114 / 168
決戦、エイルアン城
捕虜収容所での戦い 1
しおりを挟む
『これ、割とうまいな』
『そ、そうですか?』
病室のような空間には、疲弊した空気が漂っている。
その中でクロードは、ゴブリンから分けてもらった食料を口にしていた。
しばらく何も口にしておらず空腹な彼には、それはおいしく次々に口へと放り込んでいる。
彼のその様子に、隣に座ったゴブリンはどこか引いた表情を見せていた。
『それ、実は・・・』
「『いや、言わなくていいから!!正体を知っちゃうと食えなくなるだろ!!』おーい、レオンも食うか?結構いけるぞ」
なんだかよく分からない茶褐色の固形物を口にするクロードに、その正体を告げようとしたゴブリンは、すぐに大声を出した彼に遮られる。
この世界に転生してしばらく過ごした事で、見た目と味のギャップのある食べ物にも慣れてきた彼は、知らなくてもいい事は知らないようする術を身につけていた。
「俺はいいから、一人で食べてろよ」
「そうか?結構うまいのに」
疲れて横になっている兵士達の中で休んでいたレオンは、クロードの誘いを一蹴する。
それは兵士達も同じ思いだろう、いくら空腹とはいえゴブリン達の食べ物を平気で口にするクロードの姿は、彼らからも奇異の目で見られていた。
「それより、今度の壁はちゃんと持つんだろうな?」
「いやぁ~大丈夫でしょう、かなり丈夫に作ったから」
レオンは立ち上がると、部屋の出入り口を塞いでいる壁へと視線を向ける。
彼らは魔物の襲撃がある度、それを押し返してその間にクロードが壁を作り直しては、休憩するという事を繰り返していた。
そのためで入り口の周辺は素材にされへこんだ床や壁が広がり、壊された壁の破片が至る所に広がっていた。
「しかし、このままじゃ正直ジリ貧・・・」
クロードの力のおかげで死者の出ていない状況も、徐々に追い詰められていっている事には変わりない。
直接的な戦闘には参加していないクロードはあまり疲労を感じさせていないが、それ以外の者達は積み重なる披露にぐったりと床に横になっていた。
そんな状況を嘆いたクロードの言葉を遮るように、壁を叩く激しい音が響く。
『ここかぁ、人間共が立てこもってるって言うのは!!』
「ちっ!?もう来たのか!!」
壁の向こうから響いた声は、今までの魔物達より野太く低い。
それは壁を叩いた音の激しさからも窺えており、今度の魔物は今までのよりも強大だということが示されていた。
すでにひびが入り始めている壁に、後どれくらいも持ちはしないだろう、レオンは剣を取ると慌てて立ち上がる。
しかしそれは彼だけで、兵士達もゴブリンも床に蹲ったまま立ち上がろうとはしなかった。
「限界か・・・シラク、もう無理だ諦めろ!!撤退するしかない!!」
「ぐっ・・・無理かな、やっぱり?分かった、分かったよ!俺が退路作るから、それまで持たせろよ!!」
周りの兵士達の様子に、レオンは限界を悟ってクロードに撤退を告げる。
クロードはその言葉に抵抗する仕草を見せていたが、周りの様子を見ればそれも無理だとすぐに分かるだろう。
それでも最後の抵抗と窺った言葉は、レオンの無言の圧力にすぐ黙殺されてしまう、彼は諦めに両手を掲げると急いで通路とは反対側の壁へと歩み寄っていた。
「頼んだぞ!・・・おい、そっちは!?」
「え?なんか不味いのか?」
魔物達にも病人を隔離するという程度の考えはあったのか、捕虜の兵士達が集められているこの部屋は城の隅っこに存在した。
撤退のための通路を作ろうとしているクロードは、その部屋のさらに隅っこへと両手を伸ばす。
そこは城の外壁だ、そして城の外は断崖絶壁になっている。
それに気づいたレオンが警告の声を上げてももう遅く、クロードの両手は輝きだしていた。
「よし、出来た・・・うわぁぁぁぁぁぁ!!!??」
自らがやっていることがどれだけ危険か理解していないクロードは、ぼんやりとした表情で穴の開通を仲間へと告げる。
彼は退路を出来た事をアピールしようと自然な動作で一歩踏み出しており、その先には体重を預けるべき地面など存在しなかった。
「おい馬鹿!?・・・くそっ!!」
あっという間に姿を消したクロードに、慌てて駆け寄ったレオンは彼の落下していく姿すら見つけられない。
クロードが作った穴から顔を出した彼が見たのは、到底そこから逃げ出すことは出来そうもない高さの断崖だけだった。
