終わる世界のブレイブス チート能力で楽して暮らそうと思ったら、人類が滅びかけてるんだが?

斑目 ごたく

文字の大きさ
上 下
67 / 168
育成の始まり

クロードのアイデア

しおりを挟む
 泣き疲れたティオフィラは、いつかクロードの胸の中で寝息を立て始めていた。
 彼女を部屋まで送り届けた彼らは、ちょうどいい時間に食事の準備に取り掛かる。
 先ほどまでティオフィラの様子をちょくちょく窺いにいっていたイダも、今は部屋の隅でキュイと遊ぶのに夢中のようだった。

「そういえば・・・壁の方はどうだったんですか?」
「あぁ、特に問題なさそうだったよ、補強しといたしな。でもやっぱりどっかに空気の通り道があるな、奴ら中でぴんぴんしてる感じだったぞ」

 調理中の鍋を掻き混ぜていたアンナは、熱で火照った頬を冷ますように顔を上げると、クロード達の方の状況を尋ねる。
 蜘蛛達を閉じ込めた洞窟へと様子を見に行っていたクロードとクラリッサは、その状況に安堵と落胆を同時に感じていた。

「そうでしたね。とりあえずは大丈夫そうでしたが、出来れば早めに対処したいところです。でも、ティオちゃんがあれでは・・・ちょっと難しいかもしれません」
「う~ん、そうだよなぁ・・・結局、ティオはなにが嫌なんだ?」

 拠点としているこの洞窟とそう距離のない蜘蛛達の洞窟に、クラリッサは不安を口にする。
 彼女はあの蜘蛛の外皮の硬さに対抗できる弱体魔法に期待するが、先ほどまでのティオフィラの様子に懸念を感じざるを得なかった。
 彼女の意見に同意するクロードは首を捻ると、ティオフィラはなにを嫌がってあれほど泣き叫んだのかという、根本的な疑問を問いかける。

「それは・・・ティオちゃんは自由な子ですし、身軽な戦いを好んでいました。それが今回の事で完全に付与魔術師になってしまうと分かって、悲しかったんじゃないでしょうか?」
「ティオはあの長い杖も嫌そうでした。前の戦いでも途中で放り投げてましたし・・・かといって杖を短くしても、あの子は元々素手で戦っていましたから」

 クロードの問いかけに、クラリッサとアンナはそれぞれに私見を述べる。
 彼女達の話す内容は微妙に異なっているが、どちらの意見もティオフィラが元々の戦い方を好んでいる事を語っていた。

「あれ?それなら素手で戦わせてやれば良くない?あ、でも・・・杖ってもしかして、魔法使うのに絶対必要だったりする?」

 彼女達の口ぶりに、クロードは単純な解決策を思いつく。
 しかしそれはすぐに自らの疑問によって上書きされる、彼の中のイメージでも、やはり魔法使いといえば杖だった。

「いえ、必ずしも必要では・・・そうよね、アンナ?」
「えぇ。ですが杖があれば魔力の通り道を意識できるので、狙いを定めやすくなりますし。先端の・・・多くは特殊な処理が施された宝石ですが、これは空間に魔力を投射する補助をしてくれます。ですので初心者のティオが、それなしで魔法を扱うのは・・・」

 クロードの疑問を否定したクラリッサは、自らよりも魔法を扱った経験の長いアンナへと詳しい説明を任せる。
 彼女から説明を任されたアンナは、慎重に言葉を選びながらクロードへと杖の必要性を説いていく。
 最終的に彼女は、ティオフィラには杖は必須という結論を下していた。

「うーん、そっかぁ・・・あれでも、それならその宝石だけあれば良くない?直接相手に触れるんだから、杖は別に必要ないよね?」
「そう、ですね。ですがそれは・・・」

 アンナが語った内容に、クロードは杖の宝石部分だけが必要だと考える。
 その素朴な考えは、物理的に不可能に思えた。
 魔法用に加工された宝石はその性質上それなりのサイズとなる、それを握り締めて戦えといっても、それはティオフィラの望みとは違う形だろう。

「いやぁ・・・多分いける気がするんだよなぁ。イダ、ちょっとティオがつけてるグローブを取ってきてくれないか?」
「・・・今じゃなきゃ、駄目?」

 部屋の隅でクロードが作ったボールを使ってキュイと遊んでいたイダは、彼の頼みに難色を示す。
 その二本の前足を器用に使って、身体に対して大きすぎるボールを運んでいたキュイは、それを受け取ろうとしないイダにボールを落としてしまっていた。

「頼むよ。あ、起こさないようにな」
「・・・分かった」

 クロードの頼みに渋々といった具合に頷いたイダは、駆け足にティオフィラが眠る部屋へと向かう。
 その後ろをキュイが、ペタペタとついていっていた。

「杖は向こうに置いてあるよな?ちょっと取ってくるかな」
「クロード様、何をなさるおつもりなのですか?」

 イダの姿を見送ったクロードは、視線でティオフィラの杖の保管場所を確認すると、ゆっくりと腰を上げた。
 武具の保管庫となっている場所へと向かうクロードに、クラリッサが疑問の声を投げかける。
 彼はその声に振り返ると、不器用にウインクしていた。

「ま、それは見てのお楽しみってね」

 なんとなく上機嫌に去っていくクロードに、クラリッサはそれ以上問いかける事は出来ない。
 彼女は中腰になっていた椅子へと、深く腰掛けなおしていた。

「な、なんだろうね!気になるなぁ」
「そうね、あの方がなさる事だからきっと・・・アンナ、鍋は見てなくていいの?」

 クロードの去っていた方へと身を乗り出したアンナは、尊敬と期待をこめた視線をそちらへと向けていた。
 彼女への同意と推測を口にしていたクラリッサは、アンナの手に持つお玉へと視線をやると、火に掛けられたままの鍋へと顔を向ける。
 そこには強い火加減に煮立ち、大量の蒸気を吹き上げる鍋の姿があった。

