終わる世界のブレイブス チート能力で楽して暮らそうと思ったら、人類が滅びかけてるんだが?

斑目 ごたく

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決戦、エイルアン城

強者 1

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 轟いた声と反対に、玉座の間には静けさが広まりかえっていた。
 それはその声の内包されている圧倒的な力に、誰しもが怯えてまともに動けなくなってしまっていたからだ。

「あれは・・・あれは駄目だ!シラク、早く逃げるぞ!!」

 その声に反応し、真っ先に動き出したのはレオンだった。
 彼がいち早く動けたのは、彼が強者であった事もあるが、それ以上に彼がその声の主と一度対面した事があったからだろう。

「レオン、確かにやばそうだけど・・・それほどか?」

 逆に戦闘能力が皆無なためか、それほどその存在からの圧力を感じていないクロードは、間の抜けた声でレオンに聞き返す。
 クロードののんびりとした態度に苛立ったレオンは、その肩を掴むと激しく揺すって緊急事態だとアピールしていた。

「あいつは、おっさんを・・・皆を殺した奴だ!!あれには絶対に敵わない!いいから早く逃げるんだよ!!」
「お、おぅ!」

 玉座の間の巨大な入り口にも拘らず、そこを身体を折り曲げて窮屈そうに通り抜ける巨大な存在の肌は緑で、見ればオーデンと同じ種族のように思えた。
 しかしその身体は圧倒的に巨大であり、三メートルほどであったオーデンに対し、倍はありそうな身長をしている。
 さらにその身体つきは贅肉にまみれていたオーデンと違い、筋肉に覆われており引き締まっていた。
 レオンはその姿をかつて遠巻きに目撃した事があり、その時は為す術なく仲間を見捨てて逃げることしか出来なかった。
 今度はせめて仲間は守ってみせると意気込む彼の迫力に、クロードは圧倒されて言われるままに逃げ出す準備を始めてしまっていた。

『ん~・・・ちょっと邪魔だなぁ、これ。よっと』

 圧倒的な巨体誇るジンデルにとってはそこまで邪魔ではないが、入り口付近とオーデンの死体の間には、視線を遮る壁が存在している。
 壁からさほど遠くないオーデンの死体に、その全貌はジンデルの視線からも僅かに隠れてしまっていた。
 彼はそれが煩わしいと、その手に持った得物を振るう。
 彼が手に持つのは、ただ金属をより固めただけのような巨大な金棒だった。
 それを振るったジンデルは、部屋を遮るように聳え立つ壁を、一撃で破壊しつくしてしまっていた。

「にゃぁ!?」
「くっ、これは!」

 ジンデルは別にクロード達を攻撃しようとそれを行ったわけではない、しかし彼らはジンデルによって破壊された壁の破片をその身に浴びて、大きな被害を被ってしまっていた。

「お、おい!大丈夫か、皆!?」
「ちっ・・・シラク、早く皆を!あれにはやはり・・・」

 レオンによって守られていたためか、ほとんどダメージのないクロードと違い、少女達はその身に瓦礫を受け、床へと倒れ伏せてしまっている。
 彼女達はどうにか息はあるようであったが、誰しもが自らでは動けなくなってしまうほどのダメージを受けていた。
 その様子にレオンはクロードへと治療を急がせる、彼に言われるまでもなくクロードはその力を発動させると、彼女達と治療して回っていた。

『こ、これはジンデル将軍!!いつこちらに?』
『あぁ?まぁハインドマンの奴にちょっとな・・・まぁ、今はそれはどうでもいいだろ?あれ、オーデンの奴だろう?誰があれをやったんだ?』

 ジンデルと呼ばれた巨大なトロールに慌てて跪いたのは、全身傷だらけの体格のいいオークであった。
 彼は何故この場にジンデルが現れたのかを気にしていたが、ジンデルはそれを適当に流すと、床に縫いとめられたまま絶命しているオーデンの事を指し示していた。

『も、申し訳ありません!!人間共にここまで侵入を許し、あまつさえオーデン様のお命を奪われるなど・・・』
『へぇ~、人間共がねぇ・・・』

 クロードが作った壁はジンデルによって破壊されたが、彼の目の前に跪いているオークにはその姿は見えていないだろう。
 しかし絶対的な存在であるジンデルが話した事実を否定する事などできない、オーデンの死をはっきりと認識したオークは、その悔恨にただひたすらに頭を下げていた。
 頭を床に擦り付ける勢いで下げている彼は気づいていなかったが、ジンデルは彼が伝えてきた事実に、寧ろ感心したような表情を見せていた。

『かくなる上は刺し違えても、奴らを仕留めてみせます!!皆、ついてこい!!!』
『『おぉ!!!』』

 オーデンを守れなかった責任を感じていたオークは、その失態を敵を討ち取る事で晴らそうと気勢を上げる。
 彼の気合の入った声に反応して一部の魔物達も喚声を上げると、彼に付き従いクロード達へと突撃を開始していた。

「おい!まだかシラク!!魔物達が来てるぞ!!」
「いや、そうは言っても・・・ここって崖の上だろ?俺だけなら平気だけど、皆で逃げようとするとどうしたらいいか・・・」

 混乱から立ち直り、勢いを増して襲いかかってくる魔物達に、レオンは焦った様子を見せていた。
 彼に急かされるクロードも、崖の上にあるこの城の立地に、どうすれば皆で安全に逃げられるのかと頭を悩ませるばかりで、一向に何も進展する様子は見られなかった。

「私達が時間を稼ぎます!シラク様は皆と!!」

 こちらへと押し寄せつつある魔物達に、生き残っていた人間の兵士達が時間を稼いでみせると向かっていく。
 彼らはクロードによって与えられた武器で何とか戦ってこれていたが、明らかに疲れ果て数も減っており、その行動は死を覚悟したものであった。

「あんた達・・・シラク急げ!あの人達の命を無駄にするな!!」
「分かってる、分かってるんだけど・・・!」

 仲間を助けると決意していたレオンも、彼らの覚悟に水を差す事などできない。
 目元に僅かに浮かんだ涙を溢れる前に拭ったレオンは、さらにクロードを急がせる。
 流石に彼らの行動の重さは理解できるクロードは、何とか手段を搾り出そうと頭を巡らせるが、それを解決するアイデアは一向に出てこなかった。
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