終わる世界のブレイブス チート能力で楽して暮らそうと思ったら、人類が滅びかけてるんだが?

斑目 ごたく

文字の大きさ
上 下
72 / 168
育成の始まり

クロードとエミリア 2

しおりを挟む
「いててて、悪いなエミリア。弓、壊しちまって」

 痛む身体を能力を発動させて癒したクロードは、隣で座り込んでいるエミリアへと謝罪する。
 彼女は壊れた弓を大事そうに抱えたまま、塞ぎこむように蹲っていた。

「ううん・・・こっちこそごめん、当たったりして。元々、私が崖から落ちた時に壊れてたかもしれないのに・・・」

 落ち込むエミリアは、自らの勘違いと八つ当たりにこそ辟易していた。
 思い返せば遠くに見つけた弓はその時点で破損していた気がする、クロードのそれは追い討ちにすらなっていなかったかもしれない。

「・・・いいって別に。ほら、足見せてみろ。怪我してんだろ?」
「・・・うん」

 エミリアのしおらしい態度に若干戸惑ったクロードも、涙で泣き腫らした彼女の目蓋を見れば、優しい気持ちにもなれる。
 彼が手を伸ばすと、エミリアは素直に怪我した足を差し出していた。
 捻った足首は捻挫の痛みに腫れ上がり、炎症を起こして赤くなり僅かに熱を帯びていた。

「これでいいかな・・・とりあえず雨を避けないとな。この崖に洞窟でも掘ってみるか」
「・・・そんなこと出来るの?」

 エミリアの足を治療したクロードは、空を見上げると強くなりつつある雨の対策を考えていた。
 二人横に並んで背中をつけていた崖へと手を伸ばした彼は、目を閉じると集中し始める。
 痛みの引いた足に彼の後ろから作業を覗いていたエミリアは、そんな彼の振る舞いに疑問の声を漏らした。

「余裕だろ?ほら」
「へぇ・・・でも、この砂はどうするの?」

 目を瞑り崖へと手をついていたクロードが手こずっていたのは、範囲をどこまでにするかということだ。
 彼が再び目を開いた頃には、二人が雨宿りするには十分なサイズの洞窟が出来上がっていた。
 その力に感心するエミリアは足元に流れてきた砂を避けて足を動かした、身体を冷やす雨を嫌っても、この砂を全てを退かすのも同じくらい面倒くさいと感じるのは仕方ない事だろう。

「それは・・・まぁ、適当に壁にでもしとくか」

 足元に広がる砂へと手を伸ばしたクロードは、もう片方の手を洞窟の外へと向けるとそこに壁を伸ばし始める。
 彼の出鱈目な振る舞いに、エミリアは静かに息を飲んでいた。

「ほんっと、出鱈目よねあんたの力って。いっそ感心するわ」

 見る見るうちになくなっていく洞窟内の砂に、エミリアは感嘆とも呆れともつかない感想を漏らす。
 クロードの認識が能力の適応範囲を決めているのか、地面の表面に残る僅かな砂すらも消えていく様子に、彼女は瞬きを多くしていた。

「そりゃどうも。それも直そうか?多分、出来ると思うぞ」
「・・・ううん、自分で直せるか試してみる」
「・・・そっか。ま、気が向いたら言ってくれよ?」

 少しずつ慣れてきた力の行使に、クロードはエミリアが大事そうに抱えている弓の修理を申し出る。
 経験をつんだ自信がその手の込んだ作りの弓の修理をも可能だと思わせる、クロードの言葉は確信のあるものであったが、エミリアは首を振るとそれを抱えなおしていた。
 彼女の瞳にある躊躇いは、クロードに任せる不安よりも大切な思い出がさせた振る舞いだろう、その匂いを感じ取ったクロードは、静かに納得の言葉を返すしかなかった。

「う~ん、なんもないなぁ」
「・・・なにしてるの?」
「ん?食べれるものがなにかないかって、探してるんだけど。俺は飯食ってきたからいいけど、エミリアはまだだろ?腹減ってんじゃないか?」

 どことなく気まずい空気を感じ取ったのか洞窟の外へと歩き出したクロードは、前に傾けた姿勢にあたりに視線をやっていた。
 せっかく作った雨宿り場所を抜け出した彼の行動に、疑問を投げかけたエミリアは洞窟の淵へと手を掛けている。
 彼女の問いかけに洞窟へと戻ってきたクロードは、そのお腹の辺りに視線を向けた。
 クロードの指摘に空腹だった事を思い出した彼女は、鳴き声を鳴らしてそれをアピールし始めたお腹に、すぐに手で押さえて隠していた。

「今ので、余計にお腹空いたんですけど?」
「悪い悪い。ちょっと待っててくれよ、すぐ探してくるから。最近この能力の使い方が分かってきたんだよな」
「待って!それなら私も行くから!」

 顔を赤らめながらジト目で文句を言ってくるエミリアに、クロードは笑って再び食料探しへと向かっていた。
 雨の中を歩いていく彼に、エミリアは慌てて追い縋ると彼の手を掴む。

「おぉ、そうか。ん?なんだこれ・・・あれ、これ不味い奴なんじゃ」
「なに、どうしたの?」

 手を掴んできたエミリアに立ち止まったクロードは、その網膜に表示される情報の変化に戸惑いの声を上げる。
 その表示には覚えがある、その時の脳が焼き切れる痛みも。
 何かから逃れるように辺りをうろつき始めたクロードに、彼と手を繋いだままのエミリアも戸惑っていた。

