終わる世界のブレイブス チート能力で楽して暮らそうと思ったら、人類が滅びかけてるんだが?

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穏やかな日々の終り

アンナ救出戦 1

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 休憩だろうか、ゴブリン達は各々に寛いだ姿勢で休んでいる。
 彼らは干し肉や、なにやら固形の保存食を取り出すとそれを齧っていた。
 アンナの身体は彼らの中心近くに横たえられ、休憩の最中にも二名以上の監視が常についている。
 それらを近くの茂みから注視しているレオンとクロードは、息を潜めて救出のチャンスを窺っていた。

「なぁ・・・お前の実力なら、ちゃっちゃと突っ込んで助けられるんじゃないか?」

 潜めた声に、クロードは隣のレオンに語りかける。
 彼がレオンから一刻も早く逃げ出したいと思っているのは本心だが、アンナを今すぐ助け出したいと願っているのも本当だった。
 クロードは地面に横たえられているアンナに心配そうな表情を向ける、どんな怪我をも治せる力も死んでしまえば意味がない、彼は一刻も早く彼女を治療したかった。

「・・・ゴブリン共を蹴散らすだけなら、たぶん問題ない。だが、それはアンナの安全を考えなければだ。あいつらはアンナを人質にするぞ、当たり前だがな」

 ゴブリンの集団をつぶさに観察したレオンは、その実力も慎重に測っていく。
 彼の見立てでは自らに脅威になるほどの実力者はそこにいなかった、ましてやクロードの能力も利用出来るとあれば負けることはないだろう。
 しかしそれは、アンナの事を考慮に入れなければだ。
 彼らが彼女を人質にして交渉しようとする程度の知能があればいいが、最悪の場合自棄になった彼らが腹いせに彼女を殺すかもしれない、それを防ぐ手立てはレオンにはなかった。

「そうか、うまくいかないな。俺に出来る事なら何でも言えよ?協力するから」 
「その時になれば、頼むさ・・・待て、何か動きがあるぞ」

 うまくいかない現実に溜息を漏らしたクロードは、レオンに全面的な協力を申し出る。
 彼の提案に頷いたレオンは、続いて何かを言おうとしたクロードの言葉を遮ると、ゴブリン達に鋭い視線を向けた。
 彼の視線の先では、ゴブリン達の集団から何人かのゴブリンがどこかへと向かおうとしていた。

「水でも汲みに行くのか・・・今ならいけるか?」
「ど、どうするんだ?」

 注意深く窺う視線の中、数人のゴブリンは集団から離れていき森の向こうへと消えていく。
 元々そう多くはなかった集団に、今ではその数は半数近くへと減っている。
 レオンは静かに唾を飲み込むと、突撃の算段を立て始めていた。
 その様子にクロードも生唾を飲み込む、それは粘ついて喉に絡みつき、彼の言葉をたどたどしくさせた。

「突っ込むぞ!フォローしろ、シラク!!」
「お、おう!!」

 突撃を決断したレオンは一気に茂みを抜けると、ゴブリン達へと躍り掛かっていく。
 彼にフォローを頼まれたクロードは、何をすればいいのか分からずに、とりあえず弓を構えて茂みを飛び出していた。

『なんだ!?敵襲だと!!?』
『ヒューマンだ!!あの女を取り戻しに来たぞ!!』

 二人の登場に寛いでいたゴブリン達は、驚き慌てて周囲に放っておいた武器を取りに走る。
 彼らの中には二人の種族がヒューマンだと見抜き、アンナを助けに来たのだと大声で知らせている者もいた。

「何を言っている!?教えろ、シラク!!」
「俺達がアンナを救いに来たってばれた!!不味いんじゃないか!?」

 彼らを指差しながら何事か叫んでいたゴブリンを切り伏せたレオンは、そいつが何を叫んでいたかをクロードへと尋ねる。
 必要になるであろう状況にゴブリンの言葉に耳を傾けていたクロードは、その内容から自分達の目的がばれてしまったと焦っていた。

「ちぃ!そこを、どけぇぇぇぇっ!!!」

 クロードから知らされた不味い状況は、レオンの心にも焦りを生んでいた。
 彼は短く舌打ちをすると、雄叫びを上げながら駆け出し始める。
 その勢いは凄まじく、ゴブリン程度では障害にもならないだろう。

『あの女を使え!助けに来たなら人質に使える!!』
『任せろ!』

 レオンの突撃を目にしたゴブリンの中で、短槍をその手にしたゴブリンは周りの者に対して、アンナを人質に取れと命令を下した。
 それに反応して、彼女に近くにいたゴブリンが駆け出していく。
 彼女の周りには監視の人員がいた筈だが、突然の浮き足立ったゴブリン達は二人の襲撃の対応を優先して、彼女の周りから離れてしまっていた。

