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希望はのんびりスローライフ

驚愕の事実

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 クロードを砂山から救出したクラリッサ達は川岸へと下り、その川の流れに沿って川上へと移動していた。
 先頭に立って進むクラリッサは歩みを止めると、ある方向を指し示した。
 彼女の示した先は切り立った崖の一部にしか過ぎないように見えたが、よく目を凝らしてみれば地形の隙間に光を通さない暗闇がある。

「・・・あの洞窟が?」
「えぇ。ここがおじ様達と、いざという時のために用意していた避難場所です」

 ここからは分かりようもない洞窟の規模に、クロードは不安そうな声を上げる。
 しかしクラリッサは迷わずそこに向かって進み始める、彼女の言葉には自信が窺えた。

「十数人程度が隠れて過ごす事を想定していましたから、十分な物資があるはずです。手入れは・・・かなり必要なようですが」

 洞窟まで差し掛かったクラリッサは中を見渡すと僅かに眉を顰め、軽く咳き込んだ。
 彼女は洞窟の中に入ると松明を手に戻ってくる、それに張り付いていた蜘蛛の巣を嫌そうに払った彼女は、それをエミリアへと差し出す。

「エミリア、お願い」
「はいはい」

 クラリッサが差し出した松明に、エミリアは手を翳すとそこに小さな火を生み出した。
 周りにいる少女達はそれに何の反応を示さなかったが、クロードは口の中だけで関心の声を上げていた。

「なーなー、食べ物はあるのー?クララー!ティオ、お腹すいたにゃぁ」
「大丈夫よ、ティオちゃん。ちゃんと食料もあるから、保存が利くものばかりだけどね」
「にゃー!干し肉でもいいから、齧りたいにゃ!どこ、どこクララ!!」

 悲しそうにその露出したお腹を押さえたティオフィラは、普段はピンと立っている耳も寝かせてクラリッサにご飯をおねだりする。
 彼女は終いにはクラリッサの腕に縋りつき始めるが、食料の話を耳にするとすぐに洞窟へと駆けていく。

「もう、あの子ったら・・・エミリア、入り口の近くに松明が立て掛けてあるから灯していってくれる?」
「分かった。アンナも手伝って」
「うん」

 ティオフィラの振る舞いに笑みを漏らしたクラリッサは、エミリアに洞窟の明かりを灯してくれるようにお願いする。
 二つ返事で了承したエミリアは、隣を歩いていたアンナも連れて洞窟へと向かっていった。

「イダは、そうね・・・保管している武具がある筈だから、それを点検してくれる」
「・・・分かった」

 自分の後ろを無言でついてきていたイダへと話題を振ったクラリッサは、僅かに考えると彼女に物資の確認を頼む。
 静かに頷いた彼女は、遅い足に先行する皆に追いつくために小走りで駆けていった。

「なぁ、クラリッサ。これからどうするんだ?何か考えがあるのか?」
「そうですね・・・おじ様達はやられてしまった、のだと思います。私達がいたヴィラク村も無事では済まないでしょう。すぐにでも救援に向かいたい所ですが・・・私達には、力が足りません」

 子供達がいなくなった事を確認したクロードは、クラリッサに今後の事について尋ねる。
 彼女は仲間の敗北を口にすると悔しそうに唇を歪め、言葉を濁した。
 願望を口にしようとした彼女はしかし、自らの力の無さを痛感し諦めの言葉を吐く。

「そうだな・・・ん?その、なんだ・・・助けを求めないのか?国とか、ほら冒険者みたいな奴らに?村を魔物に襲われたんだろ?」

 クラリッサの言葉に同調を返したクロードは、その内容に疑問を感じていた。
 彼女の口ぶりは、自分達の力だけで事態を解決しないといけないと語っている。
 年端もいかない少女達にとっては、それは余りに悲壮な覚悟に思えた。
 クロードととしては当然、もっと大きな組織、国や冒険者組合といったものに頼る事をイメージしていた。
 何故ならば、彼にとっては最初の村が魔物に襲われるという、定番のイベントに遭遇しただけなのだから。

「そう、出来たらよかったのですが・・・私達の国、オルレアンは滅びましたから。私達以外の生き残りが、一体どれくらいいるのか・・・」

 クロードの言葉に悲しそうな表情を作ったクラリッサは、寂しげな笑顔で致命的な事実を告げる。
 その内容に、クロードは固まっていた。

「・・・え?国が滅んだ・・・え、いや・・・マジで?」

 クロードの混乱しきった呟きだけが、虚しく響く。
 先行させた少女達の様子が気になるクラリッサが洞窟へと向かっても、彼はしばらくそこに立ち尽くしていた。
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