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決戦、エイルアン城

集う者たち 3

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「っ!逃げて、イダ!!」
「・・・ボクは、逃げない!」

 近づいてくるオーデンの圧力に、壁際まで追い詰められたイダにアンナは最後のお願いと呼びかける。
 その願いとは裏腹に、覚悟を決めたイダはナイフを構えて前へと進み出る。
 その先には、オーデンの巨大な手の平がすぐ傍まで迫っていた。


「げほっ、けほっ!あれ~?なんか見たことない所に出ちゃった」
「けほっ、けほっ・・・ちょっと!?しっかりしなさいよ!!」


 薄く光ったと思った壁が、すぐに崩れて落ちていく。
 そこからはどこかとぼけた表情をした青年と、舞い立つ煙に咳き込みながら文句を言っている金髪の少女が現れていた。

「にゃははは!!にいやん、ダメダメにゃー!!」
「そ、その!クロード様のおかげで、これまで魔物と遭遇せずに来れていますから!!」

 彼らの後からは、その頭の上の猫耳をぴょこぴょこと動かしている黒髪の少女と、一行の中で一番小柄な赤茶色の髪をした少女が出てきていた。
 その二人は壁が崩れた時に出た土煙が収まるのを待ってそこを通り抜けたのか、前の二人と違い咳き込むことはなかったようだ。

「えぇ~、でもさっきの部屋で魔物に遭遇してたような・・・」
「あ、あれは、その・・・小規模でしたから!敵地に潜入してることを考えれば、遭遇したうちにはいりませんよ!!」

 ティオフィラの指摘に地味に落ち込んでいたクロードは、彼をフォローするクラリッサの声にも疑問を呈していた。
 クラリッサは彼のそんな態度も、擁護する言葉を必死に紡ぎだす。
 実際の所、壁が崩れた際に汚れた分を除けば彼らの身体は綺麗なもので、消耗した様子も見受けられない。
 それを見ればクラリッサの言葉が嘘ではないことは、一目で分かるだろう。
 しかし度重なる失敗のためか、それとも傍にいる二人の少女の歯に衣着せぬ発言のためか落ち込んでいるクロードの態度は、一向に回復する様子を見せなかった。

『なんだぁ?壁をぶち破ってきたのか?それにしちゃ、なんか変だったな。魔法でも使ったのか?』

 壁を破壊して現れたクロード達の一向に、オーデンは思ったよりも驚いた様子を見せない。
 立て続けに起こっている良く分からない事態に、彼も慣れてきてしまったのだろうか、オーデンはそれよりもクロードがどうやって壁をぶち破ってきたのかが気になっていた。

「クロード、様・・・?クロード様!!来て下さったんですね!!」
「・・・クロード、助けて」

 鈍い反応を返すオーデンと違い、彼に捕まえられているアンナと、追い詰められているイダの反応は劇的だった。
 オーデンの腕に捕まえられて、その身体を締め付けられていたアンナは、クロードの登場に感動の涙を溢れさせる。
 オーデンによって壁際まで追い詰められていたイダは、クロードの登場に止まった彼の腕を見ると、慌ててそれから逃れクロードの下へと駆け寄っていた。

「おぉ!?イダじゃん!えっ、何でここにいるんだ?」
「・・・ん。早く、助けて」

 お腹の辺りに突っ込んできたイダを、どうにか受け止めたクロードは条件反射でその頭を撫で始めていた。
 それどころではない事態にも、ついついその感触を一通り堪能してしまったイダは、咳払いのような声を上げると、捕まえられたままのアンナを指し示し救援を求める。

「あれ、アンナか?こんな所に―――」
「アンナ!?こいつ!アンナを放せ!!」

 イダの指示にそちらへと視線を向けたクロードが、ようやくオーデンに捕まえられたアンナの姿を発見する。
 彼がのんびりとした反応を示そうとするのを遮って、親友を捕まえられて激昂したエミリアが弓を構えてオーデンの手へと狙いを定めていた。

『おいおい、こいつが見えないのか?そんなもん使ったら、当たっちまうぞぉ!!』
「くっ、卑怯な!!」

 弓を構えたエミリアに、これ見よがしにアンナの身体を突きつけてみせたオーデンは、彼女に撃てる訳はないと高らかに笑い声を上げた。
 オーデンの動きにも狙いを定め続けたエミリアは、やがて諦めるように弓を下げると彼に対して悪態を吐く。

「エミリアなら、いけるんじゃないか?即死じゃなきゃ、俺が治すぞ」
「私にあの子を撃てって言うの!?」
「いや、でもさ・・・それしかなくないか?放っておく訳にもいかないし」

 オーデンを矢で射抜くのを諦めたエミリアに、肩を寄せたクロードが潜めた声で話し始める。
 彼はアンナに当たってもいいから、攻撃すべきだと提案していた。
 その言葉にエミリアは激しく反発する、しかし彼女を解放するためにはそれしかないように、クロードには思えていた。

「うっ・・・でも、そうだ!そもそも無理なのよ!こんな即席の矢じゃ、到底狙いをつけられないもの」
「あー・・・それはそうだよなぁ。やっぱ、それじゃ難しい?」
「無理無理!コントロールできないから、頭に当たっちゃうかも」

 クロードの言い分にも一理あると感じたエミリアは、追い詰められた状況に反論の一手をその手に探り当てる。
 彼女が放とうとしていた矢は、クロードが通ってきた部屋にあった素材で適当に作った即席の矢だった。
 当然それらの出来は良くはなく、矢羽もなければ素材も統一されていない。
 一流と読んでもいい弓の腕前を持つエミリアも、流石にそんな矢では狙った所にそれを放つのは難しい。
 致命傷さえ避ければ治せるクロードの力も、即死させてはどうしようもない、それを使うのはあまりにリスクが高い選択に思えていた。

「どうしましょう?私とイダちゃんの投げナイフで狙いましょうか?」
「・・・無理、皮膚硬い」
「そうなの?私の魔法でも、それほど細かい狙いはつけられませんし・・・」

 クロード達の話し合いに加わったクラリッサは、自らのナイフを使うことを提案する。
 しかしオーデンの足にナイフを突き刺したイダの経験が、その案を難しいと否定した。
 思いっきり突き刺したナイフが肌を軽く抉った程度では、投げつけたそれなど大したダメージにもならないだろう。
 今だ回復しきっていない魔力に、細かい狙いをつけられる自信もないクラリッサは、それを手段とすることにも躊躇っていた。
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