終わる世界のブレイブス チート能力で楽して暮らそうと思ったら、人類が滅びかけてるんだが?

斑目 ごたく

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育成の始まり

突然の死

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 水かさも治まり、流れもだいぶ穏やかになった川の岸辺には暖かな日差しが降り注いでいた。
 川辺に集まった少女達は、思い思いに姿勢を楽にしている。
 一人周りを飛んでいる蝶に気を取られそうなティオフィラだけが、隣のイダにその衣服を掴まれていた。

「え~・・・皆さんに集まってもらったのは他でもありません。皆さんには私、クロード・シラクの能力について説明したいと思います」

 半円を描いて地べたに座っている少女達の前に立ったクロードは、川を背にしてその間をうろうろと彷徨いながら言葉を述べ始める。
 そのふわふわとした頼りない態度とは裏腹に、彼が口にした内容は重要なものだった。

「クロード様!その・・・よろしいのでしょうか?そのような重要な事を、私達に話してしまって・・・」

 クロードが口にしようとしている内容に、クラリッサが慌てて制止の言葉を掛ける。
 能力の秘密はその人の生命線そのものだ、それを会って数日の人間に明かそうとするクロードに、クラリッサは慎重に言葉を選んで注意を促していた。

「えっ?なんで?あぁ・・・能力の秘密、的な感じ?いやいや、ここまで来たら皆とは運命共同体でしょ?秘密にする意味ないって」
「クロード様・・・!あなた様がそう仰ってくださるなら、私からは何も言う事はありません。どうぞ、お話ください」

 クラリッサの言葉に、クロードは心底意味が分からないと首を傾げる。
 彼にとってはもはや、彼女達と共に生きるしか道は残されていない、そのためその選択は至極当然のもので、なぜ彼女がそんな事を言うのか分からなかった。
 人外の力を持つクロードが、当たり前に自分達と共に生きると口にしてくれた事に、クラリッサは感極まったように胸を押さえる。
 彼女のそんな態度にも、クロードは不思議そうに首を傾げていた。

「なーなー、うんめーきょーどーたいってなんにゃ?」
「うーん、そうね・・・家族って事かな?」

 クロードが話した言葉の意味が分からなかったティオフィラは、アンナの膝を揺するとその意味を尋ねる。
 彼女の質問に適当な表現を探すアンナは、僅かに頬を染めるとその言葉を家族と表現していた。

「家族?にいやんは、始めからにいやんにゃ?」
「ふふっ、ティオにとってはそうかもね」
「にゃー?よく分かんにゃいにゃぁ」

 アンナの答えに首を捻ったティオフィラは、それは当たり前だと疑問を口にしていた。
 彼女の言葉にアンナは優しく微笑むと、その頭を撫でてやっている。
 さらに頭を捻ったティオフィラも、その感触にどうでも良くなったのか彼女の膝へと頭を預けて、喉をごろごろと鳴らしていた。

「えーっと、もう話してもいい感じなのか?それじゃ始めるぞ!でもそうだな・・・まずは話す内容が嘘じゃない証明するために、あれを・・・」
「クロード様の御力を疑うなんて!そんな人、ここにはいません!!」

 逸れていった話題に言い難そうに言葉を発したクロードは、手を叩くと仕切り直すために大声を上げる。
 集まった注目に彼は最初に話す内容を考えるが、その呟いた内容に急激な反応を示す少女がいた。
 立ち上がったアンナに、彼女の膝に寝転んでいたティオフィラが弾かれて悲鳴を上げる。
 彼女は強い瞳で、クロードの不安を必死に否定していた。

「ええっと、ありがとうアンナ。でもこの能力は口で説明するより、実際に見てもらった方が早いから・・・じゃあ、エミリア」
「・・・なによ」

 アンナの態度に戸惑うクロードは、礼だけを述べて彼女を宥めようとする。
 クロードの言葉に彼女は引き下がるが、完全には納得しているようには見えない。
 そんな状況で彼に指定されたエミリアは、なんともいえない憮然とした態度で言葉を返していた。

