終わる世界のブレイブス チート能力で楽して暮らそうと思ったら、人類が滅びかけてるんだが?

斑目 ごたく

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決戦、エイルアン城

強者 2

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『おおぉぉぉぉっ!!!』
「うおぉぉぉぉっ!!!」

 そうこうしている内に、魔物達と人間の兵士達は衝突を開始してしまう。
 お互いに命懸けであり、士気の高い集団同士の衝突は激しく、その戦況は拮抗していた。

『あー・・・違うだろ?向こうも頑張って強敵を倒したんだから、ご褒美を上げなきゃ、な!』

 話の途中で勝手に突っ走っていってしまったオークの姿に、頬を掻いていたジンデルは、衝突をし始めた人間と魔物達の姿を見ると不満げな声を洩らし、その獲物を担いでいた。
 彼は巨大なそれを振り上げると、それを魔物と人間が衝突する丁度真ん中へと思いっきり振り下ろしていた。
 その威力は凄まじく、敵も味方も関係なく叩き潰す。
 多くの魔物と人間がもみ合っていたその場は、彼の圧倒的な力によって全てが薙ぎ払われ、残されたのは血と油に塗れた床と壁だけだった。

『ジ、ジンデル様!?何故、何故こんな事を!!?』
『いや、何って・・・ご褒美だよ、言っただろ?おーい、お前ら!今の内に逃げていいぞ!それとも俺と戦うか?どっちでもいいぞー!・・・つっても伝わらないか、あいつみたいに人間の言葉が話せりゃなぁ・・・』

 敵だけならばともかく、味方も叩き潰したジンデルの所業に混乱した様子を見せる先ほどのオークは、彼に対して何故そのようなことを行ったのかと訴えかけていた。
 しかしジンデルは必死に訴えかける彼に対して不思議そうな顔を見せると、クロード達に対して呼びかける。
 その内容は彼らに有利となるもので、ジンデルが彼らにご褒美を与えようというのが真実である事を示していた。

『何を馬鹿な!?奴らはオーデン様を・・・!?』
『だからよぉ・・・おぉ?なんだぁ?』

 ジンデルの振る舞いを理解できないと抗議の声を上げたオークは、しかしその途中に何かに気づいて言葉を途切れさせる。
 それは、彼が立っている足場が崩れ始めている振動だった。
 ジンデルの強烈過ぎる一撃は、元々至る所に穴が空き、脆くなっている箇所の多いこの部屋の床に止めを刺していた。
 最初はオークが立っている足元だけから響いていた崩壊の兆候は、瞬く間に部屋全体へと広がっていき、一気に床が崩れ始めていた。

「床が!?シラク、まだなのか!!」

 オーデンの巨体が叩きつけられた床は、当然その重量の衝撃によって脆くなってしまっていた。
 ジンデルが齎した衝撃によって崩壊を始めたそこは、クロード達が集まっている場所からも近く、焦るレオンは早く早くと、クロードを急かしていた。

「えーっと、えーっと・・・えぇい!もう床を崩して逃げるしかないか!!」
「おい馬鹿!?それはっ・・・!!?」

 この場から脱出する手段ばかりを考えていたクロードは、周りの状況など関知していない。
 彼はあまりに急かされるあまりに、最後の手段と考えていた床を崩して逃げるという方法を選んでしまう。
 しかしそれは今の状況をさらに悪化させかねない方法だ、クロードの決断に慌ててレオンが制止しようとしても、彼はすでに能力を発動させていた。

「あれ?何か、めっちゃ崩れてない?俺はそこまで・・・うわぁ!?」
「くそっ!この馬鹿が!!」

 能力を発動させた後になって、ようやく周りの床も崩壊し始めている事に気がついたクロードは、自分はそこまでやってないのにと間の抜けた疑問を洩らしていた。
 彼は予想以上に早い床の崩壊に、まったく準備が出来ないままに巻き込まれてしまう。
 無防備な姿勢で落下していくクロードに、レオンは悪態を吐きながらも彼を助けるために手を伸ばしていた。

「にいやん、レオにぃ!?にゃぁ!!?」
「お、おいっ!!?」

 落下していく二人の姿を見たティオフィラは、慌ててそちらに駆け寄ろうとし崩壊に巻き込まれてしまう。
 彼女は落下していく身体に支えを求めて手を伸ばし、たまたま近くにいたロイクの腕を掴む。
 落下していくクロード達の姿に、逃げるべきか追いかけるべきか迷っていた彼は、ティオフィラの行動に咄嗟に反応できず、そのまま巻き込まれて落ちていってしまった。

「クロード様!!?」
「アンナ!ここも危ない!!今は逃げないと!!」

 落下していったクロード達の姿に、アンナが追いかけようとするのをエミリアが必死に止めている。
 クロードが好き放題に能力を使っていたためか、至る所にガタがきていた城は、ジンデルの一撃を切欠に連鎖的に崩壊を始めている。
 彼女達の足元も崩れ始め、頭上からは瓦礫が降り注いでいる、そんな状況ではクロード達を助けに行く余裕などある筈もなく、抱き止めるエミリアの腕の中で、アンナは徐々に大人しくなっていった。

「・・・こっち」
「二人とも、早く!!」

 すでに避難を開始して、自らがこの部屋へとやってきた壁に開いた穴へと手を掛けているイダとクラリッサは、遅れている二人へと早く早くと急かしていた。
 彼女達が立っている所はジンデルが金棒を叩きつけた場所からも近く、急速に高まってくる崩壊の足音に時間はそれほど無い様に思われた。

『ん~・・・なんかまぁ、結果的に思ったとおりになったからいいか。じゃ、お前ら、後は頼むな』

 味方を叩き潰す事はなんとも思わなくとも、流石にこの城まで破壊する気はなかったジンデルはしかし、なんともいえない表情で周りを見渡すと、結果的にうまくいったと頷いていた。
 彼の視線の先には、壁の開いた穴から逃げ出している人間の少女達の姿が映っている。
 それを見送った彼は、金棒を担ぎ直すとさっさと退場しようと、部屋の出入り口へと向かう。
 彼は最後に近くにいたオークへと声を掛けると、そのまま振り返る事なくどこかへと姿を消していってしまった。

『ジンデル様!?お待ちください、ジンデル様!!くっ、俺達も逃げるぞ!!この城はもう駄目だ!!!』

 去っていくジンデルに追い縋るオークだったが、狭い出入り口を通り抜けるのに苦労する以外は、圧倒的な巨体を誇る彼の足は速く、あっという間に見えなくなってしまう。
 必死に彼の事を引きとめようとしていたオークだったが、その姿が見えなくとすぐに意識を切り替えて、この城からの脱出を急ぐ。
 広がり続ける崩壊は、すでに城全体に広まりつつあった。
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