終わる世界のブレイブス チート能力で楽して暮らそうと思ったら、人類が滅びかけてるんだが?

斑目 ごたく

文字の大きさ
上 下
136 / 168
決戦、エイルアン城

一筋の光 1

しおりを挟む
 広くもないその部屋の中には、絶望的な空気が漂っていた。
 それも仕方ないことだろう、減る気配を見せない魔物達の姿に、こちらの戦力は目減りしていく一方だ。
 レオンはせめてクロードが居てくれればと感じていた。
 彼が居れば即死以外は治療できる、そうすれば戦力も今より維持できたし、彼ももっと大胆に戦うことも出来た筈だ。
 無いものねだりの幻想を振り払ったレオンは立ち上がると、崩れた壁が僅かに残るばかりの出入り口へと歩いていく。
 先ほど退けた攻勢に、立て直すための時間は終わったのか、徐々に近づいてくる足音が聞こえてきていた。

「駄目だ、レオン。コケロはもう・・・」
「そうか・・・もうすぐ敵がくる。ロイク、準備はいいか?」

 辛そうに仲間の死を告げるヒューマンの青年に、レオンは冷たく敵の接近を告げる。
 普段であればもう少し言い方を考える余裕もあっただろうが、度重なる戦闘において前線で戦い続けた彼には、そんな余裕はとっくに削り果てていた。

「仲間が死んだんだぞ!!もっとなにか・・・いや、悪い。そんな場合じゃないよな・・・なぁ、レオン。俺達はいつまで戦えばいいんだ?」

 レオンの冷たい態度に、彼に掴みかかろうとしたロイクと呼ばれた青年は、途中で思い留まると暗い表情で俯いていた。
 見れば彼の身体はボロボロで明らかに疲れ果てていた、それも無理はないだろう、クロードの力によって治療されたとはいえ、彼らは捕虜で病人だった。
 それがこれまで戦えていただけでも奇跡に等しい、しかしそれも一向に改善しない状況に心が折れてきてしまう。
 彼は縋るようにレオンに問いかけていた、一体いつまで戦い続ければいいのかと。

「・・・逃げ出したいなら、好きにしろ。そこに丁度いい穴がある・・・苦しくはない筈だ」

 彼の質問に沈黙を返したレオンは、真っ直ぐに腕を伸ばすとクロードが落ちていった穴を指し示す。
 確かにそこを通り抜ければ、ここから逃げ出せることは間違いないだろう、レオンのその振る舞いにロイクは乾いた笑みを返していた。

「そうか、そうだよな・・・ははは、分かっていたよ。それしかないって・・・」
「おい、ロイク!くっ・・・!」

 逃げ場のないという覚悟を求めたレオンの仕草は、ロイクに絶望を突きつけていた。
 彼はふらふらとその穴へと向かっていくと、その縁へと手を掛け崖下へと顔を覗かせる、
 レオンはそれを止めようと声を掛けるがもう遅い、ロイクはすでに彼の手の届かないところまで行ってしまっている。
 それを追かけようにもレオンの目の前にはすでに魔物達が迫っていた、他の者達の動きは鈍く、彼がそれに対応する以外の方法など残されていなかった。

「レオン・・・後は頼んだ」
「止めろロイク、誰か!誰かあいつを止めてくれ!!」

 壁の穴へと手を掛けたロイクが、そこから飛び降りるのを躊躇ったのは、自分がいなくなった後の事を心配したからか。
 しかしその彼の躊躇いも、一人で敵を押しとどめているレオンの姿を見れば解消される。
 彼はすっきりとした表情で、穴の向こうへと踏み出そうとしていた。
 レオンは必死に敵を押し返しながら、ロイクを止めろと仲間に向かって叫び声を上げる。
 しかし疲れ果てた皆の動きは鈍く、寧ろ死を選ぼうとしているロイクを羨ましそうに眺めている者すらいる始末だった。

「くっ、邪魔するな!!待て、ロイク!!なんだっ!?」

 突っ込んでくる魔物を押し返したレオンは、その僅かな猶予にロイクを止めようと駆け出した。
 レオンが魔物を迎撃しだしてからの時間は短くなく、それでもまだロイクが飛び降りていなかったのは、やはり彼も躊躇っていたからか。
 しかしそれもレオンが駆けてくるのを目撃すると、覚悟を決めた表情で踏み出そうとする。
 その動きに焦った表情を見せたレオンは、突如崩れた頭上の天井に驚きの声を上げていた。

「えっ!?うわぁ!?」
「ロイク!掴まれ!!」

 背後で起こった訳の分からない事態に驚いたロイクは、後ろを振り返りつつそのまま足を踏み出していた。
 後ろに傾いた重心は、なくなった足場に斜めに身体を落としている。
 空中に放り出された下半身に、斜めになった身体は床の端っこへと上半身をぶつけていた。
 痛みの反射か、咄嗟の生存本能かは分からないが床の縁にしがみついたロイクに、レオンは慌てて駆け寄って腕を伸ばしていた。

「レオン、俺は・・・」
「いいから!そんな事は後で考えろ!!」

 自らで死を選んだ筈なのに、今更助かろうとしている後ろめたさからレオンの手を掴むのを躊躇うロイクに、レオンは無理やりその手を掴んでいた。

「お前も手伝えぇぇぇ!!」
「お、おう!!うぅんんん!!!」

 幾ら鍛えられ頑健な身体を持っているといえど、小柄なレオンでは大人のロイクを引き上げるのには苦労する。
 さらにその身体は疲れ果てていた、全力で引っ張ってもジリジリとしか上がらないロイクの身体に、レオンは彼自身も助かろうとしろと叫んでいた。
 彼の言葉に今だに自らのずうずうしさを恥じていたロイクは、開き直ってしがみついた床をよじ登り始める。
 二人分の力で引き上げ始められたロイクの身体は、見る見るうちに部屋の中へと帰ってきていた。