「あっ!?うわっ、煮立っちゃってる!!お水お水!!」

 クラリッサの指摘に慌てて鍋へと駆け寄ったアンナは、その惨状を目にするとすぐに水瓶へと向かっていく。
 涙目で煮詰まった鍋に水を加えていくアンナの姿に、今日の昼食は少し遅くなりそうだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【改稿版】休憩スキルで異世界無双!チートを得た俺は異世界で無双し、王女と魔女を嫁にする。

ゆう
ファンタジー
剣と魔法の異世界に転生したクリス・レガード。 剣聖を輩出したことのあるレガード家において剣術スキルは必要不可欠だが12歳の儀式で手に入れたスキルは【休憩】だった。 しかしこのスキル、想像していた以上にチートだ。 休憩を使いスキルを強化、更に新しいスキルを獲得できてしまう… そして強敵と相対する中、クリスは伝説のスキルである覇王を取得する。 ルミナス初代国王が有したスキルである覇王。 その覇王発現は王国の長い歴史の中で悲願だった。 それ以降、クリスを取り巻く環境は目まぐるしく変化していく…… ※アルファポリスに投稿した作品の改稿版です。 ホットランキング最高位2位でした。 カクヨムにも別シナリオで掲載。

薬漬けレーサーの異世界学園生活〜無能被験体として捨てられたが、神族に拾われたことで、ダークヒーローとしてナンバーワン走者に君臨します〜

仁徳
ファンタジー
少年はとある研究室で実験動物にされていた。毎日薬漬けの日々を送っていたある日、薬を投与し続けても、魔法もユニークスキルも発動できない落ちこぼれの烙印を押され、魔の森に捨てられる。 森の中で魔物が現れ、少年は死を覚悟したその時、1人の女性に助けられた。 その後、女性により隠された力を引き出された少年は、シャカールと名付けられ、魔走学園の唯一の人間魔競走者として生活をすることになる。 これは、薬漬けだった主人公が、走者として成り上がり、ざまぁやスローライフをしながら有名になって、世界最強になって行く物語 今ここに、新しい異世界レースものが開幕する!スピード感のあるレースに刮目せよ! 競馬やレース、ウマ娘などが好きな方は、絶対に楽しめる内容になっているかと思います。レース系に興味がない方でも、異世界なので、ファンタジー要素のあるレースになっていますので、楽しめる内容になっています。 まずは1話だけでも良いので試し読みをしていただけると幸いです。

スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する

カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、 23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。 急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。 完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。 そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。 最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。 すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。 どうやら本当にレベルアップしている模様。 「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」 最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。 他サイトにも掲載しています。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

なんでもアリな異世界は、なんだか楽しそうです!!

日向ぼっこ
ファンタジー
「異世界転生してみないか?」 見覚えのない部屋の中で神を自称する男は話を続ける。 神の暇つぶしに付き合う代わりに異世界チートしてみないか? ってことだよと。 特に悩むこともなくその話を受け入れたクロムは広大な草原の中で目を覚ます。 突如襲い掛かる魔物の群れに対してとっさに突き出した両手より光が輝き、この世界で生き抜くための力を自覚することとなる。 なんでもアリの世界として創造されたこの世界にて、様々な体験をすることとなる。 ・魔物に襲われている女の子との出会い ・勇者との出会い ・魔王との出会い ・他の転生者との出会い ・波長の合う仲間との出会い etc....... チート能力を駆使して異世界生活を楽しむ中、この世界の<異常性>に直面することとなる。 その時クロムは何を想い、何をするのか…… このお話は全てのキッカケとなった創造神の一言から始まることになる……

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

【完結】神様と呼ばれた医師の異世界転生物語 ~胸を張って彼女と再会するために自分磨きの旅へ!~

川原源明
ファンタジー
 秋津直人、85歳。  50年前に彼女の進藤茜を亡くして以来ずっと独身を貫いてきた。彼の傍らには彼女がなくなった日に出会った白い小さな子犬?の、ちび助がいた。  嘗ては、救命救急センターや外科で医師として活動し、多くの命を救って来た直人、人々に神様と呼ばれるようになっていたが、定年を迎えると同時に山を買いプライベートキャンプ場をつくり余生はほとんどここで過ごしていた。  彼女がなくなって50年目の命日の夜ちび助とキャンプを楽しんでいると意識が遠のき、気づけば辺りが真っ白な空間にいた。  白い空間では、創造神を名乗るネアという女性と、今までずっとそばに居たちび助が人の子の姿で土下座していた。ちび助の不注意で茜君が命を落とし、謝罪の意味を込めて、創造神ネアの創る世界に、茜君がすでに転移していることを教えてくれた。そして自分もその世界に転生させてもらえることになった。  胸を張って彼女と再会できるようにと、彼女が降り立つより30年前に転生するように創造神ネアに願った。  そして転生した直人は、新しい家庭でナットという名前を与えられ、ネア様と、阿修羅様から貰った加護と学生時代からやっていた格闘技や、仕事にしていた医術、そして趣味の物作りやサバイバル技術を活かし冒険者兼医師として旅にでるのであった。  まずは最強の称号を得よう!  地球では神様と呼ばれた医師の異世界転生物語 ※元ヤンナース異世界生活 ヒロイン茜ちゃんの彼氏編 ※医療現場の恋物語 馴れ初め編

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

処理中です...