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決戦、エイルアン城

一筋の光 1

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 広くもないその部屋の中には、絶望的な空気が漂っていた。
 それも仕方ないことだろう、減る気配を見せない魔物達の姿に、こちらの戦力は目減りしていく一方だ。
 レオンはせめてクロードが居てくれればと感じていた。
 彼が居れば即死以外は治療できる、そうすれば戦力も今より維持できたし、彼ももっと大胆に戦うことも出来た筈だ。
 無いものねだりの幻想を振り払ったレオンは立ち上がると、崩れた壁が僅かに残るばかりの出入り口へと歩いていく。
 先ほど退けた攻勢に、立て直すための時間は終わったのか、徐々に近づいてくる足音が聞こえてきていた。

「駄目だ、レオン。コケロはもう・・・」
「そうか・・・もうすぐ敵がくる。ロイク、準備はいいか?」

 辛そうに仲間の死を告げるヒューマンの青年に、レオンは冷たく敵の接近を告げる。
 普段であればもう少し言い方を考える余裕もあっただろうが、度重なる戦闘において前線で戦い続けた彼には、そんな余裕はとっくに削り果てていた。

「仲間が死んだんだぞ!!もっとなにか・・・いや、悪い。そんな場合じゃないよな・・・なぁ、レオン。俺達はいつまで戦えばいいんだ?」

 レオンの冷たい態度に、彼に掴みかかろうとしたロイクと呼ばれた青年は、途中で思い留まると暗い表情で俯いていた。
 見れば彼の身体はボロボロで明らかに疲れ果てていた、それも無理はないだろう、クロードの力によって治療されたとはいえ、彼らは捕虜で病人だった。
 それがこれまで戦えていただけでも奇跡に等しい、しかしそれも一向に改善しない状況に心が折れてきてしまう。
 彼は縋るようにレオンに問いかけていた、一体いつまで戦い続ければいいのかと。

「・・・逃げ出したいなら、好きにしろ。そこに丁度いい穴がある・・・苦しくはない筈だ」

 彼の質問に沈黙を返したレオンは、真っ直ぐに腕を伸ばすとクロードが落ちていった穴を指し示す。
 確かにそこを通り抜ければ、ここから逃げ出せることは間違いないだろう、レオンのその振る舞いにロイクは乾いた笑みを返していた。

「そうか、そうだよな・・・ははは、分かっていたよ。それしかないって・・・」
「おい、ロイク!くっ・・・!」

 逃げ場のないという覚悟を求めたレオンの仕草は、ロイクに絶望を突きつけていた。
 彼はふらふらとその穴へと向かっていくと、その縁へと手を掛け崖下へと顔を覗かせる、
 レオンはそれを止めようと声を掛けるがもう遅い、ロイクはすでに彼の手の届かないところまで行ってしまっている。
 それを追かけようにもレオンの目の前にはすでに魔物達が迫っていた、他の者達の動きは鈍く、彼がそれに対応する以外の方法など残されていなかった。

「レオン・・・後は頼んだ」
「止めろロイク、誰か!誰かあいつを止めてくれ!!」

 壁の穴へと手を掛けたロイクが、そこから飛び降りるのを躊躇ったのは、自分がいなくなった後の事を心配したからか。
 しかしその彼の躊躇いも、一人で敵を押しとどめているレオンの姿を見れば解消される。
 彼はすっきりとした表情で、穴の向こうへと踏み出そうとしていた。
 レオンは必死に敵を押し返しながら、ロイクを止めろと仲間に向かって叫び声を上げる。
 しかし疲れ果てた皆の動きは鈍く、寧ろ死を選ぼうとしているロイクを羨ましそうに眺めている者すらいる始末だった。

「くっ、邪魔するな!!待て、ロイク!!なんだっ!?」

 突っ込んでくる魔物を押し返したレオンは、その僅かな猶予にロイクを止めようと駆け出した。
 レオンが魔物を迎撃しだしてからの時間は短くなく、それでもまだロイクが飛び降りていなかったのは、やはり彼も躊躇っていたからか。
 しかしそれもレオンが駆けてくるのを目撃すると、覚悟を決めた表情で踏み出そうとする。
 その動きに焦った表情を見せたレオンは、突如崩れた頭上の天井に驚きの声を上げていた。

「えっ!?うわぁ!?」
「ロイク!掴まれ!!」

 背後で起こった訳の分からない事態に驚いたロイクは、後ろを振り返りつつそのまま足を踏み出していた。
 後ろに傾いた重心は、なくなった足場に斜めに身体を落としている。
 空中に放り出された下半身に、斜めになった身体は床の端っこへと上半身をぶつけていた。
 痛みの反射か、咄嗟の生存本能かは分からないが床の縁にしがみついたロイクに、レオンは慌てて駆け寄って腕を伸ばしていた。

「レオン、俺は・・・」
「いいから!そんな事は後で考えろ!!」

 自らで死を選んだ筈なのに、今更助かろうとしている後ろめたさからレオンの手を掴むのを躊躇うロイクに、レオンは無理やりその手を掴んでいた。

「お前も手伝えぇぇぇ!!」
「お、おう!!うぅんんん!!!」

 幾ら鍛えられ頑健な身体を持っているといえど、小柄なレオンでは大人のロイクを引き上げるのには苦労する。
 さらにその身体は疲れ果てていた、全力で引っ張ってもジリジリとしか上がらないロイクの身体に、レオンは彼自身も助かろうとしろと叫んでいた。
 彼の言葉に今だに自らのずうずうしさを恥じていたロイクは、開き直ってしがみついた床をよじ登り始める。
 二人分の力で引き上げ始められたロイクの身体は、見る見るうちに部屋の中へと帰ってきていた。

「はぁっ、はぁ、はぁ・・・た、助かったよレオン」
「敵はどうなってる!?」

 部屋の中の床へと転がり込んだロイクは、恐怖と無理な運動で上がった息を整えると、レオンに対して感謝の手を差し伸べる。
 しかしレオンは自分が放り出した前線が気になっており、床に転がった背中をすぐに起こすとそちらへと顔を向けていた。
 伸ばした手の行き先をなくしたロイクはその手を顔へと近づけて、自らの頬を掻いてはなんともいえない表情を作っていた。

「なんだ・・・?どうして踏み込んで来ない?」

 ロイクを助けるために放り出していた剣を拾って、すぐさまやって来るであろう敵へと備えていたレオンは、崩れた壁の付近で立ち尽くしている魔物達の姿に、疑問の声を漏らす。
 彼らは一様に、先ほど崩れた天井の方へと視線を向けていた。
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