終わる世界のブレイブス チート能力で楽して暮らそうと思ったら、人類が滅びかけてるんだが?

斑目 ごたく

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決戦、エイルアン城

城の外で

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 強い日差しも、崖の傍であれば遮られて影もできる。
 崖の傍の森と、開けた場所で行われていた戦闘は、士気の高いリザードマン達に軍配が上がりつつあった。
 彼らの中心であるブレントは、常に彼らの信仰対象であるキュイを守るように振舞っていたが、やがてそれがキュイに気に入られたのか、その背中に跨って戦うようになっていた。

『竜神様、向こうです!向こうが押されている!!』

 キュイの背中に跨ったブレントは、その身体になるべく負担をかけないようにするためか、僅かに腰を浮かせている。
 彼はその高い視点から戦況を見渡すと、危なくなっている味方へと的確に援助に向かっていた。
 その手には長い槍が握られている、それはキュイの背中で振るうための武器だろう、元々使っていた刀のような武器は彼の腰へと備え付けられていた。

「キュー!!」

 それなりの時間一緒に戦っていたためか、ブレントの言葉もなんとなく理解するようになっていたキュイは、彼の指示に一声鳴くとその方向へと向かって突進を開始する。

『おおっ!竜神様が来てくださったぞ!!皆、もうひと踏ん張りだ!!』
『くそっ!またあいつか!!引くぞ、まともに相手をすることはない!!』

 巨体を誇るキュイが全力で走り出せば、軽い地響きのような音が周りへと響き渡った。
 それは彼の味方には福音となって聞こえ、敵とする者には恐怖となって響いていた。

『ここは持ち直しそうですな!さすがは竜神様、その姿をお見せになるだけで戦況を変えてしまうとは!!』
「キュー、キュー!!」

 姿を見せただけで戦況に多大な影響を与えたキュイに、ブレントはまるで自分の事のように喜び、キュイを讃える言葉を並び立てる。
 キュイも自分が褒められているのは分かるようで、首をくねくねさせては喜びの鳴き声を上げていた。

『ブ、ブレント!!向こうを、向こうを見てくれ!!』
『どうした?なにが・・・!?』

 機嫌を良くしているキュイの首元をそっと撫でていたブレントに、リザードマンが焦った様子で声を掛けてくる。
 彼は以前にもブレントの傍に控えていたリザードマンだろうか、彼はブレント達が向かっていたのとは反対方向に指し示していた。
 そちらは彼らが最初にいた方向であり、城が立っている丘へと続く坂がある方でもあった。
 そこを魔物の部隊が猛烈な勢いで下ってきていた、彼らの多くは獣人で、何らかの獣や魔物に跨っているようだった。

『不味い、このままでは・・・!竜神様、あれを食い止めるために力を貸してくださいますか?』
「キュ?キュー、キュー!!」

 この場の戦いでは優勢なリザードマン達も、今予想していなかった方向から奇襲を受ければ一溜まりもないだろう。
 目にした光景にそんな未来を思い描いたブレントは焦りを滲ませて、そっと縋るようにキュイに協力を願っていた。
 キュイを守るために他の魔物達と戦っている彼らからすれば、それはお門違いの願いかもしれない。
 しかしキュイは何故そんなことを聞くのかと首を捻ると、戦意を滲ませた泣き声を高らかに響かせていた。

『おおっ!!共に戦ってくださるのですか!!感謝いたします、竜神様!!それでは―――』
『うおおぉぉぉ!!!お前ら邪魔だぁぁぁっ!!!』

 仲間達を守るために一緒に戦ってくれる意思を見せたキュイに、ブレントは深い喜びと尊敬を込めた視線を向ける。
 彼はそれを高らかに声に表すと、早速とばかりにキュイに旋回する方向を示していた。
 しかしそれもどこかから響いてきた大声に掻き消される、それは彼らがこれから向かおうとする場所から聞こえてきており、さらに何か聞き覚えのある声だった。

『あれは、まさか・・・叔父上!!?』
『うおおぉぉぉ!!!ブレント、今行くからなぁぁぁ!!!』

 聞こえてきた声に視線を向ければ、それは丘を駆け下りている魔物達のさらに後ろから、猛スピードで駆け下りてきているサリスの姿がそこにあった。
 彼は巨大な蜥蜴であるドラクニルに跨っており、両手にどこから奪ってきたのか斧を構えていた。
 彼はそれをを振り回すと、先行する魔物達を蹴散らしながら坂を駆け下りてくる。
 その目には目指すブレント姿は映っているだろうか、張り上げた声にブレントは彼の存在に気づいたが、その距離はまだ遠くはっきりと顔が識別できるような近さではなかった。

『叔父上って、サリス様か!?なんでここに・・・?』
『分からないが、とにかく合流しよう!!竜神様、お願いできますか?』

 ブレントが口にした言葉に、サリスの登場を知ったリザードマンは、驚きと疑問の声を漏らす。
 彼らは自分達の行動によって、サリスが城から追われる羽目になった事を知る由もなく、この場に現れた理由も見当がつかなかった。
 それでもこの状況であれば指揮官としても申し分なく、単純に戦闘能力を見ても頼もしい彼と合流しない手はなく、ブレントは早速キュイにそれを頼んでいた。

「キュー!キュ・・・キュ、キュ!!?」

 ブレントの願いに軽快に同意の声を上げようとしていたキュイは、その途中に何かに気がつくと怯えたような声を上げていた。

『どうされたのですか、竜神様?うわっ!!?』

 今まで敵の真っ只中に突っ込んでも、決して怯む様子をみせなかったキュイが始めて見せた怯えた姿に、ブレントも心配げにその首を擦る。
 しかしキュイの怯えはそれで収まるようなものではなく、彼は急に踵を返すと森の奥へと向かって駆け出していた。

『おい、どうしたブレント!?サリス様と合流するんじゃなかったのか!!』
『俺にも分からん!!竜神様、竜神様!どうなされたのですか!?』

 急に明後日の方向に走り出したキュイとブレントに、慌てたリザードマンは彼らに置いて行かれぬように、必死で追いかけていた。
 彼は何故そんな行動するのか訳が分からないと問いかけるが、それはブレントも同じだ。
 ブレントはなるべくキュイの頭へと近づいて呼びかけるが、キュイがそれに反応する事はなかった。

『とにかく竜神様を一人にする訳にはいかない!!お前達もついて来るんだ!!』
『くっ、分かったよ!お前ら、ついてこい!!竜神様が道をお示しになられたぞ!!!』

 もはやキュイを制御する事が不可能だと判断したブレントは、彼を守ることを優先して仲間にも一緒について来いと呼びかける。
 彼らに追い縋っているリザードマンは、それに一瞬難色を示していたが、すぐにやけくそ気味に同意を示していた。
 この場の戦況はリザードマンの優位に推移していたが、それもブレントとキュイの力による所が多い。
 それを考えれば彼らと離れてしまう事の方が危険だと思える、リザードマンは仲間へと大声で呼びかけると、彼らについて来いと全身で示していた。

『あれは・・・竜神様!?本当だったのか、それにブレントも・・・うおおぉぉぉ!!待ってろよ、すぐに追いつくからなぁぁぁ!!!』

 森の奥へと消えていくブレントとリザードマン達の姿に、彼が跨っていたキュイをその目にしたサリスは、クロードから聞いた事が真実だったと身を震わせる。
 甥の姿と、その振る舞いが間違いではなかった事を知ったサリスはその身に喜びを溢れさせ、さらに力を漲らせる。
 その状態の彼を止められる者などこの場には存在せず、彼は一直線にブレント達の後を追って駆け抜けていっていた。
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