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育成の始まり
反省会
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「やっぱり、無理だったんじゃないの?」
「う、そ、そんな事ないだろ」
新しい技能の習得など無理だとはっきりと断言するエミリアに、前日の失態もあり強くは出られないクロードは、根拠のない反論を弱弱しく主張する。
エミリアはそんな彼の言葉を鼻で笑って呆れてみせる、彼女は武器の保管場所から今日使う分の矢束を集めると、出口へと向かった。
「私達はもう行くけど、無理して昨日みたいな事にはならないでよ」
去り際に声を掛けてきたエミリアは、クロード達に釘を刺してくる。
その言葉には確かなトゲがあったが、友人に対する心配の方が色濃く残っていた。
「・・・今日はちゃんとご飯作って欲しいにゃ」
彼女の従って出口へと駆けていったティオフィラは、恨めしそうな視線をアンナに送りながらポツリと呟く。
昨日の惨状の後、とても食事を作るどころではないアンナの状態に、昼食はエミリアとティオフィラが見よう見まねで作っていた。
その出来は作った本人にしても酷いものだったらしく、彼女の言葉には強い思いが込められていた。
「ご、ごめんねティオ!今日はそんな事ないようにするから」
「にゃー、それなら安心にゃ!期待してるにゃー!!」
彼女の視線に、アンナが慌てて弁明する。
その言葉の内容は根拠のないものであったが、それを聞いたティオフィラは笑顔を作ると、元気よく手を振って駆け出していく。
「・・・さて、昨日の反省会を始めようと思うんだが。皆は、なにが駄目だったと思う?」
ティオフィラが去っていく足音を聞いていたクロードは、それが十分遠ざかった事を確認すると静かに話し始めた。
ティオフィラの振る舞いにどこか和やかな雰囲気が漂っていた室内は、彼の振った話題に再び重苦しい空気が漂い始める。
「やはり、それぞれが新しい役割での動きをスムーズにこなせないのが問題だったかと。ただ昨日の戦いは相手が悪かった部分もありました、本来の戦い方に戻った後も苦戦していましたし」
「そうなんだよなー、昨日は相手が悪かったよな!でもさぁ、もうちょっとやれる気はしたんだよ」
重苦しい空気の中で、クラリッサが率先して意見を述べる。
彼女は自分達の至らなさ指摘するが、それ以上に昨日は相手が悪かったと述懐した。
彼女が話した内容が自らの思いと共通していたのか、クロードは嬉しそうに声を上げる。
共通の意見に調子に乗った彼は、思わず昨日の戦いぶりが期待外れだった事を白状してしまう、その言葉に解れかけていた空気はまた重く沈んでいく。
「・・・すみません。私がしっかりしてないばかりに、クロード様の期待を裏切って」
「・・・反省」
「いやいやいや、そうじゃないだって!えーっと、そう皆はもっと出来るって言うか・・・いや、これもなんか違うな。ほら、その、なんだ・・・」
クロードの言葉を受けて反省を口にするアンナとイダは、もともと小さい身体をさらに縮めて申し訳なそうに蹲る。
その姿にクロードは慌てて発言を取り消そうとするが、うまく言葉が出てこずに両手を必死に振り回すばかりだった。
「ふふっ、クロード様が期待を掛けてくださっている事は皆分かっていますから。それに応えたくて必死になっているのです。ですから、クロード様が気になさる事ではありません」
「そ、そう?それならいいんだけど・・・」
一人で勝手に空まわるクロードの滑稽な姿に、クラリッサが取り成すように声を掛ける。
彼女の言葉にクロードはとりあえずその動きを止めるが、今だ沈んだままの二人の様子に気まずそうにしていた。
「アンナ、あなたはなにが悪かったと思う?」
「その、私は敵の攻撃を引き付ける役割なのに、それが全然出来てなくて・・・そのせいで皆が」
縮こまったままのアンナへと話題を振ったクラリッサは、優しく口調でその言葉を引き出そうとする。
クラリッサの言葉にアンナは感極まったように声を詰まらせる、彼女は昨日の戦いにおける自らの責任を強く感じていた。
