上 下
66 / 168
育成の始まり

接触型魔法

しおりを挟む
「お~い!どんな感じだー!」

 川辺に敷き詰められた小石を踏みしめる音が、ザリザリと渡る。
 魔法の練習をしているティオフィラ達の姿を見つけたクロードは、手を振りながらゆっくりとそちらに近づいていった。

「にゃー!!にいやん、にいやーん!!ティオ、やったにゃー!!!」

 クロードの声に耳を揺らしたティオフィラは、回した頭に彼の姿を見つけると、一直線に駆け出していく。
 その距離はまだ遠い筈だったが、歓声を上げながら全速力で突っ込んでくる彼女に、クロードは受け止めるために両手を広げるだけで精一杯だった。

「うおっ!?っ、いっつぅ・・・ど、どうしたティオ?」
「ティオ頑張ったのにゃー!!にいやん、褒めて褒めて!!」

 勢いのままに飛び込んできたティオフィラを受け止めたクロードは、どうにか倒れこむのを堪えていた。
 彼女の身体はクロードの鳩尾から胸元辺りに飛び込んできており、その衝撃に彼は一瞬息を呑む。
 胸を叩いた衝撃に止まった息が再開しても、痛みはそこから広がっていく。
 その痛みにも自らの胸元へ嬉しそうに頭をこすり付けているティオフィラの姿を見れば、引きつった笑みぐらいは作ろうと思えていた。

「大丈夫ですか、クロード様?」
「いや、助かったよクラリッサ。それで・・・一体どうしたんだ、アンナ?」

 クロードがティオフィラの勢いにも姿勢を保てていたのは、その背中を支えるクラリッサのお陰であった。
 彼女の声に顔を後ろにやりながら礼を言った彼は、慌てて近づいてくるアンナへと事情を尋ねる。

「すごい、すごいんですよ!!ティオ、こんな短い時間でものにしたんです!」
「へぇー、すごいじゃないかティオ!よくやったな!」
「にゃー!もっと褒めるといいにゃ!!」

 クロードの尋ねられたアンナは、ティオフィラほどではないにしても興奮している様子だった。
 彼女は両手を握り締めるとそれを上下に振り回して喜びを謳っている、その仕草にクロードにもティオフィラの頑張りが理解できた。
 彼が口にした素直な賞賛の言葉に、ティオフィラは鼻を高くして喜んでみせる。
 彼女の傾けた頭の角度は、それを撫でてとリクエストしていた。

「・・・ボクも頑張った」
「お、おう。そうだな、よく頑張ったなイダ!」
「・・・エヘへ」

 ずっと魔法の対象とされていたためか、僅かに草臥れた様子のイダがクロードの裾を引っ張る。
 彼女の控えめなアピールに始めは驚いたクロードも、その姿を見れば頭を撫でるのに躊躇いはなかった。

「良かったわね。でも、確か弱体魔法は難しいんじゃなかったかしら?ティオちゃんに才能あるのは知っていたけど、そんなすぐに出来るようになるものなの?」
「えっと、それは・・・弱体魔法には対象と接触しながら使うっていう方法があって。それだと相手の抵抗を通しやすくなったり、魔力の消耗が抑えられたりするの」
「へぇ?なんだか、いい事ずくめに聞こえるのだけど・・・どうして今までそうしなかったの?それに、そんないい方法なのに私は聞いたこともなかった」

 クロードに頭を撫でられてご機嫌な二人を眺めていたクラリッサは、声を潜めるとアンナに疑問を投げかけた。
 彼女のもっともな疑問に、アンナは言葉を選ぶとゆっくりと種明かしを始める。
 その説明は最適な解決法を話していたが、あまりに有用なその手法にクラリッサには逆に疑問が深まっていた。

「うーん、それはそうなんだけど・・・ほら、魔法使いって基本的に前線に出ないから。そんな風な使い方をする人ってほとんどいないの、だからあんまり知られていないのかなって」
「なるほど、ね。確かにそんな感じよね、でも・・・ティオちゃんなら使いこなせる?」
「うん、私はそう思う」

 基本的に後衛で守られる存在の魔法使いの、さらに支援がメインの付与魔術師は前線に出る事が極端に少ない。
 彼らは敵と接触して弱体魔法を掛けるぐらいなら、素直に技量を磨く事に注力するだろう。
 そのためアンナがティオフィラに試させた方法が、世に知られていなかったのは仕方のないことだった。

「ぅぅうう、ぅぅうわぁぁぁぁ~ん!!嫌にゃぁぁぁぁぁぁ!!!」
「おおっ!?ど、どうした!?あれか?痛かったのか!?」

 急に泣き出したティオフィラにおろおろとうろたえるクロードは、彼女をあやすように抱きしめる事しか出来なかった。
 彼女の資質に光明を見出していたクラリッサとアンナも、それには驚いて慌てて駆け寄ってくる。
 一人どこか冷静なイダだけが、泣き叫ぶ彼女の背中を優しく擦ってあげていた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

