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決戦、エイルアン城
囚われのアンナ 2
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『・・・行ったか?』
「誰!?」
牢屋へと下りてくる足音に、周りを慎重に窺うような声が続く。
その声にアンナはそちらへと視線を向けるが、薄暗い牢屋にその姿は見ることは適わなかった。
『大丈夫そうだな』
牢屋へと下りてきた人影は、その中に他の人影がない事に安堵すると、立てかけられていた松明を手に取った。
松明に照らされても光の加減が安定せずにその顔は良く分からない、近づいてくる人影の足音は静かで、腰に括られた鍵束だけがジャラジャラと音を立てていた。
「お前は、あの時の!!?」
『静かにしろ。お前をここから出してやる』
近づいてくる人影はゴブリンで、アンナにはその顔に見覚えがあった。
それはその腰に差している短槍に気づいたからかもしれない、友人であったヨランダを殺したゴブリンに、アンナは驚きと怒りの声を上げる。
彼女の声は意外なほどに大きく、それに慌てたデニスはすぐにその口を塞ぐと、鍵束を示していた。
「お前、ここから、出す」
「私達の言葉が分かるの!?ここから出してどうするつもり!!」
たどたどしい言葉遣いで人間の言葉を話すデニスに、アンナは驚き表情を歪める。
彼は彼女の解放を示していたが、彼女にはその理由が分からず、敵という事も相まって強い敵意を表していた。
「赤い、強い奴、会わせろ」
「レオンに?レオンに会ってどうするつもり!?」
デニスはテキパキとアンナの枷を外していく、両足を解放された彼女はそれでも不信感からか、彼から距離を取ろうとしていた。
「約束、するか?」
「ヨランダ殺したお前なんか、信用できるもんかっ!!」
アンナの片手の枷を外したデニスは、最後の拘束を外す前に彼女から約束を取り付けようと、静かに語りかける。
彼女は解放された片手で、彼が腰に差しているヨランダの短槍を取り返そうと手を伸ばすが、一歩距離を取ったデニスに簡単に躱されてしまっていた。
「早い、と、分からない。ゆっくり、喋れ」
「その槍は彼女の物だ、お前が殺したのか?」
アンナの動きに戸惑うデニスは、口早に捲くし立てる彼女の言葉が聞き取れていなかった。
その旨をデニスが伝えると、アンナは怒りを押し殺してゆっくりと事情を尋ねていた。
「彼女?女は、殺して、ない。俺、殺した、のは、男。この槍、そいつから、奪った」
「殺してない・・・?でも、サロモンさんを、お前はサロモンさんを殺したんだ!」
アンナの言ってる意味が分からないデニスは、正直に彼が知っている事実を話す。
彼女は予想していたのとは違う事情に驚くが、結局彼が敵である事には変わりなく、彼を睨みつけては怒鳴っていた。
「ここ、いると、お前、死ぬ。どうする?」
変わらないアンナの態度に、説得する事を諦めたデニスは彼女に選択を突きつける。
拙い言葉に彼は死という端的な事実だけを伝えてきたが、実際には先ほどの醜い魔物に散々弄ばれてから殺される事になるのだろう。
アンナは恐怖から身を震わせると、涙目でデニスを睨みつける。
「レオンに、レオンに会ってどうするつもり!まさか・・・」
「強い、理由、聞きたい」
自らが助かるためにはデニスの申し出を受けるしかないと理解したアンナは、それでも最後の一線として仲間を裏切れないと強い口調で彼を問いただす。
しかし彼女の疑いを遮って答えを返したデニスの言葉は、驚くほどに素朴なものだった。
「強い、理由・・・?それだけのために私を?」
「そうだ。それで、どうする?死ぬ、のか?」
その理由は、魔物達を裏切るにはあまりに軽いものに思え、アンナは戸惑いの声を漏らしてしまう。
しかしデニスはそれを恥じる事も、揺らぐ様子も見受けられなかった。
それだけ彼にとって、体格も年頃もさほど差がないように見えたレオンの実力が、衝撃的だったといえる。
この城においてのゴブリン達の待遇の悪さも、彼が力を求めた理由かもしれない。
彼はそれ以上語ろうとはせずに、アンナに選択を急ぐように迫っていた。
「分かった、私を連れて行って。それと教えて、ここ以外のどこに捕虜が捕まえられているの?そこに私の父もいる筈なの!!」
