終わる世界のブレイブス チート能力で楽して暮らそうと思ったら、人類が滅びかけてるんだが?

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決戦、エイルアン城

混戦 2

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「えっ!?うっ、くぅ!!」
『お前ら今だ!俺が押さえているうちに、止めを!!』
『『おぉ!!』』

 その一撃を放ってきたのは、先ほどアンナの盾を叩き落した魔物だろうか。
 アンナがダウンさせた魔物と同じ種族と思われる彼は、金属で出来た棍棒を彼女に向かって振り下ろす。
 アンナはそれをどうにかメイスで迎撃するも、そのまま押さえ込まれてしまう。
 それすら意識を取り戻したエミリアに、両手を使って打ち合った結果だ、彼女にそれを挽回する術はなく、彼女を押さえる魔物が仲間に呼びかけるのを見ている事しか出来なかった。

『はっはっは!!いただきだぜぇ、うおっ!?』
『馬鹿が!オーデン様のお気に入りだぞ、適当に手足を切って献上するんだよ!!』

 アンナの首を狙い、真っ先に切りつけようとしていた魔物の身体を別の魔物が吹っ飛ばす。
 彼はオーデンと彼女達のやり取りから、殺すよりも生け捕りした方が手柄になると考え、なるべく傷つけずに捕らえられないかと思案していた。
 それは手柄を求める思考としては間違っていなかったが、この場では決定的な誤りとなってしまう。
 アンナを囲う魔物の包囲の外側で、喚声が上がっていた。

「うおおぉぉぉ!!アンナ、エミリア、今助けるぞぉぉぉ!!!」
「「おおおぉぉぉ!!!」」

 魔物達の包囲の一角で起こった騒ぎは、彼らの士気の高さに魔物達が押し込まれていく事によって、全体へと伝わっていく。
 石で出来たボロボロの武器を掲げた人間達の集団は、その武器以上にボロボロの身体を引き摺りながら魔物達へと突撃を行っていた。
 それまで一切希望の見えない状況で戦い続けていた彼らにとって、自らの未来とも言える二人を助けるため戦うというのは、余りに希望に満ち溢れたものであった。
 その戦意は命を燃やして上り続けている、彼らの勢いには魔物達もどこか圧倒されているようだった。

「クーベンさん!皆・・・!!」
「なに・・・?なんで、皆が・・・?」

 彼らの突撃に気を取られている魔物達は、アンナへの攻勢の手を緩めている。
 近くにやってくる魔物だけを警戒すればよかった彼女は、こちらへと向かってきている彼らの方へと視線をやると、感極まったように声を漏らす。
 彼女の後ろでは、今だに状況が良く分かっていないエミリアの混乱した声だけが響いていた。

「俺も忘れてくれるなよ?おっらぁ!!!」
『なんだこいつっ!?うぎゃぁ!!?』

 エミリアの斧を拾ったロイクの一撃は、お世辞にも熟達したものとはいえなかった。
 しかし成人した男性である彼の膂力はエミリアのそれと大差なく、人間達の集団に襲い掛かられ動揺していた魔物達には、効果的な攻撃となっていた。

「ロイクさん!!これなら!こんのぉぉぉ!!!」
「ロイクさんまで、それにあれは私の・・・一体、うわぁ!?」

 助けに来た者達の勢いに魔物達は動揺している、それをみたアンナは両手でメイスを握りなおすと、雄叫びを上げて突撃を開始する。
 新たにロイクが現れて、しかも彼が自らの獲物を振るっている事に、さらに混乱を深めていたエミリアは突然走り始めたアンナに悲鳴を上げていた。
 エミリアはしがみつく必死に力を込めるが、それが傷ついた身体に軋んだ痛みを響かせる、彼女がそれを噛み殺したのは、戦いに夢中な親友の気を逸らせないためだろう。

「ロイクさん、こっちに!!」
「お、おぉ・・・なんかすごいな。いつの間にそんな戦い方を?」

 動揺した魔物達を蹴散らして、包囲を突破してロイクに合流したアンナは、その振り回したメイスに返り血を全身に浴びている。
 アンナの猛烈な戦いぶりを目撃したロイクは、記憶にある彼女の印象と余りに違うその姿に、感心と動揺の入り混じった感想を漏らしていた。

