終わる世界のブレイブス チート能力で楽して暮らそうと思ったら、人類が滅びかけてるんだが?

斑目 ごたく

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希望はのんびりスローライフ

大人達の戦い 4

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『死に損ないがっ!サンダー・タッチ』
「ぐぎぃぃぃ!!」

 迫るトゥルニエに、ホルガーは杖を構える。
 彼が振るった杖に、トゥルニエは反応できない。
 腕を折ってバランスの悪い走り方しか出来なかったトゥルニエに、ホルガーは微妙に狙いを外して肩を叩いていた。

『なんだとっ!?』

 度重なる衝撃に痛んだ鎧は、奔った電撃に弾けて飛んだ。
 肩を覆う金属は、それを留める革のベルトが焼き切れると反動に弾けて消える、金属を伝っていた電流は、落ちて滑った布地に叩いた地面へと広がっていくだけ。

「ぃぃぃぃぃぁっぁぁぁぁああああ!!!」

 電流に痺れる身体にも、この手は剣を手放してはいない。
 痺れが残る唇は叫び声もうまく上げてはくれないが、この腕を動かすのには十分だ。
 右手は今、目の前のゴブリンの身体を薙ぎ払う。

「な・・・に?これは・・・?」
『魔法使いは、鎧を着ないとでも思ったか?』

 トゥルニエの剣は、ホルガーのローブを切り裂いて止まっていた。
 その下からは、鎖帷子が覗いている。
 トゥルニエの剣はそれを僅かに切り裂いていたが、致命傷には程遠かった。

「それが・・・どうしたっ!!」
『・・・それを、許すと思うかね?エア・バースト』

 鎖帷子を切り裂いて致命傷を与えるほどの力はないトゥルニエは、それに覆われていない首へと狙いを定める。
 剣を振りかぶる彼の姿に、ホルガーはそれを許すほど甘くはなかった。

「くっ!?このっ、くそがぁ!!」

 ホルガーの身体から巻き起こった強烈な空気の衝撃に、トゥルニエは抗いきれずに吹き飛ばされてしまう。
 本来一時しのぎにしか使えない弱い魔法も、ボロボロのトゥルニエには決定的な手段となった。
 尻餅をついた瞬間に剣も手放してしまったトゥルニエを、ホルガーは静かに見下ろしている。

『もうお終いかね?・・・なかなか楽しませてもらったのでね、こんな終わりは私としても残念だよ。・・・片付けろ』

 抵抗する術を失ったトゥルニエを見下ろしながら、ホルガーは訥々と語り始めた。
 彼は言葉の最後に残念そうに首を振ると、片手を掲げて合図を送る。
 周りの魔物達が、彼の合図に駆け寄り始めていた。

「・・・周りの魔物に任せるということは、ご自慢の魔法はどうやら種切れのようだな?」
『・・・なんだ、何を言っている?錯乱したか?』

 迫り来る魔物達に、トゥルニエはぶつぶつと何事かを呟いた。
 彼は今だに手放した剣すら拾おうとしていない、ホルガーには彼のそんな姿は頭がおかしくなったようにしか見えなかった。

「結局・・・お前に頼るしかなくなったな、レオン」
「「うおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」」

 トゥルニエはどこか寂しそうに、言葉を呟く。
 その時、ホルガーの後方から雄叫びが轟いた。

『な、なんだ!?何が起こった!??』

 突然轟いたその声に、動揺したホルガーは辺りを必死に見回している。
 彼が後方へと振り返ると、そこには赤髪の少年を先頭にした数人の集団が、丘の反対側から突撃してきていた。

『馬鹿なっ!?一体どこから!?まさか、始めからこれを・・・ええいっ、そんな人数さっさと仕留めてしまえ!!』

 驚きを口にするホルガーは、張り巡らされた策略を思い知り、冷たい汗を垂らす。
 しかし彼が動揺に硬直することはない、依然にして状況はこちらが有利なのだ。
 正面の戦いは主要な人物を葬ったことによって、こちらの優勢に傾いている。
 後は後ろから迫ってくる少数の敵を撃退してしまえば、勝利はこちらのものだった。
 ホルガーは号令を下す、トゥルニエを止めに刺しに集まっていた魔物達は、その声に慌てて後方の集団へと向かっていく。