しょうもない失態によって絶たれた退路に、悪態を吐いたレオンは急いで部屋を塞ぐ壁へと戻る、そこはもはやすぐにでも壊れてしまいそうな状態となっていた。
「お、おいレオン!?シラク様は、シラク様はどうなったんだ!?もしや・・・」
「あいつは・・・あいつは大丈夫だ!!今はとにかくここを生き残る事だけ考えろ!!」
レオンは一応、クロードが死んでも復活できる事を知っている。
そのため彼が落下死してもさほど問題ないことは分かっていたが、それを安易に教える事は憚れた。
レオンの視線は、部屋の隅で戸惑っているゴブリン達に向いていた。
彼らにもクロードが特別な力を持っている事は分かっているだろう、たとえ言葉通じずとも復活の喜びを伝えれば、彼らにもそれが知られてしまうかもしれない。
それは出来れば避けたいとレオンは考えていた、彼らは一時的に協力しているだけで味方ではない、まして通訳がいなくなった状況では敵対する公算の方が大きいのだから。
「大丈夫?確かに彼の治癒の力は凄まじいが・・・しかしこの高さでは」
「破られるぞ!!武器を取れ、戦う事でしか生き残れないぞ!!」
レオンの適当な言葉を、兵士達はクロードの力によって納得しようとするが、それはやはり無理があるようだ。
しかしそれは壁を叩く音が高くなれば、暴力の気配に塗り潰される。
レオンはそれにかこつけて声を大きくし、彼らから思考の余地を奪おうと試みる。
それは成功し、彼らはそれぞれに武器を掲げ、戦意を漲らせていた。
『そ、そうですか?』
病室のような空間には、疲弊した空気が漂っている。
その中でクロードは、ゴブリンから分けてもらった食料を口にしていた。
しばらく何も口にしておらず空腹な彼には、それはおいしく次々に口へと放り込んでいる。
彼のその様子に、隣に座ったゴブリンはどこか引いた表情を見せていた。
『それ、実は・・・』
「『いや、言わなくていいから!!正体を知っちゃうと食えなくなるだろ!!』おーい、レオンも食うか?結構いけるぞ」
なんだかよく分からない茶褐色の固形物を口にするクロードに、その正体を告げようとしたゴブリンは、すぐに大声を出した彼に遮られる。
この世界に転生してしばらく過ごした事で、見た目と味のギャップのある食べ物にも慣れてきた彼は、知らなくてもいい事は知らないようする術を身につけていた。
「俺はいいから、一人で食べてろよ」
「そうか?結構うまいのに」
疲れて横になっている兵士達の中で休んでいたレオンは、クロードの誘いを一蹴する。
それは兵士達も同じ思いだろう、いくら空腹とはいえゴブリン達の食べ物を平気で口にするクロードの姿は、彼らからも奇異の目で見られていた。
「それより、今度の壁はちゃんと持つんだろうな?」
「いやぁ~大丈夫でしょう、かなり丈夫に作ったから」
レオンは立ち上がると、部屋の出入り口を塞いでいる壁へと視線を向ける。
彼らは魔物の襲撃がある度、それを押し返してその間にクロードが壁を作り直しては、休憩するという事を繰り返していた。
そのためで入り口の周辺は素材にされへこんだ床や壁が広がり、壊された壁の破片が至る所に広がっていた。
「しかし、このままじゃ正直ジリ貧・・・」
クロードの力のおかげで死者の出ていない状況も、徐々に追い詰められていっている事には変わりない。
直接的な戦闘には参加していないクロードはあまり疲労を感じさせていないが、それ以外の者達は積み重なる披露にぐったりと床に横になっていた。
そんな状況を嘆いたクロードの言葉を遮るように、壁を叩く激しい音が響く。
『ここかぁ、人間共が立てこもってるって言うのは!!』
「ちっ!?もう来たのか!!」
壁の向こうから響いた声は、今までの魔物達より野太く低い。
それは壁を叩いた音の激しさからも窺えており、今度の魔物は今までのよりも強大だということが示されていた。
すでにひびが入り始めている壁に、後どれくらいも持ちはしないだろう、レオンは剣を取ると慌てて立ち上がる。
しかしそれは彼だけで、兵士達もゴブリンも床に蹲ったまま立ち上がろうとはしなかった。
「限界か・・・シラク、もう無理だ諦めろ!!撤退するしかない!!」
「ぐっ・・・無理かな、やっぱり?分かった、分かったよ!俺が退路作るから、それまで持たせろよ!!」
周りの兵士達の様子に、レオンは限界を悟ってクロードに撤退を告げる。