「クロード様に教わりました!!」
「シラク様に?そんなタイプには見えなかったけどな・・・」
「いや、うーん・・・まぁ、大まかには間違ってないというか・・・」

 ロイクが思わず漏らしてしまった問い掛けに、自信満々に答えたアンナは、クロードのおかげだと断言していた。
 クロードの力を限定的にしか知らないロイクは、それを言葉通りに受け取って彼の意外な一面に驚き首を捻る。
 ロイクのその姿を目にしたエミリアは、アンナの言葉を否定しようとするが、そこまで間違ってもいないその内容に言葉を濁らせていた。

「とにかく!向こうの人達と合流しましょう!!」

 自分の発言によって何だか妙に空気になったことに気づいたアンナは、その理由を理解しないまま話題を切り替えると、魔物達を隔てた向こう側にいる兵士達を指し示す。
 合流した彼女達を警戒してか、魔物達はアンナ達を今は積極的に狙おうとはしていない。
 反対側にいる兵士達は、今こそ勢いづいて魔物達を押しているように見えるが、その武装の貧弱さと疲れ果てた身体にすぐに限界が見えてくるだろう。
 彼らを守るためにも、自分達の安全を確保するためにも、今は一刻も早く彼らと合流した方がいいと思える。

「そ、そうだな!その、悪いんだが・・・前を頼んでいいか?正直これの扱いにはあまり自信がなくてな・・・」
「はい、分かりました!後ろをお願いします!!」

 アンナの提案に頷いたロイクは、しかしどこか気まずそうに顔を俯かせる。
 魔物達の隙をついて彼らを蹴散らす事に成功していた彼だったか、本来斧は得手ではなくその扱いには自信はなかった。
 アンナの見事な戦いぶりを目撃した彼からすれば、彼我の実力差は明らかであり、助けに来たのにもかかわらず後方に回るという、情けない提案をせざるをえなかった。
 彼のそんな葛藤を知る由もなく、アンナはそれをあっさりと受け入れると、魔物達へと向かって向き直る。

「ちょっと待って、それなら私が・・・」
「行きます!ついて来てください!!うわぁぁぁ!!!」
「ちょ、まっ!?」

 今にも突撃を開始しそうなアンナと、自信がなそうな振る舞いを見せるロイクに、エミリアは自分も戦うを口を挟もうとしていた。
 しかしそれを許さないためか、それともただ単に気づかなかっただけか、アンナは彼女がそれを言い切る前に突撃を開始する。
 痛む身体を慎重に動かして、アンナの背中から降りようとしていたエミリアは、その動きに再び彼女の背中にしがみつくしかなくなっていた。

『いつまでも好きにやらせるか!お前ら、守りを固めろ!!』
『『おぉ!!』』

 油断していた事と、多方面から攻撃されていた事でアンナの突破を許してしまった魔物達は、同じことは繰り返さないと気合を入れると、守りを固める。
 アンナはそんなことはお構いなしと突撃していくが、それは自信の裏づけがあるというよりも、興奮によって制御が利かなくなってしまったようにみえていた。

「ちょっと、アンナ!このまま突っ込んじゃ・・・!」
「うわぁぁぁぁぁ!!こん、のぉぉぉぉぉ!!!」

 油断のない魔物達の姿を目にしたエミリアは、警戒を募らせてアンナに一旦止まるように声を掛ける。
 しかし雄叫びを上げながら全力疾走しているアンナは、すでに聞く耳を持っていないようで、彼女が掛けた声も、そのボリュームにかき消されてしまう。

「あぁ、もう!ロイクさん、アンナを止めて!!このままじゃ危ない!!」
「え、なんだって!?よく聞こえない!!」

 アンナ自身を制止する事は不可能だと諦めたエミリアは、すぐ後ろを追走するロイクにそれを頼んでいた。
 しかし彼女の雄叫びを間近で聞いているのは彼も同じで、迫る魔物達に彼らの喧騒まで混じりだせば、会話が通じないのも無理はない事だった。

「ぉぉぉぉぉ、らぁぁぁ!!!」
『勢いだけで、いけると思うな!!』

 制止する事も適わず魔物へと突っ込んだアンナは、その勢いのままメイスを振り下ろす。
 しかしその一撃は、簡単に受け止められてしまっていた。
 彼女の一撃を受け止めたのは、豚の頭を持つ魔物、オークだろう。
 その金属の棍棒を持った彼は、アンナの盾を落とし追い詰めた者と同じ魔物だろう、彼はアンナの攻撃を弾くと、追撃を放とうとその棍棒を振るう。
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