終わる世界のブレイブス チート能力で楽して暮らそうと思ったら、人類が滅びかけてるんだが?

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決戦、エイルアン城

彼らの思惑

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『おいおい・・・いけるんじゃないか、あれ?』
『そんな簡単にいく訳が、ないだろう。オーデンもまだ本気ではあるまい』

 玉座の間の端っこ、柱の陰でクロード達とオーデンの闘いを覗き見ていたアクスとヴァイゼは、それぞれにその戦いに対しての感想を漏らしていた。
 アクスは優勢に戦っているクロード達の戦いぶりに、勝利への期待感を覗かせるが、ヴァイゼはそれに懐疑的な立場を崩さなかった。

『そうか?俺は結構、本気だと思うがな』
『いずれ自力の差に押され始めるさ。それよりも、今の内に逃げないか?今なら誰も我々に注目してはいまい』

 ヴァイゼの懐疑的な意見にも、アクスはあくまで楽観的な考えを崩そうとはしなかった。
 そんな彼の態度に、その方面で説得するのは無理だと考えたヴァイゼは、別の話題を振って彼の注意をそちらへと向けようと試みる。
 確かに彼が言うとおり、今彼らが逃げ出したところで、それに注目する者はいないだろう。
 彼らが出口に向かうには、崩れて脆くなった床を越えなければならないが、身軽な彼らならばそれを超える事も出来なくはないように思えた。

『そうでもないと思うぜ?見ろよあれ。ボロボロだった奴らが、あいつに近づくと元気になってくだろ?そうそう押し負けることはないんじゃないか?』
『なんだと?確かに・・・しかしあれは、一体どうなってるんだ?』

 ヴァイゼの提案を聞き流したアクスは、それでも彼の懐疑的な意見には反論を返していた。
 アクスはオーデンと戦っている一行の後方を指し示すと、そこに突っ立っている一人の男に注目を促している。
 その男は積極的に戦いに加わろうとしていなかったが、時折訪れる者に手を翳すとその傷をたちどころに癒しているように見えていた。
 ここからでははっきりとは見えないその振る舞いも、戦闘へと戻っていく者の動き見れば、その通りなのだろうと納得も出来る。
 本来有り得ないようなその力にヴァイゼが疑問を漏らしても、アクスはただ首を振るだけだった。

『分かんねぇよ。だが面白いだろう?あの力があれば、オーデンのくそ野郎に勝てるかも知れねぇ』
『ふむ・・・そうして俺達ゴブリンでこの城を乗っ取るか?そんな古いしきたりが、今更通じるとも思えんがな』

 アクスの好戦的な振る舞いは、オーデンに対する強い恨みがその根幹にあるのだろう。
 彼がゴブリンにしてきた行いを考えれば、その恨みの深さは当然の事に思える。
 牙を剥くように好戦的に笑うアクスに、ヴァイゼはその先の考えを見透かして警告していた。

『はっ、お見通しかよ。確かにそんな考えが今更通じるとも思えねぇが、あの方なら案外納得してくれるんじゃねぇかと思うわけよ』

 魔物達の中には、力こそが全てだという考えが脈々と残っている。
 そのため彼らがこの城の主であるオーデンを倒してしまえば、彼らこそが次の主だと主張できるという訳だ。
 しかしその考えはもはや古いしきたりと成り果てており、個人間のやり取りならばとにかく、公式な役職にまで通じるものではなくなっていた。
 アクスもそれは分かっており、そんなに簡単に事が運ぶわけはないと考えていたが、同時彼らのトップである人物ならば、それが通じるかもしれないと算段していた。

『ジンデル様か、確かにあの方ならば・・・そうなると、後で奴らも殺すのか?』

 その考えにはヴァイゼも静かに同意していた、彼らの所属するオルレアン方面軍の将軍であるジンデルは、そんな古臭い考えをよしとする風潮があった。
 しかしとヴァイゼは懸念を口にする、いかな豪放なジンデルといえど、敵である人間と協力して為した事を評価するとは思えない。
 そのためその事実を隠蔽する必要がある、つまりは彼らを抹殺しなければならないということだ。

『まぁ、流石に人間共と協力したとばれるのはな・・・幸い奴らが視界を遮ってくれたからな、目撃者は少ないだろ?』

 それはアクスも考えていたのだろう、ヴァイゼの問い掛けを肯定する彼は、部屋の中と廊下を遮る壁に目をやると、皮肉げに顔を傾けていた。

『ふっ、確かにな・・・では、やるか?』
『あぁ!俺はオーデンの野郎をやるから、お前は小僧共を頼むぜ』

 見られては不味い人間達と共闘する所を、その人間達が自らの手で塞いでくれている。
 懸念の一つが消えた事を目にしたヴァイゼは、最後に確認するようにアクスへと問いかける。
 その言葉にアクスは迷う事なく頷くと、自らはオーデンと戦うのだと獲物である鉈を手に取っていた。

『また美味しいところを・・・だが、仕方ないか。任せておけ、奴らのけつを叩いてやるさ』

 オーデンに恨みがあったのは、何もアクスだけではない。
 さっさと彼と戦うことを選んだアクスに、文句の一つも言いたかったヴァイゼはしかし、空になっている矢筒へと目をやると納得を返していた。
 矢のない彼に本来の戦闘能力を期待することは出来ない、自分の役割を納得したヴァイゼは、八つ当たり気味にもう片方の部屋の隅にいる同胞達に厳しい言葉を吐く。
 その言葉に、アクスは楽しげな笑みを漏らしていた。

『おぉ、怖い怖い。奴らには悪い事をしちまったかもな・・・それじゃ、任せたぜ』
『あぁ、お前もうまくやれよ』

 自らの肩を揺らしながらおどけてみせたアクスは、その両手握った鉈を肩に担ぐと、最後にヴァイゼへと振り返っていた。
 気楽な様子を崩さない彼らも、この選択が破滅へと向かうものかもしれないことを理解していた。
 そうでなくても命を失う可能性が高い行動に、彼らは最後になるかもしれない会話を交わす。
 それは簡潔で、短いものだった。

『オォォォデェェェェン、俺にもいっちょ噛ませろやぁぁぁぁぁっ!!!』

 柱の陰から飛び出してオーデンに向かって駆け出したアクスは、その名前を叫びながら自分の存在をアピールする。
 その声は、自らがオーデンと戦っていると広く知らしめるためだろう。
 大声を上げていたため、せっかくの奇襲を防がれてしまった彼だったが、その目的は達している。
 派手な登場でオーデンへと攻撃を放った彼は、同じゴブリンであるデニスがすでに一緒に戦っていることもあって、自然とクロード達に味方だと認識されていた。

『やれやれ、騒がしい男だな・・・』

 アクス上げた大声とその行動に、この部屋の視線はそちらにばかり集まっている。
 そんな中、柱の裏を伝いクロードが作った壁沿いに移動し始めたヴァイゼの事に、気づく者などいよう筈もなかった。
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