デニスと共に逃げることを決断したアンナは、それと共にここに来ようとしていた目的も問いかける。
彼女は元々、自らの父を助けるためにここにやってきたのだ。
せめてその居場所だけでも知りたいと願うのは、当然の事だった。
「・・・お前、父、知らない」
「そう、そうよね」
アンナの父を知らないと答えた、デニスの返答はもっともなものであった。
彼女の容姿はどちらかといえば母親にであり、そこから父の顔を想像しろというのは無理があるだろう、ただでさえ異種族間では顔の見分けがし辛いのだから。
「でも、捕虜、場所、知ってる」
「だったら!私をそこに・・・!」
彼女とは別の捕虜の居場所を知っているデニスの言葉に、急激に食いついてまだ繋がれたままの枷を軋ませる。
必死に訴える彼女の態度と裏腹に、デニスの表情は冷めていた。
「ダメ、お前、逃げる、先」
「・・・そう、ね。分かった、これを外して」
デニスに自らの逃亡が先だとはっきり告げられたアンナは、それに従う事しかなかった。
服装はそのままであったが、装備を取り上げられている彼女には、一人で抗う術などなくデニスを頼る他ない。
レオンに会いたいだけのデニスにとっても、他の捕虜をわざわざ助けに行く理由はない、それは例え先ほどのオーデンの発言を耳にして、捕虜の処刑が近いと知っていてもだ。
「・・・静か、ついてこい」
「・・・うん」
アンナを拘束する最後の枷を外したデニスは、その鍵束を投げ捨てると身を低くして歩き始める。
ついてこいと腕を振るデニスに、アンナは見よう見まねでついていく。
敵襲の知らせににわかに騒がしくなっていく城内に、彼らは隙を見て牢屋を脱出していた。
その騒動は彼らにとってプラスに働いたが、デニスは不思議に思い首を傾げてしまう。
敵襲の知らせは彼がアンナを助けるために行った虚報に過ぎない、それにもかかわらず城内の騒ぎは収まる気配を見せなかった。
「・・・どうしたの?」
「なんでもない。急ぐぞ」
物陰で立ち止まったままのデニスを、不審がったアンナが後ろから声を掛ける。
彼女の声に考えても仕方ないと頭を切り替えた彼は、足早に次の物陰へと駆けていく。
その後ろを、アンナが危なっかしい足取りでついていっていた。
「誰!?」
牢屋へと下りてくる足音に、周りを慎重に窺うような声が続く。
その声にアンナはそちらへと視線を向けるが、薄暗い牢屋にその姿は見ることは適わなかった。
『大丈夫そうだな』
牢屋へと下りてきた人影は、その中に他の人影がない事に安堵すると、立てかけられていた松明を手に取った。
松明に照らされても光の加減が安定せずにその顔は良く分からない、近づいてくる人影の足音は静かで、腰に括られた鍵束だけがジャラジャラと音を立てていた。
「お前は、あの時の!!?」
『静かにしろ。お前をここから出してやる』
近づいてくる人影はゴブリンで、アンナにはその顔に見覚えがあった。
それはその腰に差している短槍に気づいたからかもしれない、友人であったヨランダを殺したゴブリンに、アンナは驚きと怒りの声を上げる。
彼女の声は意外なほどに大きく、それに慌てたデニスはすぐにその口を塞ぐと、鍵束を示していた。
「お前、ここから、出す」
「私達の言葉が分かるの!?ここから出してどうするつもり!!」
たどたどしい言葉遣いで人間の言葉を話すデニスに、アンナは驚き表情を歪める。
彼は彼女の解放を示していたが、彼女にはその理由が分からず、敵という事も相まって強い敵意を表していた。
「赤い、強い奴、会わせろ」
「レオンに?レオンに会ってどうするつもり!?」
デニスはテキパキとアンナの枷を外していく、両足を解放された彼女はそれでも不信感からか、彼から距離を取ろうとしていた。
「約束、するか?」
「ヨランダ殺したお前なんか、信用できるもんかっ!!」
アンナの片手の枷を外したデニスは、最後の拘束を外す前に彼女から約束を取り付けようと、静かに語りかける。
彼女は解放された片手で、彼が腰に差しているヨランダの短槍を取り返そうと手を伸ばすが、一歩距離を取ったデニスに簡単に躱されてしまっていた。
「早い、と、分からない。ゆっくり、喋れ」
「その槍は彼女の物だ、お前が殺したのか?」
アンナの動きに戸惑うデニスは、口早に捲くし立てる彼女の言葉が聞き取れていなかった。