「そうね。何故、そうなってしまったのかしら?」
「私が、勇気がなくて・・・イダみたいに前に出られないから」
「そうかしら、私は別の意見なのだけど・・・イダ、あなたはどう思う?」
涙を溢れさせ、顔を覆ってしまったアンナに寄り添ったクラリッサは、彼女の肩を撫でながらそれでも心の内を曝け出させようと言葉を促した。
アンナがようやく口にした言葉は、自らの不甲斐なさを語っていた。
しかしクラリッサはそれを否定すると、黙って二人の会話を聞いていたイダへと話を振る。
「・・・盾、大き過ぎ」
クラリッサに話を振られたイダは、少しの間頭を悩ませると端的な事実を告げる。
彼女はアンナが戦闘に持ち出していた盾へと視線を向ける、その大きさは彼女の全身が覆えるほどであった。
「そうね、私もそう思う。アンナ、あなたはどうしてあれを選んだの?」
「それは、あれが一番大きくて丈夫だから・・・」
「本当にそれだけ?」
イダの意見に、クラリッサも同意する。
彼女はアンナに何故それを選んだのかを問いただすが、アンナはおどおどと怯えたように当たり障りのない理由を述べていた。
その態度にクラリッサはさらに質問を続けた、俯いたアンナも下から覗き込む彼女の視線からは逃れられない。
「その、本当は私・・・あれなら隠れられるからって、怖くてだからっ!」
「いいのよ。魔法使いのあなたが、前線に出るのはさぞ怖かったでしょう。だから隠れたいと思うのは仕方がないこと・・・でも、あなたの腕力ではあれはうまく扱えない。それは分かるでしょう?」
「う゛ん、わ゛かる、わ゛かるよぉ・・・!」
クラリッサの視線から逃れられないアンナは、やがて白状するように自らの恐怖を告白した。
アンナの告白を聞いてもクラリッサには動揺はない、彼女には初めからそれが分かっていたのだろう。
彼女の諭すような言葉に、アンナはその胸へと飛び込んで泣き出してしまっていた。
「イダ、あの盾が良い物なのは間違いないのよね?」
「・・・うん、鋼鉄製」
泣き出してしまったアンナを心配そうに見詰めていたイダは、クラリッサの質問にその盾へと歩み寄るとメイスを取り出した。
金属同士を叩き合わせてその具合と音を確かめたイダは、静かに頷くとクラリッサの望む回答を返す。
「でしたら、クロード様。あの盾を作り直してもらえませんか、そうですね・・・半分ほどのサイズで」
「お、おう!任せとけ!!」
クラリッサから盾の作り直しをお願いされたクロードは、慌ててそれへと向かっていく。
女の子が声を上げて泣き出した状況に所在無く縮こまっていた彼は、与えられた役割に助かったと一目散に駆け出していた。
「イダは・・・あなたは器用なのだから、ナイフももっとうまく使えるはず。今まで使っていたメイスの方が使いやすいのは分かるけど・・・」
「・・・うん、頑張る」
「ナイフの扱いなら私も教えられるから。そうねナイフに慣れるために、あなたのメイスはアンナに預けましょうか」
「・・・それは」
クロードの動きを見守りながら、胸元で泣き続けるアンナをあやしていたクラリッサは、イダにも諭すように語り掛けた。
彼女の言葉に素直に頷いたイダも、お気に入りのメイスの話となると僅かに抵抗を見せる。
両手でメイスを隠すように覆った彼女は、クラリッサに対して悲しそうな表情を作った。
「何も、あなたからそれを奪おうという訳じゃないのよ。あなたがナイフに慣れるまでの、ちょっとの間よ。それとも、アンナに預けるのが嫌?彼女は信頼できない?」
「・・・そうじゃない」
「なら、いいわね。あなたなら、罠や道具もうまく使えるんじゃない?その辺も後で探してみましょう」
「・・・分かった」
クラリッサにうまく言いくるめられたイダは、憮然とした表情で頷くしかなかった。
自らも少し卑怯な言い方をしたという感想を抱いたクラリッサは、それでもこなさなければならない役割に苦笑を漏らす。
泣き続けて疲れたのか、彼女の胸の中のアンナは寝息を立て始めていた。
「私は、魔法の扱いに慣れるしかないか。アンナは付与魔術師だし、エミリアになら何か聞けたかもしれないけど・・・」
アンナの髪を優しく梳かしてあげているクラリッサは、独り言を呟く。
