終わる世界のブレイブス チート能力で楽して暮らそうと思ったら、人類が滅びかけてるんだが?

斑目 ごたく

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穏やかな日々の終り

ゴブリンの強者達 2

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『アクス!!』
『なんだぁ!おっと!?まだまだ甘いなぁ!』

 声を掛けてきたヴァイゼに反応したアクスは、一瞬注意をそちらへと向ける。
 それを見逃すエミリアとイダではなく、二人は同時に攻撃を放っていた。
 それでもアクスは油断などしておらず、エミリアの攻撃を軽く躱すと、イダのナイフは逆に弾き飛ばしてみせた。

『矢も残り少ない!ここらが潮時だ!!』

 ヴァイゼの声に撤退の予感を感じていたのか、二人の攻撃を退けたアクスは素早く飛び退いて距離を取っていた。
 矢筒の中身をアクスにだけ見えるように傾けたヴァイゼは、戦う術が無くなりつつある事を主張する。
 彼らは自らの戦前の予想を覆し、ここまで互角以上に戦っていた。
 しかしそれはリソースを削りながら、相手の好きにやらせないように戦い続けた結果であり、それには限界があった。

『・・・ちっ!そうかよ。・・・てめぇら、死ぬ気で掛かりやがれぇ!!!』

 確実に数を減らしていく手懐けた狼に、限界を薄々悟っていたアクスは一つ舌打ちをすると、指を咥える。
 彼を指笛を吹いて連れてきた狼を全て集めると、それに死ぬ気で時間を稼げと命令を下した。
 その隙だらけの姿にエミリアとイダは攻撃を加えようとするが、それはヴァイゼが残り少ない矢を放って牽制していた。

『ずらかるぞっ!!』
『あぁ!!』

 一目散に逃げ始めた彼らに、近くにいたエミリアとイダは追撃を掛けようとするが、その足の遅さでイダはあっさりと引き離されてしまう。
 足の速いエミリアは彼らの背中へと迫ろうとするが、牽制の矢を放つヴァイゼに後一歩距離を詰めれずにいた。

「エミリア離れて!ファイヤー・・・」
『甘い!』
「くっ!?アロー!!」

 放っていた杖を再び手にしたクラリッサは、その先を逃亡する二人へと向ける。
 彼女は彼らに向かって炎の矢を放とうとするが、そこをヴァイゼによって狙われてしまう。
 彼の放った矢は、咄嗟の狙いに彼女の身体を掠めただけだったが、それに動揺してしまったクラリッサが放った魔法は、二人の姿を捉える事はなかった。

『おおっ!?怖い怖い!やっぱ、あいつを潰しといて正解だったな!!』
『そうだな』

 彼の横を通り過ぎていく炎の矢の姿に、アクスとヴァイゼの二人は戦々恐々とした声を上げる。
 彼らは徹底して、攻撃魔法の使い手であるクラリッサの事を警戒していた。
 それは彼女が終始、狼によって襲われ続けた事からも窺える。
 彼らにとって彼女が接近戦を行うために杖を手放していた事は幸運だった、彼らは彼女が再びそれを手にする事ないように警戒するだけで済んだのだから。

「待てっ!!逃がすもんか!!」

 クラリッサの魔法の軌道から逃れるために姿勢を低くしていたエミリアは、外れたそれに二人の追跡を再開する。
 彼らの速度は互角か、僅かにエミリアの方が速いように思える。
 それは彼女が重たい斧を投げ捨てた事で、より顕著になっていた。

『これで・・・最後!』

 近づいてくるエミリアに、ヴァイゼはその最後の矢を放つ。
 僅かに減速して放った矢は、致命的な部分を狙えるほど正確ではない。
 それでも彼の狙いを考えれば、それはそれほど問題にはならないだろう、その矢はエミリアの身体へと迫っていた。

「その、程度っ!!」

 軽いステップを踏んで飛んでくる矢を躱したエミリアは、僅かに減速しただけで追跡を続けている。
 それで出来た猶予程度では、いずれ彼らは追いつかれてしまうだろう。
 追い詰められていく状況にも、ヴァイゼはどこか余裕そうに唇を吊り上げていた。

「ぐぅぅ、がぁっ!!」
「くっ、今はお前なんかに・・・!?」

 横合いから飛び掛ってきた狼が、エミリアの身体に覆い被さり押し倒す。
 地面に背中を着く前に素早くナイフを抜き取ったエミリアだが、そこまで得意ではないその扱いに、一撃で仕留めるとはいかない。
 その間にも、逃げる二人との距離は開いていってしまう。

『・・・どうやら、大丈夫そうだな?あ~ぁ、せっかく鍛えた奴らをほとんど失っちまった・・・ま~た、一からかよ』

 狼に組み敷かれ、その対処に時間が掛かっているエミリアの姿に、彼らは逃亡の成功を確信して安堵の息を漏らす。
 しかしアクスはそのために犠牲にした手駒の数を考え、溜息を吐いては意気消沈していた。

『だが、そのお陰で助かった』
『ま、命に代えられねぇわな』 

 ヴァイゼは必要な犠牲だったと、アクスに語り掛ける。
 その言葉に、彼もどこか悟ったようなすっきりとした表情で空を見上げていた。

『しかし、思った以上に手強かったな・・・こりゃ、あっちの方は不味いかも知れねぇな』
『確かに・・・あの、おそらく少女だと思われる奴が彼女らと同程度であれば・・・』

 彼らは彼方において、少女を追跡しているであろう同胞を思い、その未来を懸念する。
 彼らの後方では、ようやくエミリアへと追いついたイダが、彼女を組み敷いている狼を切り伏せていた。
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