クロードはその言葉に抵抗する仕草を見せていたが、周りの様子を見ればそれも無理だとすぐに分かるだろう。
それでも最後の抵抗と窺った言葉は、レオンの無言の圧力にすぐ黙殺されてしまう、彼は諦めに両手を掲げると急いで通路とは反対側の壁へと歩み寄っていた。
「頼んだぞ!・・・おい、そっちは!?」
「え?なんか不味いのか?」
魔物達にも病人を隔離するという程度の考えはあったのか、捕虜の兵士達が集められているこの部屋は城の隅っこに存在した。
撤退のための通路を作ろうとしているクロードは、その部屋のさらに隅っこへと両手を伸ばす。
そこは城の外壁だ、そして城の外は断崖絶壁になっている。
それに気づいたレオンが警告の声を上げてももう遅く、クロードの両手は輝きだしていた。
「よし、出来た・・・うわぁぁぁぁぁぁ!!!??」
自らがやっていることがどれだけ危険か理解していないクロードは、ぼんやりとした表情で穴の開通を仲間へと告げる。
彼は退路を出来た事をアピールしようと自然な動作で一歩踏み出しており、その先には体重を預けるべき地面など存在しなかった。
「おい馬鹿!?・・・くそっ!!」
あっという間に姿を消したクロードに、慌てて駆け寄ったレオンは彼の落下していく姿すら見つけられない。
クロードが作った穴から顔を出した彼が見たのは、到底そこから逃げ出すことは出来そうもない高さの断崖だけだった。
しょうもない失態によって絶たれた退路に、悪態を吐いたレオンは急いで部屋を塞ぐ壁へと戻る、そこはもはやすぐにでも壊れてしまいそうな状態となっていた。
「お、おいレオン!?シラク様は、シラク様はどうなったんだ!?もしや・・・」
「あいつは・・・あいつは大丈夫だ!!今はとにかくここを生き残る事だけ考えろ!!」
レオンは一応、クロードが死んでも復活できる事を知っている。
そのため彼が落下死してもさほど問題ないことは分かっていたが、それを安易に教える事は憚れた。
レオンの視線は、部屋の隅で戸惑っているゴブリン達に向いていた。
彼らにもクロードが特別な力を持っている事は分かっているだろう、たとえ言葉通じずとも復活の喜びを伝えれば、彼らにもそれが知られてしまうかもしれない。
それは出来れば避けたいとレオンは考えていた、彼らは一時的に協力しているだけで味方ではない、まして通訳がいなくなった状況では敵対する公算の方が大きいのだから。
「大丈夫?確かに彼の治癒の力は凄まじいが・・・しかしこの高さでは」
「破られるぞ!!武器を取れ、戦う事でしか生き残れないぞ!!」
レオンの適当な言葉を、兵士達はクロードの力によって納得しようとするが、それはやはり無理があるようだ。
しかしそれは壁を叩く音が高くなれば、暴力の気配に塗り潰される。
レオンはそれにかこつけて声を大きくし、彼らから思考の余地を奪おうと試みる。
それは成功し、彼らはそれぞれに武器を掲げ、戦意を漲らせていた。
0
お気に入りに追加
103
あなたにおすすめの小説
【改稿版】休憩スキルで異世界無双!チートを得た俺は異世界で無双し、王女と魔女を嫁にする。
ゆう
ファンタジー
剣と魔法の異世界に転生したクリス・レガード。
剣聖を輩出したことのあるレガード家において剣術スキルは必要不可欠だが12歳の儀式で手に入れたスキルは【休憩】だった。
しかしこのスキル、想像していた以上にチートだ。
休憩を使いスキルを強化、更に新しいスキルを獲得できてしまう…
そして強敵と相対する中、クリスは伝説のスキルである覇王を取得する。
ルミナス初代国王が有したスキルである覇王。
その覇王発現は王国の長い歴史の中で悲願だった。
それ以降、クリスを取り巻く環境は目まぐるしく変化していく……
※アルファポリスに投稿した作品の改稿版です。
ホットランキング最高位2位でした。
カクヨムにも別シナリオで掲載。
元34才独身営業マンの転生日記 〜もらい物のチートスキルと鍛え抜いた処世術が大いに役立ちそうです〜
ちゃぶ台
ファンタジー
彼女いない歴=年齢=34年の近藤涼介は、プライベートでは超奥手だが、ビジネスの世界では無類の強さを発揮するスーパーセールスマンだった。
社内の人間からも取引先の人間からも一目置かれる彼だったが、不運な事故に巻き込まれあっけなく死亡してしまう。
せめて「男」になって死にたかった……
そんなあまりに不憫な近藤に神様らしき男が手を差し伸べ、近藤は異世界にて人生をやり直すことになった!