彼女の視線の先には、盾のサイズの調整に四苦八苦しているクロードの姿が映っていた。
「う、そ、そんな事ないだろ」
新しい技能の習得など無理だとはっきりと断言するエミリアに、前日の失態もあり強くは出られないクロードは、根拠のない反論を弱弱しく主張する。
エミリアはそんな彼の言葉を鼻で笑って呆れてみせる、彼女は武器の保管場所から今日使う分の矢束を集めると、出口へと向かった。
「私達はもう行くけど、無理して昨日みたいな事にはならないでよ」
去り際に声を掛けてきたエミリアは、クロード達に釘を刺してくる。
その言葉には確かなトゲがあったが、友人に対する心配の方が色濃く残っていた。
「・・・今日はちゃんとご飯作って欲しいにゃ」
彼女の従って出口へと駆けていったティオフィラは、恨めしそうな視線をアンナに送りながらポツリと呟く。
昨日の惨状の後、とても食事を作るどころではないアンナの状態に、昼食はエミリアとティオフィラが見よう見まねで作っていた。
その出来は作った本人にしても酷いものだったらしく、彼女の言葉には強い思いが込められていた。
「ご、ごめんねティオ!今日はそんな事ないようにするから」
「にゃー、それなら安心にゃ!期待してるにゃー!!」
彼女の視線に、アンナが慌てて弁明する。
その言葉の内容は根拠のないものであったが、それを聞いたティオフィラは笑顔を作ると、元気よく手を振って駆け出していく。
「・・・さて、昨日の反省会を始めようと思うんだが。皆は、なにが駄目だったと思う?」
ティオフィラが去っていく足音を聞いていたクロードは、それが十分遠ざかった事を確認すると静かに話し始めた。
ティオフィラの振る舞いにどこか和やかな雰囲気が漂っていた室内は、彼の振った話題に再び重苦しい空気が漂い始める。
「やはり、それぞれが新しい役割での動きをスムーズにこなせないのが問題だったかと。ただ昨日の戦いは相手が悪かった部分もありました、本来の戦い方に戻った後も苦戦していましたし」
「そうなんだよなー、昨日は相手が悪かったよな!でもさぁ、もうちょっとやれる気はしたんだよ」
重苦しい空気の中で、クラリッサが率先して意見を述べる。
彼女は自分達の至らなさ指摘するが、それ以上に昨日は相手が悪かったと述懐した。
彼女が話した内容が自らの思いと共通していたのか、クロードは嬉しそうに声を上げる。
共通の意見に調子に乗った彼は、思わず昨日の戦いぶりが期待外れだった事を白状してしまう、その言葉に解れかけていた空気はまた重く沈んでいく。
「・・・すみません。私がしっかりしてないばかりに、クロード様の期待を裏切って」
「・・・反省」
「いやいやいや、そうじゃないだって!えーっと、そう皆はもっと出来るって言うか・・・いや、これもなんか違うな。ほら、その、なんだ・・・」
クロードの言葉を受けて反省を口にするアンナとイダは、もともと小さい身体をさらに縮めて申し訳なそうに蹲る。
その姿にクロードは慌てて発言を取り消そうとするが、うまく言葉が出てこずに両手を必死に振り回すばかりだった。
「ふふっ、クロード様が期待を掛けてくださっている事は皆分かっていますから。それに応えたくて必死になっているのです。ですから、クロード様が気になさる事ではありません」
「そ、そう?それならいいんだけど・・・」
一人で勝手に空まわるクロードの滑稽な姿に、クラリッサが取り成すように声を掛ける。
彼女の言葉にクロードはとりあえずその動きを止めるが、今だ沈んだままの二人の様子に気まずそうにしていた。
「アンナ、あなたはなにが悪かったと思う?」
「その、私は敵の攻撃を引き付ける役割なのに、それが全然出来てなくて・・・そのせいで皆が」
縮こまったままのアンナへと話題を振ったクラリッサは、優しく口調でその言葉を引き出そうとする。
クラリッサの言葉にアンナは感極まったように声を詰まらせる、彼女は昨日の戦いにおける自らの責任を強く感じていた。
「そうね。何故、そうなってしまったのかしら?」
「私が、勇気がなくて・・・イダみたいに前に出られないから」
「そうかしら、私は別の意見なのだけど・・・イダ、あなたはどう思う?」
