終わる世界のブレイブス チート能力で楽して暮らそうと思ったら、人類が滅びかけてるんだが?

斑目 ごたく

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育成の始まり

ケイヴスパイダーとの戦い 2

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「・・・可燃性の毒ばかりではない、か」

 全てではないにしても狙ったところに命中した火の弾丸は、蜘蛛の牙に燃え移る事はなく、大したダメージを与えたようにも見えなかった。

「・・・それなら」

 ほとんど無傷の蜘蛛達に、それならとイダがナイフを放つ。
 ゆっくりと立ち上がろうとしていたアンナが、また慌てて床に寝転がる中、蜘蛛へと一直線で向かったナイフは、硬い音を立てて弾かれてしまう。

「えーっと、えーっと・・・こういう時はどうすればいいにゃ!!」
「えっと、この場合は・・・」
「にゃー!!もういいにゃ!こんにゃものはポイにゃ!!」

 物理攻撃も魔法も有効ではない状況に混乱したティオフィラは、杖を両手で握り締めておろおろと左右を見回した。
 彼女に助言を送ろうとしたアンナは、奇声を上げて杖を放り捨てたティオフィラの姿に、その先を続けられない。

「アンナ、そのままにゃ!!」
「えっ、えっ!?」
「いっくにゃー!!!」

 ティオフィラに話しかけるために身体を起こしていたアンナは、そちらへと駆け出していった彼女にもう一度横になるように要求される。
 戸惑いながらも元の姿勢に戻ったアンナは、その僅か手前で飛び上がったティオフィラに踏みつけられていた。

「ぐえっ!?」
「にゃはははは、とりゃーーー!!!」

 汚い呻き声を上げたアンナを置き去りに大きく飛び上がったティオフィラは、楽しそうな笑い声を上げると飛び蹴りを放つ。
 最初に軽く飛んだ彼女に狙いを定めていた蜘蛛の糸は、大きく飛び上がった彼女の身体を捉えられはしない。
 ティオフィラの飛び蹴りは、見事に先頭の蜘蛛へと命中していた。

「・・・かったいにゃー」

 硬い表皮を誇る蜘蛛には、ティオフィラの渾身の飛び蹴りでもダメージを与えられたように見えなかった。
 逆にその硬い表皮に体重を乗せた蹴りを放ったティオフィラの方が、痛みに弱音を吐いている。

「これは無理にゃ、よっと!」

 自分にはこの蜘蛛にダメージを与える術はないと悟ったティオフィラは、迫る周りの蜘蛛に足元の蜘蛛を蹴りつけて、大きく空中へと円を描く。
 そのゆったりとした軌道は、回転する身体に捉えづらいものであったが、着地はそれには含まれない。
 着地したティオフィラに、蜘蛛達は一斉に粘糸を放った。

「ティオ、危ない!!」
「にゃぁ!?」

 地面に手をついたティオフィラの襟首を掴まえたアンナは、彼女と入れ替わるように前に出る。
 ティオフィラを狙った糸を構えた盾で受け止めたアンナは、そのまま前へと押し出ると放置されていた松明を拾った。

「た、助かったにゃ・・・」
「いいの、ティオ。これが私の役割だから」

 盾に張り付いた糸を松明で焼き払ったアンナは、じりじりと後ろへと退いていく。
 彼女の背中へと張り付いたティオフィラは心からの感謝を告げるが、彼女は静かに自らの役割への自負を口にしていた。

「クラリッサ、不味いんじゃないかこれ!?ちょっと打つ手がないぞ!」
「そうですね・・・ここは、退きましょう。皆、急いで!!」

 有効打のない蜘蛛の存在に、クロードは焦り口にする。
 彼の言葉に僅かな時間頭を悩ませたクラリッサは、すぐに撤退を決断すると足の遅いイダの背中を押した。

「ティオ、早く逃げて!!」
「にゃ、嫌にゃ!アンナを置いていけないにゃ!!」
「私の事はいいから!!」

 撤退の指示に蜘蛛と睨み合いを続けているアンナは、その背中に隠れるティオフィラを先に逃がそうと促した。
 彼女の言葉にティオフィラは、その裾を引っ張っては抵抗している。
 切羽詰った状況にティオフィラの我侭を説得している時間はない、アンナは松明を掴んだままの手で慎重に彼女の身体を押し出していた。