もらい物のチートスキルと持ち前のビジネスセンスで仲間を増やし、今度こそ彼女を作って幸せな人生を送ることを目指した一人の男の挑戦の日々を綴ったお話です!
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
田舎暮らしと思ったら、異世界暮らしだった。
けむし
ファンタジー
突然の異世界転移とともに魔法が使えるようになった青年の、ほぼ手に汗握らない物語。
日本と異世界を行き来する転移魔法、物を複製する魔法。
あらゆる魔法を使えるようになった主人公は異世界で、そして日本でチート能力を発揮・・・するの?
ゆる~くのんびり進む物語です。読者の皆様ものんびりお付き合いください。
感想などお待ちしております。
王女に婚約破棄され実家の公爵家からは追放同然に辺境に追いやられたけれど、農業スキルで幸せに暮らしています。
克全
ファンタジー
ゆるふわの設定。戦術系スキルを得られなかったロディーは、王太女との婚約を破棄されただけでなく公爵家からも追放されてしまった。だが転生者であったロディーはいざという時に備えて着々と準備を整えていた。魔獣が何時現れてもおかしくない、とても危険な辺境に追いやられたロディーであったが、農民スキルをと前世の知識を使って無双していくのであった。
スキルが全ての世界で無能力者と蔑まれた俺が、《殺奪》のスキルを駆使して世界最強になるまで 〜堕天使の美少女と共に十の塔を巡る冒険譚〜
石八
ファンタジー
スキルが全ての世界で、主人公──レイは、スキルを持たない無能力者であった。
そのせいでレイは周りから蔑まされ、挙句の果てにはパーティーメンバーに見限られ、パーティーを追放させられる。
そんなレイの元にある依頼が届き、その依頼を達成するべくレイは世界に十本ある塔の一本である始まりの塔に挑む。
そこで待っていた魔物に危うく殺されかけるレイだが、なんとかその魔物の討伐に成功する。
そして、そこでレイの中に眠っていた《殺奪》という『スキルを持つ者を殺すとそのスキルを自分のものにできる』という最強のスキルが開花し、レイは始まりの塔で数多のスキルを手にしていく。
この物語は、そんな《殺奪》のスキルによって最強へと駆け上がるレイと、始まりの塔の最上階で出会った謎の堕天使の美少女が力を合わせて十本の塔を巡る冒険譚である。
チートを極めた空間魔術師 ~空間魔法でチートライフ~
てばくん
ファンタジー
ひょんなことから神様の部屋へと呼び出された新海 勇人(しんかい はやと)。
そこで空間魔法のロマンに惹かれて雑魚職の空間魔術師となる。
転生間際に盗んだ神の本と、神からの経験値チートで魔力オバケになる。
そんな冴えない主人公のお話。
-お気に入り登録、感想お願いします!!全てモチベーションになります-
神の宝物庫〜すごいスキルで楽しい人生を〜
月風レイ
ファンタジー
グロービル伯爵家に転生したカインは、転生後憧れの魔法を使おうとするも、魔法を発動することができなかった。そして、自分が魔法が使えないのであれば、剣を磨こうとしたところ、驚くべきことを告げられる。
それは、この世界では誰でも6歳にならないと、魔法が使えないということだ。この世界には神から与えられる、恩恵いわばギフトというものがかって、それをもらうことで初めて魔法やスキルを行使できるようになる。
と、カインは自分が無能なのだと思ってたところから、6歳で行う洗礼の儀でその運命が変わった。
洗礼の儀にて、この世界の邪神を除く、12神たちと出会い、12神全員の祝福をもらい、さらには恩恵として神をも凌ぐ、とてつもない能力を入手した。
カインはそのとてつもない能力をもって、周りの人々に支えられながらも、異世界ファンタジーという夢溢れる、憧れの世界を自由気ままに創意工夫しながら、楽しく過ごしていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる