終わる世界のブレイブス チート能力で楽して暮らそうと思ったら、人類が滅びかけてるんだが?

斑目 ごたく

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育成の始まり

才能

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「―――以上だ。さて皆、聞いていて思っただろうが・・・」
「ちょっと、なによこれ!!本当に間違いないの!!?」

 能力の発表と同じように、最後にイダの才能を告げたクロードは、少女達へと言葉を掛けようとする。
 その言葉は、叫び声を上げたエミリアによって途中で遮られる。
 見れば彼女は明らかな苛立ちを抱えた表情で、いきり立っていた。
 怒りをはっきりと示している彼女ほどではないが、他の少女達も皆一様に不安と戸惑いをその顔に浮かべている。
 それも、無理はないだろう。何故ならば―――。

「間違いはないさ、エミリア。だが、お前が憤る気持ちも分かる。なにせ、お前達が培ってきた技能と真逆といってもいい才能ばかりだからな」

 突っかかってくるエミリアを宥めようとするクロードは、なるべく冷静な態度で理性的な言葉を並べて、彼女の感情を刺激しないように努めていた。
 彼の言葉は少女達の不安の理由を説明していた、そのはっきりとした事実に彼女達のざわめきは一際大きくなり、それに押し出されるようにして一人の少女が進み出てくる。

「クロード様の能力を疑うわけではありませんが・・・これは本当なのでしょうか?私はハーフリングです、一般的にはあまり魔法を扱うのは得意ではない種族で・・・それなのに魔法の才能なんて」
「そうなの?それは初耳だけど・・・才能があるのは間違いない。別に、魔法が得意なハーフリングがいたっていいだろう?」
「それは、そうですが・・・」

 この世界の種族の特徴を知らないクロードからすれば、クラリッサの懸念は考えもしなかった事で、それがことさら重要にも思えなかった。
 彼のあまりに軽い返答に、クラリッサは次の言葉を続けられずに言いよどむ事しか出来ない。
 彼女の懸念はこの世界における常識に基づいた事なのだろうが、この世界に来て数日のクロードにそれが通じるはずもなかった。

「私は納得しないわよ!!私はエルフよ!なのに・・・斧の才能って、なによ!!そんな野蛮人みたいな真似をしろって言うの!?」
「いや、別に斧だから野蛮ってわけでも・・・えー、エミリアほどではないと思うが、皆もそれぞれに不満や戸惑いはあると思う」

 自らの不満を代弁してくれると期待したクラリッサがあっさりと引き下がってしまった事で、寧ろ怒りを爆発させたエミリアがクロードへと再び食って掛かる。
 彼女はクロードが無視できないように、直接彼の耳へと近寄っては言葉を叩きつけていた。
 その圧力に身体を斜めに傾けたクロードは、彼女を宥める事は諦めて周りの少女達へと語りかける。

「だけど聞いてくれ。俺はこう思うんだ、確かに今まで培ってきた技術を捨てるのは躊躇いがあると。そりゃそうだ、皆が今まで必死で努力してそれらを身に付けてきたのは見れば分かるしな。俺は何もそれを捨てろと言ってる訳じゃないんだ」

 語り始めたクロードに、今だに言い足りない様子のエミリアはクラリッサが宥めて抑えていた。
 彼女の圧力から解放されたクロードは、斜めに傾いた身体に一度バランスを崩して足元を暴れさせる。
 彼はその勢いのまま少女達の前を歩き始めた、彼の頭の中には大勢の前でプレゼンテーションする外人のイメージが浮かんでいた。

「せっかく才能が分かったんだから、それを生かしてみませんかと俺は提案したい。これはすごい事だ、そうだろう?皆、今までの技能はそのままに、新たに才能を生かした技能を身につけてみようじゃないか!きっと一気に戦力が跳ね上がるぞ!!」

 握った拳を振り回しながら、前へ通る少女の顔を覗き込んでは一人一人へ語り掛けたクロードは、最後に両手を打ち鳴らして彼女達に発破を掛ける。
 イメージ中ではカリスマ経営者や、一流監督の姿を重ねる事が出来たその振る舞いも、響いた大声が収まる頃には沈黙が広がるばかり。
 少女達は皆一様に口をつぐみ、クロードの顔を見詰めるだけであった。

「あ、あれ?その・・・やってみない?才能とか、ほら伸ばした方がいいなー、みたいなね」

 沈黙に、クロードの不安そうな声だけが響く。
 彼はそのイメージのカリスマを手放して、所在無さげに少女達の顔色を窺っている。
 その振る舞いは情けなかったが、先ほどまでの格好つけた姿よりは心に訴えかけるものがあった。

「わ、私、頑張ってみます!!その、盾の扱いとか不安だけど・・・クロード様を信じます!」
「・・・アンナ、本当か?俺を気遣ってとかなら、無理しないでいいんだぞ?」
「そんなんじゃないです!私、本気ですから!!」

 沈黙の時間に心が折れていたクロードは、彼の前へと進み出て決意を告げるアンナの振る舞いにも疑いの目を向けていた。
 彼女の決意に水を差す、クロードの振る舞いは褒められたものではないだろう。
 しかしその言葉は寧ろアンナの思いを強くさせ、彼女は両手を握り締めるとその瞳に決意の炎を燃やしていた。

