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希望はのんびりスローライフ
戦いと、少女達 1
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「駄目ですっ!!東側の壁も突破されました!!!」
「隊長!トゥルニエ総隊長!!ここはもう駄目です、撤退しましょう!!」
「・・・ここを逃げ出して、いったいどこに行こうというんだ?すでに逃げ場などない!!ここを守りきる以外、お前達が生き残る術はないぞ!!死ぬ気で戦え!!!」
トゥルニエと呼ばれた一際立派な鎧を纏った男が、身を隠す防壁から身体を乗り出して怒号を上げる。
彼はその声に裂帛の気合を込めている、防壁の陥落に動揺していた男達も、彼の雄叫びに呼応するように声を上げていた。
連鎖するように轟いていく雄叫びに、取り戻した勢いは一瞬のものだろう。
この場所に迫り来る魔物の数は、まだまだ多い。
こちらの数は減っていく一方だ、その差は気合や精神論で覆せる限度をとっくに超えている。
「子供達を集めさせろ・・・例の場所に」
「は?それは・・・?」
「皆まで言わせるな・・・行け!」
「は、はい!」
周りの男達に奮戦を促したトゥルニエは、その実ここを守ることを諦めていた。
すでに陥落した防壁は東側だけではない。
絶望的とも言える戦況に、彼にはそれでも未来を守る義務があった。
子供達という、未来を。
「東側の部隊は最終防衛線まで下がらせろ!ファロの部隊は救援に向かえ!!ギャロワ、お前はもっと部隊を押し上げるんだ!!そこから全体を―――」
彼の指示を受けて駆け出していく兵士を見送ったトゥルニエは、再び防壁から身を乗り出して周りへと指示を与えていく。
それは無理に無理を重ねた延命策でしかない、彼の指示を受けた兵士達もそれは分かっているのか、どこか悲痛な顔をして頷いていた。
彼らの命を捨石にする作戦に、トゥルニエは奥歯を噛み締める。
この胸の痛みなど何の意味があろうか、我らはもはやなりふりなど構っていられない。
悲壮な覚悟に顔を強張らせた彼の鼻先を、何かが通り過ぎていく。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!!!」
聞こえてきた悲鳴は後方から、トゥルニエには振り返らずとも、それが誰が上げたものなのか分かった。
そして、それを誰がやったのかも。
「ギャロワァァァ!!お前は進めぇぇぇ!!!」
目の前にはコウモリの翼を持つ小人が二匹、インプと呼ばれる悪魔の手先がこちらへと向かってきていた。
伝令に向かわせた兵士が倒れても、別の兵士を向かわせれば問題ない。
しかし刻一刻と追い詰められていく状況に、その僅かな遅れが致命的になるかもしれなかった。
怒りに任せて剣を抜いたトゥルニエは、突撃の命令を下す。
インプの手元には、二つの氷の刃が生まれていた。
「くっ、このっ!!」
ほとんど同時に放たれた氷の刃も、位置の違いに到達には僅かのずれが生じる。
抜き放った流れのままに切り払った剣は、最も近い氷の刃を砕いて弾く。
翻す暇すらない続けざまに、やってきた二つ目の氷の刃は、剣の腹で叩いてどうにか軌道を逸らす。
トゥルニアの視界には、氷の影に隠れて突っ込んできていたインプの姿が映っていた。
「おらぁぁぁぁ!!!」
雄叫びに加速した剣筋が、インプの身体を真っ二つにする。
無理な動きに全力を使った身体は、地面へと縫いつけた剣をすぐに引き戻せはしない。
もう一匹のインプがそんな彼の姿をせせら笑いながら、氷の刃を構えていた。
それはもう、放たれる。
この手は痺れて、動かせなかった。
「リーンフォース・アーマー!!」
後方から響いた声に、トゥルニエの身体が薄く輝きを放つ。
インプが放った氷の刃は、彼の胸を狙っていた。
鎧を纏ったその部分も、同じような格好をした兵士の身体を貫いたことを考えれば、問題にもならないだろう。
彼は奥歯を噛み締める。
それはどういった想いからか、剣を振る腕は今、ようやく動き始める。
「うおぉぉぉぉぉぉ!!!」
踏み込んだトゥルニエに、氷の刃が胸を抉る。
魔法によって強化された鎧はでも、その威力にへこんで衝撃を伝えてきた。
喉に上ってくる血を今は吐き出さない、薄く笑みを作っていたインプの表情が驚愕に変わる前に、その顔は二つへと分かれていた。