「はぁっ、はぁ、はぁ・・・た、助かったよレオン」
「敵はどうなってる!?」

 部屋の中の床へと転がり込んだロイクは、恐怖と無理な運動で上がった息を整えると、レオンに対して感謝の手を差し伸べる。
 しかしレオンは自分が放り出した前線が気になっており、床に転がった背中をすぐに起こすとそちらへと顔を向けていた。
 伸ばした手の行き先をなくしたロイクはその手を顔へと近づけて、自らの頬を掻いてはなんともいえない表情を作っていた。

「なんだ・・・?どうして踏み込んで来ない?」

 ロイクを助けるために放り出していた剣を拾って、すぐさまやって来るであろう敵へと備えていたレオンは、崩れた壁の付近で立ち尽くしている魔物達の姿に、疑問の声を漏らす。
 彼らは一様に、先ほど崩れた天井の方へと視線を向けていた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

無尽蔵の魔力で世界を救います~現実世界からやって来た俺は神より魔力が多いらしい~

甲賀流
ファンタジー
なんの特徴もない高校生の高橋 春陽はある時、異世界への繋がるダンジョンに迷い込んだ。なんだ……空気中に星屑みたいなのがキラキラしてるけど?これが全て魔力だって? そしてダンジョンを突破した先には広大な異世界があり、この世界全ての魔力を行使して神や魔族に挑んでいく。

【改稿版】休憩スキルで異世界無双!チートを得た俺は異世界で無双し、王女と魔女を嫁にする。

ゆう
ファンタジー
剣と魔法の異世界に転生したクリス・レガード。 剣聖を輩出したことのあるレガード家において剣術スキルは必要不可欠だが12歳の儀式で手に入れたスキルは【休憩】だった。 しかしこのスキル、想像していた以上にチートだ。 休憩を使いスキルを強化、更に新しいスキルを獲得できてしまう… そして強敵と相対する中、クリスは伝説のスキルである覇王を取得する。 ルミナス初代国王が有したスキルである覇王。 その覇王発現は王国の長い歴史の中で悲願だった。 それ以降、クリスを取り巻く環境は目まぐるしく変化していく…… ※アルファポリスに投稿した作品の改稿版です。 ホットランキング最高位2位でした。 カクヨムにも別シナリオで掲載。

スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する

カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、 23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。 急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。 完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。 そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。 最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。 すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。 どうやら本当にレベルアップしている模様。 「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」 最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。 他サイトにも掲載しています。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

なんでもアリな異世界は、なんだか楽しそうです!!

日向ぼっこ
ファンタジー
「異世界転生してみないか?」 見覚えのない部屋の中で神を自称する男は話を続ける。 神の暇つぶしに付き合う代わりに異世界チートしてみないか? ってことだよと。 特に悩むこともなくその話を受け入れたクロムは広大な草原の中で目を覚ます。 突如襲い掛かる魔物の群れに対してとっさに突き出した両手より光が輝き、この世界で生き抜くための力を自覚することとなる。 なんでもアリの世界として創造されたこの世界にて、様々な体験をすることとなる。 ・魔物に襲われている女の子との出会い ・勇者との出会い ・魔王との出会い ・他の転生者との出会い ・波長の合う仲間との出会い etc....... チート能力を駆使して異世界生活を楽しむ中、この世界の<異常性>に直面することとなる。 その時クロムは何を想い、何をするのか…… このお話は全てのキッカケとなった創造神の一言から始まることになる……

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

【完結】神様と呼ばれた医師の異世界転生物語 ~胸を張って彼女と再会するために自分磨きの旅へ!~

川原源明
ファンタジー
 秋津直人、85歳。  50年前に彼女の進藤茜を亡くして以来ずっと独身を貫いてきた。彼の傍らには彼女がなくなった日に出会った白い小さな子犬?の、ちび助がいた。  嘗ては、救命救急センターや外科で医師として活動し、多くの命を救って来た直人、人々に神様と呼ばれるようになっていたが、定年を迎えると同時に山を買いプライベートキャンプ場をつくり余生はほとんどここで過ごしていた。  彼女がなくなって50年目の命日の夜ちび助とキャンプを楽しんでいると意識が遠のき、気づけば辺りが真っ白な空間にいた。  白い空間では、創造神を名乗るネアという女性と、今までずっとそばに居たちび助が人の子の姿で土下座していた。ちび助の不注意で茜君が命を落とし、謝罪の意味を込めて、創造神ネアの創る世界に、茜君がすでに転移していることを教えてくれた。そして自分もその世界に転生させてもらえることになった。  胸を張って彼女と再会できるようにと、彼女が降り立つより30年前に転生するように創造神ネアに願った。  そして転生した直人は、新しい家庭でナットという名前を与えられ、ネア様と、阿修羅様から貰った加護と学生時代からやっていた格闘技や、仕事にしていた医術、そして趣味の物作りやサバイバル技術を活かし冒険者兼医師として旅にでるのであった。  まずは最強の称号を得よう!  地球では神様と呼ばれた医師の異世界転生物語 ※元ヤンナース異世界生活 ヒロイン茜ちゃんの彼氏編 ※医療現場の恋物語 馴れ初め編

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

処理中です...