉と裏腹に、見る見るうちに速度を上げているようだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

神々の間では異世界転移がブームらしいです。

はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》 楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。 理由は『最近流行ってるから』 数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。 優しくて単純な少女の異世界冒険譚。 第2部 《精霊の紋章》 ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。 それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。 第3部 《交錯する戦場》 各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。 人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。 第4部 《新たなる神話》 戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。 連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。 それは、この世界で最も新しい神話。

異世界で穴掘ってます!

KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

転生先ではゆっくりと生きたい

ひつじ
ファンタジー
勉強を頑張っても、仕事を頑張っても誰からも愛されなかったし必要とされなかった藤田明彦。 事故で死んだ明彦が出会ったのは…… 転生先では愛されたいし必要とされたい。明彦改めソラはこの広い空を見ながらゆっくりと生きることを決めた 小説家になろうでも連載中です。 なろうの方が話数が多いです。 https://ncode.syosetu.com/n8964gh/

異世界をスキルブックと共に生きていく

大森 万丈
ファンタジー
神様に頼まれてユニークスキル「スキルブック」と「神の幸運」を持ち異世界に転移したのだが転移した先は海辺だった。見渡しても海と森しかない。「最初からサバイバルなんて難易度高すぎだろ・・今着てる服以外何も持ってないし絶対幸運働いてないよこれ、これからどうしよう・・・」これは地球で平凡に暮らしていた佐藤 健吾が死後神様の依頼により異世界に転生し神より授かったユニークスキル「スキルブック」を駆使し、仲間を増やしながら気ままに異世界で暮らしていく話です。神様に貰った幸運は相変わらず仕事をしません。のんびり書いていきます。読んで頂けると幸いです。

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

S級冒険者の子どもが進む道

干支猫
ファンタジー
【12/26完結】 とある小さな村、元冒険者の両親の下に生まれた子、ヨハン。 父親譲りの剣の才能に母親譲りの魔法の才能は両親の想定の遥か上をいく。 そうして王都の冒険者学校に入学を決め、出会った仲間と様々な学生生活を送っていった。 その中で魔族の存在にエルフの歴史を知る。そして魔王の復活を聞いた。 魔王とはいったい? ※感想に盛大なネタバレがあるので閲覧の際はご注意ください。

最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした

服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜 大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。  目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!  そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。  まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!  魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!

処理中です...