「アンナ!!何故ここにいる!!?」
「私も・・・私も戦えます!!私もお父さんと一緒にっ!」
インプを切り捨てて、喉に上った血を吐き捨てたトゥルニエは後ろへと振り返る。
そこには金髪の可憐な少女が佇んでいた。
彼女の握る短い杖は、その先端の宝石のような部分が眩く発光している。
その様子に、彼女がトゥルニエを救った魔法の主であることは間違いないだろう。
アンナと呼ばれた少女は、今にも泣き出しそうな顔でトゥルニエへと懇願していた。
「ならんっ!お前は他の子供達と一緒に逃げるんだ!!」
「ここから・・・ここから逃げても、私達はもうっ・・・!それなら最後までお父さんと戦う!!」
「違うっ!お前達が・・・お前達が生きている限り、我々の負けではないっ!!逃げて、未来を守るんだアンナ!!」
自らの娘なのだろう少女と言い争いをするトゥルニエは、防壁を乗り越えてこちら側へと戻ってくる。
彼は少女の肩へと手を置いて、言い聞かせるように強く言葉を重ねるが、少女の緑色の瞳は涙を湛えても意思を曲げようとはしなかった。
杖を両手で握り締める少女は、強い瞳でトゥルニエを睨みつける。
彼が自らの娘の意思の強さにたじろいでいると、その頬を掠めて飛来していくものがあった。
「おじ様、白熱しているところ悪いんだけど、今は戦闘中なの。それに私達は戦力なる、そうでしょ?アンナ」
「エミリア!!」
矢を放った少女、エミリアはその長い耳に掛かる金髪を払うと、続けざまに矢を放つ。
遠く上がった悲鳴が、それが的中したことを教えてくれる。
彼女の登場に喜びの声を上げたアンナは、すぐに悲しげな表情で顔を俯かせてしまう。
彼女もここが生存の希望のある戦場だとは思ってはいなかった、それに友人まで巻き込んでしまった事実が、彼女の表情を暗くした。
「エミリア!?お前までこんなっ!!」
「こんな・・・、なんですのおじ様?こんな戦場、こんな死に場所?冗談言わないで下さる?今更ここよりましな場所なんて、どこにもない!そんな状況で、私に友人を置いて逃げろと?このエミリア・ハーヴィストを見くびらないで!!」
「―――危ない、エミリア!?」
一通り矢を放って満足したエミリアは、逃げろと促すトゥルニエと言い争いを始めてしまう。
防壁の内側へと戻ってきたといっても、彼女らが前線に張り付いていることは変わりがない。
その身には危険が迫っていた、それに気付いたアンナが上げた声も、間に合うはずはなかった。
「ティオも混ぜるにゃーーーーー!!!」
エミリアへと刃を向けていた醜悪な小人、ゴブリンはどこかから飛び掛ってきた漆黒の影に吹き飛ばされる。
見れば小柄な少女が、飛び蹴りの姿勢のままで地面へと降り立っている。
彼女は勢いを殺すように一度転がると、そのまま立ち上がって、辺りを窺うようにその獣の耳をぴくぴくと動かしていた。
「ティオちゃん、避けて!!」
「にゃ!?」
どこかから掛かった声に、慌てて反応した獣耳の少女は、その場でバク転をしては飛び退いた。
彼女のその跳ね上がった足の間を、二本のナイフが飛んでいく。
それは獣耳の少女へとこっそり忍び寄っていた、二匹のゴブリンの眉間を見事射抜いていた。
「あ、危ないにゃ!クララ!!ティオは自分でも、どうにか出来たにゃ!!」
「ごめんごめんって、ティオちゃん。ほら、そこは危ないからこっちおいで」
「うにゅぅ・・・もっとティオを信頼して欲しいにゃ」
ナイフを放ったさらに小柄な少女が差し伸べた手に、文句を言いながらも掴まった獣耳の少女は、ゆっくりと防壁を乗り越えてこっちへと戻ってくる。
体格の差に引っ張るのに苦労していた小柄な少女は、最後にはエミリアの助けを借りる。
自分の力では全うできなかった行為に、小柄な少女はどこかしゅんと肩を落としていた。
「ティオフィラ・・・それにクラリッサ、お前まで」
「今は、非常時ですからおじ様、戦力になる者を遊ばせておくわけには・・・それに私は皆とは違いますから。安心して下さい、いざという時には・・・私が皆を連れて行きます」
「それは分かるが、しかしな・・・」
「何か、何か飛んでくるぞ・・・まずいっ!?に、逃げろー!!」
近くの防壁へと張り付いていた兵士が、何かに気付いて大声を上げる。
それは放物線を描いてゆっくりと飛来する、人の頭の数倍はありそうな岩の塊だった。
投石器から放られるようなそれは、実際にはトロルやオーガといった魔物が投げたものだろう。
