終わる世界のブレイブス チート能力で楽して暮らそうと思ったら、人類が滅びかけてるんだが?

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決戦、エイルアン城

デニスとギード 1

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『おいおい、マジでやっちまったぞ・・・こりゃ、どうしたもんかな?』

 倒れ伏したオーデンの身体を前に、鉈についた液体を拭っていたアクスは、それが染み込んだ粗末な布をどこかへと適当に放り捨てていた。
 彼はどこかまだそれを信じ切れていないかのようにオーデンの姿を眺めては、驚きを口にする。
 それを倒すと意気込んで出てきたものの、本当に出来るとは思っていなかった彼はこの後どうするかと、綺麗になった鉈を傾けては迷っていた。

『勿論、奴らを抹殺する・・・そうだろう?』

 迷いを見せるアクスに、静かに近づいてきたヴァイゼは淡々と事実を告げていた。
 彼は当初からの予定を実行するべきだと、冷たく言い放つ。
 その目は獲物を見定めるような鋭さで、勝利の喜びにはしゃいでいるアンナ達の姿を観察していた。

『まぁ、そうなるか。しかしな・・・』
『なんだ、情でも湧いたか?そんな柄でもあるまい』

 ヴァイゼの言葉にあっさりと同意したアクスはしかし、どこか迷いを引き摺っていた。
 彼のそんな態度にヴァイゼは鋭い視線を向けるが、その瞳に映っていた疑いの色はすぐに掻き消える。
 ヴァイゼは知っていたのだ、彼がそんな甘い男ではないと。
 そしてそれは、真実であった。

『まさか。ただちょっとな・・・奴ら、消耗しているように見えるか?』
『ふむ・・・確かに期待したほどボロボロには見えんな。ある程度は消耗しているが・・・もっとうまく出来なかったのか?』
『無茶言うなよ』

 ヴァイゼの懸念に唇を吊り上げて、邪悪な笑みを作って否定してみせたアクスは、その言葉の続きに懸念を覗かせていた。
 彼は喜びに湧いているアンナ達の方を見るようにヴァイゼに促す、その仕草にはどこかばつの悪さが覗いているように見える。
 彼に言われるまでもなく彼女達を観察していたヴァイゼも、改めてそれを目にすると確かに彼の言うとおりで、思ったよりも彼女達が元気そうな事に気づいていた。
 オーデンを倒した後に彼女達も抹殺するという計画は、彼女達が十分に消耗している事がありきの計画だ。
 彼女達の様子にそれが無理そうだと悟ったヴァイゼは、アクスに文句を零すと、彼はそれに軽口を返していた。

『しかし、そうなると・・・このどさくさに紛れて、逃げ出すしかないな』
『やっぱ、そうなるか?しゃーねぇーなぁ・・・おい、デニス!!』

 計画の頓挫に落ち込んだ様子も見せないヴァイゼは、今の状況を確認するように部屋を見渡すとあっさりと結論を下していた。
 ヴァイゼが下した結論を最初から分かっていたように同調したアクスは、彼が頭に被っている獣の毛皮をボリボリと掻き毟ると、オーデンの傍で槍を掲げて喜びを露にしているデニスへと声を掛ける。

『アクス!!やった、やってやったぞ!!俺は!俺達は、これで・・・!!』

 オーデンを倒したことに喜びを爆発させているデニスは、アクスから掛かった声に振り返ると、彼と共に喜びを共有しようと声を高くする。
 彼は達成した偉業にゴブリン達の明るい未来を思い描いていたが、それはすぐにアクスの冷たい言葉によって冷や水を浴びせかけられてしまう。

『喜んでるところ悪いが、逃げるぞ。急いで準備しろ!』
『なんでだ!?俺達はやっと・・・いや、そうだな。分かったよ』

 事情も説明せずに逃げることを急かしたアクスの言葉に、デニスは咄嗟に反論しようと言葉を荒げるが、彼はそれをすぐに納めてしまっていた。

『お、なんだ?えらくあっさりと納得したな、なんでだ?俺達は勝ったんだぞ、もっと粘っても良くないか?』

 デニスへと近づいてきたアクスは、意外な彼の態度に疑問の声を上げると、今度は煽るように言葉を重ねていた。
 ニタニタとした笑みを見せている彼に目を向けたデニスは、周りの状況を見渡すとどこか冷めた瞳で再び彼へと向き直ると、静かに言葉を呟き始める。

『俺達は所詮、裏切り者だ。確かにオーデンを倒したが、それも人間達の力を借りてのこと。そんなことでその汚名が拭われる訳もない』
『・・・そうだな』

 淡々と現実と、それに対する諦めを口にするデニスに対して、アクスは気まずそうに視線を逸らしていた。
 彼らはこの状況を利用して成り上がろうと画策していた、それが妄想じみた儚い希望であったとしても、薄汚い謀略であったことは間違いない。
 それはどこかさっぱりとした表情で諦めを口にするデニスとは、対極の行いのように思えて、アクスは後ろめたさに言葉を濁してしまっていた。

『納得してくれるなら、話は早い。それでは行くぞ、向こうの奴らと合流する』
『ヴァイゼさん・・・あぁ、分かった。行こう』

 アクスの後ろから現れたヴァイゼが、話が済んだのならば急ごうと急かしたてる。
 彼はこの場に残っているもう一つのゴブリンの集団を指し示し、そちらへと足を向ける。
 ヴァイゼの指示に頷いたデニスは、彼の横へと並ぶとそちらへと足を急がせていた。

『ん?なんかおかしくないか?まぁ、いいか・・・』

 ヴァイゼとの扱いの違いに、どこか違和感を覚えるアクスも、それは小さな疑問にしかならず遅れた僅かな時間に、小走りで彼らの後を追いかけていった。
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