終わる世界のブレイブス チート能力で楽して暮らそうと思ったら、人類が滅びかけてるんだが?

斑目 ごたく

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決戦、エイルアン城

逃げ出した先で 3

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『おいおい、どうするよこの状況?あの嬢ちゃん達はともかく、アレはやばいだろ?ていうか、あれ・・・ドラゴンじゃね?』
『まだ、子供のようだが・・・その力は侮れはしないな。一体どうやって手懐けたのか・・・』

 キュイの存在を警戒して距離を取っているアクスとヴァイゼの二人は、その姿にドラゴンの影を見る。
 イダによって突き刺されたナイフを抜き取って、その傷跡を軽く治療したヴァイゼはそこを押さえながら警戒を口にする。
 彼らの実力であればイダとアンナの二人ならば問題はなかったが、キュイを加わるとなると死を覚悟するしかなかった。

「レオン、城、いる。行こう」
「・・・近づくな」

 これからの方針が決まらず右往左往していたアンナとイダの二人に、デニスが近づいていき城へと戻ろうと促した。
 彼は二人の会話からレオンが城にいるらしい事を把握しており、そうであるならとアンナへと語りかけている。
 近づいてくるデニスにイダは手にしたナイフを突きつける、その後ろではアンナが彼女の背中に括りつけられた大盾を取り外そうとしていた。

「待って、イダ」
「・・・ん」

 腰に差したままの短槍を手に取ろうともしないデニスに、一方的に切り掛かろうとしていたイダをアンナが後ろから制止する。
 手に取った盾に前へと進み出たアンナの姿に、イダはどこか不満そうにしながらも後ろへと下がっていた。 

「あなたがレオンに会いたいって言うのは本当なの?信用していい?」
「嘘、じゃない。信用、して、くれ」
「じゃあ、私達をレオンの下まで連れて行ってくれる?」
「任せろ。心、当たり、ある」

 アンナとデニスは一定の距離を取って向き合うと、その真意を探りあう。
 といってもその会話は、デニスの方は最初から正直にその心の内を話しており、アンナが一方的に疑いをかけるというものであった。
 デニスの瞳を見詰めながら語りかけるアンナは、その目とこれまでの行動に偽りはないと判断し、彼に城の中での案内を頼む。
 それを快く受け入れたデニスは、自分達が先ほど出てきた秘密の通路へと足を向けていた。

「・・・いいの?」
「うん、彼は信用できると思う。・・・でも、こいつらは駄目。キュイ!」
「キュー!!」

 アンナとデニスの会話を黙って見守っていたイダは、その成り行きに本当にいいのかと彼女の脇から見上げている。
 心配そうな瞳を向けて来るイダの頭を優しく撫でたアンナは、入り口でこちらを待っているデニスへと視線を向けると信用を口にする。
 しかしその視線は、少し離れた場所にいるアクスとヴァイゼに向かうと鋭く変わり、指を差した腕にキュイへと命令を下していた。

「彼に悪いから殺しはしない。でも、戦えなくなるぐらいけちょんけちょんにしちゃいなさい!」
「キュー!!」

 アンナの指示に、キュイはのしのしと二人のゴブリンへと迫ってゆく。
 彼女はデニスへと視線をやって、それをしても大丈夫かと問いかけていたが、彼はそれを黙認していた。
 彼にとっても二人は一度は敵対した関係であり、これ以上邪魔される訳にもいかなかった。
 それにアンナの言葉や、キュイの雰囲気から殺されはしないだろうという思惑もあったのだろう。
 しかしそれは、実際にキュイが目の前に迫っている二人には分かりようのない事だった。

『ちょっと待ってくれ!俺達も従うから!!そいつをけしかけるのは止めてくれ!!』
『デニス、通訳しろ!!俺達もお前に従う!!』

 ずんずんと距離を詰めるキュイの姿に、アクスとヴァイゼの二人は崖へと追い詰められていた。
 二人がやたらと焦って動揺している姿が面白いのか、キュイはどこか上機嫌に笑っているようだった。
 しかしそれも二人にとっては恐怖の表情に変わる、彼らは必死に命乞いをしながら、デニスに取り成してくれるようお願いしていた。

「二人、も、従う」
「えー・・・どうしよっか、イダ」
「・・・大丈夫、裏切ったら刺す」

 彼の必死に訴えに、デニスはどこか嫌々ながらもその内容をアンナ達へと伝えていた。
 その言葉にアンナは対処を迷わせて言葉を濁す、しかしイダは安心しろとナイフを構えて見せていた。

「そっか、じゃあ別にいっか。キュイー、もういいよー」
「キュー?」

 イダの仕草を見てあっさり彼らを従える事を了承したアンナは、キュイにもういいと声を掛ける。
 ゴブリンの二人を頭で小突いて遊んでいたキュイは、彼女の声に名残惜しそうに頭を振っていた。

『はぁはぁ・・・た、助かったのか?』
『そのようだな・・・今はとにかく従っていよう。あのドラゴンと離れた後、隙を見て・・・』

 ゆっくりとアンナの下へと戻っていくキュイの姿に、アクスとヴァイゼの二人は上がった息を整える。
 キュイからすれば遊んでいただけの振る舞いも、彼らからすれば好きに身体を転がされているのと変わらない。
 ヴァイゼは一息吐くと、潜めた声でアクスへと語りかける、彼はこの場だけをうまく凌いで後で裏切る算段を考えていた。

「二人の事はあなたに任せるから、えーっと」
「デニス」
「デニスね。私はアンナで、こっちはイダだから」

 二人を従えたデニスは、通路へと向かっていく。
 アンナとイダの二人はキュイへと向き直っていた、彼女達がこれから向かう通路は狭く、どう考えてもキュイを連れて行くことは出来なかった。

「キュイ、助けに来てくれてありがとね。ここで大人しく待ってるのよ。知らない人がきても、ついていっちゃ駄目だからね」
「・・・これあげる」

 一時的とはいえ別離の空気を感じているのか、項垂れたキュイはその頭をアンナとイダにこすり付ける。
 キュイの頭を抱えて優しく撫でているアンナは、彼に言い聞かせるように言葉を重ね、イダは取り出した干し肉を分け与えていた。

「それじゃあね。行くよ、イダ」
「・・・うん」

 通路の出入り口で辺りを窺っていたデニスの下へと、アンナとイダは駆けてゆく。
 その後姿を、キュイは首を伸ばして見送っていた。

「キュー・・・」

 最後に寂しそうに鳴き声を上げたキュイは、二人の姿が見えなくなると、ゆっくりと森へと戻っていく。
 そこで横になった彼は、身体を丸めると静かに眠りに落ちていった。
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