上 下
146 / 168
決戦、エイルアン城

分断 1

しおりを挟む
 さまざまな状況は目まぐるしく変わる中で、最初からずっと戦い続けているクラリッサとイダは、流石に消耗の色を隠せていなかった。

「イダ!ナイフは後、何本ある!?」
「・・・これが最後」

 投擲しても使うため、多くの予備のナイフを用意している二人も、長い戦いの中でそれを使い切ってしまっていた。
 クラリッサの問い掛けに、イダは片手に構えたナイフを見せる。
 それもだいぶ血に汚れ、よく見れば刃も欠けてしまっている。
 しかしもはやそれを使い続けるしかない彼女は、向かってきた魔物に対してそれを振るう。

「私もこれで、最後よ!!」

 イダの苦しい状態を知ったクラリッサは、自らも最後のナイフを握り締めると疲れた笑みを漏らす。
 彼女は近づいてきた魔物に対してそれを振るい、その頭部を見事に捉えていた。

「っ!?抜けない!!」
『ぃだだ!ごどでぇ!!』

 頬から口の辺りを貫かれた魔物、オークはその歯によってクラリッサの刃を繋ぎとめる。
 万全の状態の握力であれば、その程度の抵抗など無視して引き抜くことも、止めを刺すこともできた彼女も消耗した今ではその力はない。
 顔を貫かれながらも、必死に仲間に対して今の内に仕留めろと指示を出すそのオークに従って、周りの魔物達、特に同じ種であるオークが一斉に動き出していた。

『奴は動けないぞ!今の内に!!』
『おぉ!!ぐぇ!?』

 武器を奪われた事で一斉に襲い掛かってきた魔物達に対して、片手で握っていた杖を振り回して応戦するクラリッサはしかし、決定打にならない攻撃に対して脅威とはならなかった。
 彼女の反撃に一瞬怯んだ魔物達も、それがそれほど怖くないと分かれば一気に距離を詰めてくる。
 振り回すのにもある程度の距離が要る杖は、懐に入られた間合いにはもはや、満足に振るうことすら出来なくなってしまっていた。

『捕まえたぞ!止めを頼む!!』
「くっ、この!!」

 軽く叩く程度の威力しかなくなった杖をその身に受けながらクラリッサに接近したオークは、彼女腕を捕まえるとその動きを封じてしまう。
 彼は彼女の動きを封じる事に専念すると、味方に止めを刺すように叫ぶ。
 ささやかな抵抗すら捕まえられて出来なくなったクラリッサは、何とかナイフを抜いて反撃しようと試みるが、今だにそれを噛んで粘っていたオークに、それすら奪われてしまう。

「クラリッサ!!」

 クラリッサのピンチにイダが悲痛な声を上げるが、彼女もそれを助けに行けるほどの余裕はない。
 盾を巧みに使うことで距離を取り、自らの安全を確保することは出来ていた彼女も、敵を押し退けてクラリッサの下に辿り着けるほどの余力は無い。
 それでも彼女は、無謀な突撃を敢行してクラリッサを助けに向かう。
 しかしそれも魔物の壁によって跳ね返されてしまう、クラリッサの首には魔物達の刃が迫ろうとしていた。


「ぁぁぁぁぁぁ・・・うがっ!!?」
『ぐっ、がぁ!!?』


 クラリッサを捕まえていたオークの頭を、どこかから降ってきた人影が射抜いて倒す。
 どこか見覚えのある光景によって拘束から解放されたクラリッサは、慌てて身を低くして迫り来る刃から逃れていた。

「なにが・・・?っ!?クロード様!!?」

 訳の分からない事態によって危機的状況から救われたクラリッサは、その理由を探して周りに視線を向ける。
 そこには自らが衝突した事によって床に伸びているオークの上で、ぐったりとしているクロードの姿があった。

『こいつは!?殺せ、こいつの所為で仲間が!!』
『すでに死んでるんじゃないか・・・いや、とにかく頭を潰しちまえばいい!!』

 どこかから降ってきた男が、多くの仲間を葬った存在だと気づいた魔物達は、怒声を張り上げてクロードへと殺到してくる。
 しかし彼らはもっとよく考えるべきだった、その男がどこから降ってきたのかということを。

『・・・なんだ?うおっ!?やばい、にげっ!?』
『うぎゃぁぁぁっ!!?』

 予想だにしない衝撃で落下したクロードは、その最後に能力を暴走させていた。
 彼が離れてからも急激に伸び続けた石の柱は天井へと衝突し、その衝撃は脆くなっていた根元を崩す。
 時間差で崩れ落ちてきた石の柱は、魔物達の頭上へと降り注いでいた。

「クロード様!!・・・イダ、無事!?」
「・・・大丈夫」

 意識を失っているように見えるクロードを、庇うようにその身に覆いかぶさったクラリッサは、彼へと襲い掛かった魔物達によって、逆に降ってきた瓦礫から守られていた。
 どうやら無事にやり過ごした事を確認した彼女は、近くにいる筈のイダの安否を尋ねる。
 イダは自らの盾の下に潜り込む事によってそれを凌いでいたようで、その陰からひょっこり顔を覗かせると、トコトコと二人の下へと近づいてきていた。

「良かった・・・とにかく、クロード様を安全な場所に」
「・・・ん」

 周りの魔物達の多くは、柱の瓦礫を食らって戦闘不能になっているか、ダメージを負って動きが鈍っている。
 クラリッサとイダは意識の戻らないクロードを抱えると、彼らの間をそそくさと移動していく。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

世界最強の勇者は伯爵家の三男に転生し、落ちこぼれと疎まれるが、無自覚に無双する

平山和人
ファンタジー
世界最強の勇者と称えられる勇者アベルは、新たな人生を歩むべく今の人生を捨て、伯爵家の三男に転生する。 しかしアベルは忌み子と疎まれており、優秀な双子の兄たちと比べられ、学校や屋敷の人たちからは落ちこぼれと蔑まれる散々な日々を送っていた。 だが、彼らは知らなかったアベルが最強の勇者であり、自分たちとは遥かにレベルが違うから真の実力がわからないことに。 そんなことも知らずにアベルは自覚なく最強の力を振るい、世界中を驚かせるのであった。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

クズスキル、〈タネ生成〉で創ったタネが実はユグドラシルだった件

Ryoha
ファンタジー
この木、デカくなるの早過ぎじゃね? リクルス・アストリアは15歳の時、スキル授与の儀で〈タネ生成〉という誰も聞いたことのないスキルを授与された。侯爵家の三男として期待を一身に背負っていた彼にとって、それは失望と嘲笑を招くものでしかなかった。 「庭師にでもなるつもりか?」 「いや、庭師にすら向いてないだろうな!」 家族からも家臣からも見限られ、リクルスは荒れ果てた不毛の地「デザレイン」へと追放される。 その後リクルスはタネ生成を使ってなんとかデザレインの地で生き延びようとする。そこで手に入ったのは黒い色をした大きな種だった。

ゾンビ転生〜パンデミック〜

不死隊見習い
ファンタジー
異世界に転移したのはゾンビだった。 1000年の歴史を持つラウム王国。その首都ガラクシアで暮らす若き兵士ポラリスは英雄になることを夢見ていた。平和なガラクシアを侵食する邪な気配。“それ”は人を襲い“それ”は人を喰らい“それ”は人から為る。 果たしてポラリスは人々守り、英雄となれるのだろうか。これは絶望に打ち勝つ物語。 ※この作品は「ノベルアップ+」様、「小説家になろう」様でも掲載しています。 ※無事、完結いたしました!!(2020/04/29)

イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で最強に・・・(旧:学園最強に・・・)

こたろう文庫
ファンタジー
カクヨムにて日間・週間共に総合ランキング1位! 死神が間違えたせいで俺は死んだらしい。俺にそう説明する神は何かと俺をイラつかせる。異世界に転生させるからスキルを選ぶように言われたので、神にイラついていた俺は1回しか使えない強奪スキルを神相手に使ってやった。 閑散とした村に子供として転生した為、強奪したスキルのチート度合いがわからず、学校に入学後も無自覚のまま周りを振り回す僕の話 2作目になります。 まだ読まれてない方はこちらもよろしくおねがいします。 「クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される」

異世界ぼっち

オレオレ!
ファンタジー
初の小説、初の投稿です宜しくお願いします。 ある日クラスに魔法陣が突然現れ生徒全員異世界へそこで得たスキル魔法効果無効(パッシブ)このスキルを覚えたことで僕のぼっちな冒険譚が始まった

【完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

老竜は死なず、ただ去る……こともなく人間の子を育てる

八神 凪
ファンタジー
世界には多種多様な種族が存在する。 人間、獣人、エルフにドワーフなどだ。 その中でも最強とされるドラゴンも輪の中に居る。 最強でも最弱でも、共通して言えることは歳を取れば老いるという点である。 この物語は老いたドラゴンが集落から追い出されるところから始まる。 そして辿り着いた先で、爺さんドラゴンは人間の赤子を拾うのだった。 それはとんでもないことの幕開けでも、あった――

処理中です...