「私もクロード様を信じます。ハーフリングの大魔法使いというのも、悪くはないですから」
「・・・頑張る」

 アンナの決意に触発されるように、二人の少女がクロードの前へと進み出てくる。
 クラリッサは硬くなった空気を解そうと、冗談めかした口調で柔らかく微笑み、イダは静かに決意を語る。
 彼女たちの振る舞いはそれぞれ違っていたが、その奥に確かな決意を秘めている事だけは共通していた。

「お前達・・・ありがとう、ありがとうなぁ!!」
「ク、クロード様!?」

 彼女達の言葉に感極まったクロードは言葉を詰まらせると、涙を溢れさせる前に彼女達に抱きついた。
 彼の突然の振る舞いに驚きの声を上げたアンナは、しかし振り払う力を込めてはいなかった。

「・・・クロード、痛い」
「おぉ、悪い悪い!アンナもクラリッサも、突然抱きついて悪かったな」
「い、いえ!私は大丈夫ですから!だから、その・・・」

 身長の関係で皆の身体に潰されるような状態になっていたイダが、クロードの腹の辺りから苦しさを訴える。
 彼女の惨状を目にしたクロードがすぐさま彼女らを放すと、アンナが慌てて嫌ではなかったと主張した。
 彼女はその言葉の最後にまだ何かを言っていたが、口の内側ですら濁したその声は誰にも聞かれる事はなかった。

「・・・私は、やらないわよ」
「エミリア・・・」

 流れで賛同させられてしまいそうな空気に、エミリアははっきりと拒絶を告げる。
 すでに顔を背けて明後日の方向を向いている彼女に、アンナが声を掛けるが彼女は反応も示そうとしない。

「ティオも嫌なのにゃ!」
「ティオちゃん?どうして?」

 エミリアへと寄り添いに行ったアンナに、今まで声を発していなかったティオフィラが意見を表明する。
 彼女のその意外な反応にクラリッサが優しく理由を尋ねると、彼女は胡坐を組んだ足の間に腕を突っ込んでは身体を傾かせて、悩む仕草を全身で表していた。

「にゃー・・・アンナには秘密にゃ?付与魔術って地味で、ちょっとダサいから嫌なのにゃ」
「聞こえてるよ!?そんな風に思ってたの、ティオ!?」
「にゃー!!ごめんなさいにゃ!でも、嫌のものは嫌なのにゃー!!」

 クラリッサの耳へと口を寄せて小声で呟いたティオフィラの言葉も、大して離れていない距離ではしっかりと聞こえてしまう。
 ティオフィラの発言にショックを受けたアンナが大声を上げると、彼女は謝罪の言葉を叫びながら逃げ出していってしまった。

「話がこれで終わりなら、私も帰るわ。いいでしょ?」
「エミリア、待ってもう少しだけ」
「いいんだ、アンナ。悪かったなエミリア、不快な思いをさせて。でも話した事は嘘じゃない、それだけは憶えていてくれ」

 去って行ったティオフィラに気まずい沈黙が流れたの短い間だけ、腰を上げたエミリアは軽く服を払うと、彼らが住処にしている洞窟へと歩き始める。
 アンナが慌ててを彼女を引きとめようとするが、それはクロードによって制止されていた。
 クロードの声に一度だけこちらへと視線を向けたエミリアは、結局何も言わぬまま背を向けて去っていってしまう。

「よろしいのでしょうか、クロード様?私からも何か・・・」
「無理強いは出来ないよ。それにすぐには無理でも、いつか分かってくれるさ」

 説得を申し出るクラリッサに、クロードは溜息混じりに諦めを告げる。
 彼は遠い目をして、去りゆくエミリアの背中を見詰めていた。

「俺達も一度戻ろう、装備を整えないと」
「そうですね。イダちゃん、案内を頼める?」
「・・・任せて」

 人が減ったためか、僅かに冷たい風が肌を震わせる。
 クロードが洞窟への帰還を提案したのは、装備の問題もあったが彼の空いた小腹も関係しているだろう。
 彼の言葉に同意したクラリッサは、道具全般を管理しているイダに先導を任せる。
 自らの能力を生かせる場面に、イダはいつもと変わらぬ口調で応えていたが、その仕草の端に気合を覗かせていた。

「私は先に行って、食事の準備をしておきますね」
「あぁ、頼むよ」

 片手でお腹の辺りを擦るクロードの仕草に、彼の空腹を察したアンナが小走りで駆け出していく。
 彼女の気の利いた振る舞いにクロードは太陽を見上げる、その高さはちょうど天頂に差しかかろうとしていた。

「アンナの分の装備は持っていって上げましょう。盾と・・・槌でしょうか?」
「盾もサイズとかあるし、武器も片手で扱えそうなのは色々持って行ってみよう」

 アンナの後姿を見送りながら、クラリッサとクロードは相談に意見を交わす。
 彼らの話に聞き耳を立てながら、イダはどう二人を連れて行こうかと思案していた。
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