「ティオ、早くしろ!!時間がないんだっ!!」
「にゃー!!嫌にゃ、嫌にゃー!!」
「・・・クロード、任せる」

 アンナに弾き飛ばされても彼女の下へ再び戻ろうとするティオフィラに、クロードがなんとかその身体を捕まえて引きとめようとする。
 暴れるティオフィラに、クロードの力では彼女を押さえるだけで精一杯だ。
 その様子を見かねたイダが戻ってきては彼女の身体を捕まえる、小柄な身体のわりに力の強いイダにティオフィラは為す術がなく引き摺られていく。

「良かった、これで・・・っ!?」

 イダに引き摺られて退避していくティオフィラの姿に、アンナは安堵の息を吐く。
 彼女のその油断を見逃す蜘蛛達ではない、彼らは自分達にとって一番の脅威を真っ先に狙っていた。
 ティオフィラを押し出すために持ち方を変えた松明は、その不安定な姿勢に盾の遮蔽から露出してしまっている。
 蜘蛛達が放った糸がそれに巻きつき、強力な力がアンナの指先から松明を奪い去っていた。

「しまった!?これじゃ・・・くっ!!」

 燃え盛る松明は蜘蛛の糸に、地面へとへばりついてしまう。
 彼らの糸の粘着力を考えればそれを取り返すのは不可能に近い、動揺したアンナに蜘蛛達の追撃が迫る。
 距離を詰めてきていた彼らにアンナが構える盾へと放たれる糸は多い、その引っ張る力は彼女の限界を超えつつあった。

「アンナ!盾を捨てて逃げなさい!!」
「は、はい!」

 腰が浮き始めたアンナの姿に、クラリッサは彼女に盾を捨てて逃げるように指示を出す。
 その指示にすぐに盾を手放したアンナは、倒れそうになった身体を片手で支えると、そのまま反動を利用して駆け出していく。

「急げ、アンナ!!早くこっちへ・・・!くそっ、不味い!?」

 転びそうになった身体をなんとか立て直したアンナの姿勢は低い、彼女へと手を差し伸べるクロードは彼女を急かせる声を叫んでいた。
 その表情には焦りの色が強い、彼には見えていたのだ、アンナの背中を狙う蜘蛛達の姿が。
 必死に差し伸べた手もまだ遠い、牙を横へと広げた蜘蛛はその口腔から糸を放っていた。

「ファイヤー・バレット!」

 アンナへと迫る蜘蛛の糸に、交差するように炎の弾丸が放たれる。
 その全てを迎撃できた筈もない軌道も、密集しすぎた蜘蛛の糸はその燃えやすい性質も相まって、お互いに延焼しては次々に燃え尽きていった。
 僅かにアンナの背中に張り付いた糸も、彼女の進行を妨げるほどの力にはならない。
 彼女の身体は今、クロードの横を通り過ぎる。

「クロード様!」
「分かってる!!壁を!」

 クラリッサの合図に頷いたクロードは、地面へと両手をつけるとその力を発動させる。
 彼は洞窟の地面を壁へと作り変えると、それを洞窟へと広げていく。
 その力によって変換された足元の地面が、見る見るうちにクレーターとなって彼の身体を沈めていた。

「こんなもんでいいか・・・?うわっ!?」
「大丈夫ですか、クロード様!?」

 洞窟一杯に広がった壁を確かめたクロードは、ゆっくりとその手を地面から離す。
 巨大な蜘蛛を通さないための壁を作るために必要だった土の量に、クロードの周囲はかなりへこんでしまっている。
 彼が上げた驚きの声に、クラリッサは慌ててそのクレーターを覗き込んでいた。

「あー、いや・・・悪いけど助け起こしてくれないか?」
「ふふっ。はい、分かりました。掴まってください、クロード様」

 視界を確保するためか、自らが座り込んでいた場所よりも周りが低くなっているクレーターに、壁の完成に気を抜いたクロードは後ろへとひっくり返っていた。
 その構造に引っかかり、自分の力ではもはや容易に抜け出せない状況に、彼は情けない格好でクラリッサへと救援を求める。
 クラリッサは彼のその姿に僅かに笑みを漏らすと、優しく手を差し伸べる。
 意外と面倒な状況にようやく彼が助け出されたのは、少女達も集まってきた少し後の事だった。
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