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決戦、エイルアン城

捕虜収容所での戦い 1

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『これ、割とうまいな』
『そ、そうですか?』

 病室のような空間には、疲弊した空気が漂っている。
 その中でクロードは、ゴブリンから分けてもらった食料を口にしていた。
 しばらく何も口にしておらず空腹な彼には、それはおいしく次々に口へと放り込んでいる。
 彼のその様子に、隣に座ったゴブリンはどこか引いた表情を見せていた。

『それ、実は・・・』
「『いや、言わなくていいから!!正体を知っちゃうと食えなくなるだろ!!』おーい、レオンも食うか?結構いけるぞ」

 なんだかよく分からない茶褐色の固形物を口にするクロードに、その正体を告げようとしたゴブリンは、すぐに大声を出した彼に遮られる。
 この世界に転生してしばらく過ごした事で、見た目と味のギャップのある食べ物にも慣れてきた彼は、知らなくてもいい事は知らないようする術を身につけていた。

「俺はいいから、一人で食べてろよ」
「そうか?結構うまいのに」

 疲れて横になっている兵士達の中で休んでいたレオンは、クロードの誘いを一蹴する。
 それは兵士達も同じ思いだろう、いくら空腹とはいえゴブリン達の食べ物を平気で口にするクロードの姿は、彼らからも奇異の目で見られていた。

「それより、今度の壁はちゃんと持つんだろうな?」
「いやぁ~大丈夫でしょう、かなり丈夫に作ったから」

 レオンは立ち上がると、部屋の出入り口を塞いでいる壁へと視線を向ける。
 彼らは魔物の襲撃がある度、それを押し返してその間にクロードが壁を作り直しては、休憩するという事を繰り返していた。
 そのためで入り口の周辺は素材にされへこんだ床や壁が広がり、壊された壁の破片が至る所に広がっていた。

「しかし、このままじゃ正直ジリ貧・・・」

 クロードの力のおかげで死者の出ていない状況も、徐々に追い詰められていっている事には変わりない。
 直接的な戦闘には参加していないクロードはあまり疲労を感じさせていないが、それ以外の者達は積み重なる披露にぐったりと床に横になっていた。
 そんな状況を嘆いたクロードの言葉を遮るように、壁を叩く激しい音が響く。

『ここかぁ、人間共が立てこもってるって言うのは!!』
「ちっ!?もう来たのか!!」

 壁の向こうから響いた声は、今までの魔物達より野太く低い。
 それは壁を叩いた音の激しさからも窺えており、今度の魔物は今までのよりも強大だということが示されていた。
 すでにひびが入り始めている壁に、後どれくらいも持ちはしないだろう、レオンは剣を取ると慌てて立ち上がる。
 しかしそれは彼だけで、兵士達もゴブリンも床に蹲ったまま立ち上がろうとはしなかった。

「限界か・・・シラク、もう無理だ諦めろ!!撤退するしかない!!」
「ぐっ・・・無理かな、やっぱり?分かった、分かったよ!俺が退路作るから、それまで持たせろよ!!」

 周りの兵士達の様子に、レオンは限界を悟ってクロードに撤退を告げる。
 クロードはその言葉に抵抗する仕草を見せていたが、周りの様子を見ればそれも無理だとすぐに分かるだろう。
 それでも最後の抵抗と窺った言葉は、レオンの無言の圧力にすぐ黙殺されてしまう、彼は諦めに両手を掲げると急いで通路とは反対側の壁へと歩み寄っていた。

「頼んだぞ!・・・おい、そっちは!?」
「え?なんか不味いのか?」

 魔物達にも病人を隔離するという程度の考えはあったのか、捕虜の兵士達が集められているこの部屋は城の隅っこに存在した。
 撤退のための通路を作ろうとしているクロードは、その部屋のさらに隅っこへと両手を伸ばす。
 そこは城の外壁だ、そして城の外は断崖絶壁になっている。
 それに気づいたレオンが警告の声を上げてももう遅く、クロードの両手は輝きだしていた。

「よし、出来た・・・うわぁぁぁぁぁぁ!!!??」

 自らがやっていることがどれだけ危険か理解していないクロードは、ぼんやりとした表情で穴の開通を仲間へと告げる。
 彼は退路を出来た事をアピールしようと自然な動作で一歩踏み出しており、その先には体重を預けるべき地面など存在しなかった。

「おい馬鹿!?・・・くそっ!!」 

 あっという間に姿を消したクロードに、慌てて駆け寄ったレオンは彼の落下していく姿すら見つけられない。
 クロードが作った穴から顔を出した彼が見たのは、到底そこから逃げ出すことは出来そうもない高さの断崖だけだった。
 しょうもない失態によって絶たれた退路に、悪態を吐いたレオンは急いで部屋を塞ぐ壁へと戻る、そこはもはやすぐにでも壊れてしまいそうな状態となっていた。

「お、おいレオン!?シラク様は、シラク様はどうなったんだ!?もしや・・・」
「あいつは・・・あいつは大丈夫だ!!今はとにかくここを生き残る事だけ考えろ!!」

 レオンは一応、クロードが死んでも復活できる事を知っている。
 そのため彼が落下死してもさほど問題ないことは分かっていたが、それを安易に教える事は憚れた。
 レオンの視線は、部屋の隅で戸惑っているゴブリン達に向いていた。
 彼らにもクロードが特別な力を持っている事は分かっているだろう、たとえ言葉通じずとも復活の喜びを伝えれば、彼らにもそれが知られてしまうかもしれない。
 それは出来れば避けたいとレオンは考えていた、彼らは一時的に協力しているだけで味方ではない、まして通訳がいなくなった状況では敵対する公算の方が大きいのだから。

「大丈夫?確かに彼の治癒の力は凄まじいが・・・しかしこの高さでは」
「破られるぞ!!武器を取れ、戦う事でしか生き残れないぞ!!」

 レオンの適当な言葉を、兵士達はクロードの力によって納得しようとするが、それはやはり無理があるようだ。
 しかしそれは壁を叩く音が高くなれば、暴力の気配に塗り潰される。
 レオンはそれにかこつけて声を大きくし、彼らから思考の余地を奪おうと試みる。
 それは成功し、彼らはそれぞれに武器を掲げ、戦意を漲らせていた。
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