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育成の始まり
クロードとエミリア 3
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シャクシャクと芋を咀嚼する音が、爆ぜては舞い散る火の粉の音と重なっている。
完全に日が落ちた闇に、洞窟の中の焚き火だけが仄かな灯りとなって周りを照らす。
その周りに木の棒に刺され熱されている、長芋の様な芋を齧っていたエミリアは、クロードがその様子を眺めているのに気付くと顔を背けていた。
「・・・どうだ、うまいか?」
「・・・おいしいわよ!悪い!?お腹ペコペコだったんだから、当たり前でしょ!!」
長芋に齧りつくエミリアの表情を眺めていたクロードは、ニヤニヤと笑みを作りながら彼女の味の感想を求める。
その見透かすような表情に反発して彼女は大声で感想を返すが、その口元には長芋の欠片が張り付いていた。
「ついてるぞ。どれ・・・俺も一つ貰うかな。なるほどなるほど、これはあれだな。あれが効いてるな、えーっと・・・」
「オレガノグラス。本当は乾燥させて、粉末にして使うんだけど・・・あんたがいると、一瞬で出来るから助かるわね」
自らの口元を指で示してエミリアのそれを指摘したクロードは、火に掛けられた長芋を一つ取るとそれに齧りつく。
もごもごと咀嚼しながら味わっていた彼は、中々の美味しさに納得を頷いた。
彼はその味の決め手となったものの名前を思い出そうとするが、うまく出てこずに詰まってしまう。
口元の欠片を舌で舐め取ったエミリアはそれを教えると、彼の力の便利さに感心する声を漏らしていた。
「そうそう、それそれ!いやぁ、ようやくこの能力の使い方も分かってきたって感じだな。それじゃ俺はそろそろ寝るから、後の事はよろしくなー」
エミリアが教えてくれた名前に嬉しげに膝を叩いたクロードは、一口に残りの長芋を呑み込んだ。
すでに食事を終えた事もあって、それほどお腹が空いていなかった彼は、それだけで満足するといそいそと寝床へと向かっていく。
彼の力で作られた藁の寝床はみすぼらしい見た目と裏腹に、それなりに暖かそうだった。
「はいはい・・・って、ちょっと待ちなさいよ!見張りの交代とか、色々と決めとかなきゃいけない事があるでしょ!!」
「んぁ?それは、俺が後って事で・・・」
クロードが寝床に向かうのを流れで見送っていたエミリアは、無視できないあれやこれやに声を荒げる。
疲れていたためか、僅かな時間ですでに眠りの世界に半分浸かっていたクロードは、寝惚け眼を擦りながら適当な返答を返していた。
「それに、あるでしょ・・・言わないといけない事が」
「・・・何の話?」
「私があんたの指示に従わない事よ!!そのせいでこんな事になってるんだから、怒りなさいよ!!」
歯切れ悪くクロードに話題を誘うエミリアは、それに聞き返した彼の間抜け面に我慢できずに叫びだす。
それは自らの孤立を咎める内容で、罪の告白のような絶叫に彼女は肩を震わせていた。
「あ~、それな。実際、なんでなんだ?割とうまくいってるよ、俺達」
「知ってる、知ってるわよ私だって!!・・・でも、私は」
エミリアの告白にようやく思い出したように座り直したクロードは、片肘をついた姿勢で気軽に彼女にその理由を尋ねていた。
クロードはうまくいっている自分達に、エミリアが何故孤立を選ぶのか心底分からないといった様子だった。
しかしそれは散々見てきた彼らの様子に、彼女も同じように感じているものであった。
「私は、里で一番の弓の使い手のお母さんと、魔法の使い手のお父さんの娘よ!その私が、弓を捨てることなんて出来ない!!」
彼女は死んでしまった両親に、強い憧れを抱いていた。
その背中を追う事は彼女にとって義務であり、誇りでもあった。
その想いが彼女に自らの才能を否定させる事になる、吐露した感情に彼女は縋るように壊れた弓を抱きしめる。
その姿は、今の彼女を象徴しているようだった。
