終わる世界のブレイブス チート能力で楽して暮らそうと思ったら、人類が滅びかけてるんだが?

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決戦、エイルアン城

混戦 1

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 エミリアを背中に抱えたアンナは、オーデンの圧倒的なプレッシャーから逃れるように、彼から遠ざかっていた。
 しかし魔物達で溢れかえっているこの謁見の間で安全な場所などなく、彼女は仲間が守る場所へと走るしかなかった。

「クラリッサ!エミリアが!!」

 仲間達の下へと走っても、その途中はすでに魔物によって防がれている。
 エミリアを支えるために片手を使っているアンナには、メイスを振るって敵を打ち払う事はできない。
 彼女はクラリッサへと救援を求めていた。

「分かってる!!でも私も、余裕は、ないの!!」

 ここに到るまでの道中で、一旦魔力を使い切ってしまったクラリッサは、今だ十分な量の魔力を回復してはいない。
 そのため彼女は周辺を囲む魔物達に対して、ナイフと魔法用の杖を振り回して対抗していた。
 殴るために作られたものではないとはいえ、作りがしっかりしておりリーチもある杖は、振り回して距離を取るために都合がよく、彼女は利き手でそれを振るっていた。

「イダは!?イダでもいいの、こっちに!!」

 両手に構えた武器を振り回して、どうにか敵との間合いを保っているクラリッサの姿に、こちらを助けるのは無理だと判断したアンナは、もう一人の仲間のイダへと声を掛ける。
 その際に彼女はこちらへと向かってきた魔物を、身体ごとぶつけるように動かした盾で弾き飛ばしていた。

「・・・無理」

 短い言葉で不可能な事実を告げたイダは、普段は背中で背負っている大盾を構えて魔物達を牽制する。
 彼女はそれを押し付けて相対する魔物の態勢を崩すと、ずらした盾の隙間から伸ばしたナイフで敵の四肢を貫いている。
 それは致命傷にはならないが戦闘能力を奪うには十分だ、むしろ戦えない者が居座る事で敵にも邪魔になり、一石二鳥の戦略でもあった。
 しかし圧倒的な敵の数にそれだけでは戦線を維持するのは難しく、彼女はもっぱらその大きな盾を振り回して、敵を殴打する事で距離を取っていた。

「そんな・・・それじゃ、どうすれば?」
『はっはぁ!隙ありっ!!』

 自らの事で手一杯の二人に、アンナは頼るべき人を見出せない。
 手詰まりな状況にアンナの心を絶望が支配し始める、それは彼女に隙を生み、彼女を狙う魔物がそれを見逃す事はなかった。
 鼠の頭を持つ獣人が彼女の背後から襲いかかる、その手に持つのは錆びた刃の短剣だ。
 その切れ味は鋭くはないだろうが、防ごうとする動きすらみせないアンナには致命傷にもなるだろう。

「アンナ!!」
『ぎぃ!?な、なんだ!?』

 小柄な獣人の横から飛び出してきた人影が、その身体を弾いて崩す。
 振り下ろそうとしていた短剣は、その人影の身体を掠って流れるが大した傷にはならないだろう。
 その人影はアンナの名前を呼んでいた、その声に彼へと目を向けたアンナは驚きに目を見開いていた。

「ロイクさん!?どうしてここに!?」
「レオンと・・・そんな事は今はどうでもいい!武器は、なにか武器はないか!?」

 飛び込んできた人影、ロイクに対して驚きその経緯を尋ねたアンナに、彼はそれどころではないと切って捨てていた。
 クロードに与えられた武器を戦いの中で磨耗させた彼は手ぶらであり、周りの魔物達と戦う手段を持たない。
 最初こそ隙を突いて敵を突き飛ばす事に成功していたが、それも存在を気づかれていなかったから出来た事で、こうして目の前に現れた彼は無力な男に過ぎない。
 そのため彼は必死に頭を巡らせて、何か武器になるものはないかと探している、その彼に先ほど突き飛ばされた獣人が、逆襲の刃を振るっていた。

『舐めた真似してくれたなぁ、これでも、ぎゃぁ!?』
「向こうに、エミリアの斧が!それを使ってください!!」

 逆襲の刃を振るおうとしてた獣人は、今度はアンナによって突き飛ばされる。
 盾を構えた突進で彼を突き飛ばしたアンナは、ある方向を指差すとそこに転がっている斧を示していた。