その旨をデニスが伝えると、アンナは怒りを押し殺してゆっくりと事情を尋ねていた。
「彼女?女は、殺して、ない。俺、殺した、のは、男。この槍、そいつから、奪った」
「殺してない・・・?でも、サロモンさんを、お前はサロモンさんを殺したんだ!」
アンナの言ってる意味が分からないデニスは、正直に彼が知っている事実を話す。
彼女は予想していたのとは違う事情に驚くが、結局彼が敵である事には変わりなく、彼を睨みつけては怒鳴っていた。
「ここ、いると、お前、死ぬ。どうする?」
変わらないアンナの態度に、説得する事を諦めたデニスは彼女に選択を突きつける。
拙い言葉に彼は死という端的な事実だけを伝えてきたが、実際には先ほどの醜い魔物に散々弄ばれてから殺される事になるのだろう。
アンナは恐怖から身を震わせると、涙目でデニスを睨みつける。
「レオンに、レオンに会ってどうするつもり!まさか・・・」
「強い、理由、聞きたい」
自らが助かるためにはデニスの申し出を受けるしかないと理解したアンナは、それでも最後の一線として仲間を裏切れないと強い口調で彼を問いただす。
しかし彼女の疑いを遮って答えを返したデニスの言葉は、驚くほどに素朴なものだった。
「強い、理由・・・?それだけのために私を?」
「そうだ。それで、どうする?死ぬ、のか?」
その理由は、魔物達を裏切るにはあまりに軽いものに思え、アンナは戸惑いの声を漏らしてしまう。
しかしデニスはそれを恥じる事も、揺らぐ様子も見受けられなかった。
それだけ彼にとって、体格も年頃もさほど差がないように見えたレオンの実力が、衝撃的だったといえる。
この城においてのゴブリン達の待遇の悪さも、彼が力を求めた理由かもしれない。
彼はそれ以上語ろうとはせずに、アンナに選択を急ぐように迫っていた。
「分かった、私を連れて行って。それと教えて、ここ以外のどこに捕虜が捕まえられているの?そこに私の父もいる筈なの!!」
デニスと共に逃げることを決断したアンナは、それと共にここに来ようとしていた目的も問いかける。
彼女は元々、自らの父を助けるためにここにやってきたのだ。
せめてその居場所だけでも知りたいと願うのは、当然の事だった。
「・・・お前、父、知らない」
「そう、そうよね」
アンナの父を知らないと答えた、デニスの返答はもっともなものであった。
彼女の容姿はどちらかといえば母親にであり、そこから父の顔を想像しろというのは無理があるだろう、ただでさえ異種族間では顔の見分けがし辛いのだから。
「でも、捕虜、場所、知ってる」
「だったら!私をそこに・・・!」
彼女とは別の捕虜の居場所を知っているデニスの言葉に、急激に食いついてまだ繋がれたままの枷を軋ませる。
必死に訴える彼女の態度と裏腹に、デニスの表情は冷めていた。
「ダメ、お前、逃げる、先」
「・・・そう、ね。分かった、これを外して」
デニスに自らの逃亡が先だとはっきり告げられたアンナは、それに従う事しかなかった。
服装はそのままであったが、装備を取り上げられている彼女には、一人で抗う術などなくデニスを頼る他ない。
レオンに会いたいだけのデニスにとっても、他の捕虜をわざわざ助けに行く理由はない、それは例え先ほどのオーデンの発言を耳にして、捕虜の処刑が近いと知っていてもだ。
「・・・静か、ついてこい」
「・・・うん」
アンナを拘束する最後の枷を外したデニスは、その鍵束を投げ捨てると身を低くして歩き始める。
ついてこいと腕を振るデニスに、アンナは見よう見まねでついていく。
敵襲の知らせににわかに騒がしくなっていく城内に、彼らは隙を見て牢屋を脱出していた。
その騒動は彼らにとってプラスに働いたが、デニスは不思議に思い首を傾げてしまう。
敵襲の知らせは彼がアンナを助けるために行った虚報に過ぎない、それにもかかわらず城内の騒ぎは収まる気配を見せなかった。
「・・・どうしたの?」
「なんでもない。急ぐぞ」
物陰で立ち止まったままのデニスを、不審がったアンナが後ろから声を掛ける。
彼女の声に考えても仕方ないと頭を切り替えた彼は、足早に次の物陰へと駆けていく。
その後ろを、アンナが危なっかしい足取りでついていっていた。
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