終わる世界のブレイブス チート能力で楽して暮らそうと思ったら、人類が滅びかけてるんだが？

育成の始まり

疑念

　天井から滴る水滴が、地面へ落ちて弾けて消える。
　頼りない照明に薄暗い室内が、空間の広さをはっきりさせない。
　洞窟の静けさが、レオンの意識をまどろみの中に留まらせていた。

「ティオも、にいやん達についてく事にしたにゃ」
「ちょっと、どういうことよティオ！？あんなに嫌がってたじゃない！」
「にゃー・・・なんだか、にいやん達の方が楽しそうにゃ！ティオは楽しい方がいいのにゃぁ」

　遠く、少女達の話し声が聞こえる。
　その聞き覚えのある声にまどろみの意識の中、レオンは安堵を感じていた。

「・・・ティオも一緒に遊ぶ」
「にゃー！いいのかにゃ？やったにゃ！！名前はなんて言うのかにゃ？」
「・・・キュイ」

　静かだがやけによく通る声に、華やいだ声が響いた。
　連れたって遠ざかっていく足音は二つ、その間にも楽しそうな声が響いていた。

「ちょっと！？あの子は、まったく・・・」
「エミリアも意地を張ってないで、一緒にやらない？この前も危ない所だったんでしょう？」
「私は・・・私は一人でもやってみせるわ！見くびらないで頂戴！！」

　遠ざかっていく足音に、追い縋るような声が途切れて消える。
　宥めるような声は静かだが芯が通って響く、その声に反発した大声に駆け出していく足音が続いた。

「そう、うまくはいかないものね・・・」
「エミリアは、両親の事もありますし・・・拘りもあるんだと思います」
「そうね。アンナちゃんはレオン君の看病をお願いできる？私はエミリアの様子を見てくるから」

　小走りで去っていく足音と、ゆっくりとこちらに近づいてくる足音が聞こえる。
　開く扉に木材の軋んだ音が響く、近づいてくる気配にレオンの意識は急速に覚醒していった。

「レオン、具合は・・・きゃぁ！？」
「誰だ！？なにが・・・アンナ？」

　レオンの額を冷やしていたタオルを、取り替えようとしていたアンナの手を掴んだ彼は、そのまま彼女の後ろに回って首を絞めようとする。
　その混乱した意識を正気に取り戻させたのは、彼女の声かその匂いか。
　すぐに捕まえた存在がアンナだと気がついたレオンは、戸惑いの声を上げながら彼女を解放していた。

「けほっ、けほっ・・・良かった、目が覚めたのねレオン」
「アンナ、無事だったのか？ここは一体・・・？っ！？腕が、俺の腕が！！？」

　締め付けられ苦しかった呼吸に咳き込んだアンナは、目覚めたレオンの姿に安堵の笑みを漏らす。
　失った意識に状況の変化に戸惑うレオンは、頭を左右に動かしては情報を集めようとするが、看過できない異常な事態に気がつくと、跳ね退くように寝床から飛び出した。

「どういう事だ！？俺の、俺の腕はあの戦いで・・・なんだ、これは？目が、俺の目が治ってる・・・？」

　失った筈の左腕に怯えるように触れたレオンは、その感触が幻覚ではないと知ると余計に戸惑っていた。
　彼は説明を求めるようにアンナに目を向けるが、その中で自らの視界の違和感へと気づく。
　恐る恐る自らの左手を左目に伸ばしたレオンは、失われない視界に潰れた筈の右目が治っている事を知った。

「大丈夫よ、レオン。あなたの傷は全て、クロード様が癒してくださったわ」
「クロード？あいつがか・・・？癒しの力があることは知っていたが、失った腕や目を取り戻すほどだというのか？それは・・・本当に人間なのか？」

　取り乱すレオンに戸惑っていたアンナだが、その理由を知ると落ち着きを取り戻すと、寧ろ誇らしげな笑みを作っていた。
　彼女はうっとりとした表情で、彼の身体を癒した存在の素晴らしさを語る。
　左手を擦るレオンは彼女の言葉に疑いを深めていた、彼の傷はあまりに深く、それを癒せる力はもはや人間のものとは到底思えなかった。

「そんな事どうでもいいでしょう？クロード様は私達の味方をなのだから。それにあの方は自分を私達と同じ、ヒューマンだと仰っていたわ」
「そうか・・・そうだな」

　レオンの疑問に、アンナはそんな事はどうでもいいと断言した。
　彼女にとっては、クロードが自らと同族であることの方が重要だと語っている。
　そんな彼女の様子に、レオンは同意の言葉を返すしかなかった。

「えぇ。そうだ！皆にレオンが目覚めた事を知らせないと！レオンはまだ横になってた方がいいよ」

　レオンの返答に満足したアンナは頷くと、彼の目覚めを仲間に伝えようと駆け出していく。
　去り際に彼女はレオンが横になっていた寝床を指差すと、そこで休んでいるようにレオンにアドバイスを残した。

「急に現れた、特別な力を持つ人間だと？親父と同じか・・・？」

　レオンの呟きは狭い室内に響くだけ、誰に聞かれることもない。
　しかしその声には、強い疑念が滲んでいた。