始めに気が付いた兵士はすでに逃げ出し、周りの兵士達も逃げ出し始めていたが、どれほど間に合うだろうか。
「隊長!トゥルニエ総隊長!!ここはもう駄目です、撤退しましょう!!」
「・・・ここを逃げ出して、いったいどこに行こうというんだ?すでに逃げ場などない!!ここを守りきる以外、お前達が生き残る術はないぞ!!死ぬ気で戦え!!!」
トゥルニエと呼ばれた一際立派な鎧を纏った男が、身を隠す防壁から身体を乗り出して怒号を上げる。
彼はその声に裂帛の気合を込めている、防壁の陥落に動揺していた男達も、彼の雄叫びに呼応するように声を上げていた。
連鎖するように轟いていく雄叫びに、取り戻した勢いは一瞬のものだろう。
この場所に迫り来る魔物の数は、まだまだ多い。
こちらの数は減っていく一方だ、その差は気合や精神論で覆せる限度をとっくに超えている。
「子供達を集めさせろ・・・例の場所に」
「は?それは・・・?」
「皆まで言わせるな・・・行け!」
「は、はい!」
周りの男達に奮戦を促したトゥルニエは、その実ここを守ることを諦めていた。
すでに陥落した防壁は東側だけではない。
絶望的とも言える戦況に、彼にはそれでも未来を守る義務があった。
子供達という、未来を。
「東側の部隊は最終防衛線まで下がらせろ!ファロの部隊は救援に向かえ!!ギャロワ、お前はもっと部隊を押し上げるんだ!!そこから全体を―――」
彼の指示を受けて駆け出していく兵士を見送ったトゥルニエは、再び防壁から身を乗り出して周りへと指示を与えていく。
それは無理に無理を重ねた延命策でしかない、彼の指示を受けた兵士達もそれは分かっているのか、どこか悲痛な顔をして頷いていた。
彼らの命を捨石にする作戦に、トゥルニエは奥歯を噛み締める。
この胸の痛みなど何の意味があろうか、我らはもはやなりふりなど構っていられない。
悲壮な覚悟に顔を強張らせた彼の鼻先を、何かが通り過ぎていく。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!!!」
聞こえてきた悲鳴は後方から、トゥルニエには振り返らずとも、それが誰が上げたものなのか分かった。
そして、それを誰がやったのかも。
「ギャロワァァァ!!お前は進めぇぇぇ!!!」
目の前にはコウモリの翼を持つ小人が二匹、インプと呼ばれる悪魔の手先がこちらへと向かってきていた。
伝令に向かわせた兵士が倒れても、別の兵士を向かわせれば問題ない。
しかし刻一刻と追い詰められていく状況に、その僅かな遅れが致命的になるかもしれなかった。
怒りに任せて剣を抜いたトゥルニエは、突撃の命令を下す。
インプの手元には、二つの氷の刃が生まれていた。
「くっ、このっ!!」
ほとんど同時に放たれた氷の刃も、位置の違いに到達には僅かのずれが生じる。
抜き放った流れのままに切り払った剣は、最も近い氷の刃を砕いて弾く。
翻す暇すらない続けざまに、やってきた二つ目の氷の刃は、剣の腹で叩いてどうにか軌道を逸らす。
トゥルニアの視界には、氷の影に隠れて突っ込んできていたインプの姿が映っていた。
「おらぁぁぁぁ!!!」
雄叫びに加速した剣筋が、インプの身体を真っ二つにする。
無理な動きに全力を使った身体は、地面へと縫いつけた剣をすぐに引き戻せはしない。
もう一匹のインプがそんな彼の姿をせせら笑いながら、氷の刃を構えていた。
それはもう、放たれる。
この手は痺れて、動かせなかった。
「リーンフォース・アーマー!!」
後方から響いた声に、トゥルニエの身体が薄く輝きを放つ。
インプが放った氷の刃は、彼の胸を狙っていた。
鎧を纏ったその部分も、同じような格好をした兵士の身体を貫いたことを考えれば、問題にもならないだろう。
彼は奥歯を噛み締める。
それはどういった想いからか、剣を振る腕は今、ようやく動き始める。
「うおぉぉぉぉぉぉ!!!」
踏み込んだトゥルニエに、氷の刃が胸を抉る。
魔法によって強化された鎧はでも、その威力にへこんで衝撃を伝えてきた。
喉に上ってくる血を今は吐き出さない、薄く笑みを作っていたインプの表情が驚愕に変わる前に、その顔は二つへと分かれていた。
「アンナ!!何故ここにいる!!?」
「私も・・・私も戦えます!!私もお父さんと一緒にっ!」
インプを切り捨てて、喉に上った血を吐き捨てたトゥルニエは後ろへと振り返る。
そこには金髪の可憐な少女が佇んでいた。