「ちょっとその弓で、俺の頭を射抜いてくれない?」
「はぁ・・・?出来る訳ないでしょ、そんな事!!」

 空気の悪い中で名指しされた不満は、続いてクロードが口にした意味の分からない要求に怒りに変わる。
 膝の上に置いていた弓を手に取ったエミリアは、立ち上がると全身で怒りを表現していた。

「うーん・・・正直それが一番、苦しくなさそうなんだけどなぁ・・・」
「クロード様!いくらなんでも、冗談が過ぎます!!」

 クロードの曖昧な態度に、クラリッサまでもが立ち上がり抗議の声を上げる。
 彼女達の迫力に、彼は徐々に押されて川の方へと後退していった。

「いや、別に冗談ってわけじゃあ・・・うおっ!?」
「クロード様!!?」

 少女達に追い詰められ川へと後退していたクロードは、水流によって丸みを帯びた石に足を滑らせる。
 その姿に慌てたクラリッサが駆け寄ってももう遅い、彼の後頭部は水面から突き出た尖った岩に貫かれてしまっていた。

「・・・クロード様?そんな、嫌、嫌ぁぁぁぁぁっぁぁ!!?」

 流れる川に身体を浸してピクリとも動かないクロードに、駆け寄ったクラリッサは彼の身体を地面へと運ぶ。
 その光景を身体を硬直させていたアンナは、信じたくないと首を振ると耳を劈く悲鳴を上げる。
 穏やかだった午後の川岸に、少女達の悲痛な悲鳴だけが響き続けていた。



 深い、深い暗闇の底に、甲高い泣き声が聞こえる。
 それはこの闇を震わせて、沈んだ意識を無理やり浮上させようと対流を作っていた。
 この声が呼んでいるのは、きっと光の差す場所なのだろう。
 重たい目蓋は今、開く。

「クロード様、起きてくださいクロード様!!あなたがいなければ、私達はっ!!!」
「にいやん、にいやーん!起きて、起きてよぉ・・・にいやーん、うぅ・・・うわぁぁぁん!!」

 薄く開いた目蓋に、少女達の涙が落ちて重たくなる。
 クロードの身体に縋りついて泣き声を上げる少女達に、彼はまるで身動きが取れなかった。

「・・・なに、勝手に死んでんのよ。私達を置いてさ・・・そんなの、駄目だよ」
「クロード様?冗談なんでしょう、早くいつものように照れくさそうに笑ってください、じゃないと皆、本気にしちゃうじゃないですか・・・ねぇ、クロード様!クロード様ぁぁぁぁ!!!」

 身体を揺する感覚がする、それが誰がやっているものなのかはもはや分からなかった。
 耳を叩く泣き声からは逃げることも出来ない、身体を締め付ける感触は苦しさよりも申し訳なさの方が勝った。

「・・・ティオ、泣き止む。泣き止んでよ、うぅ、うわぁぁぁぁん!!」

 ティオフィラの背中を擦っていたイダは、やがて彼女に抱きつくと一緒に泣き声を上げる。
 どうにか動かせる右手で、その頭を撫でてやった。
 その感触はまだ重たく、冷たい。

「・・・悪かったよ、謝るから泣き止んでくれ」

 小さく呟いたクロードの言葉に、周りの少女達は皆一様に目を丸くする。
 その中の二人の少女が、いち早くその意味を理解して飛び込んできていた。

「・・・クロード様?クロード様ぁぁぁぁ!!!」
「にいやぁぁぁぁぁぁん!!!」

 アンナとティオフィラのタックルを食らったクロードは、また一瞬だけ意識を寸断する。
 鳴り止まない声は、やっぱり泣き声だったが、今度はもう悲しい響きではなかった。
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