世界最強の勇者は伯爵家の三男に転生し、落ちこぼれと疎まれるが、無自覚に無双する

平山和人
ファンタジー
世界最強の勇者と称えられる勇者アベルは、新たな人生を歩むべく今の人生を捨て、伯爵家の三男に転生する。 しかしアベルは忌み子と疎まれており、優秀な双子の兄たちと比べられ、学校や屋敷の人たちからは落ちこぼれと蔑まれる散々な日々を送っていた。 だが、彼らは知らなかったアベルが最強の勇者であり、自分たちとは遥かにレベルが違うから真の実力がわからないことに。 そんなことも知らずにアベルは自覚なく最強の力を振るい、世界中を驚かせるのであった。

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

魔王から学ぶ魔王の倒し方

唯野bitter
ファンタジー
世界に突然、魔王が表れた!だったら魔王を倒すべく勇者を召喚するしかない!丁度いい奴がいたし、魔王を倒して……あ、間違えて呪われた木刀を渡しちゃった。まあ、彼ならなんとかしてくれ……なんで魔王と一緒にいるの!?なんで国から追われているの!?なんで追われているのに海水浴とかギャンブルしてるの!?なんで魔王を倒す旅で裁判してるの!?この物語は、チートなんて持っていない主人公が好き勝手しながら世界最強の魔王を倒すまでの物語である。 ※いただいたコメントに関しましてはなるべく返信します。 ※茶番は作者がやりたい放題書いているだけですので、本編のみご覧になりたい方はとばしてください

外れスキルと馬鹿にされた【経験値固定】は実はチートスキルだった件

霜月雹花
ファンタジー
 15歳を迎えた者は神よりスキルを授かる。  どんなスキルを得られたのか神殿で確認した少年、アルフレッドは【経験値固定】という訳の分からないスキルだけを授かり、無能として扱われた。  そして一年後、一つ下の妹が才能がある者だと分かるとアルフレッドは家から追放処分となった。  しかし、一年という歳月があったおかげで覚悟が決まっていたアルフレッドは動揺する事なく、今後の生活基盤として冒険者になろうと考えていた。 「スキルが一つですか? それも攻撃系でも魔法系のスキルでもないスキル……すみませんが、それでは冒険者として務まらないと思うので登録は出来ません」  だがそこで待っていたのは、無能なアルフレッドは冒険者にすらなれないという現実だった。  受付との会話を聞いていた冒険者達から逃げるようにギルドを出ていき、これからどうしようと悩んでいると目の前で苦しんでいる老人が目に入った。  アルフレッドとその老人、この出会いにより無能な少年として終わるはずだったアルフレッドの人生は大きく変わる事となった。 2024/10/05 HOT男性向けランキング一位。

社畜探索者〜紅蓮の王と異界迷宮と配信者〜

代永 並木
ファンタジー
井坂蓮二、23歳 日々サービス残業を繰り返し連続出勤更新し続け精神が疲弊しても働き続ける社畜 ふと残業帰りにダンジョンと呼ばれる物を見つけた ダンジョンとは10年ほど前に突如現れた謎の迷宮、魔物と呼ばれる存在が闊歩する危険なダンジョンの内部には科学では再現不可能とされるアイテムが眠っている ダンジョンが現れた影響で人々の中に異能と呼ばれる力を得た者が現れた 夢か金か、探索者と呼ばれる人々が日々ダンジョンに挑んでいる 社畜の蓮二には関係の無い話であったが疲れ果てた蓮二は何をとち狂ったのか市販の剣(10万)を持ってダンジョンに潜り己の異能を解放する それも3等級と呼ばれる探索者の最高峰が挑む高難易度のダンジョンに 偶然危機に瀕していた探索系配信者竜胆天音を助け社畜の傍ら配信の手伝いをする事に 配信者や異能者に出会いながら探索者として活躍していく 現2章

夢の国のネガティブ王女

桜井 小夜
ファンタジー
ある日、私はお姫様になる夢を見た。 転校先の中学校では三年間いじめられ続け、両親には馬鹿にされ、いいことなんて一つもない人生。 これまで三年間いじめに耐え続けてきたんだから、せめて夢の中でくらいお姫様みたいに華やかに楽しく暮らしたい・・・ そう思っていた私への、神様からのご褒美だって思ってた。 でも夢の中の人たちはみんな王女様である私に冷たくて、現実よりももっと鬱屈した気分にさせられた。 夢の中でくらい、いい思いをさせてよ! とうとう我慢できなくて逃げ出した私に手を差し伸べてくれたのは、王女である私と瓜二つの女性だった?! 初めまして。 異世界転移のお話になります。 軽く読めるものを目指して書きました。 一読していただけたら幸いです。

辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~

雪月 夜狐
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。 他作品の詳細はこちら: 『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】 『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】 『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】

レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~

喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。 おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。 ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。 落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。 機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。 覚悟を決めてボスに挑む無二。 通販能力でからくも勝利する。 そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。 アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。 霧のモンスターには掃除機が大活躍。 異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。 カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。

処理中です...