彼女の握る短い杖は、その先端の宝石のような部分が眩く発光している。
その様子に、彼女がトゥルニエを救った魔法の主であることは間違いないだろう。
アンナと呼ばれた少女は、今にも泣き出しそうな顔でトゥルニエへと懇願していた。
「ならんっ!お前は他の子供達と一緒に逃げるんだ!!」
「ここから・・・ここから逃げても、私達はもうっ・・・!それなら最後までお父さんと戦う!!」
「違うっ!お前達が・・・お前達が生きている限り、我々の負けではないっ!!逃げて、未来を守るんだアンナ!!」
自らの娘なのだろう少女と言い争いをするトゥルニエは、防壁を乗り越えてこちら側へと戻ってくる。
彼は少女の肩へと手を置いて、言い聞かせるように強く言葉を重ねるが、少女の緑色の瞳は涙を湛えても意思を曲げようとはしなかった。
杖を両手で握り締める少女は、強い瞳でトゥルニエを睨みつける。
彼が自らの娘の意思の強さにたじろいでいると、その頬を掠めて飛来していくものがあった。
「おじ様、白熱しているところ悪いんだけど、今は戦闘中なの。それに私達は戦力なる、そうでしょ?アンナ」
「エミリア!!」
矢を放った少女、エミリアはその長い耳に掛かる金髪を払うと、続けざまに矢を放つ。
遠く上がった悲鳴が、それが的中したことを教えてくれる。
彼女の登場に喜びの声を上げたアンナは、すぐに悲しげな表情で顔を俯かせてしまう。
彼女もここが生存の希望のある戦場だとは思ってはいなかった、それに友人まで巻き込んでしまった事実が、彼女の表情を暗くした。
「エミリア!?お前までこんなっ!!」
「こんな・・・、なんですのおじ様?こんな戦場、こんな死に場所?冗談言わないで下さる?今更ここよりましな場所なんて、どこにもない!そんな状況で、私に友人を置いて逃げろと?このエミリア・ハーヴィストを見くびらないで!!」
「―――危ない、エミリア!?」
一通り矢を放って満足したエミリアは、逃げろと促すトゥルニエと言い争いを始めてしまう。
防壁の内側へと戻ってきたといっても、彼女らが前線に張り付いていることは変わりがない。
その身には危険が迫っていた、それに気付いたアンナが上げた声も、間に合うはずはなかった。
「ティオも混ぜるにゃーーーーー!!!」
エミリアへと刃を向けていた醜悪な小人、ゴブリンはどこかから飛び掛ってきた漆黒の影に吹き飛ばされる。
見れば小柄な少女が、飛び蹴りの姿勢のままで地面へと降り立っている。
彼女は勢いを殺すように一度転がると、そのまま立ち上がって、辺りを窺うようにその獣の耳をぴくぴくと動かしていた。
「ティオちゃん、避けて!!」
「にゃ!?」
どこかから掛かった声に、慌てて反応した獣耳の少女は、その場でバク転をしては飛び退いた。
彼女のその跳ね上がった足の間を、二本のナイフが飛んでいく。
それは獣耳の少女へとこっそり忍び寄っていた、二匹のゴブリンの眉間を見事射抜いていた。
「あ、危ないにゃ!クララ!!ティオは自分でも、どうにか出来たにゃ!!」
「ごめんごめんって、ティオちゃん。ほら、そこは危ないからこっちおいで」
「うにゅぅ・・・もっとティオを信頼して欲しいにゃ」
ナイフを放ったさらに小柄な少女が差し伸べた手に、文句を言いながらも掴まった獣耳の少女は、ゆっくりと防壁を乗り越えてこっちへと戻ってくる。
体格の差に引っ張るのに苦労していた小柄な少女は、最後にはエミリアの助けを借りる。
自分の力では全うできなかった行為に、小柄な少女はどこかしゅんと肩を落としていた。
「ティオフィラ・・・それにクラリッサ、お前まで」
「今は、非常時ですからおじ様、戦力になる者を遊ばせておくわけには・・・それに私は皆とは違いますから。安心して下さい、いざという時には・・・私が皆を連れて行きます」
「それは分かるが、しかしな・・・」
「何か、何か飛んでくるぞ・・・まずいっ!?に、逃げろー!!」
近くの防壁へと張り付いていた兵士が、何かに気付いて大声を上げる。
それは放物線を描いてゆっくりと飛来する、人の頭の数倍はありそうな岩の塊だった。
投石器から放られるようなそれは、実際にはトロルやオーガといった魔物が投げたものだろう。
始めに気が付いた兵士はすでに逃げ出し、周りの兵士達も逃げ出し始めていたが、どれほど間に合うだろうか。
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