「いやー、これはどうしたら・・・能力の暴走って聞くと格好いい感じだけど、これは不味いだろ。うーん、あれでも頭痛くなんないな?・・・それに表示も、そこまで増えた感じは」
「ねぇ?さっきからなんかぶつぶつ言ってるけど、大丈夫なの?」
「ん~、どうなんだろう?あ!そういう事か!!」

 治まりそうもない状態にクロードは不安を口にするが、一向に痛くなる気配のない頭に次第に不審の方が強くなっていく。
 なんだか良く分からない独り言をぶつぶつと呟き続ける彼の姿に、エミリアは不安そうに眉を顰めていた。
 彼女の声にとりあえず事情を説明しようと振り返ったクロードは、そのステータスに驚きと納得の声を上げる。

「へぇ~、エミリアの植物の知識が表示に影響するのか!これはイダの鉱物の奴とかでも、同じなのかな?なんか、楽しくなってきたぞ!!」
「ちょっと!?説明しなさいよ!!」

 エミリアの手を握りなおしたクロードは、周りの森へと目を向けるとそこに表示される情報に感心している。
 今までは名前が表示されるだけだったそれが、今では簡単な説明が加わるようになっていた。
 その文面からある程度の効用や、可食性を探る事も出来るようで、その内容に楽しくなってきたクロードは、そのまま駆け出していってしまう。
 まったく事情を飲み込めないまま、彼に手を引かれて駆け出したエミリアの戸惑う声が、暗い森に響き渡っていた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

無尽蔵の魔力で世界を救います~現実世界からやって来た俺は神より魔力が多いらしい~

甲賀流
ファンタジー
なんの特徴もない高校生の高橋 春陽はある時、異世界への繋がるダンジョンに迷い込んだ。なんだ……空気中に星屑みたいなのがキラキラしてるけど?これが全て魔力だって? そしてダンジョンを突破した先には広大な異世界があり、この世界全ての魔力を行使して神や魔族に挑んでいく。

【改稿版】休憩スキルで異世界無双!チートを得た俺は異世界で無双し、王女と魔女を嫁にする。

ゆう
ファンタジー
剣と魔法の異世界に転生したクリス・レガード。 剣聖を輩出したことのあるレガード家において剣術スキルは必要不可欠だが12歳の儀式で手に入れたスキルは【休憩】だった。 しかしこのスキル、想像していた以上にチートだ。 休憩を使いスキルを強化、更に新しいスキルを獲得できてしまう… そして強敵と相対する中、クリスは伝説のスキルである覇王を取得する。 ルミナス初代国王が有したスキルである覇王。 その覇王発現は王国の長い歴史の中で悲願だった。 それ以降、クリスを取り巻く環境は目まぐるしく変化していく…… ※アルファポリスに投稿した作品の改稿版です。 ホットランキング最高位2位でした。 カクヨムにも別シナリオで掲載。

スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する

カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、 23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。 急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。 完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。 そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。 最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。 すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。 どうやら本当にレベルアップしている模様。 「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」 最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。 他サイトにも掲載しています。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

なんでもアリな異世界は、なんだか楽しそうです!!

日向ぼっこ
ファンタジー
「異世界転生してみないか?」 見覚えのない部屋の中で神を自称する男は話を続ける。 神の暇つぶしに付き合う代わりに異世界チートしてみないか? ってことだよと。 特に悩むこともなくその話を受け入れたクロムは広大な草原の中で目を覚ます。 突如襲い掛かる魔物の群れに対してとっさに突き出した両手より光が輝き、この世界で生き抜くための力を自覚することとなる。 なんでもアリの世界として創造されたこの世界にて、様々な体験をすることとなる。 ・魔物に襲われている女の子との出会い ・勇者との出会い ・魔王との出会い ・他の転生者との出会い ・波長の合う仲間との出会い etc....... チート能力を駆使して異世界生活を楽しむ中、この世界の<異常性>に直面することとなる。 その時クロムは何を想い、何をするのか…… このお話は全てのキッカケとなった創造神の一言から始まることになる……

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

【完結】神様と呼ばれた医師の異世界転生物語 ~胸を張って彼女と再会するために自分磨きの旅へ!~

川原源明
ファンタジー
 秋津直人、85歳。  50年前に彼女の進藤茜を亡くして以来ずっと独身を貫いてきた。彼の傍らには彼女がなくなった日に出会った白い小さな子犬?の、ちび助がいた。  嘗ては、救命救急センターや外科で医師として活動し、多くの命を救って来た直人、人々に神様と呼ばれるようになっていたが、定年を迎えると同時に山を買いプライベートキャンプ場をつくり余生はほとんどここで過ごしていた。  彼女がなくなって50年目の命日の夜ちび助とキャンプを楽しんでいると意識が遠のき、気づけば辺りが真っ白な空間にいた。  白い空間では、創造神を名乗るネアという女性と、今までずっとそばに居たちび助が人の子の姿で土下座していた。ちび助の不注意で茜君が命を落とし、謝罪の意味を込めて、創造神ネアの創る世界に、茜君がすでに転移していることを教えてくれた。そして自分もその世界に転生させてもらえることになった。  胸を張って彼女と再会できるようにと、彼女が降り立つより30年前に転生するように創造神ネアに願った。  そして転生した直人は、新しい家庭でナットという名前を与えられ、ネア様と、阿修羅様から貰った加護と学生時代からやっていた格闘技や、仕事にしていた医術、そして趣味の物作りやサバイバル技術を活かし冒険者兼医師として旅にでるのであった。  まずは最強の称号を得よう!  地球では神様と呼ばれた医師の異世界転生物語 ※元ヤンナース異世界生活 ヒロイン茜ちゃんの彼氏編 ※医療現場の恋物語 馴れ初め編

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

処理中です...