「不味い!!奴らアンナを人質にする気だ!!!」
「分かってる!!シラク、なんとか時間を稼げ!!!」

 ゴブリンの会話を聞いていたクロードに言われずとも、彼らの動きを見たレオンはそれを悟っている。
 猛烈な勢いでゴブリン達を突破していくレオンも、根本的な距離の違いはどうする事も出来ない。
 自分ではどうする事も出来ない状況に彼は、クロードの力に打開策を求めていた。

「えぇ、俺かよ!?くそっ、間に合うのか!?」

 レオンの無茶振りに戸惑いの声を上げたクロードは、焦る気持ちを抱えながら地面へと両手をつけると、その力を発動させた。
 つい先ほどまで自らが乗って移動していたものと、同じような形状の土の塔を目の前から伸ばした彼は、それをアンナへと向かわせる。

『なんだあれは!?魔法か、魔法なのか!?』
『あいつだ、あいつが使ったぞ!!』

 混乱する状況の中で、強力な力を持つ魔法使いが現れれば、それに拍車も掛ける。
 クロードの力を目の当たりにして驚愕と恐怖の声を上げたゴブリン達は、血走った目で彼の事を指し示す。
 その目には強い殺意と、怯えが覗いていた。

「これで、どうだ!!」

 地面から伸びる土の塔の速度は速い、それは先を走っていたレオンを容易に追い越し、アンナに迫ろうとしていたゴブリンをも追い抜いた。
 アンナの目の前まで伸びた塔を目視したクロードは、集中するとその先端の形状を変更する。
 筒状へと変わった先端は、その円周を放射状に広げるとアンナの周辺へと突き刺さっていた。

「よくやった!!これなら・・・邪魔だぁ!!!」

 土の檻の中へと匿われたアンナの姿にレオンは歓声を上げると、その力に呆気に取られていたゴブリンを切り伏せる。
 アンナの周辺まで迫っていたゴブリン達は、立ち塞がる土の壁の前に手をこまねいていた。

『お前ら下がれ!!こんなものっ!!!』

 ゴブリン達が土の壁の前に手をこまねいていたのは、それが未知の力の手によるものだからか。
 彼らの様子に怒りの声を上げた短槍を持ったゴブリン、デニスはその手の短槍を振り上げると、壁へと打ち付けていた。

「くそっ!厚くなんかしてる暇なかったぞ!!」

 あっさりと突き破られた壁は、速度を重視せざるを得なかった状況が作った結果だ。
 デニスの行為を目撃したゴブリン達は、彼に従って壁を壊し始める、その速度は今更壁を厚くした程度ではどうにもなりそうはなかった。

「問題ない!!これなら―――」

 しかしその稼いだ僅かな時間に、レオンはアンナのすぐ傍まで迫っていた。
 彼は剣を振り上げると、土の壁を取り囲むゴブリンごと、それを破壊しようと力を込める。
 彼の能力を持ってすればそれは可能だろう、デニスがそれを防ごうと槍を構えるが、間のゴブリンが邪魔して間に合う筈もない。
 レオンの剣は今、振り下ろされる。

「ちぃ!?・・・そういう事か」

 レオンを狙った矢が飛来し、彼はそれを切り払う軌道に剣先を切り替える。
 続けざまに放たれた矢に、彼はその場から飛び退くしかなかった。
 矢が飛来した方向へと視線をやったレオンは、何かに納得したような言葉を呟いていた。

「なんだ!?なにがあった!?」

 なんとか土の壁を厚くしようと苦心しているクロードは、何故レオンがそんな動きをしたのか理解できない。
 しかしそれも森の木々の間から現れた、ゴブリンの姿を見れば納得も出来る。
 その数は森の奥へと消えていった彼らよりも随分と多く、後方には巨体を誇るオーガの姿も見えていた。

「増援を呼びに行っていたのか。いや、他の部隊と合流したのか?」
「おいおいおい!?どうすんだよこれ!?流石にやばいんじゃないか!!」

 彼らを取り囲むように現れたゴブリン達に、レオンはその理由を一人推測する。
 ゴブリンの顔の違いなどヒューマンである彼には見分けがつかないが、体格や装備の違いから先ほど森の奥に消えていったゴブリンも、彼らと共に帰ってきたのは明白だった。
 増援だと考えた一瞬に、その早さから合流だと結論を下す。
 彼の後方からは、この窮地に焦った声を上げるクロードの動揺だけが響いていた。
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