「ん~?だったら捨てなくて良くない?」
「そんなの・・・!私を慰めるために誤魔化しをっ!!」
痛々しいエミリアの姿とは対照的に、クロードは終始リラックスした姿勢で適当な返答を繰り返す。
その言葉は。あまりに身も蓋もない。
エミリアはそれを彼女を慰めるための言葉だと解釈して、激昂していた。
「いや・・・他の皆も結構今までの技能を生かしてるし、ティオなんかほとんどそのままな感じで戦ってるぞ?大体俺は始めから言ってるじゃないか、別に弓も使っていいし、何なら魔法も覚えてもいいんだぞ?」
「それは、そうだけど・・・でも!そんなやり方じゃ、何もかも中途半端になる!!そんなんじゃ、お母さんやお父さん、皆に・・・!!」
彼の適当な言葉を否定するエミリアも、現実に目にした光景は否定できない。
クロードに従う少女達は、彼の言うとおり今まで培った技能を生かして戦っている、それを目の当たりにしてきた彼女は反論の言葉を迷わせていた。
彼は彼女に魔法の習得すら勧めてきた、しかしそれは彼女が一流の弓の使い手になるために諦めた道だ。
彼女はその時と同じ理由で、彼に反論する。
「それは気にしなくても良くない?俺の能力は知ってるだろ?なら問題ないじゃん。じゃ、そういう事なんでー」
「ちょっと、まだ・・・!!」
終わっていないと続けようとした言葉は、終わってしまった結論に呑み込むことしか出来なかった。
彼の能力、十倍の成長促進を素直に考えれば、十種類の技能を極める事すら可能となる。
それを考えれば、三つの技能を極めようとする事など、なんと言う事もないだろう。
氷解した葛藤に、彼女は膝をつく。
その向こうには、クロードが穏やかな寝息を立て始めていた。
「あーぁ・・・ほんと、なにやってたんだろう、私」
ついた膝に脱力した身体は、ずるずると壁へと寄りかかる。
彼女はそのまま蹲ると、そっと脇に置いた弓を指で撫でた。
「ふふっ、だらしない寝顔。ほっんと、変な奴・・・」
クロードの横の寝床に座ったエミリアは、彼の寝顔を眺めると、そのだらしない表情に笑みを零す。
彼女は彼の髪を優しく梳くと、穏やかな表情でそれをずっと眺めていた。
完全に日が落ちた闇に、洞窟の中の焚き火だけが仄かな灯りとなって周りを照らす。
その周りに木の棒に刺され熱されている、長芋の様な芋を齧っていたエミリアは、クロードがその様子を眺めているのに気付くと顔を背けていた。
「・・・どうだ、うまいか?」
「・・・おいしいわよ!悪い!?お腹ペコペコだったんだから、当たり前でしょ!!」
長芋に齧りつくエミリアの表情を眺めていたクロードは、ニヤニヤと笑みを作りながら彼女の味の感想を求める。
その見透かすような表情に反発して彼女は大声で感想を返すが、その口元には長芋の欠片が張り付いていた。
「ついてるぞ。どれ・・・俺も一つ貰うかな。なるほどなるほど、これはあれだな。あれが効いてるな、えーっと・・・」
「オレガノグラス。本当は乾燥させて、粉末にして使うんだけど・・・あんたがいると、一瞬で出来るから助かるわね」
自らの口元を指で示してエミリアのそれを指摘したクロードは、火に掛けられた長芋を一つ取るとそれに齧りつく。
もごもごと咀嚼しながら味わっていた彼は、中々の美味しさに納得を頷いた。
彼はその味の決め手となったものの名前を思い出そうとするが、うまく出てこずに詰まってしまう。
口元の欠片を舌で舐め取ったエミリアはそれを教えると、彼の力の便利さに感心する声を漏らしていた。
「そうそう、それそれ!いやぁ、ようやくこの能力の使い方も分かってきたって感じだな。それじゃ俺はそろそろ寝るから、後の事はよろしくなー」
エミリアが教えてくれた名前に嬉しげに膝を叩いたクロードは、一口に残りの長芋を呑み込んだ。
すでに食事を終えた事もあって、それほどお腹が空いていなかった彼は、それだけで満足するといそいそと寝床へと向かっていく。
彼の力で作られた藁の寝床はみすぼらしい見た目と裏腹に、それなりに暖かそうだった。