『驚かされたが、どうやらここまでのようだな?』
「・・・余裕そうだが、果たしてそれがいつまで続くかな?あいつは・・・俺より強いぞ?」

 多数の魔物達の群れに飲み込まれた人間の集団を目にして、ホルガーは安堵したように後ろを振り返る。
 彼の言葉の意味は分からなくとも、その余裕に満ちた表情は伝わってくる。
 トゥルニエは一つの確信を口にしていた、そのたった一つの切り札を。

『ぐわぁぁ!?』『なんだ、こいつ!?は、速いぞ、うわぁっ!?』『ひぃ!?た、たすけっ』

 人間の集団を取り囲んでいた魔物達から、怯えたような悲鳴が響き渡る。
 圧倒的に有利な状態ながらも、なぜか背中を向けて逃げ出し始める魔物も出始めていた。
 包囲に開いた隙間は僅か、そこから躍り出てくる小さな人影があった。
 集団の先頭を走っていた赤髪の少年は、返り血でその全身を真っ赤に染めていた。

『なんだ!?なにが・・・あいつは?止めろ!あいつを止めろぉぉぉぉ!!!』

 その非現実的な光景に、ホルガーは何度も否定するように首を振った。
 少年はその間にもこちらに向かって駆け出し始めていた、その距離はどんどん縮まっていく。
 恐怖に絶叫したホルガーが、その少年を何が何でも止めるように命令を下す。
 それに従って飛び込んでいった魔物達を、少年はほとんど一刀のもとに仕留めていた。

『くっ、頼りにならない者共めっ!!こうなったらなりふりは構っていられん!ぉぉぉぉぉおおおお!!!』

 飛びついてくる魔物達を簡単に仕留めていく少年の進攻は、一向に鈍る気配は見られなかった。
 追い詰められたホルガーは杖を両手で握りなおすと、全身に力を込めるように踏ん張って唸り始める。
 浮き出る血管に、彼の鼻から血が溢れ始める。
 血走った目は少年を一心に見つめ続けている、彼の前方の空間に炎の塊が生まれ始めていた。

『ファァァイヤァァァ!ボォォォォ―――』
「こっちも忘れてくれるなよ?寂しいじゃないか」

 目蓋からも溢れ始めた血液に、ホルガーは絶叫しながら呪文を唱えていた。
 彼がその言葉を言い終わる前に、トゥルニエが後ろから声を掛けてくる。
 その腹からは、剣先が突き出ていた。

『ぐっ・・・!?き、貴様ぁ!!』
「まだ、息があるのか。剣は・・・レオォォォォン!!!」

 ボロボロの身体に、突き出た剣先は短い。
 急所もうまく狙えなかったトゥルニエに、ホルガーは抵抗を諦めてはいなかった。
 暴れ始めるホルガーに、トゥルニエは剣を抜くことが出来ない。
 彼は、少年の名前を叫んでいた。

『お前も道連れにじでやどぅ!!』

 自らの腹を貫かれても、ホルガーは魔力の制御を見失っていない。
 彼は半端な状態に膨らんだ火球を、少年へと放つ。

「まずいっ、レオン!!?」
「うぉぉぉぉぉぉ、あぁぁぁぁぁっ!!!」

 痛みによって狙いを僅かに違った火球は、姿勢を地面すれすれにまで低くした少年の髪を焼いた。
 すぐ後方で爆発したそれにタイミングを合わせて跳躍した彼は、爆風の勢いに乗って猛スピードでホルガーへと突っ込んでくる。
 彼は振りかぶった剣を身体ごと振り下ろす、その力はすでに制御の内ではなかった。
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