「あれか!えっ!?エミリアがあれを?今はそんな事はいいか、とにかく・・・取ってくるから、それまで持たせろよ!!」
「はい!お願いします!!」

 床に転がっている大きな斧をその目に捉えたロイクは、そちらへと向かう一歩目にアンナの言葉の内容を思い出して振り返る。
 彼が知っているエミリアは、弓を扱うのが得意な線の細い少女だった筈だ、少なくともあんなごつい斧を振り回すような豪傑ではない。
 その余りのギャップに彼が二度見してしまうのも無理はない、よく見ればアンナの戦う姿も彼が知っているものとはかなり違っていたが、今はそれどころではないと彼は走り出していた。
 彼が最後に言い残した言葉は、魔物に囲まれている今の状況では無理難題の類であったが、アンナはそれに精一杯力強く答えてみせる。

『さっきはよくもやってくれたなぁ!!』
「くぅっ!?このっ!!」
『ぎゃぁ!!』

 アンナに突き飛ばされ、床に転がっていた鼠の頭を持つ獣人は、その姿勢のまま彼女の足元を狙って短剣を振るう。
 普通ならば床に立て掛けて構えている彼女の盾も、突撃のために軽く浮かしており隙間が存在していた。
 そこに腕を通して短剣を振るった獣人の一撃は、彼女の足を軽く抉って悲鳴を上げさせる。
 アンナはすぐに盾を落として、その下にあった獣人の腕を叩き潰すが、その傷は浅くはなかった。

『弱ってるぞ、一気に畳み掛けろ!!』
『『おおぉぉ!!!』』

 足元を切り裂かれ、踏ん張りが利かなくなったアンナは魔物達の圧力に押され始めてしまう。
 その様子に彼女が弱っている事に気がついた魔物達は勢いづき、勢いを増して一気に押し寄せ始めていた。

「このままじゃ・・・ロイクさん、まだですか!!」

 勢いづいた魔物達に徐々に押し込まれていくアンナは、焦りの声を漏らすとロイクの救援を求めて呼びかける。
 彼の姿を必死に捜し求めても、魔物に囲まれた現状ではその姿を見つけられる訳もない。
 絶望的な状況に、思わず希望へと目を逸らしてしまったアンナへ、強烈な一撃が迫ろうとしていた。

『よそ見してんじゃねぇよ!!』
「しまっ・・・このぉ!!」

 ロイクの姿を探して注意を逸らしていたアンナは、その強烈な一撃に対処できない。
 彼女はその衝撃に、思わず盾を取り落としてしまっていた。
 ただでさえエミリアを抱えて負荷の掛かっている状況に、怪我をして踏ん張りも利かないとなれば、盾を構える力も落ちてしまっている。
 そこに注意も逸らしてしまえば、もはやそれを保ってもいられない、盾を取り落としその失態を短く嘆いた彼女は、すぐさまメイスを掴んで反撃を試みる。
 それは成功し、豚の頭を持つ獣人の頭部を叩いてダウンさせるが、この状況では焼け石に水でしかなかった。
 盾を失くしてしまった彼女に、魔物達が襲いかかっていく。

『おらおら、どうしたぁ!?そんなもんかぁ!!?』
『盾がなければ、大したことねぇな、おらぁ!!』
「くっ、この、このぉ!!」

 盾を失い、魔物達に圧倒されているアンナはそれでも、どうにかメイスで彼らの攻撃を凌いでいたが、それにも限界がある。
 彼女は徐々に圧倒されていき、いつの間にか柱の傍にまで押し込まれていた。

「もう逃げ場が・・・!」
「いったぁ・・・なに、なにが・・・?」

 焦った勢いに激しく柱へと衝突したアンナは、焦りに声を漏らす。
 その衝撃を身体に受けたエミリアは、痛みに意識を取り戻し、記憶の断絶と良く分からない状況に混乱した様子を見せていた。

「エミリア!目が覚めたのね!!」
「アンナ・・・?前っ!!」

 意識を取り戻し、声を発したエミリアに喜んだアンナは、その表情を確認しようと横へと顔を向ける。
 まどろむ意識にアンナの声を聞き取ったエミリアは、胡乱な表情をそちらへと向けようとするが、その途中に襲いかかってくる魔物の姿を捉えて声を上げていた。
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