涙を溢れさせ、顔を覆ってしまったアンナに寄り添ったクラリッサは、彼女の肩を撫でながらそれでも心の内を曝け出させようと言葉を促した。
アンナがようやく口にした言葉は、自らの不甲斐なさを語っていた。
しかしクラリッサはそれを否定すると、黙って二人の会話を聞いていたイダへと話を振る。
「・・・盾、大き過ぎ」
クラリッサに話を振られたイダは、少しの間頭を悩ませると端的な事実を告げる。
彼女はアンナが戦闘に持ち出していた盾へと視線を向ける、その大きさは彼女の全身が覆えるほどであった。
「そうね、私もそう思う。アンナ、あなたはどうしてあれを選んだの?」
「それは、あれが一番大きくて丈夫だから・・・」
「本当にそれだけ?」
イダの意見に、クラリッサも同意する。
彼女はアンナに何故それを選んだのかを問いただすが、アンナはおどおどと怯えたように当たり障りのない理由を述べていた。
その態度にクラリッサはさらに質問を続けた、俯いたアンナも下から覗き込む彼女の視線からは逃れられない。
「その、本当は私・・・あれなら隠れられるからって、怖くてだからっ!」
「いいのよ。魔法使いのあなたが、前線に出るのはさぞ怖かったでしょう。だから隠れたいと思うのは仕方がないこと・・・でも、あなたの腕力ではあれはうまく扱えない。それは分かるでしょう?」
「う゛ん、わ゛かる、わ゛かるよぉ・・・!」
クラリッサの視線から逃れられないアンナは、やがて白状するように自らの恐怖を告白した。
アンナの告白を聞いてもクラリッサには動揺はない、彼女には初めからそれが分かっていたのだろう。
彼女の諭すような言葉に、アンナはその胸へと飛び込んで泣き出してしまっていた。
「イダ、あの盾が良い物なのは間違いないのよね?」
「・・・うん、鋼鉄製」
泣き出してしまったアンナを心配そうに見詰めていたイダは、クラリッサの質問にその盾へと歩み寄るとメイスを取り出した。
金属同士を叩き合わせてその具合と音を確かめたイダは、静かに頷くとクラリッサの望む回答を返す。
「でしたら、クロード様。あの盾を作り直してもらえませんか、そうですね・・・半分ほどのサイズで」
「お、おう!任せとけ!!」
クラリッサから盾の作り直しをお願いされたクロードは、慌ててそれへと向かっていく。
女の子が声を上げて泣き出した状況に所在無く縮こまっていた彼は、与えられた役割に助かったと一目散に駆け出していた。
「イダは・・・あなたは器用なのだから、ナイフももっとうまく使えるはず。今まで使っていたメイスの方が使いやすいのは分かるけど・・・」
「・・・うん、頑張る」
「ナイフの扱いなら私も教えられるから。そうねナイフに慣れるために、あなたのメイスはアンナに預けましょうか」
「・・・それは」
クロードの動きを見守りながら、胸元で泣き続けるアンナをあやしていたクラリッサは、イダにも諭すように語り掛けた。
彼女の言葉に素直に頷いたイダも、お気に入りのメイスの話となると僅かに抵抗を見せる。
両手でメイスを隠すように覆った彼女は、クラリッサに対して悲しそうな表情を作った。
「何も、あなたからそれを奪おうという訳じゃないのよ。あなたがナイフに慣れるまでの、ちょっとの間よ。それとも、アンナに預けるのが嫌?彼女は信頼できない?」
「・・・そうじゃない」
「なら、いいわね。あなたなら、罠や道具もうまく使えるんじゃない?その辺も後で探してみましょう」
「・・・分かった」
クラリッサにうまく言いくるめられたイダは、憮然とした表情で頷くしかなかった。
自らも少し卑怯な言い方をしたという感想を抱いたクラリッサは、それでもこなさなければならない役割に苦笑を漏らす。
泣き続けて疲れたのか、彼女の胸の中のアンナは寝息を立て始めていた。
「私は、魔法の扱いに慣れるしかないか。アンナは付与魔術師だし、エミリアになら何か聞けたかもしれないけど・・・」
アンナの髪を優しく梳かしてあげているクラリッサは、独り言を呟く。
彼女の視線の先には、盾のサイズの調整に四苦八苦しているクロードの姿が映っていた。
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