「はいはい・・・って、ちょっと待ちなさいよ!見張りの交代とか、色々と決めとかなきゃいけない事があるでしょ!!」
「んぁ?それは、俺が後って事で・・・」
クロードが寝床に向かうのを流れで見送っていたエミリアは、無視できないあれやこれやに声を荒げる。
疲れていたためか、僅かな時間ですでに眠りの世界に半分浸かっていたクロードは、寝惚け眼を擦りながら適当な返答を返していた。
「それに、あるでしょ・・・言わないといけない事が」
「・・・何の話?」
「私があんたの指示に従わない事よ!!そのせいでこんな事になってるんだから、怒りなさいよ!!」
歯切れ悪くクロードに話題を誘うエミリアは、それに聞き返した彼の間抜け面に我慢できずに叫びだす。
それは自らの孤立を咎める内容で、罪の告白のような絶叫に彼女は肩を震わせていた。
「あ~、それな。実際、なんでなんだ?割とうまくいってるよ、俺達」
「知ってる、知ってるわよ私だって!!・・・でも、私は」
エミリアの告白にようやく思い出したように座り直したクロードは、片肘をついた姿勢で気軽に彼女にその理由を尋ねていた。
クロードはうまくいっている自分達に、エミリアが何故孤立を選ぶのか心底分からないといった様子だった。
しかしそれは散々見てきた彼らの様子に、彼女も同じように感じているものであった。
「私は、里で一番の弓の使い手のお母さんと、魔法の使い手のお父さんの娘よ!その私が、弓を捨てることなんて出来ない!!」
彼女は死んでしまった両親に、強い憧れを抱いていた。
その背中を追う事は彼女にとって義務であり、誇りでもあった。
その想いが彼女に自らの才能を否定させる事になる、吐露した感情に彼女は縋るように壊れた弓を抱きしめる。
その姿は、今の彼女を象徴しているようだった。
「ん~?だったら捨てなくて良くない?」
「そんなの・・・!私を慰めるために誤魔化しをっ!!」
痛々しいエミリアの姿とは対照的に、クロードは終始リラックスした姿勢で適当な返答を繰り返す。
その言葉は。あまりに身も蓋もない。
エミリアはそれを彼女を慰めるための言葉だと解釈して、激昂していた。
「いや・・・他の皆も結構今までの技能を生かしてるし、ティオなんかほとんどそのままな感じで戦ってるぞ?大体俺は始めから言ってるじゃないか、別に弓も使っていいし、何なら魔法も覚えてもいいんだぞ?」
「それは、そうだけど・・・でも!そんなやり方じゃ、何もかも中途半端になる!!そんなんじゃ、お母さんやお父さん、皆に・・・!!」
彼の適当な言葉を否定するエミリアも、現実に目にした光景は否定できない。
クロードに従う少女達は、彼の言うとおり今まで培った技能を生かして戦っている、それを目の当たりにしてきた彼女は反論の言葉を迷わせていた。
彼は彼女に魔法の習得すら勧めてきた、しかしそれは彼女が一流の弓の使い手になるために諦めた道だ。
彼女はその時と同じ理由で、彼に反論する。
「それは気にしなくても良くない?俺の能力は知ってるだろ?なら問題ないじゃん。じゃ、そういう事なんでー」
「ちょっと、まだ・・・!!」
終わっていないと続けようとした言葉は、終わってしまった結論に呑み込むことしか出来なかった。
彼の能力、十倍の成長促進を素直に考えれば、十種類の技能を極める事すら可能となる。
それを考えれば、三つの技能を極めようとする事など、なんと言う事もないだろう。
氷解した葛藤に、彼女は膝をつく。
その向こうには、クロードが穏やかな寝息を立て始めていた。
「あーぁ・・・ほんと、なにやってたんだろう、私」
ついた膝に脱力した身体は、ずるずると壁へと寄りかかる。
彼女はそのまま蹲ると、そっと脇に置いた弓を指で撫でた。
「ふふっ、だらしない寝顔。ほっんと、変な奴・・・」
クロードの横の寝床に座ったエミリアは、彼の寝顔を眺めると、そのだらしない表情に笑みを零す。
彼女は彼の髪を優しく梳くと、穏やかな表情でそれをずっと眺めていた。
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